柴崎岳(ヘタフェ)
前半戦結果:リーガ開幕節から4試合連続でスタメン出場を果たし、バルセロナ戦ではゴラッソを記録。その後は負傷離脱
チーム内序列:準レギュラー
前半戦採点:55点
後半戦の目標:再びレギュラーの座を勝ち取り、チームの中心となること。
文=江間慎一郎
ダミアン・クロスのアーリークロスをペナルティーエリア内のマルケル・ベルガラが頭で後方に落とし、落下地点に詰めた柴崎岳は左足を一閃。強烈なスピードをまとったボールは、テア・シュテーゲンが飛びながら上げた右手のさらに上を行き、言葉通り枠内に突き刺さった。9月16日に行われたリーガエスパニョーラ第4節、本拠地コリセウム・アルフォンソ・ペレスでのバルセロナ戦で決めたこの正真正銘のゴラッソこそ、柴崎の今季前半戦最大のハイライト。ただし、数少ないハイライトの一つでもあった。
背番号10を与えられるなど鳴り物入りでヘタフェに加わり、目標だったリーガ1部での冒険をスタートさせた柴崎。ホセ・ボルダラス監督は第4節までは柴崎を先発出場させるなど、彼をチームの軸に据えようとしていた。だがしかし、あのバルセロナ戦は天国でもあり、地獄でもあった。その試合で左足中足骨の亀裂骨折を負った柴崎は、それから約3カ月の戦線離脱を強いられることに。ようやく復帰を果たしたのは第15節エイバル戦だったが、それからここまで途中出場が続いている。
柴崎離脱中、ヘタフェはリーガで10試合に臨んだが、その間の成績は3勝4分け3敗で、バルセロナ戦直後は14位だった順位を8位まで上げた。残留争いを強いられる運命にある昇格組としては、上々の結果だ。ボルダラスはリーガ最初の4節までは柴崎を4−2−3−1のトップ下として起用し、柴崎負傷後にはアンヘルとホルヘ・モリーナを2トップに置く4−4−2にシステムを変更。現状は、この形が機能している。
焦点は、ボルダラスが柴崎をどのように扱っていく方針なのか、だ。エイバル戦では2人目の交代選手として柴崎をピッチに立たせたが、次のジローナ戦、その次のラス・パルマス戦では1枚目の交代カードとして60分台に出場させている。その意図は、再びレギュラーに戻すために少しずつ試合のリズムに適応させているのか、それとも単にファーストチョイスではないためにそうした起用法となっているのか。
スペインでは「Lo que funciona no se toca(機能しているものには触れない)」という言葉もあり、ボルダラスがそれを踏襲している可能性はある。結果を出している選手を控えにしてしまえば、チームの輪が乱れる危険性もあるからだ。ボルダラスがチーム内ヒエラルキーを生み出さぬように細心の注意を払っているのは、会見で特定の選手について意見を求められた際に「彼もそうだが、ピッチに立った選手全員が素晴らしかった」と決まって語ることからもうかがえる。
しかしながら柴崎が、ヘタフェの中でも特異かつ貴重な選手であることは間違いない。ヘタフェのスポーツデイレクターを務めるラモン・プラネスは、柴崎獲得の理由について次のように語っていた。
「もちろん、彼は非常に優れたテクニックの持ち主だが、それが私の心を突き動かした最大の動機ではない。ガクの最たる長所は、試合の流れを読めるところにある。ほかの選手では見つけられない相手チームの穴に、決定的なパスを通せるんだ。彼の緩急をつけられるプレーは、初めて見たときから目を引くものだった」
プラネスが言うように広い視野を持つ柴崎は、縦に速い攻撃を主なパターンとするヘタフェにアクセントを付けられる存在だ。ピッチ上では誰よりも首を振って自身とチームメートの位置関係を確認し、ボールを受けた際に自ら持ち上がるか、タメをつくるか、それともスペースを突く味方選手にスルーパスを送るかを瞬時に判断している。プレーを実行する上でのスピード、またテクニックもチーム随一であり、献身的な守備も目を見張るものがある(ここまでのわずか、プレスバックから幾度もボールを奪取している)。
ボルダラスが柴崎をどのように起用していくかは、現時点では不透明だ(6日のリーガ第18節、強豪アトレティコ・マドリー戦の先発メンバーがある程度の指標にはなりそうだが)。いずれにしても柴崎がすべきは、その実力をピッチ上で遺憾なく示し続けることにほかならない。先のバルセロナ戦、もっと言えば2得点を決めた2016年クラブ・ワールドカップ決勝レアル・マドリー戦から、その名はスペインでも知られるようになった。スペイン2強のどちらからもゴールを奪った史上初の日本人選手は現在、リーガ1部という舞台で、コンスタントに活躍していくことが期待されている。


