2017-11-16

【原博実の超現場日記/第21回】「舞台が整っていた」V・ファーレン長崎、スタジアムが一体となってつかんだJ1昇格

14時キックオフの試合でアビスパ福岡が松本山雅FCと引き分け、そして名古屋グランパスがジェフユナイテッド千葉に破れた。

福岡での視察を終えて、博多駅から特急かもめに乗りながら、V・ファーレン長崎にJ1昇格の舞台が整い始めてきたと感じていた。そのかもめ号は4分遅れで諫早駅に到着。駅に着くやいなや足早に改札に向かう姿に、思わずこちらもつられて走ってしまった。改札を出て早足になる理由が分かった。タクシー乗り場はすでに乗車待ちの方々で長蛇の列に。現役時代はFWだったが、動き出しに課題を残してしまった。

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ようやくタクシーに乗り込み、トランスコスモススタジアム長崎に到着したのは、キックオフから5分が経過した頃だった。スタジアムは満員、ものすごい熱気を感じる。

早く試合を見なくては……と思って観客席に向かう。長崎の実行委員を務める高田明さんと息子さんの高田旭人さんは立ちながら声援を送っていた。関係者席も立錐の余地がない。一緒に立って観戦することを決意した。

ようやく試合に集中できる。長崎はプレッシャーでガチガチになっていないかが心配だったが、見たところでは高木監督やピッチ上の選手たちは落ち着いている。これなら大丈夫だ。選手たちはみんなよく動けている。

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それが証拠に先制点を奪ったのは長崎だった。27分、乾大知が先制点。

その後は危ないシーンもあったが、ゴール裏サポーターの応援でスタジアムが一つになってディフェンスをしているかのように感じた。

後半も長崎のペースだが、ファンマのシュートが惜しくもポストに嫌われるなど、なかなか追加点が奪えない。そうこうしているうちに62分、カマタマーレ讃岐が同点ゴールを決める。

隣にいた明さんが「入っちゃいましたね~」と落ち着いた口調で話しかけてくる。こちらが思わず「まだ30分ありますよ」とフォローしてしまった。すると73分、長崎に待望の勝ち越しゴールが決まる。

まさに全員で奪い取った得点だった。得点者の前田凌佑は、長崎がJ2参入と同時に28歳でプロになった苦労人。プロ入り前は九州リーグのホンダロックに在籍し、会社員として働きながらプレーしていた。前田にとっては今シーズン初ゴール。これで長崎の勢いは止まらなくなった。

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そして82分、長崎が試合を決定づける3点目をマークする。

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スタジアムのボルテージは最高潮に達しつつあった。そして試合終了。長崎がホーム最終戦で初のJ1昇格を決定した。

試合終了後のセレモニーでは、高田明社長、高木監督、村上佑介キャプテンがあいさつ。それぞれに感謝の思いがこもっている素晴らしいスピーチだった。

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その後、長崎市内に出て、クラブ立ち上げからずっと関わってきた長崎県サッカー協会の皆さんと祝杯を上げる。皆さん本当にうれしそうだ。それぞれの携帯電話に昇格を祝う連絡がひっきりなしに届いている。

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気がついたら時計はとうに24時を回っている。日付が変わった11月12日は高木監督の50歳の誕生日。ちょっとできすぎだけど、「やっぱり舞台は整っていたんだな」と実感する。

翌日、朝早くの長崎空港で昇格記念の写真が一面に大きく掲載された長崎新聞を購入。なんと終面から5面を使って大々的に昇格を報じている。紙面で長崎の今シーズン全試合を改めて確認した。8月27日に行われた明治安田生命J2第30節の京都サンガF.C.戦から負けなしの9勝3分け。実に12戦無敗で昇格決定まで走り抜けた。

8月27日の暑い夜、京都に勝利して高田さんとトンカツを食べた。長崎はその直前にいくつかの星を落としていたが、まさにあの夜からの快進撃だった。

そういえば、珍しく金曜日に高木監督からメールが来ていたことを思い出す。

「明日長崎来ますか?」

「行くよ!」

やっぱり長崎まで来て良かった。

そして思った。「やっぱりこうなるように導かれていたんだ」と。

文=原 博実

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