誰にとっても、忘れられない思い出がある。それから何年が経っても省みるような、同じような出来事に遭遇するときに基準とするような思い出が。
私がカタルーニャに拠を構えるスポーツ紙『SPORT』に勤めるようになってから、メディア人として日々を過ごすようになってから、もう40年が経つ。その日々の中でクラシコ、バルセロナとレアル・マドリーの一戦はいつどんなときにも特別なイベントだった。常に客観性を持たなければならない職業にもかかわらず、感情が先走ってしまうほどに。
これまで、バルサがリーガ・エスパニョーラ、コパ・デル・レイ、チャンピオンズリーグを勝ち取る姿を何度も、それこそ何度も見届けて来た。しかし特別な思い出という点では、ジョゼップ・グアルディオラがバルセロナのトップチームを率いた初シーズン、2009年5月2日に行われたクラシコは決して忘れることができない。
【2008−09シーズン、リーガ・エスパニョーラ第34節】
レアル・マドリー 2-6 バルセロナ
◆レアル・マドリー先発
GK:カシージャス
DF:セルヒオ・ラモス、メッツェルダー、カンナバーロ、エインセ
MF:ラサナ・ディアッラ、ガゴ、ロッベン、マルセロ
FW:イグアイン、ラウール
監督:ファンデ・ラモス
◆バルセロナ先発
GK:バルデス
DF:ダニエウ・アウベス、ピケ、プジョール、アビダル
MF:ヤヤ・トゥーレ、イニエスタ、チャビ
FW:メッシ、アンリ、エトー
監督:ジョゼップ・グアルディオラ
■ペップの策に騒然とした編集局

レアル・マドリーの本拠地サンティアゴ・ベルナべウで行われた、あの伝統の一戦。バルセロナが勝ち点82、レアル・マドリーが勝ち点78と僅差のまま、リーガ第34節で相見えた。まさしく頂上決戦だったわけだが、そこでグアルディオラ、また彼のアシスタントコーチを務めた故ティト・ビラノバはある賭けに出た。サミュエル・エトーを右ウィングに据え、リオネル・メッシをファルソ・ヌエベ(偽9番)としたのだ。
試合が始まって、メッシが最前線でプレーするのを確認したSPORTの編集局内では、驚きの声があふれている。ある編集者は「ペップがついにいかれちまった」とさえ口にした。
その驚きの後にあったのは、失望である。14分にゴンサロ・イグアインがレアル・マドリーの先制点を記録。「最悪な采配だ」「メッシが1トップなんて、やはり正気ではない」など、編集局内では次々に批判的な声が漏れ、速報する電子版にもそれは反映されていった。
その一方で、編集デスクの私はというと、ただテレビを見ながら静観を貫いていた。失望もあったが、バルサがここからリアクションを見せるのでは、という予感もあった。そして実際、バルサはボールを保持し始めて、俗に言う“ティキ・タカ”を展開していった。
イグアインのゴールから4分後、ティエリ・アンリが同点弾を決め、その2分後にはチャビ・エルナンデスのコーナーキックからカルレス・プジョールのヘディング弾を記録(チャビのコーナーキックからプジョールのヘディングシュートは、2010年南アフリカ・ワールドカップ準決勝、ドイツ戦でも繰り返された光景だ)。バルサがスコアをひっくり返した。
10分も経たぬ内に、失望は歓喜へと変わっていた。そしてメッシの偽9番を批判していた連中は、その言葉を飲み込むほかなかった。今や史上最高の選手とすら見立てられる彼は35分、チャビの極上のパスからGKカシージャスを破り、バルセロナに3点目をもたらしたのだった。
ファルソ・ヌエベのメッシは、最初こそ水の中にいない魚のように映ったが、しかししっかりとエラで呼吸していた。マドリーにとっては神出鬼没な存在で、それと同時にバルサの策略のキープレーヤーだったのだ。同シーズンのバルサの攻撃は、ボールを保持したメッシのダイアゴナル・ランから勢いを増したが、対戦相手は1選手を彼のコース上に置いて、中央への侵入を防ぐという対策を取り始めていた。グアルディオラはその問題を取り除くべく、メッシをダイアゴナル・ランの目的地に最初から置くことを決断したのだった。
マドリーは2ボランチのフェルナンド・ガゴ&ラッサナ・ディアラがメッシを抑えれば、バルセロナのインサイドハーフであるシャビ&アンドレス・イニエスタのケアを怠ることとなり、またセンターバックのファビオ・カンナバーロ&クリストフ・メッツエルダーが出て行けば、アンリ&エトーの両ウィングのダイアゴナル・ランを許して味方サイドバックに1対1の状況を強いるという大きなリスクを負うことになった。グアルディオラはこの試合の前日の夜10時にメッシに電話をして、完全に的中したファルソ・ヌエベの機能性を詳細に説明していたという。
■あの試合が“思い出の基準”に
(C)Getty Imagesこの試合の後半は何か魔法のようで、繰り返されることはもうないとも思えるような唯一無二の時間だった。バルセロナは58分にアンリ、75分、メッシ、82分にジェラール・ピケが追加点を獲得。ベルナべウで取材していたSPORTの記者は、ゴールの度に沈黙するか、怒りの声を上げるか、帰路についていく観客の様子を私たちに報告した。バルサはベルナべウで、まるで模範的な家庭教師のようにフットボールを教え込んだ。言葉通り、歴史的な屈辱を味あわせたのだった。
この試合直後、当時のバルセロナ会長ジョアン・ラポルタは「この2−6は、まるでタイトルの一つとして記憶に残されることになるだろう」と語り、グアルディオラは「人生の中で最も幸せな日の一つ」だと明言した。彼らの言葉は、まさしくバルセロニスタスの思いを代弁していた。そしてマドリディスタスにとっては、決して取り払うことはできない十字架になったのである。
クラシコはもちろん、タイトルではない。しかしバルセロナの町は、我がチームの大勝に歓喜する人々であふれ、道を走る車はクラクションを鳴らし続けた。これを受けた私たちSPORTは「大量得点、辱め、そして(ほぼ)チャンピオン」との見出しを打った試合翌日の新聞を、普段の12万部ではなく20万部近く刷ることを決定したが、それは瞬く間に売り切れた。私の友人たちは、その新聞を一生の宝物にすると口々に言ってくれた。
それからレアル・マドリーと対戦する日が近づく度に、バルセロニスタスは「2−6の再現はあるのだろうか?」と考えるようになった。誰にとっても、忘れられない思い出がある。それから何年が経っても省みるような、同じような出来事に遭遇するときに基準とするような思い出が。あのクラシコは、まさにそれだったのだ。
文=トニ・フリエロス(Toni Frieros)/『SPORT』編集デスク
訳・構成=江間慎一郎
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