Al Thani MalagaGetty Images

マラガを包む悪夢の正体…窒息寸前でも変わらぬファンの愛、そして岡崎慎司という希望

あれは2013年4月9日、時計は夜の11時を回っていた。マラガはチャンピオンズリーグ(CL)の準々決勝で、ボルシア・ドルトムントを相手に敗れ去った。ドイツのチームの決勝点は間違いなくオフサイドであり、私や多くのマラガサポーターにとってみれば、納得などしようもなかった。

あの夜、一人の“少年”がぼろぼろと涙をこぼしていた。その子はピッチに広がる光景と電光掲示板のスコアを見て、ただただ衝動的に泣いていたのだ。太陽の海岸と訳されるコスタ・デル・ソルに拠を構えるクラブにとって、あのドルトムントとの対戦が欧州最高峰の舞台での最後の試合になるとも知らずに。それからの5年間が、再びあの舞台に戻るための挑戦の日々ではなく、奈落へ落ちゆく日々になるとは知る由もなく――。

マラガの人々は2010年、カタールの王族アブドゥラ・アル=タニがクラブのオーナーとなったことで大きな夢を見た。そしてルート・ファン・ニステルローイ、サンティ・カソルラ、ホアキン・サンチェス、イスコらの獲得、CL出場及び同大会での躍進によって、その夢は確かに現実のものとなったのだった。だがしかし、アル=タニがいることによって、彼らはいつか目覚めるはずだと信じるしかない悪夢も見た。いや、その夢は今なお続いている。

■悪夢

Al Thani MalagaGetty Images

良い夢を見ていた頃から、悪い夢は徐々に差し込まれていった。アル=タニは話題を呼ぶ補強を敢行しながらも、その後のことには無責任で、給与や他クラブへの債務の支払いは遅れに遅れて、チャンピオンズで躍進を果たした翌シーズンにはUEFA主催の大会への参加を禁じられるに至った。何千キロも離れた場所からマラガを牛耳るアル=タニの怠惰としか言いようのない経営と、スポーツ部門の稚拙なチームづくりは、マラガに断末魔の叫びをあげさせた。

ここ数シーズン、マラガはベルント・シュスター、ハビ・グラシア、ミチェル、フアンデ・ラモス、ホセ・ゴンサレスら何人もの監督を招へいしてきたが、サム・カスティジェホ、フアンミ、パブロ・フォルナルスら下部組織の選手たちを活用して欧州カップ出場に近づいたハビ・グラシア以外は、誰もサポーターの信頼を勝ち取れなかった。チームはそのレベルを徐々に落としていくことになり、2018年4月、ついに2部降格の憂き目に遭っている。

アトレティコ・デ・マドリーのディエゴ・シメオネは先に「チームの成長にクラブが追いついた」と語ったが、マラガの場合は「クラブの衰退にチームが追いついた」と言えそうだ。その導き手は、アル=タニである。2010~2012年の間には1億200万ユーロも投じて名のある選手たちを獲得してきたカタールの王族だが、以降は金を投じることがなくなり、ここ3シーズンは不可解な振る舞いを繰り返している。金を投じないにもかかわらず、突飛な値段や条件で期待のできない選手を獲得したり、クラブの財政状況を顧みることなく選手を高値で売却するために適正な値段で手放すことを拒否したり……。マラガは彼がいることで、窒息寸前の状況にまでたどり着いてしまった。

アル=タニがそうした振る舞いを見せる理由は、誰にも分からない。どうにかして過去の投資分を回収しようとしているのか、またはホテルグループ、ブルーベイにクラブを明け渡すことを想定して、クラブにどんな財産も残さないようにしているのか(※マラガは2012−13シーズン終了後、1億ユーロ以上の債務を抱えたことで2部降格処分を受ける寸前となり、そのためにクラブの株式49%をブルーベイに売却。しかしアル=タニはその後、ブルーベイとの取引を無効として主張し、現在はブルーベイと経営権を巡って係争中)。いずれにしろマラガの人々は、アル=タニをもう信用していない。サポーターは今夏、彼のことを追い出そうと、盛んにデモ活動を行っている。

■財産

Malaga fans before Champions League clash against Porto

そう、マラガの財産はこのサポーターにほかならない。人は悪夢の中にいても、懸命に光を見ようともがくのだ。愛する存在を守ろうとあがくのだ。たとえ危機的状況にあっても、サポーターがマラガを見捨てることはない。むしろ、彼らはかつてないほどにチームを支えようとしている。毎シーズンにわたって2万人以上が年間シートを購入していることが、その証明となるだろう。年間シートの購入者数だけは、クラブ史の中でも最も輝かしい数字を記録し続けているのである。

そもそもマラガの信奉者マラギスタになることは、決して簡単ではない。スペイン首都とカタルーニャ以外の地域と同じく、このコスタ・デル・ソルの住民たちもその大半がレアル・マドリーとバルセロナを支持している。そこで、あえて地元のクラブ、マラガを愛するためには粘り強さが、決して消えない本物の愛が必要となる。たとえ2強のサポーターに獲得タイトル数を自慢されようとも、隣の芝生は青いものだと言い切り、水色と白のユニフォームに心を浸す気持ちの強さが。

だからこそ、たとえクラブがクソったれな困難に苛まれていても、マラギスタたちは応援を止めない。昨季、マラガは昇格プレーオフまで進出したものの、デポルティボに敗れて1部復帰を逃した。敗退直後の本拠地ラ・ロサレダは感動的だった。ピッチ上の選手たちは涙を抑え切れず、その一方でスタンドのマラギスタたちは彼らに声援を送り続けたのだった。その場面はスペイン中に感動を与え、彼らのことを同国最高のサポーターと今一度評する声さえあった。2013年にリーガから最高のサポーターと表彰を受けたときにように。

■希望

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この夏、マラガはレスター・シティでプレミアリーグ王者となった岡崎慎司を獲得した。岡崎のこの移籍の判断が正解であったかどうかは、私には分からない。加入したクラブの財政的な状況を考えれば失敗かもしれないし、しかしマラギスタたちの絶対的な後押しは彼の胸を熱くするのものかもしれない。とにかく、マラギスタたちは岡崎に大きな期待を抱いている。まるでファン・ニステルローイを獲得したときのような雰囲気が、ここにはある。

おそらく岡崎やこれから加入する選手たちは、混沌のクラブの中にあってリーガ2部の最初の数試合は出場できないだろう。マラガはリーガのサラリーキャップ制(選手年俸と移籍金の減価償却費からなるトップチームの予算は、クラブ全体の予算の70%まで)に引っかかっており、選手売却や契約解消によって予算をここから半分まで減らさなければならない。放出オペレーションのほとんどがアル=タニの承認待ちで止まっているために、とにかく両手を組んで事が上手く運ぶことを祈るしかない。

この混沌の中でも、私たちはマラガというチーム、また岡崎に希望を見ている。あのドルトムント戦の夜、泣いていた“少年”だってそうだ。いや、その“少年”はメタファーであり、マラギスタの純粋な感情の発現であり、そして数千キロ離れたあなた達に手紙をしたためている私自身のことでもある。「メモリア、コンプロミソ、イ・フェ(記憶、約束、そして信仰)」。これがマラガのスローガンだが、私たちは誰もが少年・少女のように、ただひたすらにマラガを信じているのだ。

文=フアンへ・フェルナンデス・ルエダ(Juanje Fernández Rueda)/スペイン『マルカ』マラガ番
翻訳・構成=江間慎一郎

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「※」は提携サイト『 Sporting News』の提供記事です

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