明治安田生命J1リーグ第5節。浦和レッズvsFC東京は1-1のドローに終わった。FC東京にとっては、ラストワンプレーで埼スタでの16年ぶりの勝利を失った。前線起用で決定的な仕事に絡み続けた久保建英の存在とともに、今後チームがこの試合をいかに糧にしていくかが問われる。【取材・文＝飯尾篤史】
■94分の失点は防げなかったのか
FC東京が浦和レッズに1-0とリードして迎えた後半のアディショナルタイム、山中亮輔のグラウンダーのクロスから森脇良太に左足で蹴り込まれ、ほぼ手中に収めていた16年ぶりの白星を掴みそこねてしまった。
2003年以来、埼玉スタジアムで未勝利――。
この不名誉な記録は、またしても更新された。ここまでくると、埼玉スタジアムには魔物が棲んでいるとしか言いようがない。
しかし、鬼門、呪縛、ジンクス……などといった言葉で、このドローを片付けるわけにはいかない。不運でも悲劇でもなく、甘さが招いた失点と言わざるを得ないのだ。
悔やまれるのは、失点の直前のスローインの場面だろう。マークにしっかり付いていないうちに森脇にボールを投げ込まれ、その間にするすると上がった左サイドバックの山中のことも、スローイン後にゴール前に走り込んだ右サイドバックの森脇のことも、誰も気にかけていないのだ。
また、それ以前の問題として、試合の終わらせ方はどうだったのか。
浦和は82分に杉本健勇と山中を投入し、前線の圧力とサイド攻撃の迫力を高めていた。一方、ＦＣ東京は交代枠を２枚残したままだったのだ。そこで、サイドに蓋をするような采配はできなかったか。
長谷川健太監督も「最後のクローザー的な選手がまだ見つけられていないし、5節の段階で３バックにするのはどうかな、というのもありました」と悩ましい胸の内を明かしたが、まさに試合を終わらせるためのオプションの欠如を突きつけられた試合だった。
とはいえ、オプションという点では光明もあった。それも今後、チームを大きく進化させるかもしれない光明が――。
■水を得た魚のように躍動した久保
©J.LEAGUE
それが、久保建英の前線での起用である。
これまでFC東京の前線は、昨季から引き続き、ディエゴ・オリヴェイラと永井謙佑が2トップを組んできた。一方、運動量や球際での競り合いにおいて進境著しい久保は、右サイドハーフに入り、長谷川監督の期待に応えてきた。
もっとも、サイドハーフではゴールまでの距離が遠く、攻撃で違いを生み出すことはできても、決定的な仕事に絡む機会は決して多くなかった。
だが、U-22日本代表のミャンマー遠征直後だった浦和戦では疲労を考慮され、今季初のベンチスタートとなった。そして62分から永井に代わって2トップの一角に入ると、ピッチ中央の、よりゴールに近い位置でプレーしたことで、まるで水を得た魚のように躍動したのだ。
75分に生まれた先制点も、まさに久保が起点になったものだった。
カウンターからドリブルで運び、D・オリヴェイラにパスを送る。これは呼吸が合わず、D・オリヴェイラの踵に当たってボールが跳ね返ったが、それをヘディングしようとした久保は、とっさの判断で左足でのスルーパスに切り替える。このパスで抜け出した東慶悟の左足のクロスをD・オリヴェイラがヘディングで浦和ゴールにねじ込んだのだ。
その直後にも、オフサイドとなったが、久保のスルーパスから東が抜け出した場面があった。ホットラインを形成しつつある東は「タケはボールが収まるし、前に運んでくれる。それにすごくいいところを見ていて、（パスを）出せる選手でもあるので、周りの選手が引き出してあげれば、タケもやりやすくなると思う」と称賛を惜しまなかった。
こうした久保の攻撃のクオリティを生かさない手はないだろう。D・オリヴェイラと久保を２トップで先発させて、永井をスーパーサブとして起用するのだ。大森晃太郎が中盤の右サイドに入ることで守備ブロックの強度はさらに高まり、久保が1.5列目に入ることで東や大森がゴール前に飛び出すシーンも増えるはずだ。プランＢではなく、この陣容をプランＡにする価値は十分ある。
痛恨のドローによって埼玉スタジアムでの16年ぶりの勝利を逃し、首位の座からも滑り落ちた。だが、まだ開幕から5試合が終わっただけ。悲願の初制覇に向けて、自分たちの甘さと今一度向き合い、久保の起用法や試合の終わらせ方を考えるきっかけになったなら、失った勝ち点2は、高い授業料ではないだろう。
取材・文＝飯尾篤史
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