岡崎慎司はイングランドで愛されている。フットボールの母国のファンたちは、極東からやってきた日本人ストライカーに対する拍手を惜しまない。
必ずしも得点を決めるわけではない。直接的にチームの勝敗にかかわらないこともたくさんある。時には成果を挙げられない状況に不満を持つ者もいるだろう。しかし、それでも目の肥えた本場のファンたちは岡崎がレスター・シティに貢献していることを知っている。
「私はチームのためにハードワークをするシンジが大好きなんだ。ファンタスティックだね」
そう語るのはチームを束ねるクラウディオ・ラニエリ監督だ。岡崎が今シーズン、初めてリーグ戦で得点を決めたクリスタル・パレス戦後、指揮官は「ゴールより嬉しいこと」として献身性をほめたたえている。
なぜ岡崎はイングランドのファンや関係者の心をつかんでいるのか? 「そうであってほしい」と願う日本人の妄想なのだろうか?
「そんなことはない」と話すのは現地で記者を務めるトム・マストン氏だ。
「オカザキは移籍してきてから、ハードワークをいとわないストライカーとしてイングランドのファンから評価されている。得点という目に見える結果を残していないにもかかわらず、ね。彼は昨シーズン、レスターの快進撃を支えた“影の立役者”として認知されているんだ」
ラニエリ監督に率いられた小さなキツネたちは2016年5月、プレミアリーグ優勝というおとぎ話のような物語を完結させた。岡崎はジェイミー・バーディーやリヤド・マフレズ、あるいはヌゴロ・カンテほどスポットライトを当てられたわけではなかったが、よくできた物語に欠かすことのできない名脇役として人々から称賛された。
だからこそ、マトソン氏は「フォクセス(レスターの愛称)が序盤戦でうまく波に乗れなかった要因がオカザキのスタメン落ちにあると、多くの人は考えている。彼はレスターの戦い方に合った、必要な選手なんだ」と分析する。
しかしなぜ、ゴールの数が最大の評価基準であるストライカーというポジションにあって、これほどまでに岡崎が必要とされているのか? 同氏はその理由について、イングランドの歴史が関係していると語る。
「どうしてここまで現地のファンたちがオカザキのような熱心なハードワーカーを好むか考えてみると、彼のような選手が1世代前の……派手な点取り屋より激しいタックルを見せる選手やエネルギーに満ち溢れてピッチを駆け回るフォワードが好まれた時代を回想させるからだと思う。英国のファンはイングリッシュフットボール特有の、フィジカルとメンタルの両方に渡る激しさにプライドを持っているんだ。その激しさに適応できる外国人選手は、早くからファンに好まれる傾向にあるよ」
要するに岡崎は外国人プレーヤーでありながら、イングランドのファンたちに“懐かしさ”を提供しているわけだ。プレミアリーグは国際化に伴い、テクニックが優れた選手や狡猾さを持つプレーヤーが数多く流入してきている。監督の国際化も進み、世界各国のスタイルを取り入れるようになっている。
彼らのことを悪く言うつもりは断じてない。むしろ様々なタイプの監督や選手がいるからこそ、試合の質が上がり、ファン層が拡大し、世界で最も魅力的なリーグとなっている。それは紛れもない事実だ。
しかし、それでも“自分たちのフットボール”に誇りを持つイングランドのファンたちは、今も古き良きキック&ラッシュを愛し、フィジカルと気合を全面に押し出すスタイルを好んでいる。その愛すべきキック&ラッシュ時代を彷彿とさせるプレーを、岡崎は体現しているわけだ。
11月22日に行われたチャンピオンズリーグのクラブ・ブルージュ戦で日本人ストライカーはゴールを決めた。チームを初の決勝トーナメント進出に導くゴールだった。
「これから新たな歴史を作っていきたい」
試合後、そう力強く語ったシンジ・オカザキは、その献身性とキャラクター(そして願わくばゴールで)これからもファンの心をつかんでいくに違いない。
文=松岡宗一郎


