“戦術オタク”ナーゲルスマンの右腕が語る映像分析の「いま」。ドローンの使用をやめた理由も/インタビュー

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ビデオアナリストのベンヤミン・グリュックがインタビューに応え、ホッフェンハイムでの彼の仕事や同志ユリアン・ナーゲルスマンのこと、バーチャルリアリティの導入について語る。

バーチャルリアリティやドローンによる練習の見守りから昔ながらの戦術ボードまで、ホッフェンハイムのユリアン・ナーゲルスマン監督は、戦術と分析の方面に惜しみない情熱を注いでいる。純然たる“戦術オタク”という評判も嘘ではなく、1試合の間に何度もチームの基本戦術を変えることがしょっちゅうだ。

そんなナーゲルスマンが自チームや相手チームを分析する際、最も重要な協力者となっているのが、ビデオアナリストのベンヤミン・グリュックである。グリュックはU-19以来常にナーゲルスマンを支え、来シーズンにはRBライプツィヒへ同伴することも決まっている。

『Goal』のインタビューに応えたグリュックは、特に戦術が必要とされないクライスリーガ(最下位クラスの地方リーグ)の監督時代からブンデスリーガへ進出するまでの自らの道のりについて語り、ドイツのトップリーグでビデオ分析がどのように力を発揮するのか詳しく解説する。

■「ノウハウの大部分をユリアンから学んだ」

GER ONLY Benjamin Glück 2017 Hoffenheim

――グリュックさん、あなたは大学でスポーツと数学の教職に就く勉強をして、現在はTSGホッフェンハイムでビデオアナリストとして働いています。そういう普通とは違ったキャリアを歩むことになったのはどうしてですか?

ジンスハイムに住んでる叔父の影響だ。大学の授業でスポーツクラブの実習が必要になった時、TSGホッフェンハイムに申し込んでみたらどうかと、アドバイスしてくれたんだよ。それがうまくいって、ホッフェンハイムの若手育成センターの仕事を5週間見学させてもらったんだ。だけどその頃は今と違ってビデオ分析なんてほとんどやらなくて、ボールに空気を入れたりガレージを片付けたりしていたんだけどね(笑)。

――いつ頃からビデオ分析を始めたんですか?

実習が終わった後、当時の育成センター長で、今はプロチームの監督をしているアレクサンダー・ローゼンから、後でまたもう一度来る気があるかどうか訊かれたんだ。だから、無事に試験を終えた後に連絡を取ったら、彼は僕にホッフェンハイムでさらに実地経験を積む機会を提供してくれたんだ。今度はプロチームでスカウティングや試合分析を行う部門だった。僕はすぐに話に乗ったよ。これを逃せばプロのクラブで仕事をする機会なんてなかなかまた手に入るものではないとわかっていたからね。そういうことがあってから、後でU-19チームに正式に雇われることになったんだ。

――あなたはアマチュアのフットボーラーだった頃から戦術にハマっていたんですか?

そういうわけでもないよ。確かに僕自身SVオルフシュタットで監督もやったけれど、たいして戦術には詳しくなかった。当時の僕が他のクラブの監督たちより余計に基本戦術に頭を悩ませていたなんてことはなかったね。でもホッフェンハイムのU-19で仕事を始めた頃にユリアン・ナーゲルスマンに出会ってから、僕は戦術に興味を覚えるようになったんだよ。

――ナーゲルスマンからは何を学んだんですか?

当時彼はU-19チームの監督で、僕たちは非常に緊密に協力して仕事をしたんだ。僕はユリアンからたくさんのインプットを得たし、ものすごくためになる経験だった。この時期に僕たちは一緒にたくさんの試合を見たり、U-19チームの次の対戦相手の分析をしたりした。僕はそういう機会に非常に多くのことを学んで、そのすべてを吸収していったんだ。僕が蓄えたノウハウの大部分がユリアンとの共同作業に由来すると言っても過言じゃないね。

――師匠に恵まれないことだってありますからね。

監督とアナリストが親密な協働関係を結んで、同じ考え方を共有するのは常に望ましいことだ。ユリアンと僕の場合がそうだったんだよ。僕たちはすごく仲良くやってたし、彼は僕を信頼していいとわかっていたんだ。

■「週40時間労働なんて夢のまた夢」

Raheem Sterling Manchester City 1899 Hoffenheim 12122018

――ホッフェンハイムで仕事をするようになる前に比べて、フットボールの試合の見方が変わりましたか?

ワールドカップや僕たちにとって重要じゃない試合の時には、ただ漠然と眺めるだけで分析したりはしない。けれど、ブンデスリーガでこれから対戦するチームの試合を見る時には、たとえ自分の自由時間であっても、細かいところまで注意を凝らして見るよ。国際試合の場合もそうだ。どんな戦術が使われているのか、常に分析を心がけている。

――では、あなたのお友達は今でも、あなたと一緒にくつろいで試合を見ることもできるんですね?

もちろんだよ。僕は仕事に縛られていることが多いから、プライベートの時間はほとんどない。だから、試合のある晩を友人たちと一緒に過ごす時には、フットボールのことはあまり考えないようにしているんだ。

――分析的な目で試合を見る時は、何か特別な規準のようなものがあるんですか?

わかりやすいものは何もないね。対戦相手を分析するのに規準というものはないけれど、僕は試合をいくつかの局面に分割して考えるんだ。“自分たちがボールを持っている局面”、“相手がボールを持っている局面”、“ボールを奪われた後の切り替えの局面”、“ボールを奪った後の切り替えの局面”といったふうにね。分析で一番重要なのは、自分たちがボールを持っている時に相手のどこにスペースが生まれるか、相手がボールを持っている時にどこで流れをつかんでボールを奪うチャンスを手に入れるかを見つけ出すことなんだ。対戦相手を分析する時には、試合の行方を決定する可能性のあるスペースを特定したり、相手の強みや弱みをはっきりさせることによって、解決策を見つけるようにするんだよ。

――自分たちの試合の分析はどんなふうにやるんですか?

自チームの分析の場合には、監督たちから前もって指示されたプランにチームがどんな変更を加えたかをチェックすることが重要だ。シーズン前に皆で決めた全般的な内容を変えたのかどうかにも注意を払う必要がある。その場合、様々な局面で選手一人ひとりやチーム全体がどう振る舞ったかを検討することになる。さらに、自分たちの試合に目につく難点があれば、それに一つずつ対処しなければならない。たとえば6回カウンター攻撃を受ければ、カウンターを防ぐ方法を話し合ったり分析したりするし、一度も試合の流れをつかむことができなければ、どこでボールを取りに行けばいいのか話し合うことになる。

――普段の1週間の仕事の流れはどうなっていますか?

2年前までは僕一人だけで分析をやってたから、残念ながら、チームの練習を見に行く時間は滅多になかった。今は2人目の協力者をユースから引っ張ってきたから、いくらか負担が軽くなったよ。イングリッシュ・ウィーク(週末のゲームの間にさらに1試合が挟まる過密スケジュールの期間)中は、次の対戦相手に備えるのが最優先事項だから特に忙しいね。

――では、あなたは机の前に座ってあれやこれやの試合のシーンを見つめながら、監督や選手たちにプレゼンする準備をして過ごしてるってことですか?

普段の週はそうだね。けれど、準備のためにはピッチでもたくさんの時間を過ごすんだ。練習の様子を撮影して、選手たちにフィードバックできるようにしてるんだよ。それにシーズン中は、次の対戦相手のプレースタイルがわかるような試合にもすべて立ち会うようにしている。他の時はたいていパソコンの前に座って、信じられないくらい大量にフットボールを眺めているよ。

――時にはうんざりすることもありますか?

(笑って)僕は自分の仕事を愛しているけれど、時には、たとえばクリスマスなんかにちょっとスイッチを切ることに異存はないね。特に、以前国際大会に出場していた時は、すさまじく大変だったこともある。なんとか時間をやりくりするために、火曜に試合で遠征する道中で、もう週末の相手への対策を練らなければならないんだ。帰りの飛行機でも同じことで、一晩や二晩は夜まで仕事をすることもある。他の仕事をやってる人たちのように週に40時間働けばいいんだったら、僕にとってはユートピアのような話だ。それに比べて、バイエルンのプロチームでは7人のアナリストが仕事をしている。きっとホッフェンハイムとは違って、仕事を分担することができるんだろうね。

■ドローンの使用は…

Drone 21 11 2017

――昨年、あなたがたが練習風景を観察するのにドローンを利用していることが話題になりましたね。

確かにそうだけど、今はもうやっていないんだ。新しい視点が得られるかと思って時々テストしてみたんだけど、ドローンのブンブン唸る音がすごくて、何人かの選手の神経に障っただけだったよ。高く飛ばし過ぎると、映像が小さ過ぎて使えないしね。それにドローンのバッテリーは18分しか持たないから、バッテリー交換のためにいつもいつも下に降ろさないといけないんだ。そんなこんなで、ドローンはあまり使わなかったね。どっちみち1番大きな練習場にはもう撮影塔が設置されているからね。今は、残りの練習場にも固定撮影システムを備えつけるように取り組んでいるところだよ。

――試合前にはチームは必ず、あなたが用意した材料を使って次の対戦相手のプレースタイルを頭に入れておくんですね。詳しく言うと、そういう話し合いはどんなふうに行われるんですか?

たいてい僕は、相手の試合を3、4戦細かく分析する。分析する試合数は、相手チームがそのシーズンにどのくらいの数の基本戦術を採用しているかによるけどね。最近じゃ監督が頻繁に基本戦術を変更するようになっているから、すべてが以前よりずっと流動的で複雑になってきている。だから、相手が実際にどんな戦術で来るかを予想するのは難しいところもあるんだ。それからスタッフの一人にもその3つか4つの試合をじっくり見てもらった後、短い話し合いをして、最も重要だと思われるシーンを集めて分類するんだ。その中からみんなで話し合ってだいたい12個くらいのシーンを選び出して、それを試合前にチームに見せるんだよ。

――チームに見せるシーンをできるだけ少ない数に絞るよう努めているわけですね?

そうなんだ。全体の中から本質的な部分を抽出して、最も重要な事柄について指摘することが大切になる。相手のパターンを目に見えるようにして、理想的に言えば基本戦術とは別に、プレーの規則性を見つけ出すことを目指している。プレゼンが長すぎると、あまりたくさんは覚えていられなくなるんだよ。けれどプレゼンの他に、選手はそうやって選んだ全部のシーンをマッチプランと一緒にスマホに送ってもらうから、後でもう一度ゆっくり見直すこともできるんだ。

――他のクラブでは、次の対戦チームの選手一人ひとりのビデオ映像もスマホで受け取っているようですが、ホッフェンハイムではどうですか?

ブンデスリーガではもうそれはやってないんだ。選手たちはお互いにお互いのことをよく知っているし、ブンデスリーガのほとんどの試合を自分でも見ているってことが前提になっているからね。けれど新しい選手がリーグに入ってきて初めて彼らと対戦する時には、一人ひとりについてビデオを用意して、それぞれのプレースタイルに備えるようにしているよ。たとえばチャンピオンズリーグの試合が始まる前には、選手たちがスマホで情報を受け取れるように、対戦するプレーヤー全員のビデオ映像を用意したよ。

――そういうビデオでは何にフォーカスが当てられているんですか?

その場合もやっぱり、重要なのは最も特徴的なシーンだ。それぞれの選手がどんなフェイントを好むのか、どんな守りを見せるのか、どんなふうにゲームを組み立てるのか、そういったことがわかるようにするのが僕たちの仕事だ。その場合、ブンデスリーガとは違って、すでにいろいろな細かいことが周知のことになっている。アリエン・ロッベンが内側に切れ込んで左足でシュートを放つのが好きだということは、今では誰もが知っている。もう、そういうことを選手に知らせてやる必要はない。けれど個々の選手について、僕たちがこれは知っておかなければと思うような点があれば、そういうシーンをスマホで受け取ることもできるんだ。

■バーチャルリアリティの採用には慎重

Ishak Belfodil TSG Hoffenheim Bundesliga

――今では、ハーフタイムに一つのシーンをロッカールームで検討することが、ブンデスリーガでも普通のことになっています。ナーゲルスマンがハーフタイムにどのシーンを見たいと思っているのか、あなたにはどうやってわかるんですか?

すでに話したように、試合前に必ず僕たちは、相手がどんなスペースを好むのか、どんなスペースがあれば自分たちが相手からボールを奪えるのか、ビデオを使って教えるんだ。相手が思いがけなく別の基本戦術を取って来れば、もちろんハーフタイムにはそれがテーマになる。けれど、そういうシーンを検討する際に基本的に重要なのは、自分たちが前もって練り上げた戦術を確認することだ。もちろん、僕たちがビデオを用意していないことだってある。特にハーフタイムに作戦の変更が必要な試合では、監督はビデオより戦略ボードを使って説明することになる。だから、ハーフタイムにはビデオを見せるものと決まっているわけじゃないんだよ。

――そもそも、ビデオ分析が意味を持つようになるのは、選手がどのくらいの年齢になってからですか?

対戦相手の分析という点で言えば、今のところはまだ、ユースの領域で次の相手についての材料を手に入れるのは難しい。その年齢では自分たちの成長に、つまりは自分たちの強みや弱みに重点的に注目することの方が重要だ。僕たちはU-17チーム以降で対戦相手の分析を始めることにしているよ。

――ここ数年でビデオ分析にはどのくらいの進歩が見られますか?

僕がビデオ分析を始めた2011年の時点と現在を比べれば、非常に大きな変化が見られるね。ソフトウェアにしろハードウェアにしろ、この数年で大きな進歩を遂げている。今ではバーチャルリアリティを提供しようという試みさえあるし、データの蓄積も大きな意味を持つようになってきている。その場合に肝心なのは、豊富なデータをもとに、目的に合わせて最も重要な情報を抽出して監督とチームに提供することだ。けれど結局はフットボールのことを問題にしているんだから、フットボールという括りの中で、本質的なことに目を向けるのを忘れないように注意しなければならない。選手たちに過大な要求をするわけにはいかないからね。

――ホッフェンハイムはバーチャルリアリティを利用しているんですか?

いくつかのプログラムをテストして試しに使ってみたんだが、バーチャルリアリティの技術はまだ成熟していないんだ。確かにプログラムを製作した会社と何度も話し合ったことはあるけれど、目一杯に予定の詰まった日程表を考えると、特に国際大会に出場している今は、実際問題としてそういうツールに費やす時間がどれだけ残っているのか疑問に思わざるをえない状況だ。それから、どんなチームにとってバーチャルリアリティの導入が意味を持つのかという点についても考える必要がある。特にユースの選手たちの場合には、試合へのアプローチの仕方を改善するために実際にバーチャルリアリティを利用できるのは間違いないだろう。そういう新技術の場合、効果とかソフトやハードの性能を見るために、まずユースで試してみることがよくあるんだ。

――ある記事の中で、あなたはユリアン・ナーゲルスマンの“第二の目”と呼ばれていましたね。

(笑って)そこまでは行ってないと思うけどね。ユリアンは自分の仕事の領分において傑出した能力の持ち主で、僕は非常に大きな恩恵を被っている。僕がフットボールに関して理解していることのほとんどは彼から学んだことだ。彼と一緒に観戦していると、今でもまだ彼から学んでいるんだと感じるよ。そして、僕はそうやって学んだことを自分のものにするよう努めている。そうしないと、彼と同じ見方ができるようにならないからね。

――仕事を離れても、ナーゲルスマンはあなたの最も親しい友人のうちの一人ですね。その絆はどうやって育まれたんですか?

彼がマルコ・クルツの下でプロチームのアシスタントコーチを務めていた時に僕が実習生として入って、僕たちは初めて本当に知り合うようになったんだ。それから彼はU-19チームの正監督になって、僕がアナリストになった。僕たちは2人共バイエルン地方の出身で、山が好きで、年齢も同じだし、興味や趣味もたくさん共通している。それに2人とも常識を気にしないところが似ていて、お互いに波長がぴったりだってすぐにわかったんだよ。

――あなたがたはどのくらいの頻度で意見交換してるんですか?

僕とユリアンとアシスタントコーチとGKコーチは同じオフィスで仕事をしてるんだ。だから、自然と毎日一緒に話し合ってるよ。対戦相手の分析に関しては毎週ミーティングを開いて、アシスタントコーチの2人とユリアンと一緒に、特に次の対戦相手に向けて対策を練っている。

――これまで仕事をしてきた中で、特に嬉しかったことはありますか?

Aユースで優勝した時と、もうひとつは去年ボルシア・ドルトムントとホームで戦った試合が、僕のこれまでのキャリアの中で特に感激した経験の一つに数えられるね。僕らはシーズンの終わりに激しいラストスパートをかけた後で、あの試合に勝ってチャンピオンズリーグへの出場を決めたんだ。2017年にリヴァプールのアンフィールド戦った試合も忘れられない一戦だね。

インタビュー・文=ロビン・ハック/Rovin Haack

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「※」は提携サイト『 Sporting News』の提供記事です

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