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【現地発】香川真司、レアル・マドリーと対戦する「違和感」と「ズレていなかった」格

■違和感

頭では納得できても、違和感はあるのだ。29日に行われたコパ・デル・レイのベスト16、レアル・サラゴサ対レアル・マドリーで、ひとまずそうした感覚を覚えていた。

レアル・サラゴサとレアル・マドリーが対戦するのは、じつに7年ぶりのこと。いつの間にやら、そんなにも月日が経ってしまった。マドリー(327万人)、バルセロナ(164万人)、バレンシア(79万人)、セビージャ(69万人)に次ぐ、スペイン5番目の人口を誇る都市サラゴサ(67万人)における最大のフットボールクラブ、レアル・サラゴサは、本来ならばリーガ・エスパニョーラ1部の常連であるべきであり、過去6回の優勝を誇るコパでも力を入れるべき存在であるはずだ。だが劣悪な経営と多額の債務を抱えたことで衰退の一途をたどり、7シーズン連続でリーガ2部でプレーするというクラブ史の中でも黒に黒を重ねる闇の物語を紡いできた。

8000万ユーロの負債が残る現在目指すべきは、何としてでもリーガ1部に昇格することであり、そのためにコパに力を入れている余裕はない。だからこそレアル・マドリーとの一戦はこの上なく厄介なものとなり、指揮官ビクトール・フェルナンデスは「マドリー相手に敗退して、(第26節)カディスに勝つなら本望だ」と口にすることをためらわなかった。彼らにとってスペインの巨人との一戦は、かつて全力を傾けた懐かしい過去であり、昇格後に実現されるはずのちょっと先の未来にある試合だったのである。

だが、そうだとしても違和感がある。ズレがある。「過去」に全力を尽くし、「未来」に全力を尽くすべき対戦カードであるとしても、やはり「現在」があることは避けられない。サラゴサの守護聖人サン・バレロの祝日にも重なったこのマドリー戦、3万3000人収容の本拠地ラ・ロマレダは今季初めて満杯となり、「アレ・サラゴサ」のチャントは試合前からスタジアム狭しと響き渡って、皆が自クラブを誇るようにマフラーを掲げていた。ラ・ロマレダで「サラゴサは偉大なんだ」とサポーターや記者から言われれば、頷かざるを得ない。V・フェルナンデスはクラブを真に偉大な存在に、本来あるべき場所に戻すために打算的な策を敷いたが、ラ・ロマレダに集まった観客はカディス戦を見据えることなどせず、レアル・マドリー戦という今、このときしか見ていなかった。この一戦はこなすだけの試合である同時に、今季最大のお祭りだった。

そして、レアル・サラゴサのスタメンがそうした違和感やズレを増長させていた。控えを常とする選手たちを中心に構成された11人には、香川真司が名を連ねていたのだから。彼がレアル・マドリーと対戦するのは2017年12月以来。当時はドルトムントの選手として、チャンピオンズリーグ・グループステージでレアル・マドリーの本拠地サンティアゴ・ベルナベウに乗り込み、絶妙なヒールパスからオーバメヤンのゴールを導いた。それから2年余り、香川は加入当初スーパースター扱いされたサラゴサで、コンディション面の問題もあって徐々に存在感を薄めたことにより、再びレアル・マドリーと相見えることになった。絶対的な存在として君臨していたならば、このマドリー戦で先発、ましてやフル出場など、絶対にあり得ないことだったろう……。ズレがあった、掛け違いがあったボタンとボタンホールが、うまくはまったみたいな話である。

だがしかし、いずれにしても、余っていたボタンとボタンホールは、ぴったりとはまったのだ。

■かけ離れていたサラゴサ。ズレていなかった香川

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準決勝までは一発勝負に変更された今季のコパで、思わぬ落とし穴を恐れるレアル・マドリーはレアル・サラゴサよりも多くの主力を起用して、一気に勝負を決めに来た。多数の主力がいる予算9億ユーロのレアル・マドリーと、多数の主力がいない予算1800万ユーロのレアル・サラゴサがぶつかれば、目の前に広がる光景は明白だ。レアル・マドリーの面々はとにかく強い、高い、厚い、速い、うまい……。人気者の彼らの周囲では、いつだってヒステリー気味な選手批評が存在しているが、結局はトップ・オブ・トップのアスリートの集合体である。体格も、スピードも、戦術を実行する技術も、もちろん個人技だって凄まじい彼らは、レアル・サラゴサを蹂躙した。

攻撃時に香川をトップ下とする1-4-2-3-1、守備時に1-4-4-2となるレアル・サラゴサに対し、1-4-3-3のレアル・マドリーはボールを保持するときも奪取するときもクロース、バルベルデ、ハメスの3人で中盤の数的優位性を生み出して、ゴールをかっさらっていく。レアル・サラゴサの面々にとって彼らのかける圧力は2部チームの比ではなく、遠目からすればわずかなフィジカルコンタクトで倒されているようにも映り、前に出すパスもことごとく、ズレた。観客のテンションとピッチ上の見るも無残な光景は、かけ離れていた。

しかし、その中で香川だけは、ズレていなかった。観客の熱気とも、レアル・マドリーと対戦する選手としても。小柄ながらもうまく体を使ったボールキープ、相手DFとMFのライン間での的確なポジショニングとパスを受けた直後に迅速に前を向いて繰り出されるプレー(これができる選手は2部はおろか、1部でもわずかだ)、正確かつ意図のあるパス、「俺がやってやる」という気概に満ちた積極的なシュート……。欧州トップレベルで戦うことを常としてきた日本人選手は、期待感にあふれる観客に呼応していた存在であり、レアル・マドリーに立ち向かうための武器だった。彼のプレーに心を踊らしていたのは、何も観客だけではない。記者席で離れた位置に座っていた友人記者はハーフタイムに「香川がサラゴサで演じたベストゲームだろう、これは。見当もパスもズレて肉弾戦になる2部より、1部のプレーリズムの方が合っているのかもな」とのメッセージを送ってきた。

■次の「現在」へ

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前半に一人気を吐いていた香川は、絶対的エースであるルイス・スアレスやラウール・グティと主力が投入された後半も存在感を発揮。R・グティからのパスをライン間で受け、L・スアレスとともにナチョ&ヴァランと2対2の状況をつくり、ナチョを引き寄せてから繰り出したL・スアレスへのスルーパスは、まさに“らしさ”が出ていた。レアル・サラゴサの主力たちとの連係は、リーガ2部でこれからもっと見たい光景の一つだ。香川がボールに触れさえすれば、やはりサラゴサのフィニッシュの確度は、間違いなく上がる。

惜しむらくはあのスルーパスの場面含めてシュートがことごとく決まらず、レアル・マドリーに一矢も報いることができず0-4の完敗を喫したこと。とはいえ、こなすだけの試合であると同時に、今季最大のお祭りだった一戦は、ある程度の両立を見ている。79分にベンゼマが4点目を決めたとき、数えられるくらいの年配の男性たちが席を立って家路についた(そうした行為には昔ながらの誇りも感じられる)。しかし、大多数の観客は試合終了のホイッスルが吹かれた後にも立ち去ることなく、ピッチを回って挨拶をする選手たちに対して喝采を送り、マフラーを掲げ、「シ・セ・プエデ(イエス・ウィー・キャン)」と1部復帰を目指す気持ちを新たにしていた。彼らの帯びる熱の要素には、香川がこの試合で見せたプレーも含まれていたに違いない。スペイン『マルカ』紙はレアル・サラゴサのMVPに香川を選び、「ついにサラゴサの期待を呼び起こした格を示した」と記している。

レアル・サラゴサはレアル・マドリーとの戦いというサプライズでもあった「現在」を終えて、また次の「現在」へ向かう。レアル・マドリーと、全力でぶつかることのできる「未来」を目指して。V・フェルナンデスは試合後会見で、「香川は今日のようにフットボールをプレーすることを忘れてはならない。彼にはほかの選手が見ることのできないパスコースを見つけることができる。彼は違いを生み出して、私たちを助けなくてはならないんだ」と語った。レアル・マドリー戦を捨てる覚悟を固め、それを公言して憚らなかった指揮官のこの発言は、決してサービストークではないだろう。そこに、違和感はないのだ。

取材・文/江間慎一郎(スペイン在住ジャーナリスト)

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