嵐のようだったダービーマッチが終わり、1時間が経とうとしていたとき、香川真司はミックスゾーンと呼ばれる、取材エリアに姿を見せた。声をかけると、歩み寄って来てこう話した。
「最終的に勝ち切れなかったのは悔しいし、受け入れ難い。こういうことを繰り返しちゃいけない」
ん? 文字にすると、さもガッカリしているかのようだが、少し違った。失望感を漂わせた顔のなかに、目は確かな自信を得たと語っていた。
この移籍後、4戦目で初先発の機会を得た香川はトップ下のMFとしてプレー。FKもCKもすべて任された。セルビア代表のMFアデム・リャイッチが累積警告のため出場停止だったから巡ってきたチャンスだ。活躍して、シェノル・ギュネシュ監督を満足させられたらレギュラー獲得へ一歩近づけるという、香川にとっては重要な一戦だった。
■躍動した前半
(C)AAはたして開始10分、右サイドから蹴り入れたFKで先制点の起点となり、上々のスタートを切った。ホームのベシクタシュは主導権を握ると、宿敵フェネルバフチェを攻め続ける。5カ月ぶりに公式戦で先発した香川は力が入り過ぎているのではないか、と思ったが、徐々に慣れてきたようで楽しそうだった。
「久しぶりの先発だったから不安も大きかった。ウォーミングアップのときから最初の15分間まで、久しぶりだなって感じて。なかなか慣れなかった」。そう話すと香川は笑みをこぼした。プレーすることの喜びが蘇ってきたのだろう。
VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)によって得たPKで追加点を決めて勢いに乗ると、前半終了間際に香川は奪ったボールをハーフウェイ手前からスルーパス。FWブラク・ユルマズのゴールをアシストした。
「得点に絡むと自信を得られる。もっともっとそういうプレーを増やしていきたい」。
前半を3-0で折り返し、勝利は確実だったと思われた。この調子なら、後半に香川自身もゴールを決め、衝撃だったデビュー戦に続く大きな印象を残すかもしれない。次戦以降も、背番号23はトップ下のMFとして先発する可能性がある、と見られた。
■12分で3失点、チームと共に失速
(C)Getty Images今季のスュペル・リグは少し特殊だ。首位を走るのは、新興クラブで初優勝を目指すイスタンブール・バシャクシェヒル。イスタンブール市が1990年に創設した公営チームである。3強のうち、長友佑都のガラタサライと、香川が加入したベシクタシュは首位争いをしているが、フェネルバフチェは下位に低迷。今季から会長が代わり、資金を投じて元オランダ代表のフィリップ・コクを監督に迎え、主力を大幅に入れ替えた。だが、これが失敗して、コク監督は就任4カ月で解任。この日、指揮したエルサン・ヤナル監督は昨年12月に就任したばかりだった。
だからダービーとはいえ、試合前からベシクタシュが大差で勝つ、というのが下馬評だった。試合前、この4万1903人収容の本拠地、ボーダフォンパーク周辺を歩いた。相当数の警官隊が警備する物々しい雰囲気のなか、あちらこちらで発煙筒や花火が上げられ、ベシクタシュのファンらが気勢を上げていた。近づくと、「カガワ~、カガワ~」と肩を抱かれ、次々と一緒に写真を撮ろうとファンに囲まれた。列が出来るほど。日本人なら、誰でもいいのだろう。それほど、香川への期待は高かった。
さて後半に入ると、わずか10分でフェネルバフチェが1点を返した。これで勢いに乗ると、攻勢に出た。「(フェネルバフチェは)いけるんじゃないか、と思ったんだと思う。逆に僕らは、あの1点で非常にナーバスになってしまった。失点しても、コントロールしなきゃいけなかった」。気圧されたベシクタシュは、前半のようにはボールが奪えなくなり、次々と失点。わずか12分間で3失点した。ダービーならではのドラマチックな展開。残りの時間は、チーム全体がフラフラになりながらも何とか3-3の引き分けに持ち込み、勝ち点1を確保した。
■指揮官からの批判
(C)Getty Images香川は久しく長い時間、プレーしていなかったからだろう。足が止まり、85分間で途中交代した。大きなインパクトは残せなかったが、2ゴールの起点になり、悪くない初先発だった。ファンも記者もチーム全体は勝てる試合を引き分けてしまい、断罪に値するが、香川の評価は「まずまず」だったはずだ。だから香川も、失望感のなかにわずかな自信を感じていたのだろう。
ところが、香川がミックスゾーンで試合を振り返っていたころ、別室の記者会見場でギュネシュ監督は香川を猛烈に批判した。「カガワは守備力が弱く、攻撃面でも足りなかった。とくに後半、彼は守備で役に立たなかった。もし今度、同じことをやったら、またベンチに引っ込める」。
厳格で怖いことで知られるギュネシュ監督だが、ここまで一選手を痛烈に批判するのは珍しい。加入したての助っ人の外国人選手に対し、「ここまで言うのか」と、記者会見場の地元記者たちはざわついたという。もっとも指揮官からすれば、明らかにまずかった後半の采配を記者たちから指摘され、これをかわす狙いがあったのかもしれない。
ただギュネシュ監督が指摘した点はまったく正しい。トルコ4戦目だろうが、久々の先発だろうが、「もっとやれ」ということなのだろう。香川もミックゾーンのあと、この指揮官の発言を聞き、気持ちを新たにしたに違いない。「俺はもっと求められているのか」と、モチベーションもさらに上がったはずだ。
いい兆候だ。いま香川は新天地で、いいファンに囲まれた、いい指揮官が率いるチームで、復調しつつある。
文=原田公樹(サッカージャーナリスト)
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