念願のアジア制覇だ! 埼玉スタジアム2002に57,727人の入場者を集めたAFCチャンピオンズリーグ決勝。最高だった会場の雰囲気、最後まで途切れなかった集中力。すべての関係者に感謝、感謝。関わる人間の総力が結集した勝利だ。

振り返れば今年のACLで浦和は奇跡的な展開で勝ち進んできた。ラウンド16では済州ユナイテッド(韓国)にアウェイで0-2と敗れながら、ホームで延長戦の末に3-0と大逆転勝利。準々決勝の川崎フロンターレ戦もアウェイで1-3の敗戦を喫し、ホームで先制点を献上しながら4-1で逆転勝利を収めた。上海上港(中国)との準決勝はアウェイで1-1のドローに持ち込み、ホームでラファエル・シルバがCKからのヘディングで勝利。7月末のミハイロ・ペトロヴィッチ監督解任を受けて、新たに堀孝史監督が就任してからは戦い方、システム、選手交代がより積極的になっている。
ちなみに堀監督は、私が浦和でコーチ、監督を務めていた頃のチームメイトだ。東芝から浦和に加入し、ボレーシュートやヘディングを武器にした得点力のある攻撃的MFだった。プレーにこだわりはある一方で、周りにも気を使えるタイプでもある。浦和はシーズン途中からACL制覇に焦点を合わせて戦ってきた。堀監督にはプレッシャーもあっただろうが、決勝のピッチでは堂々として見えた。ペトロヴィッチ前監督が築いてきた土台の上に、堀監督の思い切りの良さが加わったチームに変貌していた。
一番驚いたのは、上海上港とアウェイで対戦した準決勝第1戦だ。それまで浦和に加入してスタメンで出場機会のなかった長澤和輝をスタメンに抜擢。ブラジル代表のオスカルとマッチアップしながら堂々とプレーし、そこから一気に日本代表にまで上り詰めた。
西川周作も復活した。前線からの激しい守備と高くなった最終ラインのおかげで、彼らしい積極的なセービングや守備範囲の広さが戻ってきた。

遠藤航は右サイドバックに入ったことで持ち前の運動量、攻守に渡るアグレッシブさを見せるようになり、ヘディングの強さも効いていた。
阿部勇樹はこれまで培ってきた経験を生かし、その存在でチームを落ち着かせていた。センターバックでも全く問題なくプレーしており、守備のユーティリティプレーヤーとして君臨。ケガにも強く、まさに“鉄人”というべき存在だった。

槙野智章の成長も見逃せない。ペトロヴィッチ監督と離れて彼自身も思うところはあったはずだが、それがさらに成長させたのではないかと思う。今や日本代表でもセンターバックのポジションを奪おうとしている。彼の研ぎ澄まされた集中力は上海上港の元ブラジル代表FWフッキをマークして覚醒した。

マウリシオは途中加入ながら高さと落ち着いたフィードが武器にいぶし銀の活躍を見せた。彼の加入で遠藤をサイドバックに起用できたことも大きかった。
青木拓矢はケガで戦線を離れた時期もあったが、阿部が最終ラインに入ったことで中盤を任されるようになり、今まで以上にダイナミックなプレーをしていた。上海上港とのアウェイゲームで柏木陽介のゴールにつながる興梠慎三へのパスは本当に素晴らしかった。
長澤は堀監督に代わって浦和でのポジションを奪っただけでなく代表にも選ばれた。専修大、ケルン(ドイツ)、ジェフユナイテッド千葉と確実に成長している。攻撃センスだけでなく、守備もできるし、闘えるし、しっかりと走れる。今日の試合でもアウェイゲームの修正がしっかりできていた
柏木は槙野と同じくペトロヴィッチ監督と別れて期するものがあるはず。上海上港でのアウェイゴールが印象に残る。フッキに先制を許した直後の彼のゴールは浦和を勇気づけた。

武藤雄樹は運動量が際立った。攻守両面での貢献度は本当に高く、個人的には“影のMVP”ではないかと考えている。

興梠は1トップとしての役割が非常に重要だった。孤立する場面も多かったが、得意のポストプレーやスペースに流れる動き、味方を使うプレーなど質の高いプレーを見せてくれた。日本代表に招集されたのも当然の結果だ。この試合でもFKをヘディングで決めていたらMVPだったはずだ。守備面での貢献度の高さも見逃せない。

ラファエル・シルバは何と言ってもこの日唯一の得点に尽きる。すべての関係者の思いを込めて、関係者全員の気持ちを乗せて気持ちで持っていったシュートは、みんなの記憶に残るゴールになった。その他にもリヤドでのアウェイゴールや上海上港戦でのヘディングなど、彼のACLでの活躍はリーグ戦での存在感を遥かに上回っていた。フッキやオスカルのブラジル代表勢にも負けていないと思う。昨年までアルビレックス新潟でプレーし、今シーズンから浦和に移籍してACL制覇の立役者になった。本人が一番驚いているのかもしれない。

堀監督を支える天野賢一コーチは、私がFC東京で監督をしていた時代のアカデミーコーチで、よくトップチームの練習も見に来ていた。池田伸康コーチは堀監督と同じく自分が浦和監督時の選手。山道守彦強化本部長、北野大助強化部長は三菱自動車時代からの仲間だ。クラブスタッフも浦和で一緒に働いてきた方々が多い。
すべての浦和関係者、ファン・サポーターの皆さんのサポートには、感謝以外の言葉が見つかりません。
浦和レッズ、FIFAクラブワールドカップも頼むぞ! 今年もまた日本の代表としてレアル・マドリーとの対戦が見たい。

その前にまず、自宅でささやかな祝杯をあげよう。
文=原博実




