■二夜連続の大逆転劇
リヴァプールがバルセロナ相手に奇跡の逆転勝利を飾った前日の興奮冷めやらぬ中、二夜連続となる劇的ドラマだった。
チャンピオンズリーグ(CL)準決勝セカンドレグ、初戦を0-1で落としていたトッテナムは、この試合でも前半だけでアヤックスに2点を奪われた。開始早々、デュサン・タディッチのファーストシュートは守護神ウーゴ・ロリスの好セーブで防いだが、直後のCKでマタイス・デ・リフトに決められた。19歳のアヤックス主将は、マークについていたキーラン・トリッピアーを味方とのスクリーンプレーで巧みに外し、デレ・アリの上からヘッドを叩き込んだ。
35分には、ドニー・ファン・デ・ベークに中盤をドリブルで突き進まれ、ボールは左のタディッチへ。パスを出したファン・デ・ベーク自身はファーサイドに流れ、それによって空いた中央のスペースに右から流れてきたハキム・ツィエクが、ラストパスを受けて左足を一閃。GKから逃げていくような軌道の強烈なシュートがネットに突き刺さり、トッテナムは、残り45分間で2試合トータルスコア0-3という窮地に立たされた。
だが、ここからスパーズは魂を見せた。後半に入り、55分、59分にルーカス・モウラの連続ゴールで1点差に詰め寄ると、その後もアヤックスのカウンターに何度か脅かされつつも猛攻を続け、最後は90+6分、もう残り時間は数十秒かというところで、またしてもルーカス。負傷離脱しているハリー・ケインの代役としてピッチに立った男が、劇的なハットトリック。土壇場でトータルスコアを3-3とし、アウェーゴールの差でクラブ史上初のCL決勝進出を決めたのだった。
■前半で「3点ビハインド」

ファーストレグでもそうだったのだが、前半のトッテナムはこの日もスロースタートだった。特にセットプレーでいきなり出鼻をくじかれてから20分過ぎまではプレッシングの出足も悪く、逆にアヤックスのパスワークとプレッシングに苦しめられ、ボールをうまくタディッチやツィエクのところまで運ばれていた。
徐々にエンジンがかかってきたのは25分頃からだろうか。少しずつアヤックスのプレスを剥がしてシュートまで持ち込んでいけるシーンが増えてくる。ソン・フンミンやクリスティアン・エリクセンのフィニッシュはGKアンドレ・オナナの正面を突いたが、それでもボールはトッテナムが握れるようになり、ペースは傾きかけていた。
だからこそ、35分にツィエクの一撃で2失点目を喫したのは痛かった。3点ビハインドになって、トッテナムに焦りが出てきてもおかしくなかったからだ。
■試合の流れを一変させたジョレンテ
(C)Getty Imagesところが、マウリシオ・ポチェッティーノ監督は落ち着いていた。後半開始から、MFのヴィクター・ワニャマに代えてストライカーのフェルナンド・ジョレンテを投入。システムも4-3-1-2から4-2-3-1に変更するが、この交代策が戦局を大きく変えることになったのだ。
後半はボールを保持して攻めるトッテナム、受けに回ってブロックで守りながらカウンターを狙うアヤックスという構図になった。それ自体は、ファーストレグと似たようなものだった。だがノーゴールだった第1戦と違ったのは、トッテナムの攻撃にしっかりとした“目的意識”があって、引いた相手を崩すためのアイデアがあったことだった。
長身のジョレンテは最前線に張り付き、前半は2トップだったソン・フンミンとルーカスはワイドに開くようになった。スパーズはセンターフォワードのところで基点を作るようになり、彼のポストプレーや競ったこぼれ球を両ワイドから中央に入ってくる2人が狙うようになって、スパーズは攻撃のパターンが明確になった。
また、ジョレンテにボールが収まってタメが作れるようになり、同時にエリクセンがインサイドハーフからボランチのポジションに落ちて組み立てに専念するようになり、スパーズは崩しに“時間”をかけられるようになった。それを利してトリッピアーのオーバーラップも活発になり、スパーズの攻撃に厚みが加わった。
59分の2点目は、分厚い攻撃の賜物だった。丁寧に相手ゴール前でボールを回し、中央で受けたソン・フンミンが右を駆け上がるトリッピアーへパス。折り返しに合わせたジョレンテのシュートはGKオナナに一度はセーブされるも、こぼれ球を拾ったルーカスが粘ってシュート。フレンキー・デ・ヨングの股下を抜けたシュートがネットを揺らした。
またアディショナルタイムの決勝ゴールは、まさにジョレンテの存在あってこそだった。ムサ・シソコが自陣から入れたハイボールをジョレンテが競り、こぼれ球をデレ・アリが拾ってラストパス。走り込んだルーカスが左足で流し込む。ポチェッティーノは単なるパワープレーを目的としたのではなく、しっかりと理論的にジョレンテを使ってアヤックスを崩していこうという冷静な判断をした。それが実った逆転劇だったと言えるだろう。
■際立ったポチェッティーノの“修正力”

思えば、ファーストレグもポチェッティーノの修正力は光っていた。ロンドンでの初戦も、トッテナムは30分頃までアヤックスにいいように翻弄され、その中で先制ゴールを許した。
そんな時に、ヤン・ヴェルトンゲンが脳震盪によって交代を余儀なくされた。そこでポチェッティーノは、そのままDFを入れるのではなく、MFのシソコを投入して3バックからシステムを4-3-1-2に変更したのだ。そこからスパーズはリズムを掴み、攻撃に転じられるようになった。ソン・フンミンの出場停止もあって攻め手を欠きゴールこそ奪えなかったが、もし前半のリズムのまま戦っていたら、スコアは0-1ですまなかったかもしれない。
試合の中で人員やシステムを微修正して試合の流れを変えられるポチェッティーノの采配は目を見張る。だからこそ、新スタジアム建設による緊縮財政で「補強ゼロ」のままシーズンを戦ってきたにも関わらず、しかも各ポジションで故障者が続出しながらも、スパーズは抱えている選手の個性を最大限に生かしながらここまで上ってこられたのだろう。
泣いても笑っても、欧州最高峰の舞台で残るはあと1試合になった。5月12日のプレミアリーグ最終節が終わって4位以内を確定させたら(※4位トッテナムは5位アーセナルと3ポイント差。得失点差は「8」)、あとは6月1日のファイナルに向けてコンディションを整えるだけ。エースのケインも、その頃には戻ってこられるはずだ。
相手は、同じくバルセロナを世紀の大逆転で破って決勝にコマを進めたリヴァプール。今季はプレミアでダブルを食らった相手ではあるものの(※第5節:1-2、第32節:1-2)、ユルゲン・クロップのチームはポチェッティーノにとって過去に何度も対戦して手の内を知っている相手であり、小細工抜きでプレッシング・ゲームを挑むことになるだろう。
クラブ史上初の欧州制覇という快挙を、果たしてポチェッティーノと仲間たちは成し遂げることができるだろうか。マドリードでの決勝が、今から待ちきれない。
文=寺沢薫
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「※」は提携サイト『 Sporting News』の提供記事です





