「じゃんけんでも負けたくない」…磐田・名波浩監督が静岡ダービーに闘志を燃やす理由とは/インタビュー

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「俺の中で静岡ダービーは特別。順位は関係ない」。ジュビロ磐田・名波浩監督が熱く、そして深いダービーへの想いを明かしてくれた。

現役時代にジュビロ磐田の黄金期を築き上げたサックスブルーの指揮官は、静岡ダービーに対して並々ならぬ思いを持つ。清水エスパルスとの意地のぶつかり合いを「日韓戦」と称したこともある。宿敵へのライバル意識はもちろんだが、そこには生まれ育った静岡サッカー界への思いもある。名門・ジュビロ磐田、そしてサッカー王国静岡の復活を目指す名波浩監督が、10月14日の静岡ダービーを前にその思いを語った。

――名波監督の静岡ダービーへのこだわりは人一倍強いです。ダービーをそこまで意識している理由は。

名波 ジュビロはチーム母体(前身のヤマハ発動機サッカー部)があったにも関わらず、エスパルスよりも1シーズン遅くJリーグに参入したから。その時のゴンちゃん(中山雅史/現アスルクラロ沼津)が悔しがっている姿を映像で見ていたし、翌年はJFL(ジャパンフットボールリーグ)2位で昇格した背景もある。今で言えば、J2からJ1に上がったということなんだけど、そういった苦しいところを見たことも影響している。その後、お互いが切磋琢磨していく中で、1999年には磐田が1stステージ、清水が2ndステージで優勝して、年間王者を懸けて戦うチャンピオンシップが実現した。“サッカー王国・静岡”というイメージが定着する中で、高校サッカーや少年団だけではなく、「どのカテゴリーでも静岡は強いんだ」ということを見せてきた時代があった。その後は“やるか、やられるか”というダービーは減っているかもしれないけど、静岡の人たちには、今もダービーへの強い思いがあるはず。コンビニのおばちゃんとかにも「今週はダービーだね」って言われるくらいだからね。

――ダービーへの思い入れが強くなったきっかけは。

名波 やっぱりジュビロに入ったから。藤枝市で生まれ育って、清水に越境入学したバックボーンもある。母校の清水商業高(現清水桜が丘高)はもちろん、清水東高や東海第一高の諸先輩方の勇姿をJSL(日本サッカーリーグ)やJリーグ、代表チームでたくさん見てきた。その人たちが両雄に分かれて戦う試合がダービーだったから、その試合のピッチに立ったらものすごく気持ちいいだろうなとは思っていたところはある。

――ダービーを迎えるにあたって闘志に火が付く瞬間は。

名波 やっぱりスタジアムに入って感じる温度はいつもと違う。ダービーと呼ばれる試合はいろいろあるけど、俺の中で静岡ダービーは特別。順位は関係ない。今回、清水サポーターの中には「J1残留が優先。ダービーは二の次」と思う人がいるかもしれないけど、俺が逆の立場なら残留争いは関係ない。極論だけど、もし2勝32敗で終わるシーズンがあって、その2勝した相手がエスパルスだったとする。30年後に「あのシーズン2勝32敗だったぜ」と言うのと「あのシーズンはエスパルスに2勝したよな。でも、32敗したぞ」という見方があった時に、サポーターの間でどう語り継がれるかと言えば、後者の「エスパルスに2勝した」という前文が入るほう。ダービーとはそういうものだと思う。順位に関係なく、絶対に負けてはいけない。

――静岡ダービーは数々の名勝負を生んできました。名波さんはどんなモチベーションで試合に臨んでいたのでしょうか。

名波 現役時代はノボリさん(澤登正朗/現常葉大浜松サッカー部監督)やテル(伊東輝悦/現アスルクラロ沼津)とか、同じポジションの代表クラスの選手に負けたくない気持ちが非常に強かった。ダービーに勝つことでチームの浮き沈みもあった。勝って勢い付いた年もあったし、負けてチャンピオンを逃したシーズンもある。リーグ戦の中でダービーを迎えるタイミングが、不思議と重要な時期にあたることが多かった。勝率は高かった(編集部注:現役時代、磐田在籍時のリーグ戦対戦成績は16勝3分け7敗)けど、勝って当たり前と思ったことは一度もない。ギリギリの中で延長Vゴール勝ちしたり、最後の最後にゴール前で守り切って勝ったりしたことがほとんど。個人的にはむしろ負けゲームの方が印象に残っているくらいだからね。エコパスタジアムのこけら落とし(2001年5月、清水が1-0で勝利)はスタンドから見ていたけど、かなり印象深い。イタリアから戻ってきた2000年に日本平でアレックスにPKを決められて0-1で負けた試合も忘れられない。5連勝すれば2ndステージ優勝という状況で、3つ勝って4試合目で負けた。結局は4勝1敗で3位(優勝した鹿島アントラーズとの勝ち点差は3)に終わるけど、あそこで勝っていれば優勝だった。実はダービーで点を取ったがことないから、喜んだシーンはあまりない。だからエスパルスサポーターは、俺に悪い印象はないと思うんだよな。悪いことはしていないし(笑)

――対戦がなかった昨シーズンまでの3年間でチーム編成が変わり、静岡ダービーを経験した選手が少なくなりました。監督の立場として、ダービーの意義を今の選手に伝えていく使命感をどう感じているんでしょうか。

名波 練習試合だろうと、じゃんけんであろうと、ダービーは負けてはいけないし、そういう気構えを持っていないと「ここで勝ったら優勝だ」という試合がダービーだった時に必ず痛い目に遭う。どんな指導者が監督になっても、社長が誰であったとしても、もっと言えばクラブの母体が変わったとしても、ダービーが存在する以上はその気持ちを伝統的に植え付けていかなければいけない。今後、外部から人が入ってくるかもしれないけれど、このクラブに関わる以上はダービーの意義を伝えていかないといけない義務がある。今度のダービーはケガ人も含めて全員で日本平に行く。全員で清水に勝つ。それは静岡のクラブに所属していて、ダービーができる特権だから。ミラノやトリノとか、世界にはいろいろなダービーがあるけど、ここまで特別なダービーはなかなかない。だからこそダービーを大事にしてほしい。ここで生まれ育ったなら特に。かつてのような熱い静岡ダービーを取り戻したいという気持ちはある。

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――静岡ダービーではどんな戦いを求めていますか?

名波 静岡ダービーからスターが生まれてくる流れが一番いい。年代で言ったら、エスパルスは松原(后)や白崎(凌兵)とか。ジュビロで言ったら(川辺)駿とかかな。過去には2001年9月の対戦で前田遼一(現FC東京)がドリブルを仕掛けて(大榎)克己さんの股を抜いて、最後はGKとの一対一をはがしてJ1初ゴールを決めた。そういうプレーは絶対に記憶に残るから。

――4月のエスパルス戦の勝利は今シーズンの好調の要因となる試合だったのではないかと思います。

名波 俺にとっては特別なゲームだったしね。監督になって初めてのダービーで勝てたし、シーズン当初でチームづくりが正しい方向に進んでいるかどうかを確認したい時期。そんな中、あのダービーでいろんな選手が持ち味を出せて、森下俊がJ1初ゴールを決めた。4万人ものサポーターが来てくれて雰囲気も良かった。終わった後は我々への見方が「今年はやりそうな雰囲気があるね」というものに変わったと思う。「自信が確信になった」と言ったら大げさかもしれないけど、それくらいターニングポイントのゲームだったと思う。

――今回の試合、展開予想は?

名波 いくら相手を押し込んでも、攻め込む比率が7:3にはならないと思う。清水もサポーターに押されて出てくると思うし、守りを固めて2、3人で攻めるサッカーでは我慢できないはず。おそらく五分五分の展開になると思う。その中でも意図的に自分たちの陣地に引き込ませて、そこから我々のストロングポイントを出す回数を増やしていきたい。

――これまで「ACLや賞金圏という話は、残り5試合での勝ち点差を見るまでしない」と言ってきました。清水戦が終わると、その節目を迎えることになります。

名波 そういった意味でも、ここでの勝ち点3はものすごく大きい。まずは勝ち点50(試合前時点で47)を突破したい。当初は最終節で50に届くか届かないかというイメージだったから、こんなに早く突破する可能性があるとは思っていなかった。勝ち点50を皮切りに、目標設定が具体化されるのではないかと思う。

――少し話が変わりますが、試合中にベンチ前でペットボトルから水を吹き出してスタンドに向かって掛けるような仕草をしていることがありますよね。

名波 サポーターは気付いていないかもしれないけど、声を出してほしい時にペットボトルから水を出してスタンドをあおっているんだよね。俺が試合中にやっていたら「もっと声を盛り上げて後押ししてくれ!」というメッセージだと認識してもらえれば。

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――最後に改めて今回のダービーに懸ける意気込みを。

名波 今シーズンはリーグ戦、ルヴァンカップで勝利しているので、今回はアウェイでも3ポイントを取りにいき、シーズンダブル、カップ戦を含めてシーズントリプルを達成したい。(中村)俊輔の加入で、最近ジュビロのファンになった人も多いはずだし、そこに静岡ダービーというスペシャルな試合があることで温度が上がるはず。まずは見てもらうことが大事なので、テレビでもスタジアムでもいいので、とにかく見てもらえたらと思う。静岡ダービーがJリーグにおいて、他とはひと味違ったゲームだと思って、単純に楽しんでもらいたい。それだけの熱い試合になると思うし、清水とともに静岡サッカーを盛り上げたい。日本で一番熱いダービーにぜひ注目してほしいですね。

●取材・文=Goal編集部

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