すでにバルセロナのファンには警告されていたことだ。5月末、ジョゼップ・マリア・バルトメウ会長はこう言ったのである。「ワクワクするような契約もあるだろうし、そうでない契約もあるだろう」。パウリーニョ獲得は後者にあたる。
バルセロナが、ブラジル代表のパウリーニョを4000万ユーロ(約52億円)で獲得したことは、不可解なことである。29歳のパウリーニョは、全盛期真っ只中、強いタックルとスタミナに秀でたミッドフィルダーだが、バルサのプレースタイルに合う選手とは思えない。それだけではなく、トッテナムで不遇をかこった後、中国に行ってキャリアをやり直さなければならなかった選手なのだ。
パウリーニョは、ガレス・ベイルが去った後のチームの立て直しのために、スパーズが獲得した選手の一人だったが、イングランドで活躍したとは言いがたい。カーディフ・シティとのアウェーの試合ではチームに素晴らしい勝利をもたらしたものの、故郷ブラジルへ届くような結果を出すことはなかった。広州恒大から1000万ポンド(約14億2000万円)の提示を受けて、パウリーニョを中国へ送りだすことになったトッテナムを、幸運だという者は誰もいなかった。
では、なぜバルセロナはパウリーニョを欲しがったのか? 公平を期すために言っておくと、パウリーニョは中国では活躍していた。中国スーパーリーグは決して大きなリーグではないが、スター選手のひとりとしての地位を確立していたといえる。元ブラジル代表監督のルイス・フェリペ・スコラーリのもと、SCコリンチャンス・パウリスタで輝きを放ち、2013年のコンフェデレーションズ・カップで活躍した、かつてのパウリーニョを取り戻していたのである。

先ごろ、ウルグアイ代表との試合でハットトリックを決めたことは、彼のような選手にとっても快挙であった。だが、それでも、バルサがパウリーニョに興味を持ったことは、大きな驚きであった。というのも、先月29歳になったパウリーニョが、バルサのミッドフィルダーとコンビネーションを築いていくための基本的な技術を持っているとは言いがたいからだ。
6月にバルサの監督が代わり、エルネスト・バルベルデ新監督が、チームをもっと攻撃的にしたいと願っているというのは事実だ。だとしても、バルセロナに必要なのは、かつてのシャビのような、中盤でチームを操ることのできる選手だというのは、万人が思うところである。だからこそバルサは今夏、移籍のトップターゲットとして、マルコ・ヴェッラッティを狙っていたのだ。
イタリア代表のヴェッラッティは、バルサ入団を希望していた。だが、パリ・サンジェルマンが放出を望まず、今のところ24歳のヴェッラッティに移籍のチャンスはない。だからと言って、バルサが代わりにパウリーニョを望んだ理由がわからないことに変わりはない。
当のシャビは、バルサの中盤における自身の後継者として、ヴェッラッティは正しい選択だと認めているが、同時に、OGCニースのジャン=ミシェル・セリのことも、スペインの元スターや現役のイタリア代表と同等の能力をもった選手だと称賛している。
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Gettyセリは26歳で、高く見積もっても4000万ユーロあれば移籍させることができる。だからこそ、その額をパウリーニョに使ったことが不思議に思えるのだ。
理論的には、ブラジル代表のパウリーニョは、アンドレス・イニエスタやセルヒオ・ブスケツをカバーする役回りができるだろう。だが、夏が始まる頃、バルサの移籍プランは明確だった。試合のリズムをコントロールできるミッドフィルダー、右サイドのウィング、右のサイドバックの獲得を狙っていたのである。加えて、今となっては、ネイマールがいなくなった後の、左サイドのフォワードも必要だ。
パウリーニョは、そうしたタイプのいずれでもない。彼との契約は、ここ数シーズンにおける、アレクサンドル・ソングやアンドレ・ゴメスの加入を思い出させる。2人とも、バルセロナにふさわしい選手とは思えなかった。加えて、結果を残すこともできなかった。
パウリーニョ獲得からは「バルサは大丈夫なのか」という疑念すらわいてしまう。たとえばレアル・マドリーと違って、バルサは、加入したいという選手と契約できないことになるからだ。ヴェッラッティもそうだが、アーセナルのエクトル・ベジェリンも加入させることができていない。
バルサは日曜の夜、スペインのスーパーカップ、スーペルコパ・デ・エスパーニャで、レアル・マドリーにホームで1-3と敗れ、今シーズンのスタートを切った。バルベルデ監督率いるバルサには、中盤だけでなく攻撃にもオプションが不足しているようだった。
それが改善できるかどうか、時間が経てばわかるだろう。だが、パウリーニョとの契約が、バルサをより強いチームにするとは、とても思えない。
文=ベン・ヘイワード/Ben Hayward


