2019_5_28_milan2(C)Getty Images

ユーヴェvsミランの同国対決…忘れられないデル・ピエーロの言葉【我がCL決勝の思い出】

2018-19シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)決勝、トッテナムvsリヴァプール(6月1日/DAZN)の開催が迫っている。今シーズンのCLでは、準決勝の2試合を筆頭にドラマティックな試合が生まれている。おのずと同国対決の決勝にも好ゲームへの期待が高まる中、『Goal』ではジャーナリストや実況者などに、『自分史上最高のCL決勝』を綴ってもらった。

第2回の今回は、イタリアに在住しているジャーナリストの片野道郎氏。専門誌やWEB媒体などの寄稿のほか、新著『チャンピオンズリーグ・クロニクル』も好評のベテランジャーナリストが選んだのは、思い入れのあるイタリア勢同士の一戦、2002-03シーズンのユヴェントスvsミランだ。

■唯一のイタリア勢対決

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【2002-03シーズンCL決勝】

ユヴェントス 0-0(PK:2-3)ミラン

◆ユヴェントス先発
GK:ブッフォン
DF:テュラム、フェラーラ、トゥドール、モンテーロ
MF:カモラネージ、タッキナルディ、ダーヴィッツ、ザンブロッタ
FW:デル・ピエーロ、トレゼゲ

◆ミラン先発
GK:ジーダ
DF:コスタクルタ、ネスタ、マルディーニ、カラーゼ
MF:セードルフ、ピルロ、ガットゥーゾ、ルイ・コスタ
FW:シェフチェンコ、インザーギ

イタリアに拠点を置いてカルチョ、そして欧州サッカーの動向を追い、それを日本に伝えることを仕事にしてから、20年あまりが過ぎた。チャンピオンズリーグは、セリエAと並んで常に、筆者にとって最も重要な取材と研究の題材であり続けている。

中でも2002-03シーズンは、個人的に最も思い出深いシーズンのひとつだ。それは、四半世紀を超えるCLの歴史の中でたった一度、イタリア勢同士が決勝を戦ったことだけが理由ではない。いくつかの巡り合わせがあって、ファイナリストとなったミランとユヴェントスの戦いぶりを、かなり近い距離から見守ることができたからでもある。

当時ミランを率いていたカルロ・アンチェロッティとは、この前年から『ワールドサッカーダイジェスト』誌で連載企画をスタートしており、シーズンを通して節目節目に、重要な試合の準備や采配を振り返り掘り下げる対話の機会を持っていた。ユヴェントスのエースだったアレッサンドロ・デル・ピエーロにも、この年『Number』誌上で二度インタビューしている。しかも一度は、このミランとの決勝の翌々日だった。

単にスタジアムの記者席から試合を観戦し、会見やミックスゾーンでコメントを取るだけならば、記者証さえ持っていれば可能だ。しかし、当事者と差し向いで直接話をして、その裏側に何があったのかを聞き知る機会を持つのは、今では非常に難しくなってしまった。しかし当時はまだそのチャンスがあった。

■困難を極めた決勝までの道のり

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この2002-03シーズンは、前年に途中就任したアンチェロッティにとって実質的な1年目。オーナーのベルルスコーニ会長とその片腕ガッリアーニ副会長は、過去3シーズンほど過ごしてきた低迷期を脱するべく、リバウド、ルイ・コスタ、セードルフ、ピルロという4人のファンタジスタをチームに揃え(さらに前線にはシェフチェンコとインザーギがいた)、彼ら全員をピッチに送り出すよう監督に求めた。この難題を突きつけられたアンチェロッティが編みだしたのが「クリスマスツリー(Albero di Natale)」と呼ばれることになる4-3-2-1システムだ。

ピルロをレジスタにコンバートして中盤の底に置き、セードルフはインサイドハーフ、トップ下にルイ・コスタとリバウドを並べ、1トップにインザーギを起用(シェフチェンコは故障で前半戦を欠場)するという布陣、そして彼らの長所を活かすと同時に短所を隠す狙いを持ったポゼッション志向の強い攻撃的なスタイルは、「7-8人で守って2-3人で攻める」守備偏重のスタイルが主流だった当時のセリエAでは革新的だった。

1次リーグと2次リーグ、計12試合を戦う仕組みだったグループステージでは、いずれも最初の4試合で4勝して首位通過を決め、残り2試合を流すという圧倒的な強さを見せてベスト8に進出したミランだったが、そこからの歩みは険しいものだった。

準々決勝では、前線にイブラヒモヴィッチ、中盤にファン・デル・ファールト、最終ラインにキヴ、マクスウェルという後のビッグネームを擁していたアヤックス(優勝した1994-95シーズンと、ベスト4進出を果たした今シーズンを隔てる20数年間で最も強力なチームだった)に、セカンドレグの後半アディショナルタイムまでアウェーゴール差でリードを許す絶体絶命の展開となりながら、一か八かのロングボール放り込みからこぼれ球をねじ込むという幸運なゴールでどうにかベスト4進出。そして準決勝は今なお語り継がれるインテルとのCLミラノ・ダービーを0-0/1-1という究極の塩試合で制して、ファイナルの舞台となったマンチェスターへの切符を手に入れる。

一方のユヴェントスは、マルチェッロ・リッピ監督に率いられ、前線にトレゼゲ、デル・ピエーロを擁し、中盤にネドヴェド、コンテ、ダーヴィッツというハードワーカーを並べた剛直なチーム。こちらも、決勝までの歩みはまったく楽ではなかった。

準々決勝では、ファン・ハール率いるバルセロナと2試合とも1-1で決着がつかず、延長戦にもつれ込んでの辛勝。続く準決勝で、当時「銀河系軍団 Los Galacticos」と呼ばれ世界中から注目と称賛を集めていたレアル・マドリーと当たった時には、ユヴェントスもここまでかと誰もが思ったものだった。というよりも、ジダン、フィーゴ、ロナウド、ロベルト・カルロスを擁する世界最強のスター軍団レアル・マドリーと、イタリアらしからぬ華麗な攻撃サッカーでCLの舞台に新風を吹き込んだミランが決勝で雌雄を決するという展開を誰もが望んでいたと言った方がいいかもしれない。

サンチャゴ・ベルナベウでのファーストレグは、レアル・マドリーが2-1で順当な勝利を収めた。しかし、トリノのスタディオ・デッレ・アルピ(今は大改築されてユヴェントス・スタジアムになっている)に戻ってきてのセカンドレグは、予想外の展開になる。開始早々にトレゼゲ、前半終了間際にデル・ピエーロ、そして後半半ば過ぎにはネドヴェドがカシージャスの守るゴールを破って3-0。終了間際の89分にジダンが意地で一矢を報い、あと1ゴールで逆転(2試合合計4-4のアウェーゴール差)というところまで迫ったが、そこまでだった。そして、この試合でイエローカードを受けたチームの中心、ネドヴェドは累積警告で決勝への出場が叶わぬことになった。

■緊迫した試合展開

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こうして「シアター・オブ・ドリームズ」と名付けられたマンチェスターはオールド・トラッフォードでの決勝は、ミラン対ユヴェントスという史上初のイタリア同国対決となった。筆者は決勝トーナメント以降、両チームがイタリアで戦った試合はすべてスタジアムで観戦してきたが、決勝については英国での開催ということもあって取材の予定は立てていなかった。ところが、レアル・マドリーの決勝進出を当て込んだ『Number』誌がスペイン在住記者のために確保していた取材パスが宙に浮き、それが直前になって回ってくるという降って湧いたような幸運に恵まれて、急遽マンチェスターに向かったのだった。

中立地で行われ、しかも観客の大半がUEFAから招待を受けたスポンサーや関係者などの非サポーターで構成されるCL決勝のスタジアムは、ホーム&アウェーで戦われる準決勝までとは空気が全く異なっている。期待と不安がないまぜになって目が血走ったサポーターが醸し出す何とも言えない緊迫感がまったくなく、いい言い方をすれば祝祭的、悪い言い方をすれば情熱に欠けるふわっとした曖昧な空気に支配されるのだ。そのあたりは、1年前に日本で経験したワールドカップ決勝のそれとも似通っていた。唯一の救いは、ふたつのゴール裏だけは両チームのサポーターで埋め尽くされ、聞きなれたチャントがスタジアムを満たしていたことだ。

近年は必ずしもそうとは言えないが、CL決勝のように重要きわまりない一発勝負の決戦は、どちらのチームも勝つこと以上に負けないことを意識して、安全な距離を置いて睨み合いながら相手の出方を探り、ミスや偶然によって好機が生まれる瞬間を待ち続けるような展開になることが多い。この決勝はまさにその典型のような試合だった。そうでなくとも慎重で守備的なメンタリティを持ったイタリアのチーム同士が、これ以上ないほど重要なタイトルを賭けてぶつかり合っているのだから、これはもう仕方がない。

開始早々にミランのシェフチェンコのゴールが微妙なオフサイドの判定で取り消しになった後は、決定機らしい決定機すらほとんど生まれないまま中盤での潰し合いに終始するという良く言えば緊迫した、悪く言えば退屈な展開のまま0-0で延長に突入する。その延長戦の30分もまったく何も起きないまま終わり、PK戦に決着がもつれ込むと、記者席で隣に座っていたオランダ人記者が立ち上がり「こんな退屈でつまらない試合は初めてだ。これがCLの決勝だなんて許せない」と吐き捨て、席を蹴るようにしてプレスルームへと立ち去っていったのを見て、なぜか申し訳ない気持ちになったのを憶えている。

そのPK戦は、ユヴェントスが何と3人、ミランも2人が決め損ねるという、見ている方も胃が痛くなるような展開の末、これまでPKなど蹴ったことがなかったというミラン4人目のネスタが決め、続いてユーヴェ5人目のデル・ピエーロが冷静にネットを揺らして希望をつないだものの、最後にシェフチェンコがしっかりと決めて、ミランに勝利をもたらした。筆者は職業上、特定のチームのサポーターにはならず(3部リーグで戦う地元のクラブは別だが)、中立的な立場を守って是々非々で評価し判断することを心がけているが、この決勝に関しては、シーズンを通してアンチェロッティに話を聞きながらその戦いぶりを追ってきたこともあり、心情的にはややミランに肩入れしていた。しかしその一方では、その翌々日にほかでもないデル・ピエーロにインタビューすることが決まっていたこともあり、この結末に少し心が痛んだことも憶えている。

■デル・ピエーロの言葉

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2日後にトリノで会ったデル・ピエーロは、それまでに2度インタビューした時と比べて、ずっと穏やかで落ち着いているように見えた。でも今思えばそれは、敗北という結果の前に茫然自失としていただけに違いない。彼はインタビューの中で決勝をこう振り返っている。

「いま振り返ってみると、あそこでやったすべてのことが間違いだったようにも思えてくる。勝つために戦って勝てなかったわけだから。でも本当はそうじゃない。あの試合のために積み重ねたこと、あの試合の中でやったこと、すべては、その時にそれが一番いいと思ったからやったことだし、勝敗を分けたのは本当に小さな、紙一重の差だった。そう考えると間違いだったと考えることはできないし、してはいけない。勝者は100で敗者はゼロのように見えるけれど、本当はそうじゃない」

「もしぼくが決めたPKでユーヴェの勝利が決まっていれば、最後に蹴ったからという巡り合せだけで、主役として人々の記憶に残ったかもしれなかった。でも、現実にはシェフチェンコのPKがその座を担うことになった。いまはまだ記憶が生々しいし傷口も開いているけれど、もう少し時間が経ったところで冷静に振り返ってみれば、何が悪かったのか、より向上するためにはどうすればいいのかが、見えてくると思います。ぼくたちサッカー選手の人生は、そうやって続いていくんです」

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