この日が来ることは分かっていた。ジョゼ・モウリーニョは再三にわたり「マンチェスター・ユナイテッドはズラタン・イブラヒモビッチ復帰についてオープンである」と言い続けてきたからだ。そしてこのたび、ユナイテッドはこのスウェーデン人ストライカーと1年の新契約を結んだ。今更驚きはないだろう。
4月に行われたヨーロッパリーグ準決勝アンデルレヒト戦で、イブラヒモビッチは前十字靭帯損傷の大ケガを負った。この試合、チームは勝利したものの、その負傷の影響で残念ながらイブラヒモビッチとクラブの間にあった契約延長のオプションは消滅した。しかし彼はそこから信じられない回復をみせ、まだまだやれることを見せつけてきた。だがユナイテッドはプレミアリーグ開幕から2戦連続で4-0の快勝、さらに2大会ぶりに復帰したチャンピオンズリーグの組み合わせが発表されるなど、周囲が騒がしかったため復帰の発表までに少々時間を要してしまった。しかし先週、やっとイブラヒモビッチは、新たな背番号「10」として姿を見せ、復帰いや帰還を皆に知らせている。
35歳のベテランFWであるイブラヒモビッチは、2016-17シーズンはまさにトロフィー獲得の立役者であった。その快進撃の幕はケガという形で閉じられたものの、彼はリーグ戦やカップ戦を合わせると、計46試合に出場し28ゴールを挙げる活躍をしていた。コミュニティ・シールドのレスター・シティ戦では移籍直後にも関わらず決勝点を決め、イングランド・リーグカップ決勝ではサウサンプトン相手に2ゴールをマーク。そしてヨーロッパリーグでは11試合で5ゴールを挙げ、準決勝での負傷があり決勝の舞台に立つことは叶わなかったものの、チームを決勝へと導いたのだ。

確かに彼のチームへの貢献度を見ると、今回クラブが再契約を結んだことも納得ができる。ただ、双方やや早急であった感は否めない。なぜならユナイテッドは、この夏の市場で各ポジションの効果的な補強に成功しているからだ。今まさに新たなチーム作りが着実に進んでおり、今シーズンはより流動的かつ力強いプレーができるようになっている。現在、このチームが脅威であることは間違いなく、特に新エースのロメル・ルカクはこれまでのところ難なく得点を決めることができている。
このような状況を見ると、イブラヒモビッチが昨シーズンと同様の立ち位置に戻るのは難しそうだ。昨シーズン、イブラヒモビッチが負傷する4日前にリーグ戦でチェルシーと対戦しているが、イブラヒモビッチが出場しなかったこの試合で、チームは2-0で勝利している。つまりはイブラヒモビッチがいなくとも、リーグチャンピオン相手に最高の試合ができるということだ。試合の内容も、昨シーズンの他の試合では見られなかったような躍動が確認できた。
実際、彼が試合に出場すると、波状攻撃を試みようとする目論見が途絶え、マンチェスター・Uの攻撃はしばしば連続性を失ってしまう。彼のプレースタイルは、モウリーニョ率いるチームが目指すアプローチで不可欠というわけではない。例えばボールがサイドにあるとき、通常のストライカーであればタイミングを見て走り込むところだが、イブラヒモビッチはそうではない。しばしばエリア周辺を走っているのだ。彼はこのように普通のフォワードと違うやり方で得点を挙げるのだが、それは強みであると同時に弱みでもある。少なくともモウリーニョが理想とするプレースタイルにははまらない。
一方、ルカクは今のところモウリーニョとユナイテッドが理想とするアクションで、ゴールを挙げている。となると、イブラヒモビッチはこれまで以上にベンチを温める時間が増えるだろう。ここで確認しておきたいのは、彼は最重要選手という立場で再契約を結んだのではなく、あくまでもここ数か月でチームに追加で加わった新選手という立ち位置なのだ。もちろんイブラヒモビッチはそこに甘んじる選手ではない。しかし現実的に彼がルカク以上の活躍を、今現在見せられるとも思えない。そもそもこの契約は“イブラヒモビッチらしいもの”とは言えないのだ。
Getty彼はこの10月に36歳となる。そしてもう間もなくキャリアも終焉を迎えるだろう。そんな中、イブラヒモビッチは控えメンバーとしての地位を受け入れることができるのだろうか? 彼はキャリアのほとんどをチームの中心として過ごしてきた選手である。そんな選手がベンチからチームを見守るだなんて、選手として強い王者であるイブラヒモビッチのやり方ではないし、そんな姿を見続けることをファンたちも望んではいない。
赤い悪魔は今、イブラヒモビッチなしで勝てる能力を十分に有している。しかし調子を上げているルカクが全試合で求められるクオリティーを出し続けることはできないだろう。すると、そこでイブラヒモビッチに幾度かのチャンスが巡ってくる可能性はある。だが、この力強い性格の持ち主が2番手に甘んじることはこれまでなかったことで、こんな迫力に欠けるやり方で彼のキャリアがしぼんでいくのを見ていたくはない。もちろん、膝のケガを抱えてピッチを去る姿が彼のキャリアの結末にふさわしかったはずがない。だが、彼は今、新たな契約によって、サポート役という新たな役割、そして現実に直面しなければならないのだ。
長く頂点に君臨していたものの終わりは必ずしも綺麗なものではない。イブラヒモビッチに関して言えば、多くのゴールを決めることに、ファンもチームも、そして彼自身も慣れ過ぎてしまったのかもしれない。彼がピッチから去る青写真をどのように描いているかは知る由もないが、力強く堂々と“イブラヒモビッチらしく”去っていってもらいたいものだ。
文=クリス・ヴォークス/Kris Voakes


