チャンピオンズリーグ(CL)決勝のトッテナムvsリヴァプールの開催が6月1日に迫っている。今シーズンのCLでは、準決勝の2試合を筆頭にドラマティックな試合が生まれている。おのずと同国対決の決勝にも好ゲームへの期待が高まる中、『Goal』ではジャーナリストや実況者などに、『自分史上最高のCL決勝』を綴ってもらった。
第1回の今回は、これまでプレミアリーグを中心に多くのサッカー中継の実況を担当してきたスポーツコメンテイターの野村明弘氏。過去、実況を担当した2016-17シーズンを含め、7度にわたってCL決勝を現地観戦している野村氏は、今回のトッテナムvsリヴァプールでも、独占放送する『DAZN』で実況を担当する。劇的な試合を数多く見てきた実況者の心を最も打った一戦とは?
■至高の一戦
(C)Goalロンドン在住時にチェルシーファンとなった私にとって、マンチェスター・ユナイテッドにPK戦で敗れた2007-08シーズンや悲願の初優勝を果たした2011-12シーズンのファイナルはもちろん特別なもの。しかし、最も思い出に残っているのは、イスタンブールで行われた2004-05シーズンのリヴァプールvsミランだ。
【2004-05シーズンCL決勝】
リヴァプール 3-3(PK:3-2) ミラン▽得点者
ミラン:マルディーニ(1分)、クレスポ(39分、44分)
リヴァプール:ジェラード(54分)、スミチェル(56分)、シャビ・アロンソ(60分)
◆ミラン先発
GK:ジーダDF:カフー、スタム、ネスタ、マルディーニ
MF:ピルロ、ガットゥーゾ、セードルフ、カカ
FW:クレスポ、シェフチェンコ
◆リヴァプール先発
(C)Getty ImagesGK:デュデク
DF:フィナン、キャラガー、ヒーピア、トラオレ
MF:ルイス・ガルシア、シャビ・アロンソ、ジェラード、リーセ
FW:キューウェル、バロシュ
■最高潮の熱気
(C)Getty Imagesプレミアリーグ好きが高じて、現地で生のフットボールに触れたいと、当時、局アナを辞めて勉強のためにロンドンに留学していた。語学学校に通いつつ、週末はプレミアリーグの試合を、ミッドウィークにはLCC(格安航空)を活用し、欧州各都市に足を延ばしながらCLなどの試合を自費で観戦する日々だった。1年半くらいのロンドン留学で90試合ほどを観戦し、そろそろ日本に帰ろうかという時、その最後に観戦したのが04-05シーズンの決勝。『UEFA.com』の決勝戦のチケット抽選販売で幸運にも当選し、急きょ飛行機を手配しトルコに飛んだことを覚えている。
イスタンブールでは、会場のアタテュルク・オリンピヤト・スタドゥへの道から驚きだった。私自身、試合開始の2時間前に到着するつもりで行動していたが、スタジアムまでは大渋滞。抽選で当たったのがリヴァプールサイドの席だったこともあり、リヴァプールファンであふれるバスに同乗(両サポーターが衝突しないように、乗車するバスの乗り場がわかれていた)。道路が渋滞しているのをいいことに、トルコの現地の人たちがバスの窓からビールをたくさん売りに来る中、みんな飲みまくって試合前から大騒ぎ。歴史も感じるチャントを大合唱していた。飲みまくるものだから、多くのサポーターがトイレを我慢できず、チャントの替え歌で「トイレに行かせろ」を連呼。たまらず運転手がドアを開けると一斉に外に飛び出し、道端で用を足す。女性は大きなフラッグで隠してもらいながら…と異様な光景がそこにはあった。私はフットボールファンの洗礼を浴びた気分だった。
■ミランが前半で3点リード

だが、そんな意気揚々のサポーターたちが、数時間後のハーフタイムには誰もがうつむき加減で、死んだ魚のような目をしてスタジアムのトイレに向かうことになる。パオロ・マルディーニの電光石火弾を皮切りに、エルナン・クレスポの2発。スタジアムの7割ほどを埋めていたのはリヴァプールサポーターだったのだが、フラットな観客だけでなく、数々のドラマを信じてきた彼らリヴァプールサポーターでさえも、諦めざるを得ないという雰囲気が漂っていた。
■空気

ところが、ジェラードが決めた54分、会場の空気が変わった。ジェラードがスイッチを入れたと言ったら良いだろうか。それは、いきなりMAXではなく、少しずつギアを加速していくといった感じでサポーターの空気が熱していった。アンフィールドを彷彿とさせる雰囲気だった。クラブの歴史上、奇跡的な試合をたくさん見てきた彼らだからこそ作り出せる異様なまでの空気。ちょっとずつ醸し出していく、あの何とも言えない空気だ。そして、ウラジミール・スミチェルがネットを揺らし、1点差。もうすでに、会場はリヴァプールのものだった。そして数分後、シャビ・アロンソの同点弾――。ギアはフルスロットルへ。
勝敗はPK戦にゆだねられたが、GKイェルジ・デュデクが、1983-84シーズンのチャンピオンズカップの決勝のPK戦でブルース・グロベラーがやったスパゲッティダンスをまねたものだから、歴史を知るリヴァプールサポーターは更なる力をえて、アタテュルク・オリンピヤト・スタドゥは、もはやアンフィールドと化していた。
■信念
(C)Getty ImagesPK戦が終わり、奇跡の大逆転劇を目の当たりにしたリヴァプールサポーターの姿は脳裏に焼き付いている。泣いているのか、笑っているのか、叫んでいるのか、いろんな感情が混ざり合ったあの姿。人間とは喜びを通り越すと、こういう姿になるのか。例えるならば、長野五輪ジャンプ団体で金メダル獲得を決めた原田雅彦選手(当時)のような姿が溢れていた。フットボールとは、これほど人の心を掴み、動かすのか。
私はフットボールの世界の狂気を思い知った。あの時、あのスタジアムで、この奇跡を目の当たりにしたリヴァプールサポーターは、一生涯、いや孫の代まで、このチームに忠誠を誓うことになるのであろう。私自身、この素晴らしいフットボールというスポーツに心をがっちりと掴まれた瞬間でもあった。その扉を開いて足を踏み入れたら最後、もう二度と戻れないような――。
今回のチャンピオンズリーグを見て改めて思うのが、この大会は点ではなく、線で繋がっているということだ。あのイスタンブールの奇跡があって、今回のバルセロナ戦のアンフィールドの奇跡がある。サポーターはクラブの紡いできた“線”を知っている。リヴァプールというクラブの歴史があったからこそ、バルセロナに0-3とされても、何かを起こせた。チェルシーファンの私が嫉妬してしまうような何かをリヴァプールファンは紡いできたのだ。
フットボールをプレーするのは無論、選手だ。だが、クラブには歴史があり、そこに捧げるサポーターがいて、信念が存在する。信じる心を紡いでいくのがフットボール。それを私に改めて教えてくれたのが、あの“イスタンブールの奇跡”だった。
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「※」は提携サイト『 Sporting News』の提供記事です

