■“4000万+1ポンド事件”の舞台裏を明かす
「あいつらはエミレーツでマリファナでもやっているのか?」
この伝説のセリフは、リヴァプールのオーナー、ジョン・ヘンリーのものだ。彼は2013年の夏、4000万+1ポンドでルイス・スアレスを獲得しようとしたアーセナルに対してこのセリフを吐き捨てるように言い放った。
このオファーはかつてないほどにまで嘲笑され、アーセナルが過去10年間、移籍マーケットで失敗するたびに何度も話題にのぼるほどの象徴的なケースとなってしまった。
OBイアン・ライトも怒りの声をあげた。「7500万ポンドでバルセロナに加入して活躍しているスアレスを、どうして各レベルのマネジメントが4000万1ポンドで承認できるんだい?。交渉を表沙汰にするためにそんなことをしたのか? アーセナルは大きな問題を抱えているようだね」
当時スアレスの契約解除金は4000万ポンド(約61億円:当時)だったとされているが、それは事実ではない。その条項は、実際には単にリヴァプールがスアレスに対して他クラブからのオファーを知らせなければならないといったものだった。通常クラブは移籍交渉の申込みを受けてもそれに応じる義務はないが、スアレスはこの条項によってアーセナルとの交渉の席につくことが許されたのだ。
アーセナルは、スアレスが移籍を検討していることを知っていた。スアレスも一時、ノースロンドンでプレーすることに興味を持っていた。しかしリヴァプールは交渉を拒否し、結局アーセナルはスアレス獲得を断念せざるを得なかった。
この幻の契約に関与したキーパーソンとして、当時アーセン・ヴェンゲルが信頼を置いた元移籍交渉担当、ディック・ロウがいる。2018年2月にエミレーツを去った彼だが、ヴェンゲルと元CEOイヴァン・ガジディスと共に、10年近くの歳月をアーセナルで過ごした。
英国メディアに登場するのも初となるロウは、『Goal』の独占インタビューに応じた。前回はメスト・エジル獲得の裏話を赤裸々に語ってくれたが、今回はあの“4000万+1ポンド事件”について、その夏に何が起こり、後にどのような影響を与えたのかについて詳細に語ってくれた。
インタビュー・文=チャールズ・ワッツ/Charles Watts(『Goal』アーセナル番記者)
■4000万+1ポンドはキッカケに過ぎない
Confederação Brasileira de Futebol「その年の春、スアレスがリヴァプールを出たがっているというニュースが舞い込んできたんだ」彼はそう語る。
「リヴァプールとスアレスの間で行われた交渉についての情報を得た。そして内部会議にて、その条項が特に意味がないものと判断した。それはバイアウト条項(契約解除違約金を定めたもの)でもなければ、リヴァプールに対して対話以外の何らかの義務を課すものでもないということだ」
「スアレス獲得のためにその条項を鵜呑みにしていた人々は賢いとは言えなかった。決してバイアウト条項ではなかったからね。その条項の意味は、金額があるラインを超えたら移籍交渉に応じなければならないといったものだったんだ。そしてその金額こそが、4000万ポンドだった」
さらにロウは続ける。「もし4000万ポンドでオファーを出していたら、リヴァプールに『4000万ポンドを超えていない』といった理由でオファーを拒否されていたかもしれない。そうすれば4500万ポンドに引き上げることもできたが、重要なのはそれが決してバイアウト条項ではなかったということだ」
「だから4000万+1ポンドは入札金ではなかったんだ。それは、交渉をスタートさせるためのキッカケに過ぎなかったんだよ」
しかし、そこにたった1ポンドを加えるといったアーセナルのやり方には問題があった。結果として、アンフィールドのお偉方を怒らせてしまったのだ。
こうしてヘンリーの「マリファナでもやっているのか?」発言が生まれ、リヴァプールが彼らのスター選手を放出しないという決意をより強固にしてしまった。当時を振り返ってみた時、ロウはアーセナルが失敗を犯したと考えているのだろうか?
「私たちは金額の最低ラインを超えなければならないことを知っていたから、そこに1ポンドを加えることを決めたんだ。50ポンドでも50万ポンドでも良かったかもしれない。だけどそれは、交渉の最終局面には何ら影響を与えないものだ」
「オファーは単なるトリガーに過ぎなかった。リヴァプールは大型契約を望んでいたし、それは一向に構わなかった。彼らは私たちのオファーを受け取ると、その事実をすぐに公表したよ」
「ジョン・ヘンリーは、私たちが何を考えているのかを知りたがっていたんだと思う。少し礼儀を欠いていたけどね。彼らはスター選手を失いかけていたわけだし、ちょっと試しに言ってみたのではないかな。そうすることで、世間の注意をそらすことができる」
「私は常々、移籍に関することを公表するのは逆効果ではないかと感じていたよ」ロウは続ける。
「私がアーセナルでいつも誇りに思っていたことの1つとして、舞台裏についてしっかりと口を閉ざしていたというものがある。イヴァン、アーセン、そして私はすべての移籍において、常に情報が漏れないように最善を尽くしていたんだ。リヴァプールはあの条項によってオファーに応じなければならないと話すことで、自ら災いを招いたのでは無いかと思うよ。公にすることで誰もが事実を知ってしまい、結果的にスアレスを失ってしまったんだ」
■アーセナル移籍の可能性も十分あった?
Gettyアーセナルからのオファーを受けた時、当初スアレスはエミレーツでプレーすることを前向きに捉えていた。
ウルグアイ代表FWは『The Guardian』のインタビューにて、自分を引き留める条件にチャンピオンズリーグ(CL)出場権の確保、そこでの出場機会を挙げている。
「地元のライバルクラブへの移籍を頼んでいるわけじゃないんだ」スアレスはそう主張していた。「それと、CL圏外のクラブへの移籍は考えていないよ。プライベートでは何度か移籍への願望を周囲に口にしたことがあったけど、そろそろ公にしたい気持ちになったんだ」
なかなかスアレスを手放そうとしなかったリヴァプールも、ついに身を引く。しかし彼らは、移籍がプレミアリーグ内で行われるといった当初の危機を避け、他の移籍話を進める方針をとった。
そのため、アーセナルはそこに投じる予定だったマネーを別の移籍に費やすこととなる。彼らは結局、4250万ポンド(約65億円:当時)の大枚をはたいてレアル・マドリーからエジルを獲得したのだ。
「とんでもない契約になる可能性もあったよ」ロウは認めた。「だが、スアレスと代理人は交渉が核心に迫ると移籍を強行したがらなくなったんだ」
「恐らく、スアレスはリヴァプールファンの存在の大きさに気がついたんだ。とても感謝していたんだと思う。彼は後ろめたい気持ちを持ってクラブを去るのではなく、正面玄関から堂々と出て行きたかったんだ。リヴァプールは決して意見を曲げようとせず、彼はそれに抗っていたんじゃないかな。きっと彼らはスアレスに、どのクラブへ行っても良いが、プレミアリーグだけは避けてくれと告げていたんだと思う。アーセナルなんてもってのほかだとね」
「彼は数週間粘ったが、クラブにハッタリをかけることなく、もしアーセナルに行けないのであれば、次の夏に別のクラブに移籍すると告げたんだ。結局このストーリーの顛末は、リヴァプールがスアレスを失い、私たちも彼の獲得に失敗したということになるね」
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「※」は提携サイト『 Sporting News』の提供記事です

