ボルシア・ドルトムントのストライカー、ピエール・エメリク・オーバメヤンはブンデスリーガ得点王に輝き、多くのクラブとの接触がうわさされているものの、28歳とピーク年齢を過ぎつつあるストライカーに対して7000万ユーロ（約87億円）もの大金をはたいて獲得しようとするクラブは今のところ現れていない。
国を問わず、ビッグクラブがオーバメヤンの獲得を狙っている。プレミアリーグのアーセナル、リヴァプール、そしてマンチェスター・シティも注視を続けるクラブの一つだが、一方でプライオリティを他の選手に置いていることも見逃すことはできない。
シティはオーバメヤンに興味があるようだが、それは彼らがアーセナルのアレクシス・サンチェスを獲得できなかったときのプランBに過ぎず、またドルトムントでともに時を過ごしたユルゲン・クロップ率いるリヴァプールもメインのターゲットは別の選手のようだ。
サンテティエンヌに所属していた2012-13シーズン、ズラタン・イブラヒモビッチについでリーグ・アンの得点ランキング2位につけたオーバメヤンを、2013年夏にクロップは1300万ユーロ（約16億円）で獲得。クロップが率いていた当時のドルトムントでは、オーバメヤンはセンターフォワードのロベルト・レヴァンドフスキの横のワイドアタッカーとして起用されていた。
Gettyクロップの下、オーバメヤンは欧州トップリーグでも通用するという点で、評価を高めるパフォーマンスを見せたが、本当の意味で彼の才能が開花したのはクロップとレヴァンドフスキの二人がドルトムントを去ってからのことだった。ドルトムントでの最初のシーズンはリーグ、カップすべての大会を合わせてトータル16ゴールであったが、毎シーズンのように成長を続け、2016-17シーズンには、46試合で40ゴールという素晴らしい記録を残す。そのうちブンデスリーガでは31ゴールをマークし、レヴァンドフスキとの争いを制して得点王にも輝いた。彼の才能ともいえる得点能力の高さは、素晴らしいオフ・ザ・ボールの動きと奇妙とも言えるほどのスピードが伴うことで、さらに優れたものとなっている。彼は30メートルを3.7秒の速さで走るが、それはジャマイカ人の短距離走者、モーリス・グリーンの3.77秒、ウサイン・ボルトの3.78秒にも勝るほどのものである。そして彼は100メートルを10.3秒で走るといい、それは2015年の世界陸上100メートルに出場した選手のうち17名よりも優れたものである。
その爆発的なスピードは相手DFを混乱に陥れ、特にカウンターアタックでは彼の武器を発揮しやすい。スピーディーな展開が続くプレミアリーグにおいて間違いなく大きなインパクトを残すことだろう。同時に、彼の意志の強さや決断力もどこへ行っても通用するものである。
サンテティエンヌでプレーしていた時、彼はゴール前でのプレーにもがいていたのだが、今なお彼が感服している存在の、クリストフ・ガルティエール監督（当時）からの教えを受け、テクニックと決定力の向上に懸命に励んだのだった。
「彼の最も素晴らしいところは、謙虚なところだ」
「彼は謙虚で、人への敬意に満ち溢れている。そして、試合で良いプレーができなかった時には、トレーニングに持ち帰り、うまくできるようになるまで練習を繰り返すんだ」
ガルティエールはブンデスリーガ公式ホームページのインタビューでそう答えた。
昨シーズンのブンデスリーガ最終節、ブレーメン相手に２つのゴールを挙げ、かつてのチームメートであったレヴァンドフスキからブンデスリーガ得点王の座を奪って見せた。彼にとって初めての得点王というタイトルは改めてクオリティの高さを証明することになった。オーバメヤンはヨーロッパの舞台でも素晴らしい活躍を見せ、チャンピオンズリーグでは9試合で7ゴールを記録。レアル・マドリーを退けてグループリーグ首位での決勝トーナメント進出に大きく貢献している。
オーバメヤンの才能は、ライバルと言える選手たちからも非常に喝采を浴びている。アトレティコ・マドリーのアントワーヌ・グリエズマンはこのガボン代表ストライカーが世界最高のストライカーの一人であると信じ、彼の総合力の高さと成長スピードの速さを称賛している。
「彼は間違いなくワールドクラスのストライカーで、信じられないくらい安定感のある選手だ」
「この数カ月でも、彼は着実に発展しつづけている。彼を見ていると、彼がピッチで幸せそうにプレーしているんだなというのがよくわかるんだ」
グリエズマンはドイツ『レヴィアシュポルト』のインタビューでそう答えている。
リーグ・アンとブンデスリーガでクオリティの高さを証明し、オーバメヤンはキャリアのピークに達しようとしている。もしどこかでのプレミアリーグのクラブが彼に大金を払うことを決心すれば、それに見合った活躍を必ずすることだろう。世界最高のストライカーの一人であるオーバメヤンは、イングランドのトップクラブにおいてもセンセーショナルな活躍を見せる。確信を持ってそう言うことができるのは、彼の圧倒的なスピードという能力だけでなく、グリエズマンのお墨付きであることからも明らかだ。
文＝ロナン・マーフィー／Ronan Murphy