2019_8_14_maya_yoshida2(C)Getty Images

可愛い後輩に開幕先発を奪われた吉田麻也の心中――それでも目標は“キャリアハイ”

試合後、吉田麻也は控室から出て来てこちらの姿を見つけるとすぐに察したようで、先手を打ってきた。

「聞いて、聞いて、監督に。いま後ろにいるから」

スタジアム角の屋外に駐輪場のような屋根だけ設置した取材エリアの脇をサウサンプトンのラルフ・ハーゼンヒュットル監督が、雨のなか小走りで抜けて行く。

以下に続く

もちろん、記者会見場へ急ぐ指揮官に「なぜマヤを使わなかったの?」と聞くわけにはいかない。こちらが困惑する様子を見て、吉田はいたずらっ子のようにクックッと苦笑いした。

■開幕先発を逃す

2019年8月10日、吉田にとって8季目のイングランド・プレミアリーグの開幕だった。敵地でのバーンリー戦。チームシートに「MAYA YOSHIDA」の名前は下の方にあった。つまりベンチスタート。土砂降りのなか、吉田はベンチからその戦況を見つめた。心中は穏やかではなかったはずだ。吉田がいるべきセンターバックの真ん中でプレーしていたのは、5歳下でその彼が十代だったころからずっと可愛がってきた後輩のジャック・スティーブンスだった。

イングランドでは先発メンバー表のことを「チームシート」と呼ぶ。キックオフの1時間前に発表され、すぐにツイッター等で拡散される各チーム11人の先発と7人の控え。試合会場では紙に印刷され、記者たちに配布される。

わずか1枚の紙だが、選手たちはそこに名前を載せるためしのぎを削る。なかでも開幕戦は特別だ。「開幕先発」の座を得て好スタートを切るため、血と汗を流し身と心も削ってひと夏を費やす。

吉田もそのひとりだ。今夏、吉田は珍しく万全の準備ができた。昨季終盤、肺炎を患ったため、シーズン終了後の日本代表戦には招集されず、コパ・アメリカのメンバーにも入らなかったからだ。家族と海外旅行をするなどリフレッシュしながら、「お酒の量は控えて、(自主)トレーニングもたくさんやった」という。体も心も整え、7月1日のチーム始動の初日から合流。オーストリア合宿、マカオ遠征を経てコンディションは上々だった。

実際、5試合あったプレシーズンのうち3戦で先発。科学データもよかったという。「試合や練習でハートレートとかデータを取ったけど問題なかった。僕自身も確認して、問題ないと思った」と話す。

吉田は2014年から4シーズン連続で開幕先発。昨季は逃していたので、2シーズンぶりの開幕戦での先発はすぐ目の前にあった。

■先発は“可愛い後輩”

2019_8_14_maya_yoshida3(C)Getty Images

ところが、開幕前の最後のプレシーズンマッチ、8月3日にホームで行われたケルン(ドイツ)戦では先発から外れた。代わりに吉田の定位置、中央のセンターバックとして先発したのが可愛い後輩のジャック・スティーブンスだった。吉田はそのスティーブンスに代わって63分から途中出場しただけ。1週間後の開幕戦バーンリー戦に向けても、その流れは変わらず、先発はスティーブンスだった。試合は後半、サウサンプトンの守備陣がミスを連発し、0-3で完敗した。

今度はこちらが、「いたずらっ子」に反撃を仕掛ける番だった。じゃあ、選手として開幕先発から外された理由を指揮官に問いただしたのか。

「あえて聞いていないです。いちいち聞くのもね…」と口をつぐんだ。外された理由がまったく心当たりがない、というわけでもなさそうだった。

「キャンプではプレッシャーとビルドアップのふたつを重点的にやりました。プレッシャーのところは問題なかったけど、ビルドアップの面で僕よりジャックのほうが良かったという判断だったんだと思う」

キャンプ中、「ジャック、上手いな」と感じた場面があったのだろう。

とはいえ、この開幕戦のバーンリー戦でスティーブンスをはじめ、センターバック陣が攻撃をビルドアップし、得点機を作った場面はほとんどなかった。3人のセンターバックらはむやみやたらとロングボールを蹴った。強風と大雨という、悪天候も影響したのだろうが、ちょっと酷い出来だった。これを指摘すると、吉田は「まぁ1試合終わっただけだから。あまり悲観せず、チャンスを待ちましょう」と自らに言い聞かせすように話した。

■目標はキャリアハイ

2019_8_14_maya_yoshida(C)Getty Images

今季もサウサンプトンのバックラインは3バックだ。その3つのポジションに6人のセンターバックがいる、という異常事態になっている。吉田麻也、ジャック・スティーブンスに加え、ポーランド代表のヤン・ベドナレク、昨季加入したデンマーク代表のヤニク・ヴェステルゴーア、昨季はセルタ(スペイン)へ期限付き移籍し、復帰したオランダ代表のウェスレイ・フート。さらにこの開幕戦の2日前、イングランドの移籍市場最終日にガーナ出身でオーストリア代表のケヴィン・ダンソがアウグスブルク(ドイツ)から期限付き移籍で加わった。

あまりにも多すぎる。先発3人とベンチに1人。つまり、常に2人はベンチ外だ。監督や強化担当は、いったい何を考えているのか。フートや吉田をまだ移籍市場が空いている、欧州のどこかへ移籍させるつもりなのか。

それを確かめるべく、吉田に移籍の意思はあるのかと聞くと、「プレミアリーグが恋しい。しばらく出てない!」とはぐらかした。でも口調や表情からして移籍するつもりもないし、打診もないようだ。では吉田はどこでチームメートに差をつけ、この激戦区を勝ち抜き、先発の座を奪還しようと考えているのか。

「これまでも、ハーゼンヒュットル監督から信頼を得られていないと感じたことは何回かある。やっぱり自分の足りないところもある。その足りないところを補って、チャンスが来たときに、結果を出せるよう準備をするしかない。まぁいつも通り、後ろからのスタートということで。ただ例年より後ろじゃないかな、っていう感じはします」と心中を明かすと、再び苦笑した。

この8シーズン、吉田はクロアチア代表のデヤン・ロヴレン(サウサンプトン→リヴァプール)、ベルギー代表のトビー・アルデルヴァイレルト(サウサンプトン→トットナム)、オランダ代表のヴィルヒル・ファンダイク(サウサンプトン→リヴァプール)とポジション争いをし、生き残ってきた。ジャック・スティーブンスなら十分に戦える、と自信があるのだろう。そのうえで、今季の目標についてこう話した。

「(8月で)31歳になるので、もうそんなに長い契約はもらえない。1シーズン、1シーズン、最後だと思ってやらないといけない。キャリアハイのシーズンにしたいです。それが目標です」

「キャリアハイ」、つまり「自己最高」のシーズンにしたい、という。つまり数字でいえば、2017-18シーズンの24戦出場2得点を越え、ちまたからは「吉田は守れて、攻撃も組み立てられる、いいセンターバックになったな」と評さるレベルに達したい、ということなのだろう。

そうなれば、シーズン末にはプレミアリーグの6強から声がかかるかもしれない。

目標は高く…。まずは後輩ジャックからポジションを奪うことから始まる。

取材・文=原田公樹

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