数学的に「10」という数字はハッピーな数である。なぜ、そうであるのか因果関係を説明すると長くなってしまうが、簡潔に述べると「10」という数字は完璧を意味する。「10」が神なる数字だと言うのも、それが完璧であるということが理由だ。「1」から「9」までの数字で表されるすべての原則を、新たな単位に集約することができるからだ。また「10」という数字は「天」であるとも呼ばれる。
なぜならば「10」は完璧を表すと同時に、あらゆるものの瓦解を意味するからだ。
難しい話はここまでにしておいて、本題に入ろう。「10」という番号がサッカー界でも"ハッピー”な意味合いを持っていて、特別な数字であることは容易に理解できるだろう。
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■デル・ピエロと「10」
背番号10を背負ったアレッサンドロ・デル・ピエロというプレーヤーは、まるで伸ばした指先が天に触れるような存在だった。どんな学校でも学ぶことのできないエレガントな動作、創造性溢れるプレースタイルを備えていた天性のファンタジスタ。ユヴェントスで最も風格のあるユニフォームを、まったく当たり前のようにまとう。当たり前でないことが当たり前なのは、デル・ピエロが常に1歩先の存在だったからだろう。
キャリアにおいては、まずユヴェントスの10番を背負った。それから主将となり、遂にその存在は、ビアンコネーリ（ユヴェントスサポーター）だけでなく、サッカーを愛するすべての者にとってのレジェンドとなった。それは、デル・ピエロのような10番の選手こそ、サッカーの本質が見いだせるプレーヤーだったからであろう。「美しさ」、「感動」、「喜び」、「上質」、それらを1つの言葉に集約した存在なのだ。
自宅の居間で椅子をゴールに見立ててフリーキックの練習をしていた頃から、ユヴェントスやイタリア代表として世界の頂点に立つまで、デル・ピエロは決して変わらなかった。場違いな発言をすることもなく、問題を起こすこともなく、スキャンダルもなかった。プロのサッカー選手として常に模範的な存在であり、彼は背番号10の持つ完全性を汚すようなことは一切しなかった。
「10」とは、「1」と「0」を合わせた数字だが、時には永遠の再出発を意味する「1」という数字にもなり得る。デル・ピエロは父を亡くしたあと、そして選手生命を脅かす大ケガのあと、何度となく再出発をしている。カルチョ・スキャンダルでユヴェントスがセリエBに降格した06－07シーズンも同じ背番号を背負って再出発した。なぜなら「紳士は貴婦人（ユヴェントスの愛称）を見捨てたりしないから」だ。
セリエAに復帰した07－08シーズンにはリーグ得点王に輝いた。08－09シーズンのチャンピオンズリーグでは、敵地サンティアゴ・ベルナベウで圧巻の2ゴールを決め、マドリーのファンからスタンディングオベーションを受けた。
ジョヴァンニ・トラパットーニ氏はデル・ピエロについて「わずか10分で王者になると悟った」と言及したことがある。10分、まさに「10」だ。この数字は偶然ではなく、ついて回る運命的なものがあるとしか思えない。
40歳を過ぎてもローマで現役を続けているフランチェスコ・トッティのように、現在も彼の世界、彼のホームで、彼のユニフォームを着てプレーを続けていてもおかしくはなかった。彼がトリノから去るとともに、ユヴェントスにそれまであった何かが失われてしまった。ユヴェントスの心のかけらが、それも大きなかけらが抜け落ちてしまった。だが、背番号10は今も残る。
「誰かが背負うべき。欠番にするべきではない。113年間、偉大な王者が背負ってきたユニフォームなんだ。子供たちがいつか自分も背負えるかもしれないと夢見るのは素晴らしいことだよ。アレッサンドロ・デル・ピエロがいるかいないかは別として、ユーヴェは今も昔もあり続けるんだ」
「10」番とは、サッカーにおいても、人生においても、皆が目指すべき存在なのだ。ジャンルイジ・ブッフォンもこのように話している。
「これから先150年、デル・ピエロのような人物はもう現れないだろう。これから背番号10のユニフォームに袖を通す者は、それを誰が背負ってきたのか、どのように背負っていたのかを知るべきだ。その上でどのように振る舞うべきか考えるべきだ」
誰からも愛される模範的な存在で、10番が似合うファンタジスタ……。デル・ピエロのような稀有な存在は、もはやピッチ上で我々は見ることができないのだろうか。
文＝マルコ・トロンベッタ／Marco Trombetta
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