現役サッカー選手・監督が欧州サッカーを解説するDAZNの「EURO SOCCER FREAKS(ESF)」。今年も多くの現役選手・監督がピッチ目線での解説を披露している。Goalではその一人、清水エルパルスの鄭大世選手を直撃。解説についての考えやご自身の過去の経験など多岐にわたる話を聞いた。前編の海外サッカーとの関わりに続く後編は2018年の清水、そしてサッカー観について。
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■清水が強くなっていった理由
スウェーデン出身のヤン・ヨンソン監督が新たに就任した今季の清水。季初は不安定な状態だったが、ロシア・ワールドカップ終了後から徐々にチーム力を上げ、今季終盤はACL出場権に手の届くところまで迫った。最終的には8位でのフィニッシュとなったが、最終盤は7戦無敗でシーズンを終え、生え抜きの北川航也がブレイクするなど、来季に期待が膨らむ内容となった。それではチームの中でどんな変化が起こっていたのか? 鄭大世はこう振り返る。
――清水は、シーズン後半になるに従ってどんどん強くなりましたね。
最後のほうは、もう無双でしたね。
――ヤン・ヨンソン監督の戦術がやっと浸透してきたということですか?
それもありますが、急激に調子がよくなったのは、やはり2トップですね。ドウグラスと北川航也が強烈でした。そこがハマって勝ち出したので。夏の移籍でドウグラスが来たことで北川航也が覚醒しました。それまで航也も迷っていた部分があって、どこか自信なさげで、スタメンも何回か外れていたんです。でも、ドウグラスが来ると二人のコンビネーションが楽しそうで。もうそこからですよね。二人で点を取りまくりました(※)。
※ドウグラスは7月22日の第17節・ガンバ大阪戦から出場し、15試合出場11得点。北川は第17節以降17試合出場8得点。
ただ、そこがハマらなかったらどうなるか分からないというのもまた一つあるんですよね。基本的には守備的な戦術ですから。スウェーデン代表のような4-4のブロックを敷いて、できるだけ間を通させないで全部を外、外、に行かせる。外に追いやると絶対引っかかるので、引っかかったら二人でカウンター。そうすればもう決定機。相手が戻り切る前に攻め切る、といったものです。
(ヤン・ヨンソン監督の戦術は)確かに今までの固定概念を覆された部分があります。日本人監督や日本人選手はポゼッション、というかボールを失うのを嫌がるんですよね。だから奪ってカウンターに行けるチャンスでもボールを持ちたいから、横パスしてから縦パスを入れてまた戻して、逆サイドに送って。相手が戻って来ているのでまた逆サイドに入れて、となる。自ずと遅攻になるので結局チャンスはあまりない…みたいな。ある程度(守備の)人数が揃ったら、そこを崩すことはとても難しいので。
去年、一昨年エスパルスが弱かった理由は、試合の中でチャンスがあまりなかったからだと思います。チャンスの見極めは大切。相手にブロックで守らせてから攻めるのか、守る前に攻めるのか。そういう部分で今季は楽しかったです。先制点を取ったら負けないし、ブロックを作れば相手は崩せないから強かった。
――来季楽しみですね。
来季も楽しみです。でも、サッカーだしどうなるかは分からないです。前がハマらなかったら…。今季も夏場に3連敗など勝てなかったときもありましたし。ただあのツートップに関してはすごいです。
■航也のプレーに衝撃を受け過ぎて寝られなかった
――北川選手は日本代表に選ばれました。
納得です。けが人が出て追加招集されました。タイミングや運もありますが、「運を引き寄せる」のも実力なので。あと、代表監督が見ているときに活躍するかどうかはすごく大事なんですよ。アピールしなきゃと変に空回ってしまう選手もいますが、航也はいつもと全然違うプレーができた。キレキレで全部シュートまで行って。その時のプレーで僕は衝撃を受け過ぎて興奮して夜寝られなくて…。
――森保監督が視察に来られた試合ですか?
そうです(第27節・ガンバ大阪戦1●2)。試合は負けたんですが、航也自体はすごくてゴールも決めて、代表に入りました。
能力はハンパないと思います。でも、まさかここまでとは思っていなかったですけどね(笑)。去年まで一緒にツートップでやっていましたが、自分の能力を持て余している部分があった。やりたいことしかやらないと言うか、体を張らないし、ルーズボールも反応しない。最前線で張っていて、裏を取ることしか考えていませんでした。でも、今年プレースタイルを変えました。下がってFW同士のコンビネーションを使う、トップ下の役割をするようになってハマったんですよ。それ以外の選手、僕もクリスランも長谷川悠もみんな張るタイプでしたが、航也だけが下がるタイプでした。4-4-2なので(FWの)一人はほぼ確定になって。監督は飛び道具が好きなので、クリスランを使って…といろいろ試行錯誤して今年の結果につながっています。
それにしても成長ってすごいですね。若い子は試合に出ればもう成長します。可能性がある。今年はそれを本当に感じました。去年、あまりよくなかった選手が、監督が我慢して使い続けたら開花し始める。若い選手には自信さえ与えれば、何でもできるんだと感じましたね。
――ご自身の若いころは?
僕も昔はそうでした。結局、プロで成功するかしないかは人との出会いなんですよね。 我慢して自分を使い続けてくれる監督がいるかどうかでまったく人生って変わると思うんです。僕の場合は(当時川崎フロンターレの)関塚監督が無理して使ってくれていましたから。途中から出てすべてミスしたとしても使ってくれました。それがあるから少しずつ自信がついてきて、初めてのスタメンで2得点取って。関塚監督でなかったら、絶対そうはなってないですよね。
――良い出会いに恵まれましたね。
ほかの監督だったら、僕は多分相当使いづらい選手だと思うので。初動がうまくいったので、あとはもう後からついてきて楽にいきました。
■ドウグラスが頑張るから周りも頑張る
――プロキャリアも13年が過ぎました。今までのチームメイトや対戦した外国籍の選手で、印象に残っている方はいらっしゃいますか。
近々で言えばドウグラスはすごいですね。レベルが違います。なんでもできちゃうんです。ドリブルでしかけて1対1で抜けるし、ヘディングも強いし、キープもできてスピードもある。味方も使えるし、人間性も良いから周囲も一生懸命になりますし。
監督の中には組織を大事にする、戦術に添わなければ使わないタイプって多いと思うんです。でもドウグラスに関しては、誰が監督をやっても絶対フィットするなという守備の仕方を知っていますね。なぜ日本でやっているんだろう? といつも思います。
これもまた出会いだと思うんですが、特に今の(ヨンソン)監督は「平均値」ではなくてボールを持った時に何ができるか、どういうエンジンを積んでいるか、とい観点で選手を使う。そういう意味で言うと、自分の中では監督が代わるるたびに正解が変わります。正解だと思っていた答えが今年また覆されました。ヨンソン監督にとっては「ボールを持ったら何ができるか」がFW。僕はそこから漏れてしまって。
あとヨンソン監督のサッカーにとって、センターバックは大切ですね。フレイレがハマっていました。一発で裏を狙えますから。FWの動きを探すんですよ。ハーフウェイライン付近まできたらもうFWの動きを見てボールを出す。足元のほうがいいと見れば足元に付ける。裏を取るのだったら裏に出す。日本人CBにはできない選択肢をするのがフレイレでしたね 。
■海外との一番の違いはファイティング・スピリッツ
―― 最後の質問です。今回海外サッカーの解説をされましたが、海外のサッカーでここがすごい! という点を一つ挙げるとするなら?
ここがすごいと言うとやはりJリーグとの違いということになってくると思うんです。そこはやはり「Jでフェアプレーと言ってるのはフェアプレーじゃない」ですね。語弊があるかもしれませんが、Jリーグはフェアプレーにこだわり過ぎています。プレーヤー側としてはフェアプレーは基本的には邪魔なんです。だって戦いだから。
ルールに沿ってお互いリスペクトを持って“戦う”というのが理念だと思うんです。ドイツでもそうでしたが、海外サッカーを見ていると、例えば何かやってやろう、ノーファールで削ってやろうといったせめぎ合いがある。そのあたりのファイティング・スピリッツがまったく違うと思います。
今はだいぶJリーグでも球際がすごく大事なことが浸透してきて、審判もある程度あたりが強くても流すようになってきたんですけど、3,4年前くらいはもう全然違った。こちらはスポーツ、こちらは戦いみたいな。
守備時に全体重を乗せて、相手のボールを自分の後ろに行かせないようチャレンジしなければいけないのに、足先だけで行ったらクルッて入れ替わっちゃって、そのままピンチになっていたりすることがすごく多い。CLでセルヒオ・ラモス(レアル・マドリ―)がユベントスの選手にちょっと小突かれただけで倒れて「足首痛え~」とかやっているの見ると「こだわってるな~」と思います。どうにか相手を退場させよう、有利な状況を作ろうとしたり。僕が好きな理由は、そこですね。実際ドイツに行って本当に思いました。どうにかノーファールで相手を削ってやろうという。その駆け引きが好きなんです。
戦術的な部分で言うと、日本もそのあたりは長けているので。Jリーグの中でもいろんなチームがあって、キック&ラッシュもあれば、守備的なチームもあれば、ポゼッションもある。確かに欧州の戦術で、ペップ(グアルディオラ、マンチェスター・シティ)はすごいですけどね、本当に。
――テセさんの考えだと、戦術以前に戦い切るところなんですね。
はい。そもそも戦いですもん。ドイツで僕はすごく楽しかったです。体関係なしに当ててくるし、すぐ(攻守が)入れ替わるし。ガンガンチャレンジして、間に合わず入れ替わっても責められることはない。Jリーグはチャレンジしてかわされたらダメで、カバーリングの意識が大切にされますね。どちらが正解かは分からないですけど…。
飛び込んでスライディングしたら1対1になって、かわされる可能性が上がる。それだったら滑らずもう少し合理的にボールを刈り取ればいいとも思うんです。でも、そもそも根底の部分から考え方が違うので例えば「日本でチャレンジ OK だよ」となっても、できないかもしれない。エスパルスに来てずっと怒ってましたもん。「行けよ」って。「なんで引いてるの? 5分の状態で突っ込んでおけば、止められるだろう」って。
――今、若くして海外に行く選手も増えてきました。
どんどん行けと思います。全然環境が違うので。そもそもどこに勝つのかと言ったら Jリーグではなくて、世界で勝たなければいけない。1度きりの短いサッカー人生なので、選手はできるだけ上に行きたい。Jリーグで二ケタ取るのと、例えばブンデス2部で二ケタ取るのは価値がまったく違うんですよね。今シント=トロイデン(ベルギー1部)に日本人選手がいっぱい行っています。そこで活躍するのと、Jリーグで活躍するのでは違う話になる。欧州のお膝元にあるからビッグクラブの目にもつきやすいですから。
――ご自身も行かれて良かった?
それを知れたので。サッカー自体の質がまったく違うことを知れました。同じスポーツとは思えないような。
――テセさん、将来は指導者になろうと思っていらっしゃるんですか?
僕は指導者になりたいです。最近やっぱりそう思いました。
――では、そういうところ含めて植え付けていけますね。
はい。なのでエスパでもガミガミ言ってるし(笑)。根本的なところから変えていきたいと思います。
「民族性です」と言ったら、もうそこで終わりだから。日本人は優しいから。これが韓国はまた違うんですよ。世界に近いのは韓国だと思うんですよね。韓国の選手はやっぱり荒々しい。FWに仕事させないように精神的な駆け引きをしてくる。なんか小突いてきたり、ボールのないところでタックルしてきたり、何か言ってきたり。だからすごくイライラするんです。集中を切らそうとしてくるから。それに乗ったらダメ。あと球際もめちゃくちゃ強い、迷わずスライディング、タックルが入る。日本人の選手もヨーロッパに行ければそれはそれでいいんですけど、韓国修行もいいんじゃないかと思うときもあります。例えば育成年代とか。隣にあるんだから。
JリーグだったらCBは相手FWに嫌なことをしようとしない。いやいや、体張れよって思うんですけどね。前のプレイヤーの責任を取ってあげるのが、CBだから。センターバックは体張って止めて、カードをもらうのも仕事だと思います。
――面白いですね、テセさんのサッカー観。
僕のサッカー観、基本的には気合と根性なので(笑)。
――今後のご活躍を楽しみにしています。ありがとうございました。
■Profile
鄭大世CHONG Tese
1984年3月2日生まれ、34歳。181cm/80kg。愛知県出身。東春朝鮮初中級学校→愛知朝鮮中高級学校→朝鮮大学校を経て2006年川崎フロンターレに加入。10年ボーフム/ブンデス2部、12年ケルン/ブンデス1部に所属。ドイツでは通算3シーズンを過ごし、2部44試合出場14得点・1部5試合出場。13年、水原三星/韓国)移籍し3シーズンを過ごす(65試合出場20得点)。15年清水に加入。J1通算166試合出場63得点、J2通算37試合出場26得点。07年に北朝鮮代表に選出され国際Aマッチ33試合出場15得点。W杯南アフリカ大会に出場。屈強なフィジカルと決定力を持つストライカー。
■EURO SECCER FREAKSはこれからも選手・監督が続々登場!
12月22日の夜は金子翔太選手が登場!
プレミアリーグ第18節アーセナルvsバーンリー
◎今後の予定
【槙野智章選手】12/23 0:00~プレミアリーグ第18節マンチェスターCvsクリスタルパレス
【林陵平選手】12/24 1:00~プレミアリーグ第18節エヴァートンvsトッテナム
【谷口彰悟選手】12/26 23:00~セリエA第18節アタランタvsユヴェントス
【曹貴裁監督】12/27 0:00~プレミアリーグ第19節リヴァプールvsニューカッスル
【中谷進之介選手】12/27 0:00~プレミアリーグ第19節レスターvsマンチェスターU
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