マルク・ヤンコは36歳で現役生活に別れを告げた。オーストリア代表チームで史上3番目に多くのゴールをものにし、合わせて7つの国々でプレーした経験の持ち主である。
公の場で常に単なるフットボーラーという以上の存在感を示してきたヤンコが、政治や社会や経済のテーマについて論陣を張る。
『Goal』のインタビューに応えたヤンコは引退の理由や今後の計画について明かすとともに、自ら開発に関わったキネシオロジーテープ(スポーツテーピング用テープ)やスポーツ企業との関わり、オーストリアの政治や言論の自由について、またインスタグラムの危険性や欧州にあるトルコ人に対する偏見についても語った。
■引退決断の理由
――ヤンコさん、あなたは7月1日に引退を発表しましたが、最終的な決断に至った理由は何だったのでしょうか?
最初に引退を考えたのはウィンターブレイクの最中だった。それから時間が経てば経つほど、引退するのが正解のように思えてきたんだ。フットボールへの熱意よりも引退後を楽しみにする気持ちの方が大きくなったとしたら、一歩を踏み出す時だということだ。僕の場合がそれだったんだよ。それに僕は、まだ体が元気なうちに引退したいと思っていたんだ。体が動かなくなって、痛み止めなしじゃベッドから出られなくなってからやっと、というんじゃなくてね。
――あなたは最後の最後までオーストリア代表に招集されていましたが、そのためにさらに現役を続けることは考えませんでしたか?
もちろんそれは僕にとって非常にうれしいことではあったけれど、決断には何の影響も及ぼさなかったよ。
――現役のプロフットボーラーでなくなってからの生活に不安は感じませんか?
もちろん僕にとっては未知の領域に飛びこむことを意味している。記憶にある限り、僕の生活は常にフットボールがあり、それで規制してきた。これから僕は自律的に生活することを覚えなければならない。その過程ではうまくいかないこともあるだろうと覚悟している。願わくばあまり大変な目に遭わず、すぐに新しい生活を打ち立てて、楽しくやっていければいいと思っているよ。
■引退後の企業活動
Getty――この先どんな計画があるんですか?
何よりまず家族と一緒にウィーンへ引っ越すつもりだ。それからできるだけたくさんのことを試して、いろんな分野を覗いてみたいと思っている。これまでフットボールがそうだったように、僕を夢中にさせてくれるものを見つけたいんだ。そのために、すでにこの何か月間かフットボールの他にもいくつかのことに力を注いで、企業でのプロジェクトも始めているんだ。
――是非その話を聞かせてください!
僕は3人のパートナーと共同で、『S:KINアクティブテープ』という名前の、筋肉の痙攣や痛みを抑える特殊なキネシオロジーテープを売り出して、ヨーロッパ全体での特許も取得しているんだ。片面にいぼ状の突起のある伸縮性のあるテープなんだけど、この突起が接触する体の面の血行を促進して、痛みの受容体を刺激するんだよ。
――どうやって思いついたんですか?
仲間の一人のアイデアなんだ。僕はすごくいいアイデアだと思って、知り合いの中でそういうプロジェクトを市場に乗せるための知識や伝手を持っている人たちに紹介したんだ。そしたら彼らもすっかりその気になったから、さっそく商品化に取りかかったんだ。それが1年半前のことだ。アイデアの誕生から製品開発に至るまで、その全プロセスを通じて、僕は仲間と一緒に舵を取ってきた。ものすごく楽しかったし、非常にためになる経験でもあったよ。
――そのテープはどんなふうに販売されているんですか?
大勢の一般の人たちはオンラインで買えるし、プロのスポーツ選手やクラブや連盟には直売ルートもあるんだ。ドイツとオーストリアとスイスでは、すでに急速に普及してきているよ。トップクラスの競技スポーツ選手たちから最初に返ってきた反応では、極めて高い評価を受けている。そのうち、できればもっと販路を拡大することを考えようと思っているんだ。
――あなたは『Sportbox』という企業の仕事もしていますね。どういうことをやっている会社なんですか?
あれは素晴らしいプロジェクトなんだ。だから僕が協力しているのはお金のためじゃなく、とにかく会社の理念が非常に有益だと思えるからなんだ。『Sportbox』はオーストリアの各地で子供や青少年のためにいろいろな種目のスポーツキャンプを開催していて、キャンプに参加すればいろいろな種類のスポーツを経験できるんだ。これまでの僕にはプロのフットボーラーとしての仕事があったから推奨意見という形でしか関われなかったけれど、今は違う。夏にはウィーンのズュートシュタットで開かれるあるキャンプに現場で参加しようと思っている。子供たちはついにパンフレットに載っている僕の顔を見るだけじゃなく、実物の僕に会うことになるだろう。
■「スポーツには人々を結びつける力がある」
Getty Images――あなたはツイッターにも盛んに投稿していて、スポーツ以外のテーマ、たとえば政治や社会や経済についても多くの意見を公表していますね。それはあなたにとってどんな意味を持っているんですか?
僕がツイッターをやるのが好きなのは、僕の求めるものに最も近い形のソーシャルメディアだからなんだ。ひとつは、ツイッターでは多くの情報を直接、しかも場合によってはニュースサイトでよりも素早く手に入れることができるという点がある。また別の面で言えば、ツイッターで意見を公開するのは、たとえばインスタグラムとは違って純粋な自己表現だという点が気に入っているんだ。ツイッターでは、食事の内容やクールな休暇の様子を人に見てもらうというようなことはやらない。ツイッターをやる時は、僕は自分が心を動かされたテーマについて語るのが好きだし、何か気に入らないことがあればそのことを話すんだ。そういう場合は、はっきり意見を言うことにしているよ。
――有名なプロフットボーラーであったあなたは、自分の意見で何か影響を与えることができると思いますか?
もちろん仕事の性質から言って僕にはファンがいるし、僕の意見を読んでくれるフォロワーだっているだろう。けれど、朝起きるとすぐに「マルコは今日何て言ってるかな?」なんて思う人たちがいるとは思っていない。僕はプロのフットボーラーだった間ずっと、政治的な問題について偏らない態度を取ることが重要だと思っていた。最近は、社会を分断し扇動するような行為にわざと走る傾向が見えるようになっている。スポーツはこれからも全体として人々を結びつけるような働きをすることができるし、現役のプロスポーツ選手の一人ひとりがそのことを意識して、どちらか一方の側に味方をしないようにしなければならないだろう。けれど僕は、キャリアを終えた今、ひょっとしたら政治的な旗色をはっきりさせることになるかもしれない。
――政治の道に進むということも考えられますか?
僕は長い間、政治にはあまり関心を持たずに済ましていられた。長い時間をかけてやっと、政治に対する興味が大きくなってきたんだ。一人ひとりの人間が自分の意見を持てば、力を合わせて物事を形作っていけると気づくようになったんだよ。たとえ、投票に行くという行為によってだけ参加するとしてもね。何年か前から、僕は前より熱心にオーストリアの政治状況に注意を払っている。その結果、たぶん自分で政治の道に進みたいとは思わない可能性が高いという結論に達したんだ。今までも外国のクラブにいた間に、「オーストリアの政治では一体何が起こっているのか?(右傾化の流れを指す)」っていうふうに聞かれることが度々あったよ。
――あなたは5月3日の言論の自由の日にツイッターで、それについて真面目に考えるよう呼びかけましたね。今、言論の自由がなおざりにされていると感じますか?
僕たちの国オーストリアでは、最近、はっきり言論の自由を制限しようとするような事件があったんだ。もちろん、まず何よりそういう行動そのものに僕はショックを受けた。けれど、それよりもっとショックだったのは、まず人々がそういう状況を批判して、次にそういう発言から距離を取るようになるまでに、僕の考えからすれば非常に長い時間がかかったということだ。誰も責任を負わないままそういう行動が放置されていて、それを今の僕は国の外から手をこまねいて見ている。そのことに僕はものすごく心をかき乱されるし、だからそのことについて発言したんだ。
【ツイッター:言論の自由とそれに伴う議論が存在するところでしか民主主義は機能しない!だから、一人ひとりの人間が言論の自由を守るために力を尽くし、誰かがそれを脅かそうとするなら、遅くなりすぎないうちに声を上げてほしいと思う】
――現役中にしろ引退後にしろ、スポーツ以外の問題で頭を悩ませたり、さらにそれを公の場で発言するようなプロのフットボーラーは非常にわずかしかいません。あなたは現役の間にもチームメイトたちの意識を高めようとしていたんですか?
若い年代の大半の選手は自分のキャリアのことしか気にかけていないし、他のことは彼らにとってはどうでもいいことだ。実際それはまったく普通のことだし、僕も20代半ばの頃はそうだった。だから僕はここ数年の間も、自分から進んでそういう問題でチームメイトを煩わせたりはしなかったよ。けれど誰かについて、ある種の問題について考えることが役に立つだろうと感じた時には話しかけていたね。誰かの心に潜んでいるものを呼び起こすには、外からちょっとした刺激を与えるだけで十分な場合が多いんだ。
――そういう話をする時にはどんなふうにして始めるんですか?
僕はかなり共感性の高いタイプで、誰かの心に近づくにはどんなふうに話しかけなければならないのかとてもよくわかるんだ。ほとんどの場合はいくらか用心しながら会話を特定のテーマの方へ導いていくんだけど、ダイレクトに行く場合もあるね。
■インスタグラムの危険性に警鐘を鳴らす…

――先ほどインスタグラムでの自己表現のことが話に出ましたが、大勢のプロのフットボーラーが非常に活発にインスタグラムに投稿しています。それにはどんな危険があると思いますか?
インスタグラムはプロのフットボーラーにとって危険なだけじゃなく、あらゆる人間の心の健康にとって危険なものだ。それは見せかけだけの世界で、本物の生活とは何の関係も持っていない。インスタグラムで重要なのは完璧さを演出することだけになっている。だけど、完璧な人間なんているもんじゃない。人はいつも、意識しているかどうかは別にして、自分が目にするものと自分自身とを比較している。インスタグラムでいつもいつも他人の完璧さを目にしてそれを本物だと信じこまされ、一方で自分自身は何の変哲もない日常を送っていると、まず悲しい気持ちになるし、そういうことを繰り返していれば抑うつ的になっていくかもしれない。ひょっとしたらこれから僕だってそういった種類の、いくらか“演出”を狙った投稿をあれこれインスタグラム上にアップするかもしれない。けれど今のところ、僕はあまりやりすぎないようにしようと思っているよ。
――あなたのチームメイトの中にもそういう行動パターンを見たことがありますか?
もちろん、そういうことはしょっちゅう起こってるよ。ますます大勢のプロのフットボーラーがインスタグラム上のバブルにはまりこんで、そこから戻ってくるのが難しくなっているんだ。けれどプロのフットボールの世界でインスタグラムと同じように危険なのは、常に他人に決められた生活を送っているということだ。
――それはどういうことですか?
もし君がプロのフットボーラーになれば、クラブがすべてを引き受けてくれるんだよ。僕のキャリアが始まった頃もすでにそうだったけれど、その後さらにどんどんその傾向が強まっている。極端に言えば、夜一人で歯を磨いて目覚ましをセットすることさえ忘れなければいいんだ。あとのことは何でも君に代わってクラブが片づけてくれるんだから。もし間違った環境にいるのにそれを正す方法を持たなければ、それによって自然と現実とのつながりを失くして、ふらふらと宙にさまよっていくことになる。誰も自分でそうしようと思っているわけじゃなくても、自然とそうなってしまうんだよ。幸い僕には気持ちよく過ごせる両親の家がある。そのせいで、僕には現実から遊離する危険性はなかったんだ。
■トルコへの目が変わった時
Getty――あなたはこれまでのキャリアであちこちのクラブを渡り歩いてきましたね。所属するクラブを選ぶ時は、常にフットボール的観点だけを重視していたんですか? それとも、国や町に魅力を感じて移籍したこともあったのでしょうか?
移籍の際にフットボールの面での理由が決定的な役割を果たさなかったことが2度あるよ。トラブゾンスポル(トルコ1部)で2年足らず過ごした後、2014年の夏の1か月半ばかり僕はどこにも所属していなかった。それから、リーグのレベルはヨーロッパとは比べ物にならなくても素晴らしい経験ができるだろうと思って、シドニーFC(オーストラリア1部)との契約にサインしたんだ。
――では、2度目は?
僕の最後のクラブになったFCルガーノ(スイス1部)に移籍した時だ。ACスパルタ・プラハ(チェコ1部)ではもはや僕は必要とされていなくて、個別メニューで練習しなければならなくなっていた。ルガーノから問い合わせがあった時、戦術的には僕と合わないだろうとすぐに思ったんだ。以前からルガーノはカウンター攻撃に出るクラブで、僕は昔ながらのペナルティーエリア内で本領を発揮するタイプのFWだからね。クラブのマネージャーにそのことを伝えたけれど、それでも僕を欲しいと言われたんだ。もしかすると、とにかく僕の得点率にばかり気を奪われていたのかもしれないね。結局、僕はサインしたよ。ルガーノは夢のように美しい町で、そこで暮らせば毎日が休暇のように感じられるだろうと思ったからだ。けれど残念ながら、予想した通り結果を出すことはできなかったよ。
――国外の数々のクラブに在籍して、全体として学んだことは何ですか?
どこかの国に移り住んで、簡単にそこの気風を受け入れるというのは無理な相談だ。ただしオランダ人はいつでも素晴らしく機嫌がいいから、オランダでは数か月もすれば馴染むことができるけれどね。で、よその国の気風をすぐに受け入れることはできないけれど、もちろん人々の気風からは影響を受けるものだし、ごく自然に何かの特性を受け入れることになる。僕がこれまでプレーしてきたそれぞれの国が、僕の人格や物の見方に何がしかの影響を与えているよ。一番大きな影響を与えたのはトルコかもしれないね。
――それはどうしてですか?
話せば長くなるけれど、僕はウィーンの周辺地域で育ったんだが、そこには当時たくさんのトルコからの移民が暮らしていた。僕や僕の友人たちの何人かに対して、ほとんどの移民はいつも非常に攻撃的な態度を取っていた。だから当然のこととして、僕の心にはトルコ人に対して極端にネガティブなイメージが焼きついてしまったんだ。幼い子供の時は、相手の態度にある感じを受けても、どうしてそういう態度を取るのか考えたりはしないものだ。後になってトルコへ移籍した時、トルコ人に対する僕のイメージは完全に変わったよ。僕はすぐに、そこで知り合ったトルコ人たちがとても優しくて親切で心の温かい人たちだということに気づいたんだ。トラブゾンの人たちはわずかな物しか持っていない。それなのに、人にすべてを差し出してくれるんだ。フットボールの面ではうまくいかなかったけれど、信じられないくらい気持ちよく過ごすことができたよ。
――幼い子供だった頃にはあなたが関わりを持ったトルコ人たちの振る舞いの理由を考えてみなかったとのことですが、今はどう考えていますか?
ある国で暮らしながら、自分がその社会で十分な価値を備えたメンバーだと感じられないとしたら、自然と不満が募って、それと同時に攻撃性も高まることになる。そういう時には、多くの人々がそんなふうに感じているのはなぜなのか、社会そのものが自分の胸に尋ねてみなければならないんだよ。うまく機能している社会では、“自分たち”と“他の奴ら”という区別があってはならないんだ。
インタビュー・文=ニーノ・ドゥイット/Nino Duit
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「※」は提携サイト『 Sporting News』の提供記事です

