What Amorim can learn from GlasnerGetty/GOAL

アモリムはパレスに学ぶべき?グラスナーが与える6つの教訓:システムは選手次第、ポゼッションに固執するな…

マンチェスター・ユナイテッドのルベン・アモリム監督は、就任から採用する3-4-3システムについて何度も、何度も批判されてきた。しかし、システム自体が問題なのではない。それをクリスタル・パレスとオリバー・グラスナー監督が証明し続けている。

2024年2月にパレスの指揮官に就任して以降、グラスナーは基本的には3-4-3システムを採用し続けてきた。そして2年も経たないうちに、クラブ初の主要タイトルとなるFAカップ優勝、さらにコミュニティ・シールドではリヴァプール撃破も達成。クラブ最長の無敗記録(公式戦19試合:約6カ月)を樹立した他、今季も前節終了時点で5位に導くなど、クラブ史上最高の時期をもたらしている。

だからこそ、アモリムはグラスナーから学ばなければいけないかもしれない。今回は、マンチェスター・Uがパレスから得るべき6つの教訓を考察する。

  • West Ham United v Crystal Palace - Premier LeagueGetty Images Sport

    選手に合わせた選択を

    アモリムは自身の指導者キャリア初のクラブであるカーザ・ピアACでの4試合目から、一貫して3-4-3を採用してきた。彼はこのシステムとともに評価を高め、スポルティングCPでは2度のリーグ優勝も達成していた。そして、マンチェスター・Uでもほぼ全試合でこのシステムを使っている。

    一方のグラスナーは、本格的に3バックを採用したのはフランクフルト時代からだ。『スカイスポーツ』のインタビューでは、「キャリアであらゆるシステムを経験してきたね。オーストリアでは4-4-2で昇格を果たし、その後3-4-3に切り替えた。ヴォルフスブルクでは4-2-3-1でチャンピオンズリーグ出場権を獲得した。そしてフランクフルトは私の就任前から3バックを採用しており、それがチームに合っていたんだ。私は常に、手持ちの選手に最も適したシステムを模索している。私自身は4-4-2を好むが、今のチームでこのシステムに適した選手がいるのかい?」と語っている。

    これは非常に重要な指摘である。現状、マンチェスター・Uにはいわゆるウインガータイプが多数在籍している一方で、ウイングバックとして効果的に活躍できるサイドバックがあまりにも少ない。そして2センターに適したタイプの中盤守備的な選手も足りていない。しかし、アモリムは頑なに自らのシステムを変えようとしない。特に前節エヴァートン戦(0-1)では明らかに調整が必要だったにも関わらず、だ。グラスナーの柔軟性とは対照的である。

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  • Liverpool v Manchester United - Premier LeagueGetty Images Sport

    ポゼッションへの固執を捨てろ

    ジョゼップ・グアルディオラとバルセロナは、すべてのチームにボール保持への執着をもたらした。しかし「ティキタカなんてクソ喰らえ」と語る彼は、マンチェスター・シティでさらにバランスへと回帰。チームを調整しながらタイトルを量産している。

    一方でアモリムは、どうしてもボール保持に固執するきらいがある。前節のエヴァートン戦は相手が退場者を出したこともあるが、ポゼッション率は70%。だが、一度もネットを揺らせずに敗れていた。

    そしてパレスは、ポゼッション率が低くても結果を残せることを証明し続けている。今季ポゼッション率はリーグワースト3位だが、順位は5位。マンチェスター・Uはポゼッション率で8位だが、順位は10位だ。そして彼らは、ポゼッション率が低いときこそを結果を残している。リヴァプール戦は37%ながら敵地で2-1の勝利を収め、チェルシー戦(2-1)も41%。ポゼッション率で明らかに上回って勝利したのはバーンリー戦のみである(サンダーランド戦は50.2%)。

    スポルティングCP時代にマンチェスター・シティを撃破した後、アモリムはこう語っている。「ユナイテッドでは我々のスタイルで戦うことはできない。あれほど守備的になるわけにはいかないんだ」と。しかし、それは本当なのだろうか? ソリッドな守備と鋭い攻撃で相手を苦しめるフットボールは十分に魅力的だ。10年ぶりにアンフィールドで勝利した一戦で、ポゼッション率の低さを嘆く人間はいたのだろうか?

  • Crystal Palace v Liverpool - 2025 FA Community ShieldGetty Images Sport

    信頼できるセンターフォワードを

    前回の直接対決では、パレスFWジャン=フィリップ・マテタがセンターフォワードとしての模範的なプレーを見せた。一方、コビー・マイヌーが偽9番として最前線に位置したユナイテッドは最後まで苦しんでいる。やはりプレミアリーグで鍛えられた強靭な肉体を持つストライカーは、絶対に欠かせない存在だ。しかし、ユナイテッドはそこから学んでいないように思える。

    今夏にストライカーが必要だったユナイテッドは、マテタも候補に上がっていたという。しかし、獲得したのはベンヤミン・セスコ。プレミアリーグ未経験の有望株に7400万ポンドを費やした。だが結局、プレミアリーグの要求やプレッシャーに耐えられていない。リヴァプール戦やトッテナム戦など、アモリムは重要な試合でマテウス・クーニャを偽9番として起用している。これが意味することはわかるだろう。

    一方でマテタは今季も6ゴールを奪い、過去2シーズンでは計30ゴールを奪っている。そして彼は得点だけでなく、最前線で相手センターバックに常に勝負を挑みながら起点となり続けている。パレスの明確な強みだ。2023年以降、3人のストライカーに1億8400万ポンドもの資金を費やしているユナイテッドは、彼らから学ばなければならない。

  • Nottingham Forest v Manchester United - Premier LeagueGetty Images Sport

    正しいサイドで正しいウイングバックを

    ウイングバックは3-4-3システムにおいて極めて重要であり、アモリムはこのポジションの選手から十分なパフォーマンスを引き出せていない。確かにアマド・ディアロは例外であり、ブライアン・エンベウモとも良好な関係を築いているが、ノッティンガム・フォレスト戦では守備の弱点が露呈した。利き足ではない右サイドでは守備時の不安がどうしても拭い去れず、それを補って余りある攻撃面での貢献も足りていない。

    ディオゴ・ダロトも同じく利き足とは逆の左ウイングバックとしてプレーする機会が多く、タッチライン際を縦に突破することが難しい。どうしても内側を向いてプレーすることになるが、これでは守備者は守りやすいだろう。名物“ご意見番”であるギャリー・ネヴィルとジェイミー・キャラガーは、エヴァートン戦でアモリムがパトリック・ドルグを下げてダロトを投入したことに激怒していた。

    一方のグラスナーは、よりシンプルなアプローチを採用している。右利きのダニエル・ムニョスを右ウイングバック、左利きのタイリック・ミッチェルを左ウイングバックで起用。ムニョスは2024年1月の加入から17ゴールに、ミッチェルは2023-24シーズン以降で11ゴールに貢献している。両者とも激しく上下動しながらゴールに関与し、『Opta』によるとプレミアリーグの走行距離ランキングで共に5位以内に入っている。ウイングバックの役割は、やはりチームの脚になること。アモリムはもう少しシンプルに考えるべきだ。

  • Crystal Palace v Nottingham Forest - Premier LeagueGetty Images Sport

    中盤構成の再考を

    2024年2月は、グラスナーが就任した以外にもパレスにとって重要な時期だった。2月2日の移籍市場最終日、ブラックバーン・ローヴァーズから2200万ポンドでアダム・ウォートンが加入したのだ。そして最後の7試合で6勝を挙げるというチームの躍進の立役者に。その間には、ユナイテッドを4-0で粉砕している。

    ウォートンは昨季ケガに悩まされたが、FAカップ決勝など重要な局面では確かな存在感を発揮した。そして今季も、心臓としてチームに活力を与えている。さらに昨季終盤からは、鎌田大地がこのポジションに定着。センスあふれる日本代表MFはピッチを広く動き回りながら攻撃にアクセントを加え、さらに抜群の状況把握能力で守備の安定にも貢献している。

    しかしユナイテッドは、この中盤底の2枚が安定しない。ブルーノ・フェルナンデスは相変わらずリーグ屈指の司令塔だが、彼が最も輝くのは一列前だ。守備の負担を軽くして攻撃により集中させるべきである。そしてカゼミーロはパフォーマンスを上げているものの、明らかに過負荷であり、60分以上プレーを続けることは難しい。メイヌーというポテンシャルあふれる才能がいるのであれば、3センターを試すことも考えるべきだ。

  • FBL-ENG-FACUP-CRYSTAL PALACE-MAN CITYAFP

    選手に自信を

    そして最後に、アモリム自らの振る舞いを。彼は試合に敗れると、パフォーマンスについて公の場で驚くほど率直に評価を下す。「我々は史上最悪のマンチェスター・ユナイテッドだ」と話す他、怒りに任せてモニターを叩き壊すなど、感情を表に出しすぎている。メディアの格好のネタだが、チームの士気にプラスにはならないだろう。

    一方のグラスナーは昨年4月、2点リードからマンチェスター・シティに2-5で敗れた後、記者に対して「試合後ペップに言ったんだ。もしまた対戦するなら、このシステムで戦うのはやめろと。我々がそれを攻略するからな」と冗談めかして語っている。本心がどこにあるかはわからないが、公の場で余裕を持った態度を見せることは非常に重要だ。そしてその1カ月後、パレスはFAカップ決勝でシティを下した。

    グラスナーの信念は誰もが見習うべきである。今季3度リヴァプールを撃破し、リーグでの敗戦数「2」は首位アーセナルに次ぐ記録だ。彼はこう話す。「上位チームを尊重することは重要だが、自チームを信じられなくなるほどすべきではないよ。常に『相手はアーセナルだ』『マンチェスター・シティだ』という意識では、決して勝てないんだ」と。

    降格危機にひんしていたパレスの指揮官に就任したグラスナーは、就任から約2年間でチームに「俺達はもっとできる」という信念を植え付けた。そして、実際にそれを証明した。ウォートンは『The Athletic』に対し、「彼は毎週のようにトップクラスの監督たちと対峙している。トップチームを倒すための解決策を提示しなかった試合は一度もないね……どんな相手に対してもだ」と話している。つまり、試合ごとに細かくアプローチを研究しながら対策を練り上げてチームにやることを明確にしている。アモリムは、そんな彼の姿勢から何かを盗む必要があるだろう。