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【サッカーメディア大図鑑】どのニュースを信じればいい?知っておくべき「ソース」のカテゴリー

日々世界中で発信され、昨今ではどこにいても当たり前に触れることができるようになったサッカー情報。ヨーロッパでは長らく紙媒体が主体であったが、有料衛星TVの台頭、そしてインターネットの世界的に普及とソーシャルメディアの発展により、これまでの名のあるメディアからいち個人まで誰でも発信が可能に。それに伴い、ネット上には大量の情報があふれることとなった。しかし、中には情報元(ソース)が不明なものも多く、また取材なしのもの、意図的に偏った発信を行うサイト・人物も急増。クラブや選手・代理人が「フェイクニュース」と断言するケースや、発信元が訴えられるケースも増加している。

では、サッカーニュースはどうやって集めればいいのだろうか? 何が真実で、何を信じて日々情報に触れていけばいいのだろうか。今回は、イタリア在住ジャーナリストであり、長年欧州で取材を続ける片野道郎氏に、主なソースをカテゴリーごとに分けて解説してもらった。これを元にしつつ、日々触れるサッカーニュースの「ソース」に注目し、「何を信じるか」の参考にしてもらいたい。

文=片野道郎(イタリア在住ジャーナリスト)

欧州メディア図鑑:各国編は順次公開予定

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    サッカーメディアの変化

    インターネットがインフラとして社会に普及し、WEBが紙(新聞・雑誌)、電波(TV、ラジオ)と並ぶ主要な情報プラットフォームとなったことで、サッカーに関する情報流通のあり方は、かつて比べると劇的と言っていいほど大きく変化した。

    WEBが登場する以前の時代、プレミアリーグやUEFAチャンピオンズリーグがスタートした1990年代には、日本はもちろん欧州でも、サッカーに関する情報を取材・発信するメディアは、新聞、雑誌、TV、ラジオという商業マスコミ以外、実質的には存在していなかった。

    最も内容が詳しく、当時としては速報性も高かったのは『レキップ』(フランス)、『ガゼッタ・デッロ・スポルト』(イタリア)、『マルカ』、『as』(スペイン)といった日刊のスポーツ新聞で、毎日15~20面、場合によってはそれ以上をサッカーの報道に割いてきた。ドイツでは週2回刊の『キッカー』が同じ役割を果たしてきた。スポーツ新聞がない英国では『タイムス』や『ガーディアン』のような高級紙から『サン』、『デイリー・ミラー』、『デイリー・メール』などのタブロイド紙まで一般紙がスポーツ報道を担っていたが、情報量はスポーツ紙と比べると相対的に少なかった。これらに加えて、国によっては『フランス・フットボール』(フランス)、『グエリン・スポルティーボ』(イタリア)、『ドン・バロン』(スペイン)といった週刊誌、『Four Four Two』(イギリス)のような月刊誌もあり、より長いインタビューや特集、詳細な分析記事などを掲載してきた。

    一方、テレビは1990年代末までチャンネルが地上波のみで、1日1~2回、長くても20~30分程度のスポーツニュースと、週末のリーグ戦開催に合わせて試合のダイジェストや討論を行う数時間のサッカー番組が報道の中心だった。90年代末から00年代初頭にかけて有料衛星TVが普及するまでは、リーグ戦や欧州カップ戦の試合中継もごく限られた形でしか行われていなかった。だが、2000年前後に有料衛星TVが欧州で普及し『Sky Sports』、『Movistar+ 』、『Canal+』などの衛星放送局がほぼすべての試合中継を行うようになると同時に、24時間スポーツニュースチャンネルが開設され、スポーツ映像の情報量は大きく増加することになる。

    しかし最も大きな変化をもたらしたのは、2000年代に入って一気に進んだインターネットの世界的に普及である。これによって、商業マスコミ(新聞・雑誌・TV・ラジオ)だけがスポーツに関する情報源という旧来のメディア環境は、情報の発信源と伝達媒体の両面で大きく変化することになる。インターネットは、紙や電波とは異なり、誰にでも情報を発信できる開かれたプラットフォームである。その上に生まれた新たな情報媒体であるWEBサイト、そしてソーシャルメディアは、既存の商業マスコミだけでなく、クラブをはじめサッカーに直接関わっている当事者、さらにはアマチュアのサッカー愛好家にも情報の発信を可能にした。

    新聞・雑誌・TV局という大手マスコミが、旧来の商業メディアと並行する形でオンラインニュースサイトを立ち上げ、「二本立て」の情報発信を続ける一方で、WEB上には『GOAL』や『ESPN FC』のようなワールドワイドな総合ニュースサイト、そして特定のチームや特定のテーマ(移籍情報、サッカービジネスなど)だけを取り上げる専門ニュースサイトが続々と誕生する。また、クラブやリーグ、統括団体(FIFA、UEFA)など、サッカーに関わっている当事者も公式サイトなどのWEBメディアを通じて積極的に情報を発信するようになった。

    2000年代半ばからは、WordPressをはじめとするBLOGプラットフォームを通じて、個人による情報発信の環境も整い、試合の論評から戦術やプレーの分析まで、アマチュアブロガーによる質の高い情報にも簡単にアクセスできるようになった。そして2010年代に入ると、そこにさらにTwitter、Facebook、Instagramから、動画系のYoutube、Twitch、tiktokまで、様々なソーシャルメディアが広まってファンによる情報発信と情報交換も活性化され、WEB上に流通するサッカー情報はそれこそ指数関数的な勢いで増加してきている。

    2023年現在のスポーツメディア状況を見ると、新聞・雑誌という旧来の商業メディアが目に見えて衰退しており、サッカー情報のプラットフォームはインターネットが完全な主流となっている。それを踏まえて、WEB上でアクセス可能な欧州のスポーツメディアをカテゴリー分けすると、以下のようになる。

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  • football media 3(C)Getty Images

    マスコミ系ニュースサイト

    『レキップ』、『ガゼッタ・デッロ・スポルト』、『マルカ』、『キッカー』などのスポーツ紙、『ガーディアン』や『サン』など一般紙、さらには『スカイスポーツ』、『ESPN』などのスポーツ専門衛星放送局がそのメディアの「看板」で運営するニュースサイト。

    専門の記者を抱えるなどマスコミとしての取材機能を持っている点が強み。取材を通じた一次情報に基づくニュースは信頼性が高く、また論評、考察、調査など批評的なアプローチを通じたオピニオンも充実している。

    ただし新聞系サイトに関しては、「本丸」である紙媒体の衰退が進んで経営が苦しくなり、取材・編集体制を縮小しているところが多く、以前と比べると総合的なクオリティは低下傾向にある。

    その中で唯一注目されるのは、2016年にアメリカで設立された独立系スポーツニュースメディアで、2022年に『ニューヨークタイムズ』の傘下に入った『ジ・アスレティック(The Athletic)』。サブスクリプションによる有料メディアだが、大手マスコミ出身の優秀な記者を抱えて、綿密な取材による長文の論考や詳細な戦術分析など、質の高い記事を多数発信している。プレミアリーグが主体だがスペイン、ドイツ、イタリアなど主要国もカバーされている。

    EX:The Athletic

  • UEFA logo(C)Getty Images

    オフィシャルサイト

    クラブや選手から統括団体(リーグ、サッカー協会、UEFA、FIFA)まで、当事者が直接情報を発信する公式サイト。近年はテキストと写真によるニュースだけでなく動画コンテンツも充実している。

    クラブをはじめとするサッカーの「当事者」は、以前は記者会見やプレスリリースなどを通じたマスコミ向けの情報発信を中心にしていたが、インターネットによって情報発信の垣根が下がったことから、公式サイトや公式チャンネルを通じてファンやサポーターに直接情報を届ける自前の情報発信に軸足が移っており、その充実度は年々高まっている。一次情報としての信頼性は当然ながら高いが、自らに都合が悪いネガティブな情報は発信しないことに注意が必要。

    EX:UEFA.com』、『FIFA.com

  • 独立系情報サイト

    特定のチームだけを取り上げるサポーター向けニュースサイト、移籍情報やサッカービジネスなど特定の分野だけを取り上げる専門サイト、試合や選手に関する統計データを発信するデータサイトなど、マスコミではない企業や個人によって運営されている独立系のサイト。

    サポーター向けのニュースサイトや移籍情報サイトの多くは、自前の取材機能を持っていないため、マスコミやオフィシャルが発信する一次情報を「引用」する形で記事を作成するケースが多く、内容は玉石混交。独自の内容に乏しい焼き直し記事も少なくなく、いわゆる「クリックバイト」を狙って、どうということのない内容を大きく誇張したタイトルをつける傾向も強い。

    一方、戦術分析やビジネスなど特定分野に焦点を当てた専門サイトには、マスコミ系のニュースサイトよりも内容が充実しているものも少なくない。解説、分析といった考察系の二次情報に関しては、マスコミ、スモールメディア、アマチュアの間に垣根はなく、また内容的にも発信源の種類によるクオリティの差があるわけではない。また、データ系サイトはスポーツベッティングとのつながりが深く、分析好きのサッカーファンだけでなく、ブックメーカーを通じてサッカーの試合結果や内容に賭けるアマチュアギャンブラーにとりわけ愛好されている。

    EX:transfermarkt』、『WhoScored』、『Sofascore』、『CIES FOOTBALL OBSERVATORY』、『FOOTBALL BENCHMARK

  • Fabrizio RomanoInstagram/@fabrizioromano

    ソーシャルメディアアカウント

    Twitter、Instagram、Facebookなどのソーシャルメディア上にあるクラブや統括団体、選手などの当事者、マスメディア、そして記者やブロガー、サポーター個人のアカウント。

    クラブ、統括団体などの当事者やマスコミは、主にメインのWEBサイトに誘導するための告知メディアとしてTwitterアカウントを使っている。一方、記者やブロガーによるTwitterの個人アカウントは、ニュースや考察を直接発信するためのメディアとしても使われており、それ自体が興味深い内容であることも多い。近年は選手自身が近況報告やメッセージなど独自に情報を発信するケースも増えているが、こちらはInstagramが主な舞台となっている。

    個人アカウントで最も興味深いもののひとつが、イタリア人の移籍専門記者ファブリツィオ・ロマーノのTwitterアカウントだろう。独自の情報網を駆使した移籍情報の充実度と正確性に関しては、マスコミ系のニュースサイトはもちろん、幾多の移籍専門サイトをも上回っており、このアカウントさえフォローしておけばすべて事足りるといってもいいほど。つい先頃もバイエルンのユリアン・ナーゲルスマン監督解任とトーマス・トゥへル招聘をスクープしている。移籍が確定した時に使われる合言葉「Here we go」は彼のトレードマークとなっており、フォロワー数は1430万人を超える。いち記者の個人アカウントがメディア空間においてこれだけの重要性を持った例は、少なくともサッカーに関しては過去には例がない。

    EX:Fabrizio Romano』、『Cristiano Ronaldo

  • football media 4(C)Getty Images

    動画系メディア

    Youtube、Twich、tiktokなど動画系ソーシャルメディア上で配信される動画コンテンツ。

    Youtube上には、クラブやリーグが発信する試合ハイライト、インタビューといったオフィシャル系の動画から、マスコミ系のニュースや解説・討論、Youtuberによる各種配信まで、多様な動画コンテンツが混在している。日本ではあまり馴染みがないが、元々はビデオゲームのライブストリーミングが主体だった配信プラットフォームTwitchも、欧州ではメジャーだ。

    EX:UEFA 公式チャンネル

  • 日本のサッカーメディア

    国別の主要メディアは各国編で詳しく取り上げられる予定なので、ここでは欧州サッカーを全体的にカバーするサイトのリンクだけをリストアップした。すべて英語のサイトだが、もし興味があれば「Google Translation」や「DeepL」のような翻訳サイトを利用すれば、コピペひとつで記事を日本語化して読むことも可能だ。機械翻訳は常に正確とはいえないが、記事の概略を把握するには十分。昨今は「ChartGPT」をはじめとするAIの急速な進化によって言語の壁が取り払われつつあり、近い将来こうした海外コンテンツとの距離は大きく縮まるだろう。

    ちなみに、日本のWEBサッカーメディアに掲載される欧州サッカーのニュースは、現地発の署名記事を除くと、ほとんどここまで見てきた欧州メディアが発信した一次情報をもとに作成されたものだ。同じ材料をそれぞれのやり方で編集し記事化しているわけで、違いはタイトルのつけ方や内容の抜粋の仕方、そして情報の解釈や解説の仕方ということになる。

    日本の場合、「Yahoo!ニュース(ヤフトピ)」やTwitterをWEBニュースへの“入り口”としている人が多く、メディア側にとってはタイトルやリードでどれだけアクセスを稼げるかが勝負という側面もあるため、クリックバイト気味の記事作りが多くなりがちであり、読者の側にもリテラシーが求められている。