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なぜ久保建英はビッグクラブに見向きされない?西紙副編集長が「私がSDなら獲得しない」と話す理由と「言い訳できない」今季

今夏の移籍市場で大きな注目を集めた久保建英。リヴァプールやアーセナル、アトレティコ・マドリーなど数多くのビッグクラブへの移籍が噂されたが、移籍市場最終日までに実現せず。今季もレアル・ソシエダの中心としてプレーを続けている。

そんな日本代表MFを長年に渡って追いかけ続けるスペイン大手メディア『as』の副編集長であるハビ・シジェス氏は、今夏にビッグクラブへの移籍が実現しなかった理由を分析。久保の欠点を分析しつつ、今季への期待を綴っている。

文=ハビ・シジェス(Javi Silles)/スペイン紙『as』副編集長

翻訳=江間慎一郎

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    ビッグクラブ移籍は実現せず

    久保建英はおそらく、この夏の移籍市場で失望を味わっている。今夏、移籍を考慮していたであろうにもかかわらず、彼という選手にふさわしいオファーは届かなかった。

    読者を馬鹿にするだけのクリックベイト系サイトは、多数のビッグクラブが久保の獲得に躍起になっていると伝えた。しかし、信頼できるメディア・ジャーナリストが伝えた移籍先候補はエヴァートン、ナポリ、アトレティコ・デ・マドリーくらいのもの。最終的にもう一方の獲得候補ニコ・ゴンサレスを選択したアトレティコはともかくとして、オファーが届いたら絶対に受け入れるべき欧州のビッグクラブは、彼に目を向けなかった。

    もちろん、ソシエダが久保の契約解除金を6000万ユーロに設定し、なおかつレアル・マドリーが移籍金の半分を手にする権利を有していることも、間違いなく彼が移籍する上での障壁となっている。とはいえ、アーセナルが7000万ユーロを支払ってまでMFマルティン・スビメンディを引き入れたように、彼のことを無条件で獲得したいと思うビッグクラブが現れないのは、一体なぜなのだろうか。久保がいれば、日本市場を開拓できる魅力だってあるというのに……その疑問は結局、いつもの理由に帰結するのだろう。

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    最大の理由

    ビッグクラブのスポーツダイレクターが日本、ひいてはアジアでも史上最高レベルの才能を有している久保の獲得に踏み切らない理由があるとすれば、それはいまだに殻を破り切れていないためだ。

    久保はやはり、プレーの安定性が欠けている。

    「彼がプレーしていれば大丈夫」という安心感はなく、「今日はキレがある」「今日はダメだ」の反復を1シーズン中に何度も繰り返している。この問題はいまだ克服されておらず、それが市場での評価を引き下げているのは明らかだ。

    そして、その継続性の問題以外で、久保のプレーに欠けているところはほとんどない。実際、彼はとんでもない選手だ。ダイナミックで、献身的で、勇敢で、テクニックを生かした解決手段はほぼすべてコンプリートしており、プレービジョンも卓越していて周囲を俯瞰したように見ている。様々な角度から見れば見るほど、久保はビッグクラブでプレーして然るべき、世界トップレベルの実力を有したアタッカーである。

    そのドリブル能力、プレーリズムの緩急の付け方は突出しており、一人抜き去るのは当たり前。右サイドでは内に切れ込むほか縦にも抜けてクロス、パス、シュートのあらゆる選択肢を持つ。さらに中央や逆サイドに流れることで数的・位置的優位性を生み出し、あらゆる攻撃的ポジションで相手チームの脅威となっている。対戦相手のコーチングスタッフにとって、ソシエダで誰よりも警戒しなくてはならない選手は間違いなく久保だ。

    久保はその一方で、守備の責任から逃れることもない。現代フットボールにおいては、攻撃で違いを生み出せる選手ももれなく守備をしなくてはならないが、彼は率先してプレッシングを仕掛け、後退が必要なときには誰よりも早く帰陣する。確かに、自身の背後を突く選手を追いきれないこともあるが、決して修正のきかない弱点ではない。彼のチームへの献身に疑いの余地はないのだから。

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    久保の数少ない欠点は?

    先ほど、私は「その継続性の問題以外で、久保のプレーに欠けているところはほとんどない」と記した。その“ほとんど”の大部分を占めるのが、決定力だ。いや、もっと言えば、彼の継続性という問題もゴールを決めるか決めないかに依存している。

    久保が昨季ラ・リーガで残した成績は5ゴール0アシスト。私がビッグクラブのスポーツダイレクターであれば、その成績と決めるべきシュートを外していく様子、試合毎の浮き沈みを確認すれば、もう獲得候補の上位には置かない。6000万ユーロを支払って獲得する24歳のEU圏外枠選手は、すぐにでも結果を出せる選手であるべきだ。

    久保はソシエダで、その影響力を高める必要がある。とはいえ今季、そうするためのハードルは決して低くない。セルヒオ・フランシスコが新たに率いるソシエダは、久保をはじめとして良質な選手たちを揃えているものの、まだプレーアイデンティティーを確立できていない。新戦力も適応中の現在は、どうプレーしたいかも分からない状況だ。

    しかし、だからこそ久保には、チームがどこに向かうべきかを示す羅針盤になってほしい。難局に差し掛かったチームにいるスター選手を「周囲に恵まれない」と擁護する声もあるが、個人が収める成果の言い訳を集団に求めたって何も意味はない。久保に必要なのは言い訳ではなく、その底知れぬポテンシャルを引き出すことにほかならない。久保の師であるダビド・シルバがかつてそうしたように、“肉でも魚でもない”現在のソシエダを、久保自身のフットボールで導く以外に進むべき道はないはずだ。

    久保はこれから戦っていく一試合一試合で、自身が極上の選手であることを示せばいい。ソシエダやほかの選手たちの調子に振り回されず、安定感のあるプレーを見せて、チームの灯台となればいい。そうできれば来夏の彼は、間違いなく移籍市場の注目株になれる。

    フットボール界は、久保建英を忘れてくれるな――私はそんな思いで、今季の彼の活躍を期待している。