■コモリが招いたエドワーズ
AAリヴァプールにいたときの彼はすべてが正しかったわけではない。だが、ダミアン・コモリ元ディレクターが後に大きな影響を与えた決定がひとつある。
フランス生まれのコモリは2011年の夏、プレミアリーグにデータを提供する大手企業の『Prozone』で働いていた知人に電話をして、ある頼みごとをした。単刀直入に「誰か紹介してくれ」と言ったのである。
コモリは当時、リヴァプールのディレクターを務め、クラブのデータ分析部を改善し拡張したいと思っていた。データを収集して解析するだけでなく、監督や選手にデータの意味を伝え、話し合う能力のある人物を探していたのである。
彼自身の言葉で言うと、「サッカー経験とデータ分析の経験が両方ともある人物」を必要としていたのだ。
コモリの知人というのが誰かはわからないが、リヴァプールはその人物に一杯おごる必要があるだろう。その人物を介してやってきたのがマイケル・エドワーズだった。当時はあまり知られていないアナリストで、ハリー・レドナップが率いていたトッテナムで少人数のチームの一人として働いていた。
コモリはエドワーズに電話して会ってみると、すぐに気に入り、チームへ迎え入れることに。その後のことはご存知のとおりだ。
現在、エドワーズはリヴァプールで最も影響力のある人物の一人である。彼は隠れた才能の持ち主で、決断力と人脈と技術で、世界で最も偉大なサッカーチームのひとつを築く一翼を担った。あっという間に頭角を現したのである。
パフォーマンスと分析のリーダーとしてコモリのもとにやってくると、エドワーズは自分をヘッドハントした男をやすやすと超えた。テクニカル・パフォーマンスのディレクターとなり、その後テクニカル・ディレクターとなると、2016年11月には、リヴァプール史上初のスポーツディレクターに任命されたのである。
メルウッドではユルゲン・クロップのオフィスの隣に自身のデスクを置き、ドイツ人指揮官が2015年10月にマージーサイドへやって来て以来、2人は強力な関係を築きあげた。フェンウェイ・スポーツ・グループ(FSG)のマイク・ゴードン会長とともに、クラブの真の基盤となったのである。
クロップ監督は毎日この2人と話をし、関係性を作り、互いに信頼し合っている。ここ数年のリヴァプールのピッチでの大成功は、それによるものである。
■ロジャーズ時代は…
一方で、エドワーズとクロップの前任者であるブレンダン・ロジャーズの関係は、よく言って雑多なものだった。
2012年にリヴァプールの監督に就任したロジャーズは、ディレクターの下で働くという考えに逆らった。移籍についても自分でコントロールし、自分で選んだ選手を欲しがった。「オーナーと直接コミュニケーションをとる」ことを要求したのである。後にロジャーズはこのように語っている。
「私は今でも、監督がテクニカル・ディレクターであると思っている。監督になったら、そういう責任を負うべきだ」
ロジャーズ指揮下でのリヴァプールのスカウト活動は、よく言って平均的であり、ロジャーズとエドワーズとスカウトチームは、しばしば意見が異なっていた。
ロジャーズは、クラブがウィルフリード・ボニー、アシュリー・ウィリアムズ、ライアン・バートランドといった選手との獲得に失敗した(または拒否された)時、自分の判断が疑問視されたのだと感じた。一方、エドワーズとそのスタッフは、ロジャーズ監督ならエムレ・ジャン、ラザル・マルコヴィッチ、ロベルト・フィルミーノといった選手たちを集めることができたはずだと思っていたが、こうした選手たちはスカウト陣が推薦したもので、ロジャーズが受け入れることはなかった。
大きな分岐点となったのはフィルミーノ獲得だ。2015年にエドワーズの強い推薦にロジャーズが折れる形で、ホッフェンハイムから獲得。だが、4100万ユーロ(約57億円)とも伝えられた高額な移籍金にロジャーズは疑問を示していた。
情報筋が『Goal』に語ったところによると、ロジャーズとそのスタッフは、フィルミーノについてプレミアリーグで成功するにはスピードが足りないと思い、獲得はまったく考えていなかったという。結局、フィルミーノ獲得から4か月後、ロジャーズは解任されている。
■クロップとはリスペクトし合う関係
Gettyおよそ5年が過ぎ、どちらが正しかったのか、判明している。現在のフィルミーノは欠かすことのできない主力選手であり、リヴァプールにとって大当たりだったことが証明された。
フィルミーノ以外にも、サディオ・マネ、ジョルジニオ・ワイナルドゥム、モハメド・サラー、アンドリュー・ロバートソン、アレックス・オックスレイド=チェンバレン、ヴィルヒル・ファン・ダイク、アリソン・ベッカー、ファビーニョなどがそうであり、ナビ・ケイタや南野拓実もそうした選手であるといっていいだろう。
「彼の部署全体が、素晴らしい仕事をしている」
12月に新しい契約を交わした後、クロップ監督はそう語った。ドイツ人監督はしばしば、エドワーズのオフィスで選手について話し合っており、互いにリスペクトし合う関係だ。ぶつかったり、論争したりすることもあるが、2人の目的は同じである。
「すべてが多くの考えを積みあげた結果だ」とクロップ監督は話す。
「彼はとてもよく考える人物で、いつだって、会話の最初から意見を同じにしなければならない必要はまったくない。充分にたくさんの話をして、最後には同じ意見にたどりつくんだ。まったく同じではなくても、同じような意見にね」
エドワーズはいつも控えめだ。たとえば、クラブの公式サイトに彼のコメントは載っていないし、インタビューを申しこんでも常に固辞される。だが、彼の仕事は雄弁だ。
スカウト陣のトップであるデイブ・ファローズとチームスカウトのバリー・ハンター、ケンブリッジ大学卒のイアン・グレアム、そしてエドワーズ。4人の男の探索チームはクロップ監督が欲する選手を獲得する責任を負っている。それは、スピード、技術、向上心、マルチな才能があり、リヴァプールの友好的だが競争は激しいトップチームの環境に馴染む能力のある選手だ。
これまでのところは大成功と言えるだろう。サラーはマージーサイドで得点する力があると確信させたのは彼らであり、指揮官いわく「耳にタコができるほど言われ続けた」という。結果として、サラーはここまで144試合で91得点を記録し、エドワーズが正しかったことを証明した。また、ロバートソンの粗削りの才能は、洗練されたトップクラスの左サイドで磨かれていくだろうと保証したのも彼らなのだ。
監督がチームの屋台骨にベテラン選手が欲しいと言った際には、エドワーズたちは、ファン・ダイク、アリソン、ファビーニョに、リヴァプールに彼らのための場所があると保証した。
■移り変わる補強戦略
「選手を射んとする者はまず代理人を射よ」とはサッカー界の格言だが、レッズはここ数年、他のプレミアリーグのクラブよりも代理人に対して多くの資金を使っている。このことはポリシーが大きく変わったことを示している。
ファン・ダイクとアリソンはそのポジションでは当時最高額での移籍であり、ケイタ、ファビーニョ、マネ、サラー、オックスレイド=チェンバレンは、みな3000万ポンド(約40億円)を超える金額がかかっている。才能は安くは買えないのだ。
だが、このように多額のカネを使っても、このクラブは同じく高く選手を売りに出す能力もあり、それで相殺することができている。
クリスティアン・ベンテケ、ジョーダン・アイブ、ママドゥ・サコ、ジョー・アレン、ダニー・ウォード、ケビン・スチュワート、ドミニク・ソランケ、ライアン・ケント、ラファエル・カマーショ、ダニー・イングスを放出したことで大事な資金を得ることができ、2018年にフィリペ・コウチーニョを手放したことで得た金額を効果的に使って、ファン・ダイクとアリソンを獲得したのだ。
Gettyエドワーズとそのチームは移籍市場を研究し、レンタル移籍を賢く活用している。ハリー・ウィルソン(→ボーンマス)、マルコ・グルイッチ(→ヘルタ・ベルリン)、セイ・オジョ(→レンジャーズ)といった選手たちも、そう遠くない将来、トップチームで定位置を獲得しているに違いない。
さらに、クロップ監督やアカデミーのディレクターであるアレックス・イングルソープとも対話を重ね、移籍市場で選手を探すか内部から昇格させるかの判断ができるようにしている。「チーム構想」が彼らの成功のキーポイントだ。
たとえば、2017年にナサニエル・クラインがケガで長期離脱となったが、他のクラブなら別の右サイドバックを移籍で獲得しようとしただろう。だが、リヴァプールは、トレント・アレクサンダー=アーノルドの成長を信じ、他の部門に資金を費やすことを選択した。
同じようなことがカーティス・ジョーンズにも言える。攻撃的MFとして高く評価されているジョーンズは、トップチームでアダム・ララーナの代わりになることが期待されており、ストライカーのリアン・ブリュースターはスウォンジーでの長いレンタル移籍で成果を挙げつつある。一方、才能あるネコ・ウィリアムズがアレクサンダー=アーノルドの代わりとなることができれば、クラブは数百万ポンドを使わずに済むだろう。
これらすべてのことが健全なチーム像として積み重なっている。ピッチの中でも外でも、リヴァプールは大股で進歩してきた。
そしてクロップ監督を名目上の長として、エドワーズが舞台裏で活躍し、さらなる成功を確実にたぐりよせることだろう。
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