Harry Kane transfer GFXGetty/GOAL

ハリー・ケインは移籍するのか。バイエルンとの契約にバイアウト条項があり、バルセロナが関心を寄せ、プレミアリーグ得点記録が気になるイングランド代表主将には多くの選択肢がある

今考えればおかしなことだが、レヴァンドフスキが去ったバイエルンの攻撃陣に開いた大きな穴を埋めるために、遅ればせながらハリー・ケインを獲得するという決定に疑問を呈する者もいたのである。クラブのレジェンドであるローター・マテウス氏は、30歳になったばかりのケインをトッテナムから1億ユーロ(約180億円)で獲得したことについて、「年齢が高すぎるし、高額すぎる」と感じていた。しかし今では、「世界中に彼以上のストライカーはいない」と言っている。

したがって、バルセロナが2年前のバイエルンと同じく、「今の市場に、ケイン以上にレヴァンドフスキの後継者となる選手はいない」という結論に達したことは、それほど驚くことではないだろう。

  • Manchester City v Liverpool - Premier LeagueGetty Images Sport

    ハーランドは高すぎる

    2023年、レヴァンドフスキがアリアンツ・アレーナを去りたいと思った理由のひとつとして、その夏、バイエルンがアーリング・ハーランドを、マンチェスターではなくミュンヘンに来るよう説得しようとしたという噂があった。レヴァンドフスキ自身は、バイエルンを去ってバルセロナに行きたいという希望と、ノルウェー代表の背番号9とはまったく関係がないと主張したが、それでも、バルサのジョアン・ラポルタ会長がハーランドの獲得に「執着」しているという報道を読むのは面白い。

    少なくとも現時点では、その可能性は明らかにない。ラポルタ会長がバルサの財政を健全化するには、少なくともあと1年はかかるだろう。とりわけ、世界で最も価値ある選手を獲得できる状態に戻すには。ただし、もう少し創造的な会計処理を行えば、バルサはシーズン終了後にケインを獲得できる状態になるかもしれない。

    ドイツの『ビルト』紙によれば、イングランド代表主将の契約には6,500万ユーロ(約117億円)のバイアウト条項が設定されており、本人が1月末までにバイエルンに退団の意向を通知すれば、来夏に発動することができる。しかし報道によると、ブンデスリーガ王者は、ケインが現在アリアンツ・アレーナのピッチ内外で満足しているという単純な事実から、この状況に関して寛大であるという。

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  • FBL-EUR-C1-BAYERN MUNICH-BRUGGEAFP

    ヨーロッパ最強のチーム

    純粋にスポーツの観点から見れば、状況は、ケインと彼のクラブにとって最高であることは間違いない。無敗のバイエルンは2025-26シーズンに記録破りのスタートを切り、現在ブンデスリーガとチャンピオンズリーグの両方で首位を走っている。その主な要因はケインにあり、全公式戦通算で18試合で24得点という驚異的な得点力を誇り、ヨーロッパ5大リーグで最多得点を記録しているのだ。

    シーズン開始当初、ヴァンサン・コンパニ監督が編成したチームの規模について、彼本人が懸念を抱いていたことは理解できる。しかし、ジャマル・ムシアラがケガで不在であることを目立たなくするほど、17歳のレナート・カールが台頭してセンセーショナルを巻き起こし、リヴァプールから加入したルイス・ディアスが信じられないほどの活躍を見せ、マイケル・オリーセがドイツでの素晴らしいデビューシーズンを経てさらに高いレベルへと成長した。

    その結果、バイエルンは現在ヨーロッパ最強のチームであると言える。チャンピオンズリーグでは、パルク・デ・プランスで見事な攻撃と献身的な守備で、前回優勝のパリ・サンジェルマンを2-1で圧倒し、勝率100%を維持して、その実力を見せつけた。

  • FC Bayern München v Borussia Mönchengladbach - BundesligaGetty Images Sport

    ミュンヘンに満足

    決定的に重要なのは、ケインの家族も今、人生を満喫していることであり、本人だけが輝かしいキャリアの時期を過ごしているのではないのだ。

    故郷ロンドンからミュンヘンに移った当初、ケインと家族が街や国、文化の違いに適応できるかどうか、外部から懸念されていた。しかしケインは繰り返し、妻ケイトと子どもたちがドイツでの生活をどれほど「居心地良く」感じているかを語っている。ドイツではイギリスにいた頃よりプライバシーが守られていると報じられた。

    「ここの人々は、私たちを驚くほど歓迎してくれた」と、今年初め、ケインは語った。「家族全員、私だけでなく全員が深く感動した。私たちはここが大好きだ。一秒ごとに心から感謝している」。

    そうした状況では、ケインが2027年に満了する契約の延長にも前向きだと語る言葉をそのまま受け止めざるを得ない。直近にもこのように語っている。

    「僕はもっと長く滞在することにかなり前向きだ。我々はヨーロッパで最高のチームの一つだと思う。他のチームを見て、そこに行けばもっと良くなれるなんて思わない。今のところ、ここで本当に幸せ。契約はあと18か月ちょっと残っている。次の数か月で、将来のことやバイエルンがどうしたいかについて、いくつかの話し合いがあるだろう。僕に言えるのは、ここで本当に幸せで、近いうちに何も変わることはないということだ」

    バイエルンの一員として水曜に北部ロンドンに凱旋し、チャンピオンズリーグでアーセナルと対戦するのを前に、バルセロナ移籍の噂について端的に問われたケインは、『ビルト』紙に対し、自身の考えを改めて強調した。

    「誰とも連絡を取っていないし、誰からも連絡を受けていない。バイエルンとはまだ私の状況について話し合っていないが、現状にとても満足している。急ぐ必要はない。ミュンヘンで本当に幸せだ。私のプレーを見ればそれがわかるだろう。もし連絡があれば、その時は考える。でも、まだ次のシーズンのことは考えていない。まずは夏のワールドカップだ。今シーズンが終わった後に何かが変わる可能性は非常に低い」

  • FC Barcelona v Elche CF - LaLiga EA SportsGetty Images Sport

    移籍への道のり

    とはいえ、バルサから本格的なオファーが来ればケインがそれを真剣に検討するだろうことは否定できない。財政難にもかかわらず、バルサはトップクラスの選手たちの中でさえ、神話的と言ってもよい存在感を保っている。地球上でバルサ以上に魅力的な移籍先はほとんどないし、ラミン・ヤマルとともに前線でプレーしたいと思わない背番号9がいるだろうか。あらゆることを考慮すると、ケインがバルサからのオファーを断ることは非常に難しいだろう。特に、2026年に登録問題が解決されればなおさらだ。

    それに、バルサがレヴァンドフスキの代わりとなる選手を早急に確保しなければならないことも明らかである。かのポーランド代表選手は依然として得点を重ねており、今シーズンのラ・リーガでバルサの選手の中で最多の8得点を挙げているが、彼は現在37歳であり、4月以降3回も筋肉の問題に見舞われ、その身体能力が衰え始めていることが示唆されている。

    レヴァンドフスキは、今シーズン終了後に契約が満了となり、1月1日から他クラブと自由に交渉できる状態になるが、新しい契約に関する話し合いがまだ始まっていないことに重要な意味があることは確かだ。

    先週、ポーランド代表の試合中に次の移籍先について尋ねられたレヴァンドフスキは、記者団に「まだわからない。急いでいない。自分のペースでやっているし、それが最も重要なことだ。たとえば、どこかのクラブが今連絡してきたとしても、答えないだろう。僕にとって何が最も重要かを考えなければならない。しかし、今のところは落ち着いており、急いでいるわけでもなく、現時点ではすべてのことに満足している」と答えた。

  • Paris Saint-Germain v FC Bayern München - UEFA Champions League 2025/26 League Phase MD4Getty Images Sport

    進化

    注目すべきは、ここ数週間、バルセロナが、フリアン・アルバレス、ヴィクター・オシムヘン、セール・ギラシ、エッタ・エヨンといった複数のストライカーと関連づけられていることだ。だが、万人共通の見解として、バルサの移籍候補リストの最上位に位置しているのはケインである。

    表面的には、来シーズンの開幕前に33歳を迎えるケインの獲得が検討されているのは意外に思える。しかし、彼に衰えを示す兆候は全く見られない。ケインは常に、クリスティアーノ・ロナウドとリオネル・メッシという伝説の2人のように30代後半までプレーしたいと語ってきた。イングランド代表のレジェンド、ウェイン・ルーニーはケインの得点への執着はかのポルトガル代表選手のようだと言ったこともある。しかし、C・ロナウドが年齢を重ねるにつれて技術を微調整していったのに対し、ケインのプレーは進化していっていると言ってよい。

    「ハリーはこの1、2年、我がチームで、文句のつけようのない最高のプレーを生みだしてきた」と、バイエルンの名誉会長ウリ・ヘーネスは認めた。

    「私が最も評価するのは、彼が当初はペナルティエリア内でボールを待つタイプのストライカーだったことだ。しかし、今では、得点を決める選手であると同時に、司令塔にもなっている。何より彼はピッチ上で他の選手を鼓舞し、方向性を示すような個性の強い選手であり、それこそまさに我々が求めていたものなのだ」

    バイエルンはレヴァンドフスキの後継者を求めていたのだが、それ以上のものを手に入れたのである。

    「ロベルト・レヴァンドフスキは2020年にバイエルンでチャンピオンズリーグを制覇し、その後、世界最優秀選手に選ばれた。この2つは他の選手と比較できるものではない」と、マテウスは『スカイ』のコラムで書いた。

    「ケインは、15年ほど前にマヌエル・ノイアーがGKの概念を一変させたのと同じように、センターフォワードの概念を一変させた。現在、世界中に彼以上のストライカーはいないと思う。それは彼の得点力だけでなく、その多才さと、プレーできるポジションの多さによるものだ。ケインはパス、ドリブル、タックルにも優れた能力を発揮する。ストライカーであり司令塔であり、ボックス・トゥ・ボックスの選手でもあるし、タックルの能力にも秀でている」

    「ケインがドルトムント戦(10月18日)の88分に自陣ペナルティエリアで披露したようなスライディングを、アーリング・ハーランドやキリアン・エンバペがするのを見たことがない。ハーランドやエンバペが50メートル以上のロングパスを出すのも見たことがない。ケインが放つようなチップシュートをあの二人が決めるのも見たことがない。ケインは自由な精神でプレーできるからこそ、より優れた選手になったのだと思う」

  • FC Bayern München v Club Brugge KV - UEFA Champions League 2025/26 League Phase MD3Getty Images Sport

    自身の運命を完全に掌握

    もちろん、ケインがバイエルンで一貫して世界最高峰のパフォーマンスを見せている裏側には、今や自身の運命を完全に掌握しているという現実がある。キャリアのこの段階において、彼は、ほぼ望みのままに何でもできる立場にあるのだ。

    もし、プレミアリーグの通算得点記録がケインにとって真に最優先事項であるなら、イングランドに戻り、最愛のトッテナムでアラン・シアラーの記録(260得点)を追いかけることもできる。あるいは、過去に何度もケインの獲得を試み、今なお得点力のあるセンターフォワードを切望しているマンチェスター・ユナイテッドを選ぶ可能性すらある。

    もちろん、最高峰でのキャリアを長く続ける最善策はバイエルン残留だと結論づける可能性もある。ブンデスリーガはプレミアリーグほど身体的に過酷ではない。さらにバイエルンは、より多くのタイトル獲得とチャンピオンズリーグへの毎年の出場をほぼ保証することができる。32歳の彼が勝ち取りたいと切望するタイトルだ。

    しかし、バルサがオファーをしてきた場合、ケインは間違いなくその話に耳を傾けるだろう。1月末までにバルサが金銭的な保証を現実にできる状態になれるかどうかは、議論の余地があるのは明らかであっても。

    しかし、ケインがカンプ・ノウに移籍した場合、バイエルンにとってはレヴァンドフスキを失ったことよりもさらに大きな打撃となることは確かである。