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中村憲剛、キャリア17年目にして初めて経験した葛藤と苦悩【後編/自分の役割】

「もう、やめたい」。今年春から初夏にかけて中村憲剛は、自身のプロ人生初ともいえるケガの連続に苦しんでいた。先行きが見えないなかで妻にもらした一言――。ギリギリまで追い詰められた状態からいかに「戻って」来たのか? 川崎フロンターレを長年取材するライタ―・原田大輔氏が人間・中村憲剛に切り込んだインタビュー。 【前編/度重なるケガ】 に続く後編では、どん底から浮上した中村があらためて気づいた役割を掘り下げる。

■優しさではなく悔しさが燃料に

 2019年シーズンが開幕して間もなく、度重なるケガに見舞われた川崎フロンターレの中村憲剛は、さまざまな感情に押しつぶされそうになっていた。

 今年の10月で39歳を迎える自身の年齢、自分自身の存在意義、さらに次代を担っていくチームメイトたちの成長……川崎一筋でプレーしてきただけに、なおさら葛藤もすれば気持ちも揺さぶられた。

 だから、最大の理解者である妻・加奈子さんに思いをぶつけてしまった。

「やめたい」と……。

 でも、当初は心配してくれていた加奈子さんは、このとき、引き留めることもしなければ、慰めることもしなかった。

「じゃあ、やめれば」と突き放したのである。妻の加奈子さんは、それが中村にとって最善であることを知っていたからだ。

「そう言われたことで、その日は自分もちょっとカッとなって、それ以上、話すことはなかったんですけど、そこでたぶん火がついたんですよね。『やめれば』って言われて、悔しかったというか。きっと、僕がそう思うであろうことが彼女には分かっていたんだと思います。中村憲剛には優しさよりも悔しさのほうが燃料になることを知っていた。彼女は、これまでも僕の人生の転機に言葉をかけては導いてくれた。だから、このときも……」

 ふつふつと湧き上がってくるものがあった。この時期、チームは負けることなく勝ち点を積み重ねていたが、スタンドから試合を見ていて思うところもあった。

「上から見た印象なんですが、ACLも含めた過密日程で連戦が続いていたり、暑さもあったりして、少しずつ連覇したときのサッカーが影を潜めていくというか……。ボールを握り倒してゴールに向かう、取られたらすぐに取り返しに行く、前からプレスに行って相手がプレーする時間を減らす、ハーフコートでサッカーをして圧倒する。それを毎試合目指すことがウチの良さであり、強さだと自分では思っていて。メンバーも疲労や、ケガで毎試合、変えざるを得なかったり、回したりしているところもあったので、こういう形でチームが勝っていくのであれば、それもまたひとつの方向性なのかなと思うところもありました。でも、攻撃も守備も含めて、自分たちから仕掛けなくなってしまっているように見ていて感じたんですよね」

 ようやく身体の状態が良くなり、途中出場したJ1第18節のサガン鳥栖戦でも同じ思いを抱いた。

「徐々に全体練習にも戻れるようになって、控えチームでプレーしてみても、上から見ている印象とピッチの中の感触が同じだったんです」

■多摩川クラシコで表現したかったもの

201908_nakamura_kengo©J.LEAGUE

 そうして迎えた多摩川クラシコ、7月14日、J1第19節のFC東京戦だった。この試合で、中村は久々にスターティングメンバーに名を連ねた。

「あの試合で僕らが何を体現したかったか。オニさん(鬼木達監督)は、試合前のミーティングで『たとえ試合に負けてもいいから、もう一度、自分たちのサッカーを取り戻そう』と言いました。オニさんが『負けてもいいから』なんて言うことは、今まで一度もなかった。それくらいの強い『想い』だと、そのとき感じたんです。それは何かというと、前からプレスに行って、相手にやりたいことをやらせず、自分たちがボールを握る、もしくは相手陣内に押し込む。ボールを取られても、すぐに奪い返して、攻守にアグレッシブなサッカーを見せるということだったんです」

 まさに、3−0で快勝したFC東京戦で、川崎Fはそれを体現した。その中で、鬼木監督が中村に求めたのは、攻守においてスイッチを入れる役割だった。

 だから、中村は、FC東京戦で前線からプレッシャーを掛け続けた。声援を力に変えて90分間、相手を追い続けた。後半9分には、齋藤学の得点を演出したが、それ以上にひとつひとつのプレーが際だっていた。それは、90分間通して、まるで自分の存在意義を示しているかのようでもあった。

「オニさんが言ったように、これがフロンターレのスタンダードというか、ベースというか、この2年間で自分たちが築き上げてきたものを全部出す。そういうゲームに自分が出る以上したかった。チームメイトにフロンターレのサッカーは『こうだぞ!』というのを見せなければいけないとも思っていた。それは、おそらく自分にしかできないと思ったのと同時に、その役目を自分が担うことで、自分自身にも思い起こすきっかけにしたかった。結果的に試合に勝つことができて、自分自身もサッカー選手として復活じゃないですけど、まだまだ自分にやれることがある、役割があるということを示せたとも思います」

 川崎一筋で16年間プレーしてきだけに、当然、クラブの未来を考えることもある。J1を連覇したチームは着実に成長しているし、若手も台頭すれば、チームとしての底力もついてきた。

「スタンドから見ていたときには、自分はもう、いらないのかなと思うこともありました。別に自分がいなくても、チームは勝つし、回っていくんだなって。それは、さみしくもありましたけど、すごくうれしくもあって。自分自身のキャリアも、それほど先は長くない。いつかはいなくなるときがくるわけですからね。でも、FC東京戦で久しぶりに先発出場して、試合に勝ったとき、まだ、自分にしかできないことがある、まだまだ、自分の仕事はあると感じられたんです。それくらいのパワー、エネルギーをあの試合からもらいました」

 また、こんな思いも聞かせてくれた。

「プレーヤーとしてのプライドじゃないですけど、このままでは終われないという思いはありますよね。2カ月間離脱しただけで、『このままでは』って言うのは大げさかもしれませんけど。大ケガをした選手に比べて、長期間離脱したわけではないし、言ったら2カ月のことなんですけど。それでも今まで自分が経験してこなかった未曾有の期間だった。この2カ月、リリースも出ないし、ニュースにもならないから、みんな『憲剛どうした?』ってなるわけじゃないですか。だから『憲剛、元気じゃん』って思わせたい。でも、それにはピッチに立たないと証明することはできない」

■連覇して…薄れかかっていた思い

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「今思えば、これまでのサッカー人生は、逆境を刺激に、糧に、突き進んできたところがあった。でも、J1で連覇して、もしかしたら、その刺激、思いが自分の中で薄れていたのかもしれない。連覇して、年齢も39になるし、若手に道をとか、そういうところまで考えたり、ある種、満足したところがあったのかもしれない。だから、サッカーの神様に、試練を与えられたというか。もう1回、ハングリーにやれよって。じゃなきゃ、お前からサッカー取り上げるぞって。ケガを繰り返していた期間は、本当に信じられないくらいに苦しかったし、それまでの自分からは考えられないような言葉を吐くくらいしんどかったですけど、あらためて自分にとってサッカーとは何か、心の底から考えさせられ、サッカーを楽しむことを思い出させてもらったんじゃないかなと、今は思っています」

 振り返れば、2017年に、中村にとっても、川崎Fにとっても、初めてのタイトルを獲るまで、彼はチームをけん引することばかりを考えていた。自分のためにプレーすることを抑え、組織のために生きようとしていた。だが、川崎FがJ1で優勝した2シーズン、周りの成長もあり、彼は自分自身がさらに成長する環境を与えられ、その成長を楽しむことに集中することができた。そして、それがタイトルという結果につながった。

「(FC東京戦は)あらためて自分がチームのために、自分のやりたいようにプレーしてなんぼだなって思えた試合でもあったんですよね。それはチームのために自分が走るという気持ちと、チームを勝たせるために、まず自分が勝たせるプレーをするという気持ち。その姿を待ってくれているサポーターも大勢いたと思いますし、何よりあの日は、家族も見に来てくれていましたから。長男と長女は帰って会ったとき、この2カ月で見せたことのない笑顔でとても喜んでくれました。それを見て子どもに気を遣わせてたんだなと……」

「最近、3歳になる一番下の子が、フロンターレのチャントを口ずさむようになったんです。それで『パパはサッカーがすごくうまいね』『パパはサッカーやれるんだね』って言ってくれるんですよね。3人の子どもたちからもらった言葉は、本当に響きましたよね。あとは、妻にも……。家族には本当に迷惑を掛けましたから」

 そう言った彼は少しだけ涙ぐみ、再び目線を上に向けた。

 中村憲剛にしかできないことがある。中村憲剛にしかやれないこともある。自分自身のために、一番近くで見守ってくれる家族のために、そして生きる活力を与えてくれる声援のために、走り続ければいい。

 チームとしての戦い方を取り戻したフロンターレの、楽しむことを思い出した中村の躍進は、ここから始まる。

取材・文=原田大輔

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