Hansi Flick & Hasan Salihamidžić - Bayern München 2020

ブンデス最悪の事件を現地から振り返る…ホッフェンハイムとバイエルンの一戦で何が起きていたのか?

分厚く空を多く灰色の雲の合間から射した日の光は、隙間からの照らし方をよく知っているようであった。太陽は憂鬱な2月のドイツを照らし出し、温度計は18℃を指した。2月にしては珍しいほどの温暖な気候で、例年では考えられない日差しだった。少なくとも気温の面では、ジンスハイムはミュンヘンからの来客を温かく歓迎していた。

その結果、競技面で試合前に掲げられた疑問はただ一つ、「世界最高のストライカー、ロベルト・レヴァンドフスキを欠いたバイエルンがどのように試合に臨むのか」だけであった。

バイエルンの熱狂的なサポーターたちは、レヴァンドフスキの負傷が発表されて以降、この問題についてよく話に花を咲かせてきた。だからこそ、18歳のジョシュア・ザークジーを送り出したハンジ・フリック監督の判断に、多くのサポーターは驚いただろう。

コレオグラフィーを準備していたサポーターもいれば、ちょっとの間だけならとこっそり発煙筒を焚いて楽しむ者もいた。最初に発煙筒が焚かれたとき、スタジアムアナウンサーのマイク・ディールは「リラックスしてお楽しみください、しかしその行為はご遠慮ください」と、控えめにアウェーサポーターに注意を促した。しかし、このときはまだキックオフの前。誰もがこの後の事態を想像することはできなかった。時間が経つに連れディールの声が落ち着きをなくし、スタジアムに何回もこだますることになるとは――。

■ザークジーがエースの穴を埋める

Joshua Zirkzee, Serge Gnabry, Bayern MunichGetty

例の事件が起こるまでは、正々堂々とした勝負であった。試合開始からすぐに、チャンピオンがレヴァンドフスキなしで試合に勝てるのか、という疑念は払拭された。開始2分、セルジュ・ニャブリが美しいゴールで先制したかと思えば、ヨシュア・キミッヒがその直後にペナルティエリア付近からグラウンダーのシュートを決め、アウェーでの勝利を確実にした。

ザークジーはさらに14分、ベテランのセバスティアン・ルディを華麗なターンでかわしてシュート。ブンデスリーガ4試合目にして早くも3ゴール目を記録した。その後フィリペ・コウチーニョも得点し、失っていた自信を取り戻すきっかけとする。ここ最近の状況に満足できず、フォームを見失っているようだったが、4-0となるゴールを決めた後、チームメイトは彼を大いに祝福した。

Coutinho BayernMatthias Hangst / Equipe

このパフォーマンスが最初の45分に訪れたことで、バイエルンのサポーターは諸手を挙げて喜び、逆にホッフェンハイムゴール裏のサポーターは失望した。ハーフタイム後に両チームがフィールドに戻り、クリスティアン・ディンガート主審が後半開始を告げる笛を吹くと、プレゼロ・アレーナ(ホッフェンハイムのホームスタジアム)の北東側がにわかに赤く輝き始めた。

スタジアムアナウンサーのディールが再度この行為について、火気の使用は許可されていないと注意。今回は、アウェーサポーターの行為に対する苛立ちが隠しきれていなかった。火気の禁止はブンデスリーガでは常識。両チームは試合再開までに6分間の中断を余儀なくされた。すると再開後のバイエルンは、完全に意気消沈した相手に対しすぐさま容赦のない攻撃を見せた。コウチーニョがまたも得点したのだ。

レオン・ゴレツカがトーマス・ミュラーと交代して入り、すぐに最高のプレーを見せてコレクティブな攻撃陣に溶け込んだ。そして、見事なループシュートで、GKオリヴァー・バウマンの頭上を抜いてみせた。1時間少々の間に6点も決めてみせたのだ。しかしその直後、ブンデスリーガの歴史に大きな傷を負わせる、おぞましい事件が起こったのだ。

発煙筒が小規模に焚かれ、アウェー席が少し明るくなった後、あの横断幕が掲示された。「約束」を守らなかったDFB(ドイツサッカー連盟)への疑念について、そしてSAP(ドイツのソフトウェア会社)の創始者であり、ホッフェンハイムへ出資する事実上のオーナーであるディートマー・ホップに向けた差別的な言葉が書かれていた。「娼婦の息子」を意味するその差別用語が掲げられたのは67分のことだった。

■事件の背景にあったのは…

***GER ONLY*** Hoffenheim Borussia Dortmund

この事件には背景がある。

以前、DFB(ドイツサッカー連盟)は今後ファンに対して制裁を課したくないと明言していた。それにもかかわらず、先日のドルトムントサポーターの行為に対して、連盟はドルトムントサポーター全体に対して2年間のホッフェンハイムが行う試合への入場禁止を宣告したのだ(“集団懲罰”とされ、すべてのサポーターに適用)。ドルトムントはクライヒガウ(ジンスハイムがある地方)でサポーターの後押しなしで試合をすることになってしまった。

この決定に不満を示したのはドルトムントサポーターだけではなかった。ウニオン・ベルリンサポーターがヴォルフスブルク戦でDFBに対して過激なバナーを掲げ、ケルンサポーターからも集団懲罰に反対する声が挙がっていた。そして、一部のバイエルンサポーターによる「娼婦の息子」というバナーも同様の抗議を意味していた。

Hansi Flick & Hasan Salihamidžić - Bayern München 2020

スタジアムアナウンサーのディールは震える声で、侮辱的な横断幕をすぐに片付けるようミュンヘンのファンに向かって警告した。フリック監督と選手の何人かも反応を見せた。カール=ハインツ・ルンメニゲ(バイエルンCEO)はスタンドにいるホップ氏の周りで手を挙げて抗議した。訳がわからないとばかりに頭を振った。選手たちの何人かは「6-0で勝っているのに、没収試合になるようなリスクを冒しているんだぞ」とその意思を伝えた。

なんとかその数分後、バイエルンのファンは横断幕の掲示をやめ、ディンガート主審は試合を再開。しかし、その直後に新たに侮辱的な横断幕が掲示される。ここで主審が動き、差別的行為が起こった場合にFIFAが策定した「3ステップ」のうちの第一ステップである「試合の中断」を行い、両チームをベンチに戻るよう指示したのだった。

ディールはもはや怒り心頭、マイクに向かって吠えるような調子であった。しかしその様子は、事態の深刻さを忘れさせないように演じているようでもあった。フリックとアシスタントコーチのヘルマン・ゲルラントはフィールド脇を走ってシーズン切ってのトラブルメーカーを呼び出し、SD(スポーツディレクター)のハサン・サリハミジッチ、ルンメニゲ、そしてオリバー・カーンも動き出し、首謀者たちに掲示をやめるよう説得するまでに至った。

中断は15分以上にも渡った。太陽が混沌としたジンスハイムから別れを告げ、夕闇が風景を覆い始めた。選手たちが残りの時間をプレーするために戻ってきたそのとき、これまでに見たこともないことが起こった。スタジアム下で待機している間に両チームが話し合い、ボールを互いに交換して残り時間を過ごすことに合意したようであった。

■“ホップのために”団結を

Dietmar Hopp Hoffenheim Bayern Munchen 2020Getty Images

ホップへの団結のため、そして、人権侵害への抗議のため。この行為に称賛が全方位から巻き起こった。このような行動は、過去に侮辱的な、もしくは性差別的な横断幕が掲げられたときによく巻き起こっていたものだった。

ボールの交換が終わると、マヌエル・ノイアーがアンドレイ・クラマリッチと話し込み、ザークジーはボールを軽く触り、リュカ・エルナンデスは身体を冷やさないように小走りし始めた。ホップはルンメニゲとフィールドの端で会話していた。そうして試合終了の笛が鳴ると、素晴らしい調和の光景が見られた。選手たちは腕を取り合って立ち、意図的にホッフェンハイムのファンの方向を向いた。バイエルンのファンは無視され、恥ずべき行為の罰を受ける結果となった。ホップはチャントを歌い、手をたたき、侮辱的な行為を投げかけられたホッフェンハイムのオーナーから自然な笑みがこぼれた。

だが、美談として終わらせることは断じてできない。ブンデスリーガにくだらない差別、ルンメニゲから言わせれば「(バイエルンの)醜い一面」があることを全世界に示すこととなってしまった。

実際その日、「事件」について話したいと思っている人は誰もいなかった。バイエルンからは、ルンメニゲだけが責任を持って話したが、選手たちはミックスゾーンには姿を見せなかった。ルンメニゲは一連の事件について恥じており、「暗黒の一日」とまで語っている。フリック監督は「申し訳なく思う」と謝罪の言葉を口にした。バイエルンには小さくないダメージを与える処罰がくだされるだろう。クラブはそれを覚悟すべきだ。

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「※」は提携サイト『 Sporting News 』の提供記事です
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