試合で起きることを想定する。J1昇格の片野坂大分。理論派コーチがピッチに落とし込んだもの

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J3降格からわずか3年でJ1昇格を果たした大分トリニータ。ここでは、片野坂知宏監督の戦術面のブレーンとして昇格に貢献した安田好隆コーチを取り上げる。チームを陰で支えた戦術的ピリオダイゼーションを礎とする若き理論派の指導手腕とは。

史上稀に見る大混戦となった2018年J2を勝ち抜き、J1自動昇格をつかんだ大分トリニータ。安定したチームマネジメントとバランス感覚に長けた采配で、監督キャリア3年目にして国内トップリーグへと上り詰めた知将・片野坂知宏の手腕は言うまでもない。その陰にはそれぞれに役割分担して指揮官を支えるコーチ陣の存在があった。今回はその中から、主に戦術面のブレーンを司る安田好隆コーチをクローズアップする。(文中敬称略)【前編はこちら】

■トレーニングを通じ、考えることをなるべく少なくする

毎日のトレーニングでウォーミングアップ的に行われるパス&コントロールの練習は、3人のコーチが持ち回りで担当している。今季はその内容が、基礎技術の向上だけでなく戦術的色合いをより濃くしたものへと変化した。週の立ち上げから週末の試合を想定した形で実施され、選手たちはその中で実戦をイメージしながら技術を磨く。ゲームで起きそうなこと、自分たちがやりそうなことを練習で前もって体験しておくことで、選手たちは自信をもってチャレンジできるようになるのだ。

試合で起きる現象を想定するためには、緻密なスカウティングが必要となる。対戦相手の試合映像を見ながら、個々の戦力の特徴までを踏まえて脳内で自チームと対峙させ、ゲームをシミュレーションしていく。「片さんがどう戦いたいかを想像しながら、自分たちがその相手に対してどう有利に戦うかという視点で見ます」。それに添って起用する戦力を決め、守備のハメ方を設定し、ミーティングで選手たちに対相手戦術を共有させるという流れになっている。

片野坂監督のサッカーは選手に臨機応変に判断してプレーすることを求める。「人が判断を誤るのは想定外のことが起きたとき。だからあらかじめ想定の範囲に幅を持たせておいて、ピッチで選手たちに決めさせるんです」と安田は説明する。たとえば走り込んでくる相手に対して、シャドーがついていくのかCBにマークを受け渡すのか。空いたスペースに誰が走り込むのか。いくつかの可能性に応じて複数の選択肢を持たせ、判断基準を伝えておく。そうすることによって選手たちの状況判断力を育むのが狙いだ。

「サッカーはもちろん考えてプレーしなくてはならないんですが、考えることをなるべく少なくしてあげることを、トレーニングでは大切にしています。何も手がかりがない中で考えるのと、半分くらいはトレーニングで予習できていて残りの半分を考えるのだったら、後者のほうがずっとプレーしやすい。映像やトレーニングで予備知識を伝え、習慣づけた状態で試合に挑ませると、戦術的負荷、つまり90分間で疲れる量が全く違ってくるんです」

■アカデミックなものを根底にグラウンドでチームと向き合う

2018-12-13-oita

片野坂監督はつねづね、開幕から最終節までの42試合を同じテンションで戦い抜くことをチームに強く求めてきた。目の前の一戦で勝点を得てそれを積み上げることにより、最終節終了時に目標達成できているように、と折に触れて言い続けた。

トレーニングも同じだった。年間スケジュールとしての計画はなく、コンディショニングに関してもどの時期に集中的に負荷をかけるといったプランは設けない。練習プランは試合と試合の間の1週間単位でのみ考えられ、それが42回繰り返された。とにかく目の前のゲームのためだけに準備する。それを繰り返した結果、接触事故などによるもの以外の大きな負傷離脱者は、シーズンを通してほとんど生じなかった。

ひたすら地道に、多くの時間がポゼッション練習に費やされた。その内容は次の試合に向けて少しずつアレンジされ、選手たちの思考に刺激を与えてきたが、1週間単位で見れば実に安定したルーティンだ。

そのルーティンがシーズンの最終盤で変化し、戦術練習の比重が増えた。「積み上がった手応えがあったので、対相手戦術の確認に専念できる状態になった」というのがその理由だ。一方で、激しい昇格争いによる精神的プレッシャーが増してくると、選手たちの状態によって内容を変えることもあった。

「負けた後で選手がメンタル的に充実していないときは、パス&コントロールは戦術的なものではなく、シンプルでテンポよく心地よくプレーできるものを選びました。成功体験を増やして、自信を回復させることも狙いでした」

そうやってアカデミックな理論を礎に多角的なアプローチにより地力を培われたチームは、最終的にJ1自動昇格という大きな成果を手に入れる。だが、その達成に至った要因を訊ねると安田からは「やっぱり選手の取り組む姿勢ですね」と、理論とはかけ離れた答えが返ってきた。

「もちろん考え方の根底はアカデミック。でも、実際にやっているのはグラウンド上のもの。自分のフィルターを通って出てきたものしか話のタネにはならないんです。実際にいま指導している人たちに『こういうトレーニングをしていたらこうなっちゃったんです、なぜだと思います?』とか『なぜ試合でああいう感じが出るんですか?』とかいったことを聞くことが、いちばん勉強になる。それが、僕みたいに紙で勉強してきたヤツが行き着いた結論。生きた教材に勝るものはないんです。誰よりも紙と向き合わなければならない、という気持ちは変わりませんが」

尽きせぬ知的欲求と徹底した現場主義が織りなしていく独自理論。若き指導者は“チーム片野坂”の一員として、来季J1のステージに挑む。

■プロフィール
安田好隆(やすだ・よしたか):1984年9月19日生まれ、34歳。東京都出身。2003年國學院久我山高コーチを経て、大学に通いながら横河武蔵野FC(現・東京武蔵野シティFC)でアカデミーコーチのアルバイトをし、2007年8月、メキシコへ渡る。育成年代の指導を経てチェトゥマルFCでトップチームのコーチに。その後ポルト大学スポーツ学部大学院に進学し戦術的ピリオダイゼーションを学ぶ。東京ヴェルディコーチ、柏U-18、アルビレックス新潟コーチを経て、17年から大分トップチームのコーチに就任。

文=ひぐらしひなつ

■著者プロフィール
ひぐらしひなつ:サッカーライター。九州を拠点に育成年代からトップまで幅広く取材。大分トリニータのオフィシャル誌などに執筆、エルゴラッソ大分担当。新著『監督の異常な愛情』をはじめ著書『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』、『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』他。

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