310098

ベン・メイブリーの英国談義:理不尽な移籍ウインドウ

「そこに行く前に、チェルシーがそうすることは望んでいない」とジョゼ・モウリーニョは、ミッドウィークのアストン・ヴィラ戦に勝利を収めた後で話していた。「そうする」とはもちろん、マンチェスター・ユナイテッドのウェイン・ルーニーに3度目の最終的なオファーを出すこと。「そこ」とは、月曜夜に絶妙なタイミングで開催される、ルーニーの現雇用主とのアウェーゲームのことだ。「クラブも経営陣も、全員が私に同意してくれている。彼らも同じ意見だ。倫理的な観点から言って、我々にとって今の時期は静かにしておく時期だと思う」

モウリーニョが巧妙だったのは、ルーニーの移籍話に注目するべきではないと主張することによって、ルーニーの移籍話にさらなる注目が集まるように仕向けた点だ。オールド・トラフォードでの出来事が、そこから移籍ウインドウが閉じるまでの7日間と2時間にどういった影響を与えることになるのかは何とも言えない。このコラムを書いている月曜午後の時点ではなおさらのことだ。
309892
おそらく皆さんがこれを読んでいる頃には、ロマン・アブラモビッチの腹心たちは、スタジアムのVIPルームに一生分のウォッカとキャビアを準備することを約束して、経験の浅いユナイテッドのエド・ウッドワード副会長を説き伏せていることだろう。腹を立てたサー・ボビー・チャールトンはそこに割って入り、1966年ワールドカップ準決勝のポルトガル戦で2点目を決めた時のような力強さで彼らを正面玄関から追い出しているだろう。ルーニー自身もついに沈黙を破り、ベンチから登場して鮮やかなオウンゴールでダビド・デ・ヘアを破った後、チェルシーファンのもとへ駆け寄り、エヴァートン在籍時に見せたことで知られる「Once a Blue, Always a Blue(一度青になれば永遠に青)」のシャツを披露していることだろう。

もちろん、すべて作り話でしかない。だが実際のところ、これこそが問題の核心だ。1年前のこのコラムで、この滑稽で喜劇的で四次元的ですらある抽象的なウインドウについて考察したことがあった。その期間の全体を通して、我々が好むと好まざるとにかかわらず、あらゆる話題を作り出し独占してしまうものだ。具体的な事実や進展がどうであれ、ルーニーのような話、あるいはベイルやスアレスやフェライニのような話がすべてを飲み込んでしまい、ピッチ上での出来事が忘れ去られてしまうほどだ。それもすべては需要と供給の原理に基づいたことなのかもしれない。面白くなければ話題になることもないだろう。だが今やその状況は、サッカーの競技自体への有害性が不安視されるまでになっている。

ウェスト・ブロムウィッチ・アルビオンとホームで引き分けた試合の前の木曜日に、今季から就任したエヴァートンのロベルト・マルティネス監督は、明らかに苛立ちを募らせた様子で話していた。現在はユナイテッドに移った前任者のデイビッド・モイーズから、マルアン・フェライニあるいはレイトン・ベインズ(またはその両方)に対して納得のいくオファーが届くかどうかを不安定な状況で待たねばならないことに対してのものだ。

「何度も言ってきたことだ。サッカー界の上層部は今の状況について考えてみるべき時だと思う。移籍ウインドウは収拾がつかなくなりつつあり、リーグの価値に本当に大きな影響を与えている。選手たちの人間的な側面に対して、きわめて不当な形で影響していると思う。移籍期間中に公式戦を行うことは、そろそろやめるべき時に来ている。移籍市場がどれだけの期間開いているべきかは私が議論することではないし、移籍ウインドウが必要であることは自分自身で誰よりもよく分かっている。だが公式戦を戦う時にウインドウが開いているべきではない」

うまくやっているクラブもあれば、そうでないクラブもある。過去にディミタール・ベルバトフやルカ・モドリッチを失い、代役を補強するには遅すぎた(12カ月前のジョアン・モウティーニョの獲得は期限に数分間に合わなかった)という苦い経験をしたことを生かして、やり手の交渉人であるトッテナム・ホットスパーのダニエル・レヴィ会長は、ガレス・ベイルの史上最高額の移籍金でのレアル・マドリー行きの交渉が開始される前から早くもその金を使い始めていた。だがリヴァプールの鼻先からウィリアンをかすめ取って満足していたかと思えば、ロシアの上層部で行われた取引の結果として、それをひっくり返されてしまう。ホワイト・ハート・レーンでのメディカルチェックを受けていたまさにその時に、元アンジ・マハチカラのMFはチェルシーへの移籍を選ぶよう説得されてしまった。一方でアーセン・ヴェンゲルは、水曜日のフェネルバフチェ戦に勝利を収めた後で「私にとっての移籍市場は今から始まる」と勝ち誇った様子で宣言し、さらなる失笑を買うことになった。他の誰もが3カ月前からだと考えていたが、そうではなかったようだ。

代理人たちの中には様々なタイプがいるが、良心的でない者の場合は、顧客である選手がどのクラブやどの国でプレーすることになろうがお構いなしということもある。彼らは間違いなく、その瀬戸際交渉から得られる恩恵を楽しんでいる。だが、リーグ開幕から第3節や時には第4節にまで及ぶような移籍ウインドウの駆け引きの結果として、プレシーズンの準備に悪影響が及ぼされることが認められているのは明らかに異常な状態だ。前のシーズンの終了以降の最大12週間、およびシーズン途中に特別に認められる最大4週間という2つの選手登録期間が設けられているが、FIFAのこのあいまいな規定によって、すべては各国協会の気まぐれに委ねられている。この規定はまったく問題の解決にはつながっていない。時期をずらすことが認められている結果として、たとえばロシアの夏期ウインドウは9月6日に終了することになっており、ここにもまた望ましくない事態が発生する可能性が生じている。

まったくの仮定の話だが、次のような例を考えてみよう。今週末にかけてエヴァートンが、クラブ財政が思わしくない状態に陥ったとして、不本意ながらもフェライニを売りに出すことを表明したとする。弱みに付け込んだマンチェスター・ユナイテッドとアーセナルが2000万ポンドを提示するが、ゼニト・サンクトペテルブルクはトフィーズに3000万ポンドを提示して両クラブを競争から弾き出してしまう。ロシアからのオファーは受け入れられ、月曜日にはイングランドの移籍期限が終了する。だが火曜日になってフェライニがメディカルチェックを受けると、ゼニトは不可解な「健康問題」のためオファーを取り下げざるを得なくなったと発表。だが1000万ポンドであれば再交渉の意志があるという。他に買ってくれるクラブもなく、当面の負債に追われるエヴァートンは、怒りを感じながらも受け入れる以外の選択肢はない。「浮いた」2000万ポンドはフェライニと彼の代理人、それにゼニトの関係者の間で落ち着いて分配されることになる。

8月と9月に発生する諸問題の、唯一の公正かつ論理的な解決策は、北半球の夏の7月1日から31日まで、および冬の1月1日から31日までという世界中で統一され固定された移籍ウインドウをFIFAが導入することだ。

メインの移籍期間を1カ月に短縮するのは短すぎると感じられるかもしれない。だが、実際上は何も問題にはならない。現在のFIFAの規定でもすでに述べられているように、移籍ウインドウは単なる「登録期間」でしかないからだ。各クラブは5月や6月であっても自由に仕事をすることができる。シーズンオフの早い段階で取引を成立させてもいいし、金を支払っても構わない。選手の登録が、その後7月に入ってから行われさえすればいいだけだ。Jリーグのクラブも、同様に12月中に移籍交渉を行うことができるだろう。2つの移籍期間の長さが等しいのであれば、2月や3月にリーグ戦が開幕する国にとっても、何も有利になることはないし不利になることもない。実際のところ、現状とほとんど何も変わることはないだろう。単に食い違いを排除し、実際にプレーが行われるシーズンと重ならないようにするというだけのことだ。

そうなれば誰もが気分を切り替えて、サッカーそのものに集中できるようになるだろう。


文/ベン・メイブリー(Ben Mabley)
英・オックスフォード卒、大阪在住の翻訳者・ライター。『The Blizzard』などサッカー関係のメディアに携わる。今季も毎週火曜日午後10時よりJスポーツ2『Foot!』にてプレミアリーグの試合の分析を行う。ツイッターアカウントは@BenMabley
広告

ENJOYED THIS STORY?

Add GOAL.com as a preferred source on Google to see more of our reporting

0