「欧州メディア図鑑:総論」を下に、欧州5大リーグの各国主要メディアを紹介。各社の報道姿勢や運営方法、信頼度などを現地在住ジャーナリストら監修の下、『GOAL』が紹介していく。
今回は、レアル・マドリーやバルセロナ、アトレティコ・マドリーなど欧州カップ戦の舞台でも歴史を持つ世界的強豪がしのぎを削るスペイン編。現地在住ジャーナリストの江間慎一郎氏が監修の下、主要メディアの特色を分析する。
(C)Getty Images「欧州メディア図鑑:総論」を下に、欧州5大リーグの各国主要メディアを紹介。各社の報道姿勢や運営方法、信頼度などを現地在住ジャーナリストら監修の下、『GOAL』が紹介していく。
今回は、レアル・マドリーやバルセロナ、アトレティコ・マドリーなど欧州カップ戦の舞台でも歴史を持つ世界的強豪がしのぎを削るスペイン編。現地在住ジャーナリストの江間慎一郎氏が監修の下、主要メディアの特色を分析する。
Portada Diario Marca 18 de mayo 20232022年の発行部数85万9000部。スペイン首都マドリーに本拠を置く『マルカ』は、一般紙も差し置いてスペインで最も読者を抱えているスポーツ紙だ。リーガ得点王に与えられる「ピチチ賞」、1試合当たりの平均失点が最も少ないGKに与えられる「サモラ賞」を創設したのも同紙で、毎年受賞者を集めて授与式を開いている。また新聞だけでなくラジオ放送局も持ち、2013年まではテレビチャンネルもあった複合メディアだ。ちなみに一般紙『エル・ムンド』も出版するマルカのメディアグループ、ウニダー・エディトリアルの株式96%はイタリアのRCSメディアグループが保有しており、こちらのグループにはイタリアを代表するスポーツ新聞『ガゼッタ・デッロ・スポット』が含まれている。
『マルカ』が基本的に最も紙面を割いているのはレアル・マドリーで、その次にバルセロナとアトレティコ・マドリーだ(番記者の数で言えばレアル・マドリーが6人、アトレティコやバルセロナが大体半分くらい)。レアル・マドリーの機関紙ともされてきたが、今なおべったりな関係にあるかと言えばそうでもない。同紙の関係者はこう語っている。
「彼らとの関係はずいぶん前から悪くなっている。一時期マドリーは、もっと言えば会長のフロレンティーノ・ペレスは『マルカ』&『アス』の関係を、バルセロナと『スポルト』&『ムンド・デポルティボ』のような関係にしたかった。つまり、彼らを絶対的に支持するメディアにしたかったんだ。だがコントロールできないと知って、私たちにほとんどインタビューを与えず、内部情報も自分たちの都合のいい時にこちらに流してくるようになった。彼らは批評性のある既存のメディアを嫌っており、自分たちのオウンドメディアだけに力を入れている」
それでも、『マルカ』がレアル・マドリーの情報に強いのは確か。レアル・マドリーがオウンドメディアには載せられないような、観測気球のような補強の噂、選手獲得の進捗、敗戦時などのチーム内情報など、多くの情報がカバーされている。スペイン首都ではアトレティコの情報にも強く、そのほかカタルーニャやアンダルシアなどスペイン主張都市に支局を置いて、通信員も各地方にいることで幅広い情報が手に入る。
ニュースの信憑性については、WEBを含めると首を傾げたくなるものも混ざったりするが、基本現地記者が著名で記しているものについては確度が高い。レアル・マドリーの宿敵バルセロナについても、最近ならば「ジュール・クンデが右サイドバックでプレーすることに不満を抱えている」との報道が各メディアでなされたが、一部メディアが「退団すら望んでいる」と騒ぎ立てていた中で、「そういった報道もあったが私たちにその確認が取れなかった」と記す誠実さもある。
(C)Getty Images2022年の発行部数40万3000部。『マルカ』と同じくスペイン首都に本拠を置き、レアル・マドリーに最もページを割くスポーツ紙。こちらは、アルフレド・レラーニョ前編集長の時代にフロレンティーノ・ペレス会長と仲違いした。以前、レラーニョ氏にインタビューをした際には「彼は我々に何度も何度も口を出してきた。これはこうしろ、あれはああしろとね」とコメントしていたが、2019年に彼が退職してビセンテ・ヒメネス氏が新たな編集長となり、クラブとの関係は修復され始めた……といっても、マドリーがメディアと距離を置いている状況で、機関紙になっていないことは変わらない。
ニュースの信憑性については、特に電子版で顕著だが、『アス』は移籍の噂などをまだわずかな可能性の段階でも煽るように報じるなど、少し扇情的な側面が見受けられる。ただ、こちらはコラムや戦術分析、チームや選手の知られざるストーリーなど、『マルカ』と比べて読み物が充実。マドリーの試合後には戦術分析のほか対戦相手の番記者のオピニオン記事もあるなど、単なる事実の羅列ではなく、記している人物の知識や気持ちがうかがえる文章が多い。以前『マルカ』でマドリーの試合レポート(かつてはこれを書く人物こそが花形記者だった)を記していたスペインを代表するスポーツジャーナリスト、サンティアゴ・セグロラは現在こちらでコラムを執筆しており、紙面ではそれに1ページ分を割いている。
Mundo Deportivo2022年の発行部数20万3000部。バルセロナに本拠を置く『ムンド・デポルティボ』は、現存するスポーツ紙においてスペインでは最古、ヨーロッパでは『ガゼッタ・デッロ・スポルト』についで2番目に古い新聞である。読者の半分以上がバルセロナのサポーターとされているが、発行する地域で特色をつけており、『ムンド・デポルティボ』のマドリード版ならばアトレティコ・マドリーに、バスク版であればアトレティック・クラブ、レアル・ソシエダにページ数を割いている(そのほかベティス、バレンシアも)。
『マルカ』や『アス』などと比べれば情報網が弱いところもあり、バルセロナに特化しているような印象もあるが、通信社に記事を頼むクラブもある一方、主要都市では取材力も確保できている(ちなみに『スポルト』とは異なり、レアル・マドリー番記者もいる)。
「MD」と略される『ムンド・デポルティボ』だが、やはりバルセロナの情報に強い。現バルセロナ会長のジョアン・ラポルタはメディアと距離が近い……もっと言えば、自分たちの都合の良いように情報を流しているともされるが、ある関係者は「マドリーが『マルカ』や『アス』をコントロールする気もなくなった一方で、『ムンド・デポルティボ』と『スポルト』はバルセロナと親密な関係にある」と語っていた。いずれにしろバルセロナの情報に精通していたければ、この新聞を読むのがおすすめだ。
Reprodução2022年の発行部数18万2000部。『MD』同様にバルセロナに本拠を置き、バルセロナの情報に特化している。『マルカ』に比べて『アス』に扇情的な記事が多いように、こちらも『MD』に比べればそういった傾向が強い。
ただ、土曜の新聞にはスペインのインディペンデント・マガジン、『パネンカ』が複数記事を寄稿していたりと、こちらも『アス』のように充実した読み物がある。またカタルーニャ人記者シャビ・トーレスの膨大なデータを使用しつつ主観を交えたバルセロナの現状分析も非常に読み応えがあり、そうしたしっかりと内容を伴っている記事が、彼らを軽薄なメディアにさせない底力となっている。
スタジアムでもテレビでも、試合観戦中にはラジオをつけて実況を聞く文化が残るスペインで、『カデナ・セール』、『カデナ・コペ』などとともにフットボール番組・情報が充実するラジオ局の一つ。バルセロナ番のアルフレド・マルティネスやレアル・マドリー番のフェルナンド・ブルゴスなど、クラブ内部の情報に詳しい記者も揃えている。
スペインメディアの各ニュースを引用して紹介しているWEBサイト。引用するサイトの信憑性よりも、字面にした際のインパクトを重視するいわゆる「クリックバイト」系。内容を鵜呑みにせず、ソースを確認したり裏を取ったりする慎重さとリテラシーが読み手には求められる。試合のライブ速報は見やすく便利。
スペインメディアの各ニュースを引用して紹介しているWEBサイト。インパクト重視の記事が多く、信用度は低い。『ツイッター』のアカウントでは1万5000人のフォロワーがいるが、リツイートやいいねはほぼ誰もしておらず。インプレッション数は基本2~3桁となっている。
情報源の秘匿があるために虚偽とは言い切れないが、イエロージャーナリズム(PVのために事実報道よりも扇情的な報道ばかりであること)の雰囲気が漂うWEBサイト。ニュース記事の執筆者が世界中のあらゆるクラブ、選手の移籍の動きに精通しているかのように、独占情報を連発している。日本メディアがこのメディアの日本人情報を引用することが間々あるが、信用できるとは決して言えない。
かつてはスペインの有名フットボール雑誌だったが、2011年に廃刊。それから数年して、スペインだけでなく南米のスペイン語圏に向けたWEBメディアとして復活した。しかし、もっともらしいことを並べ立てながらも、信憑性が低いニュースが目立つ。
レアル・マドリーの情報に特化したWEBサイト。独占情報の信憑性は疑わしいところもあるものの、試合結果や監督・選手コメントはまとまっていて読みやすい。
メディア名はスペイン語でセンターバックを意味するが、「マドリーを絶対的に支持する・守り抜く」という意思はネガティブな記事を記さないところに感じられる。批評精神は少なく、そこはもしかしたらフロレンティーノ・ペレス会長の好みなのかもしれない。
2022年10月、元マルカ編集長のオスカール・カンピージョ氏を中心にして生まれた新たなスポーツメディア。クリックバイトを行わず、性的だったり下世話だったりするコンテンツに頼らず、それでいて『Twitter』、『Tik tok』、『Instagram』とSNSを積極的に活用して、真っ当なスポーツニュースを届けていく方針を取る。
多くの実力派記者を揃え、彼らが集める情報や映像をSNS上で分りやすい形で公開しつつ、なおかつ自分たちのサイトで深掘り記事も掲載している。スポーツメディアの未来への可能性を探るような媒体だ。