Mesut Ozil Gareth Bale Arsenal Real MadridGetty/Goal

【独占】アーセナル史に残る大型移籍―。元交渉担当が裏側を暴露「エジルの物語はベイルの物語」/インタビュー

■メディア初登場の元交渉担当が舞台裏を明かす

2013年9月2日、月曜日――。移籍市場の締切日であったその日は、グーナー(アーセナルファンの愛称)にとって忘れられない日となった。

ハイバリーからエミレーツ・スタジアムへと本拠地を移してからフラストレーションの溜まる移籍市場が続いていた中で、アーセナルは大きな決断を下した。クラブ史上最高額となる4250万ポンド(約65億円:当時)で、レアル・マドリーからメスト・エジルを獲得したのだ。

『Sky Sports』で報じられたこの移籍は、最後の最後までその行方が分からなかった。やっとのことでファンが契約成立を確認できたのは、移籍市場終了まで1時間を切ったタイミングだった。このドイツ代表MFが公式にアーセナルへ加入することがサポーターに知れ渡ると、彼らはエミレーツ・スタジアム前の通りでこの世紀の移籍を大いに祝った。

こうした彼らの祝福は、アーセナルの新時代到来を告げるシグナルであり、この移籍が持つ意味の重大さを知らしめているものだった。アーセナルの元CEOイヴァン・ガジディスは、契約成立の直後に次のように語っている。

「今日は皆にとってエキサイティングな日だ。我々はヨーロッパで最も輝く若きタレントの1人であり、ワールドクラスのプレーヤーとの契約を成立させたんだ」

エジルがノース・ロンドンの地に足を踏み入れてからおよそ6年が経ち、その間に様々なできごとが起きた。アーセナルのキャビネットには、3度のFAカップ優勝トロフィーが増えた。

しかし、彼の加入によってもたらされた興奮は、良い面でも悪い面でも未だ消えていない。そして今回、移籍に関与したキーパーソンの1人が、アーセナルがどのようにしてフットボール界の至宝の1人に数えられるスターの契約を成立させたのか、その舞台裏について語ってくれた。

『Goal』の独占インタビューに応じてくれたのは、かつてアーセン・ヴェンゲルが最も信頼を置いた移籍交渉担当ディック・ロウだ。メディアでは初登場となる。彼は、大慌てでいくつかのフライト予約を急いだその異常ともいえる1週間について語ってくれた。そこにはトップ・シークレットな交渉内容や、トッテナムを出し抜くための狡猾なプランも含まれていた。

インタビュー・文=チャールズ・ワッツ/Charles Watts (『Goal』アーセナル番記者)

■エジルの物語。それはベイルの物語

Dick LawConfederação Brasileira de Futebol

2009年にアーセナルへ加わり、ガジディスやヴェンゲルと共に選手の移籍や契約に携わることとなったロウは、エジルとの契約について「信じられないほど大きな仕事だった」と振り返る。

「契約成立の瞬間は、私たちがチーム一丸となって数年間を費やしたすべての苦労が実を結んだ瞬間だった」

「だけどエジルのストーリーは、実際にはギャレス・ベイルのストーリーだったんだ」

2013年の夏は、ベイルのレアル・マドリー移籍話でもちきりだった。トッテナムで順風満帆なシーズンを過ごしていたベイルを、レアル・マドリーはどうしてもベルナベウに迎え入れたいと考えていたのだ。

しかし、トッテナムの移籍を仕切るのはプレミアリーグ屈指の交渉人ダニエル・レヴィ会長である。実現には大きなコストが必要とされた。そのため、アーセナルはこの交渉の輪の中に入る機会を得ることとなる。

「マドリーは全身全霊をかけて、背伸びしてまでベイルを買おうとしていたんだ。彼らは信じられないほどの大金をベイルにつぎ込み、異常な契約を提示したんだ。その結果、彼らは誰かを売却しなければならなくなった。そうした意味で、私たちをエジルに導いたのはベイルのストーリーだったと言える」

「マドリーが選手を売りたがっていることを察知して、私はマドリーのホセ・アンヘル・サンチェスGMと会うために飛行機で飛んでいった。すると彼は、カリム・ベンゼマかアンヘル・ディ・マリアの売却を検討していることを明かしてくれたんだ。そしてその金額も教えてくれたよ」

「その後、私はイヴァンとアーセンに電話した。私たちは皆用心深く、懐疑的だった。だが、そのミーティングでマドリーが誰かを売らなければならないことだけは確かだと分かったんだ」

その時アーセナルは、チャンピオンズリーグでフェネルバフチェと戦っていたため、ガジディスはトルコに乗り込んでいた。しかし彼は、チームで宿泊していたホテルをすぐさま抜け出すと、サンチェスGMとの対話を続けるロウに加わるためにマドリーへと飛び立ったのだ。

そしてその翌日。エジルの名前が初めて持ち上がったのだ。

■水面下の攻防戦

Gazidis Wenger ArsenalGetty Images

「我々はホセ・アンヘルとの会談の機会を得た。彼は、(当時の指揮官カルロ)アンチェロッティはベンゼマとディ・マリアのどちらも売りたがっておらず、エジルであれば売却するだろうと言ったんだ」

「かいつまんで話すと、アーセンは興味を示したよ。アーセナルは中盤のプレーヤーを必要としていたからね。だけど、その段階ではエジルが実際にどこでプレーするのかは決まっていなかった。エジルと話したいと頼んだが、マドリーはまず自分たちからだと言ってきた。エジルにとっては良い知らせではなかったと思うよ。その後に飛行機でロンドンに来た彼や彼の父親、そしてビジネスアドバイザーと共に話をしたんだ」

その時点で移籍市場の締切まで48時間しかなかったため、話はとんとん拍子で進み、契約完了まであと一歩のところまできていた。しかし、彼らの前には最後の高いハードルが残されていた。そのハードルの名前は「ダニエル・レヴィ」だ。トッテナムの会長レヴィは、その時点ではまだベイルをマドリーに売り渡すことを承認しておらず、移籍期限は刻々と迫っていた。

その時ベイルはすでにスペイン入りしており、マドリーはナーバスになりつつあった。一方のアーセナルは、エジルとの契約を完了させつつあるという事実を、ノースロンドンのライバルが嗅ぎつけることはないと分かっていた。

物事をさらに複雑にしたのは、移籍市場が締切となるたった36時間前の日曜日に、エミレーツ・スタジアムにて“ノースロンドン・ダービー”が行われていたということだ。

Arsenal-Tottenham Giroud 2014Getty

「私たちはマドリーとの契約を終わらせたんだ。イヴァンがその場にいて、私はエジルと一緒にミュンヘンにいたよ。イヴァンが私に電話をくれたのは、まさしくトッテナムとの対戦を控えた朝だったんだ」ロウはそのように語っている。

「イヴァンは契約を仕上げなければならないから、試合のためにロンドンには戻れないと言っていた。そして、私たちのうちどちらかはディレクターズボックスにいなければ、ダニエル・レヴィをひどく動揺させてしまうとも言っていたよ」

「ホセ・アンヘルは、レヴィが電話をかけてきて、マドリーがアーセナルに対して誰も選手を売り渡さないことをベイルに関する契約の最終条件とすることを告げてきた、とイヴァンに話していたんだ」

「イヴァンはレヴィがハッタリをかけていると踏んだ。なぜなら彼はすでに、ベイル・マネーを使い込んでいたからね。だけどイヴァンは、念には念を入れて、私がミュンヘンからロンドンへと戻ってディレクターズボックスに入れないか聞いてきたよ。トッテナムに水面下で何かが起こっていることを悟られないようにね」

「だから私は朝11時の飛行機に乗り込み、その途中で着替えをしたよ。ディレクターズボックスに入るときにフランコ・バルディーニとレヴィと顔を合わせると、彼らは私に何をしようとしているのか聞いてきた。だから私は、ダービーを見逃すわけにはいかないと答えたよ」

■メディカルチェックでまさかの遭遇

Arsenal_Lukas Podolski_Mesut Ozil,普多斯基,奧斯爾

前半にオリヴィエ・ジルーが挙げたゴールを守り切り、アーセナルは日曜の午後に誇らしい勝利を手にした。そして試合の後、その日のうちに、ついにベイルがマドリーへの完全移籍を果たしたことが公となったのだ。

一方のロウは、ドイツへと戻りエジルとの契約の最終局面を見届けていた。契約は月曜日の午後11時までに完了させなければならなかったが、スヴェニャ・ガイスマー(顧問弁護士)、デヴィッド・ミルズ(クラブ秘書)、スチュワート・ワイズリー(会計責任者)らハイバリー・ハウスの契約チームとは、まだ詳細を詰めることができていなかった。

アーセナル陣営は、契約を秘密裏に進めるためにベストを尽くしてきた。しかし、エジルのメディカルチェックの際に、ロウは見覚えのある人物とばったり遭遇してしまう。

「エジルはミュンヘンのウォルファルト・クリニックでメディカルチェックを受けていたんだ。もちろん、私たちは誰にもこのことを知られないために最善を尽くしていたよ」

「私たちがエジルに会いに行くと、向かって左にルーカス・ポドルスキがいたんだ。彼は、数週間前に肉離れを起こしたハムストリングの治療のためにそこにいたんだよ。私はすぐにアーセンに電話して、このニュースはすぐに公になってしまうと告げたよ。ルーカスは機嫌が良いと黙っていることができないからね」

ロウの苦難はさらに続いた。「会長が、マンチェスター・ユナイテッドが契約を妨害しようとしているといったニュースを聞いたんだ。だからイヴァンが私に電話してきて、ミュンヘンにいるエジルの父親と、ビジネスアドバイザーをマンマークするように頼んできたよ。フォーシーズンズのバーの席に午前10時から午後10時まで座って、契約チームからの様々な条項に関する質問に電話で答え続けた。やっとのことで彼らはすべてをまとめ、エジルにサインさせるべく、それをこちらへと送ってきたんだ」

「当然これらすべてのことは、エジルがドイツ代表チームに合流している間に起こったことだ。そのため彼へのアクセスには少し制限があった。だけど私たちはやり切ったんだ」

「すばらしい経験だったよ。移籍金と給与を合わせて、これがアーセナル史上最も大きな契約だったんだからね」

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