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コラム:アニェッリ家はユーヴェを救えるか

2日、ユヴェントスは、敵地で行われたセリエA第36節のカターニア戦を1-1のドローで終えた。4位サンプドリアがリヴォルノに勝利を収めたため、シーズン最後の目標だった来シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)出場権を逃すことが決定した。

残り3節で勝ち点6差を逆転することは誰の目にも難しく、その覚悟はできていた。だからだろうか、実際に目標を達成する可能性が無くなった今、ショックはそれほど大きくない。それどころか、クラブからの発表により、今後への新たな希望が生まれたように感じている。29日に明らかになったクラブのトップの交代。ジャン=クロード・ブラン会長に代わって、正式にはシーズン後からアンドレア・アニェッリ氏が新会長に就任する。

今シーズンのユーヴェの話題は、ほぼネガティブなものだった。シーズン開幕前の補強で、近年では最も大きな期待を持って臨んだシーズンのはずだった。しかし、その結果は…。チームは最後まで期待を裏切った。2月にヨーロッパリーグから敗退した後は、CL出場権獲得が唯一の目標になった。積もり積もったファンの不満は、選手だけでなく、フロントにも向けられた。ファンがチームバスを襲うなど、ピッチ外での問題も続出した。

このような結果になってしまった原因はどこにあるのか。負傷者が続出したことが大きな理由になったことは間違いない。同じメンバーで2、3試合続けて戦うことができず、最も負傷者が多かった時期は起用する選手の選択肢がほとんどない状況だった。新戦力が期待された活躍を見せられなかったことにも一因はあるだろう。しかしより根深い問題は、クラブの内部にあったのではないか。

08-09シーズン終了後、ユーヴェがブレーメンからMFジエゴの獲得を発表したとき、新シーズン、チームを率いる監督は決まっていなかった。現場を完全に無視したフロント主導の補強。しかしそのフロントには、過去に他クラブで経験を積んだ人間も、実績を残してきた人間もいなかった。ピッチ外の分野、新スタジアムの建設や収益面では結果を出した。しかし権力を与えられた素人たちがつくり上げた机上の理論で成功するはずだったチーム。それが今シーズンのユーヴェだったのではないだろうか。

29日に行われた記者会見で、アニェッリ新会長は就任の喜びとともに、復権への意気込みを語った。同氏はその場で、ファミリーが団結していること、ブラン代表取締役はクラブに残り、今後はより力を発揮できる分野での仕事を任せると明らかにした。結果の重要性を理解するファミリーからやって来る新会長は、最大限の情熱を持って復権へ導くことを誓い、組織の強化を約束した。サンプドリアでも実績十分のマロッタ氏をスポーツディレクターに、リヴァプールのラファエル・ベニテス監督を新監督に迎えると取りざたされている。アニェッリ新会長は、クラブ内の改革から着手してくれているようだ。

1923年にエドアルド・アニェッリ氏がクラブを買い取ったことから始まったユヴェントスとアニェッリ家の関係。低迷していたクラブに2度目のリーグ優勝をもたらし、クラブ最初の黄金期に導いたエドアルド氏は、1935年に突然の事故で命を落としてしまったが、その後もアニェッリ家とユーヴェの関係は変わらなかった。むしろエドアルド氏の息子であり、「アッヴォカート(弁護士)」の愛称で呼ばれたジャンニ・アニェッリ氏がその後を引き継いでから関係はより強固になる。アッヴォカートに惜しみない愛情を注がれたユヴェントスは、ミッシェル・プラティニら稀代のカンピオーネを擁し、数々のタイトルを手に入れる。ユーヴェの勝利の歴史は、アニェッリ家がクラブを買い取ってから始まったものなのだ。

ユヴェントスがこれほどまでに苦しみ、厳しい形で終えるシーズンは正直、記憶にない。それでも、アニェッリ家のトップが戻ってきた事実、そして新しいトップのクラブに対する想いが、新たな期待を与えてくれた。アンドレア・アニェッリ新会長に導かれる新シーズンのユーヴェは、かつての誇り高き姿を取り戻すことができるだろうか。絶望の淵にいる今、ユーヴェを救い出すことができるのは、かつてクラブに勝利をもたらしたファミリーだけなのかもしれない。

文/中嶋信介

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