England RashfordGetty/Goal

なぜイングランドの育成は成功したのか?改革者の信念「一貫した道筋を示すこと」

イングランドは今、着実にハイレベルな若手プレーヤーを輩出している。U-17及びU-20カテゴリーの世界選手権大会に見る成功が、何よりの証拠だ。国内でのユース育成を標準化して改善するというイングランド流のやり方が実を結んでいる。

遡ること1997年、FA(イングランドサッカー協会)の初代テクニカル・ディレクターに就任したハワード・ウィルキンソンは、イングランドで「オックスフォード大学やケンブリッジ大学レベルのフットボール教育」を掲げた。一貫性のある計画と適切なコーチの存在によって、今や国内の若手プレーヤーの将来は約束されている。

ギャレス・サウスゲート監督率いる代表チームは、来るEURO2020予選に向けてユース出身の新しい選手により、戦力強化を進めている。昨年夏のロシア・ワールドカップ、イングランドは平均年齢にして3番目に若いチームで戦い、ベスト4入り。この18カ月を見ても21歳以下の若手選手9人が代表チームに召集されている。

その中の1人は、『Goal』が選出する2019 NxGN(ネクストジェネレーション)の覇者ジェイドン・サンチョ。彼はマンチェスター・シティの育成チームからブンデスリーガのボルシア・ドルトムントのトップチーム入りを果たし、目覚ましい活躍を見せている。

サンチョは、デレ・アリ、マーカス・ラッシュフォード、トレント・アレクサンダー=アーノルドといった若手スター選手と並び、プレミアリーグやチャンピオンズリーグ(CL)ではクラブのレギュラーとして最前線での活躍が期待されるばかりでなく、今後10年間は代表チームの顔として定着するであろう。

■「選手に対して一貫した道筋を示すこと」

「FAに就任したとき、ユースの育成は劇的に改善できる。そんなビジョンを持っていた」ウィルキンソンは、その任務について語っている。

ウィルキンソンはリーズ・ユナイテッドで監督として成功した。未だに、トップリーグのタイトルを獲得した最後のイギリス人監督である。また、ギャリー・スピード、デビッド・バッティ、ハリー・キューウェルを輩出した名門リーズ・アカデミーの設立にも不可欠な存在であり、今日でも質の高い若手選手を世に送り出している。

「リーズに加わったとき、クラブは既に18人のスクール生と契約していたんだ。そのうちプロになったのは1人だけ。私の最後の年には、7人と契約して全員がプロになったよ」と彼は語る。

「5人がリーズに加入して、2001年のCL準決勝に出場するまでになったんだ」

Howard Wilkinson England squad Alan Shearer David Beckham Rio Ferdinand

リーズでの経験をもとに、ウィルキンソンとFAに集結した専門家チームは考えた。ユースから代表選手を育てるにはどうすればよいか。

「国としてユース育成に力を入れる必要があった。良い選手が集まれば、彼ら全員がイギリス人でなくても、その中のイギリス人が代表チームで活躍するようになる」。彼は説く。

「私一人の力ではない。たくさんの素晴らしい人材の功績だ」

「私も含め、ロビン・ラッセル、レス・リード、ジョン・マクダーモット……ヨーロッパで一番とは言わないが、イギリスでは最も優れた若手育成者たちだ。非常に優秀なチームと一緒に仕事をすることができたよ」

ウィルキンソンは、イングランドの新しい選手たちと若いタレントの育成に関わる全ての人たちにそのアイデアを共有することを望んだ。「代表チームでプレーする選手は、国際的なキャリアパスを手に入れることができる。そしてクラブでもそのキャリアを生かして活躍することができる」と。

「私が望んでいたこと、そして私たちが創造したこと。それは選手に対して一貫した道筋を示すことだった」

「15歳の時点でイングランドのベストプレーヤーを集めた。彼らには2つの道を並行して進んでほしかった。よく言ったよ。『君たちには2つのキャリアパスがある。クラブでプレーするプロのフットボール選手としての道。それから国際的なフットボール選手としてのキャリア。その二つは繋がっている。どちらか一方がうまくいけば、もう1つも必ずついてくるんだ』とね」

St George's Park, National Football CentreGetty Images

その鍵となるのは、代表チームの全ての年代を通して同じ考え方を貫き、コーチング及びプレーに対してクリアな方針でアプローチすること。そして全てのレベルにおいてそれを実践していくことであった。

「もちろん個々の違いはある。イングランドの育成組織での日数、クラブでプレーする日数、どれだけ時間を費やせるのか」

「大切なのは、15歳で選ばれたときから学び始めることだ。18歳の時のチームと21歳の時のチームで年代によって監督が変わり、やり方も変わってしまう。そんな以前のやり方ではだめなんだ」

「もちろんコーチにも個性がある。でも皆“イングランドのやり方”を実践しなければならない」

■象徴としてのセント・ジョーンズ・パーク

A flag flies at England's St George's Park training base
ウィルキンソンが提案したことの1つに、国立フットボールセンターの建設計画がある。そこを教育と学習の中枢とする構想だ。セント・ジョージズ・パークは、予定を大幅に遅れて2012年にケンブリッジ公ウィリアム王子夫妻によって開設され、2013年にオープンした。

「総合的な戦略の中で、何か象徴となる中心が必要だった」と彼は言う。「ホームが欲しかったんだ。イギリスフットボール界のオックスフォードとケンブリッジにしたかったし、計画全体にとって不可欠だった」

「セント・ジョージズ・パークの敷地に目をつけた。2002年にピッチを作り始めたところだった。突然、私は退任することになり、2003年には計画はとん挫してしまった。セント・ジョージズ・パークの話は中断され、新しくウェンブリー・スタジアムの建設が始まると、そのコストは膨れ上がった」

「2008年になって、ようやくセント・ジョージズ・パークとそれに関係する議題が再び取り上げられ、かろうじて協議会で可決したんだ。2013年にやっとオープンすることができた。本当は2002年か2003年にはオープンするはずだったのに…」

「果たしてセント・ジョージズ・パークを建設できるのか、その話の行く末はウェンブリー・スタジアムを新設する必要性に取って代わられた。そのコストは3倍にも跳ね上がる。本当に高い代償を払ったよ」

フランスがユース育成において卓越していることは古くから知られている。その中心にあるクレールフォンティーヌ国立サッカー養成所は、まさにその象徴だ。イングランドも自国のシンボルを手に入れた。13コートとワールドクラスの設備を持つセント・ジョージズ・パーク。そこは、男子、女子、少年、少女のイングランド28チームの本拠地である。

1997年に計画が立てられていなかったら、セント・ジョージズ・パークは今頃全く別の建物になっていたであろう。根底に計画があったからこそ、有効活用が実現された。

「セント・ジョージズ・パークは中心として、象徴として重要だった」彼は続ける。「ホームと呼べる場所がなければ、組織云々は成り立たない」

「そして象徴である以上に大切なのは計画性だ。もっとも重要なのは“計画”があって、それが正しく実行されているか確認することだ」

UEFAプロライセンス・コーチングバッジの創立とグラスルーツレベルのクラブを表彰するFAチャーター・スタンダード・アワーズの設立は、過去20年間に及ぶイングランドフットボール界の功績であり、現在の代表チームのパフォーマンスにより実証されている。

「私がFAに持ち込んだのは大量の提案だった。そして彼らはそれを受け入れてくれたんだ」

「つまりフットボールアカデミーだ。グラスルーツクラブにFAチャーター・スタンダードと英国規格を導入した。FA指導者協会を設立して、プロライセンスを発行した」

「そして何よりも男子代表チームと女子代表チーム発展のための戦略を提案した。これが重要だった。ホープ・パウエルを女子サッカーのイングランド代表初代フルタイムコーチに任命したんだ」

「つまり総合的な計画なくして達成はできなかったよ」

「私の経験から言うと、良い先生がいないと良い学校にはならない。良いリーダーと代表者も必要だ。今は良い先生に恵まれている。まずは基本が大事だ。その子が学校に行って成長するためには、学習の道筋はできる限り良いものでなければならないし、目的に対して適切なものである必要がある」

「イングランドの選手たちに関して言えば、学習の道筋は一貫しているし、団結力もある」

St George's Park, National Football CentreGetty Images

■最高峰の育成からイングランドの復権へ

プロジェクト復活のキーマンとして、ウィルキンソン氏は、2012年FAエリート育成ディレクターに任命され多くの称賛を得た「England DNA’ programme」の著者の一人であるダン・アッシュワース氏の名を挙げている。

「ありがたいことに、ダンはバトンを受け継いでくれたよ。セント・ジョージズ・パークの話が延期になったとき、計画は完全に忘れられた訳ではないが、全くもってスローダウンしてしまった」

「2008年再出発する話が出たときも、FA協議会は乗り気ではなかった。圧倒的に指示されたという感じでもなかった。幸運にも軌道に戻ることができたよ」

ユースのフットボールでは勝つことだけが目標ではない。ウィルキンソンは、試してきた方法が結果を出している証拠としてトロフィーを掲げることに満足している。

昨年夏のロシアW杯、代表チームは28年ぶりに準決勝に進出した。このこともまた、イングランドが正しい道を歩んでいることの証として選手たちに自信を与えたであろう。

「現時点でU-17からU-21の世代は世界ランキングトップだ」彼は言う。これはベスト・ティーンエイジャー選手の世界ランキング、『Goal』が選出するNxGNのトップ4のうち3人がイングランドから選出されていることからも明らかだ。

「トロフィーは大切だよ。自分のやっていることに太鼓判を押してくれる。U-21以下で世界ランキングNo.1という事実は、今やっていることへの揺るぎない証だ。大切なことだよ」

「ギャレス・サウスゲートがモスクワでやってのけたことは偉大だよ。本来いるべき場所への復帰を意味する。イングランドの育成組織にいる選手達は、我々がそこに立ったこと、見たこと、やり遂げたことを知っている」

「今やっていること、その方法が正しいことを証明している。常に多くの壁を乗り越えているんだ」

Gareth Southgate, Jadon Sancho, England, St George's Park, National Football CentreGetty Images

最近のドイツクラブの国際大会での苦戦は、どんなに周到に練られた計画でも傾くかもしれないことを示している。だからこそFAは、将来起こり得る不調に対しても準備をしてゆかなければならない。

「グラスルーツからプロレベルまで、コーチ教育の質と量は最優先だ」ウィルキンソンは語る。

「改善の余地はあるか? 何事も常に改善可能さ。どんな組織の中でも良いリーダシップがあれば、自己満足に甘んじることはない。常に自問を繰り返す。もっと他に何かできるはずだと」

だからこそ、サウスゲートはチームをまとめ、期が熟した時に新たな才能を開花させる理想的な指導者だとウィルキンソンは考える。

「ギャレスはU-21の面倒を見てきた。彼らと慣れ親しみ、そして今はイングランド代表を率いている。彼は学習プログラムが何であるか、どのようにしてコンスタントに研究され発展していくのか、何でも教えることができる」

プレミアリーグの急騰は、若い才能豊かなフットボール選手にとってはクラブのトップチームで出場するチャンスが減っていくことを意味する。しかし、ホッフェンハイム所属のリース・ネルソンやライプツィヒ所属のエミル・スミス・ロウをはじめ、サンチョのように海外でプレーしてさらに進化をめざす選手にとって、これはポジティブなことだとウィルキンソンは考える。

「90年代の後半からちょうど2000年を過ぎた頃まで、イングランドはフランス人選手にとって仕上げのためのスクールになっていた。18歳までフランスのスクールでトレーニングを受け、その後イングランドのクラブが彼らと契約してここへ連れて来ていた。彼らはここのリーグで根性を試していたんだ」

「今は立場が逆転した。その認識を変えたんだ。実際、イングランドでフットボールを学び、ブンデスリーガでプレーする子達が増えている。ブンデスリーガは強いリーグだ」

直近のU-20W杯、U-17W杯で優勝し、A代表もW杯でベスト4入り。サンチョを始め、ラッシュフォードやアレクサンダー=アーノルドなど、世界の舞台で中心となりつつある選手を続々と輩出――。イングランドのユース育成が、今や世界で最も優れていることの証ではないだろうか。

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