Shim Mheuka Chelsea NXGN GFXGOAL

シム・ムエカ:チェルシーの次世代を代表する攻撃的才能の持ち主は、大金を浪費するブルーズに数百万ポンドの節約をもたらすか【NXGN】

「僕はテレビの前で、いつかチェルシーのユニフォームを着てスタンフォード・ブリッジのピッチに立つ日を夢見ていた。サッカーを愛する子供なら、誰もが頭の中に描く光景だと思う。僕の場合、それはいつだってブリッジだった」

シュマイラ・『シム』・ムエカは2024-25シーズンにその夢を実現し、同世代のアカデミー卒業生の中で最新のトップチームデビューを果たした。ブルーズが保有する数多くの選択肢の中で競争力を維持するという過酷な任務に直面しつつ、これが始まりに過ぎないことを願っていることだろう。

このところのチェルシーは信頼できるストライカーの不在が続いているが、ムエカは未来の救世主となる可能性を秘めている。コバムから現れた最新の攻撃の至宝であり、17歳で世代最高の才能のひとりと言われるこの選手について、知っておくべきすべてを紹介しよう。

  • Charlton Athletic v Chelsea U21 - Bristol Street Motors TrophyGetty Images Sport

    すべての始まり

    ムエカはジンバブエ出身の両親のもとにバーミンガムで生まれたが、実際にアカデミーに初めて足を踏み入れたのは、170マイル(約27キロ)離れた南海岸でのことだった。

    チェルシーがブライトンの選手を次々と獲得する動きは、もはや冗談の種となっている。今夏には6,000万ポンド(約119億円)の移籍金でジョアン・ペドロがスタンフォード・ブリッジでモイセス・カイセドやマルク・ククレジャに合流したが、この若手ストライカーもそのひとりなのだ。

    ムエカは9歳でシーガルズのアカデミーに入団して急速に成長し、14歳でU18チームでデビューを果たした。いずれトップ入りをすることは確実視されていた。

    当時、アカデミーを専門とする『ザ・シークレット・スカウト』で「ユースでプレーする最もエキサイティングなストライカーのひとり」と評されていたムエカは、2022年7月、15歳で幼少期から応援していたチェルシーに移籍。後にブルーズは100万ポンド(約2億円)の巨額な保証金を払うよう命じられたが、この額は出場ボーナスを考慮すると425万ポンド(約8億円)という(比較的)とんでもない額に増加する可能性があった。

    ムエカはその年の10月、16歳の誕生日直後にチェルシーのU18チームでデビューし、2-1で勝利したウェストブロムウィッチ戦でアシストを記録した。翌シーズンは学校とサッカーを両立させながらU18チームのレギュラーとなり、全公式戦で20試合に出場して12得点を挙げ、2024年7月、特待生契約を締結した。

  • 広告
  • MheukaGetty

    大躍進

    U18チームに定着するかと思われたムエカだったが、早くも2024-25シーズンの序盤にはU21チームに昇格し、西部ロンドンでのライバルチームであるフラムとの試合で初得点を挙げるなど、その活躍が評価され、カンファレンスリーグのグループステージを戦うエンツォ・マレスカ監督率いるトップチームに招集された。

    17歳になってクラブと初めてのプロ契約を結んだムエカは、カザフスタンでのアスタナ戦に向けた往復7,000マイル(約1万1,200メートル)の遠征にマレスカ監督が若手中心のメンバーを招集したことで、カンファレンスリーグの第4節でトップデビューを果たした。

    この若きFWは、マイナス11度の極寒の中、後半33分から途中出場した。滅多にない環境でトップチームでのデビューを飾ったのである。「あの瞬間のことは、一生忘れないだろう」と、ムエカはチーム内でのインタビューで語っている。「遠征メンバーに選ばれたことだけでも興奮していたけど、ピッチに足を踏み入れて、デビューできたことは本当に素晴らしかった」。

    「ピッチの脇に立ったとき、深呼吸をして、なぜここにいるのかを自分に言い聞かせた。頭の中で100回も夢みてきた瞬間だったけど、あの瞬間、自分は準備ができていると感じた。毎日毎日、舞台裏で努力を重ねてきただから、このチャンスを最大限に生かしたいとばかり思っていた」

  • FBL-ENG-PR-CHELSEA-SOUTHAMPTONAFP

    その後

    あれがどういう試合だったかを考えれば、ムエカは自分がこれからトップチームで出場し続けられるだろうとは思っていなかっただろう。だが、ムエカはU21チームで成長を続け、ついにプレミアリーグへのデビューを果たすこととなる。

    2月下旬、アストン・ヴィラに負けた試合でベンチ入りしていたムエカは、数日後、4-0で勝利したサウサンプトン戦で、後半アディショナルタイム中のごく短い時間ながら、スタンフォード・ブリッジのピッチに立ったのである。

    「プレミアリーグへのデビューを果たせたこと…言葉では言い表せない」と、ムエカはチェルシーの公式サイトで語った。「スタジアムの雰囲気、エネルギー、サポーターの情熱——すべてが一気に押し寄せてきた。ファンの声、ゲートを叩く音、チャント。鳥肌が立ったよ。幼い頃から夢見てきたことが、ついに現実になった瞬間は、想像以上だった」。

    「僕はまだ若すぎて、ファンには知られていないのではないかと思っていた。ところが、信じられないことが起こった。ファンの一人ひとりが僕の名前を呼んでくれたんだ。集中力を保ってゾーンに入ろうとしたけれど、あの瞬間は特別だった。あれこそ、僕がサッカーをする理由だ。チェルシーのユニフォームを着てブリッジで経験したことは、一生忘れない」

    その後、ブルーズがトップ5入りを争う間、ムエカのプレミアリーグでの出場機会はなかったが、カンファレンスリーグでより多くの出場機会を得ることとなる。特に、ベスト16でのコペンハーゲン戦の第1戦で先発出場し、ヨーロッパでの試合に出場したチェルシーの最年少選手としての記録(当時)を樹立。さらに、ユールゴーデンとの準決勝ではホームでの第2戦に後半から途中出場した。

    国際舞台でも、この10代の選手はU15からU19代表までイングランド代表としてプレーした。今夏、ルーマニアで開催されたU19欧州選手権では2アシストを記録したものの、ヤング・ライオンズのグループステージ敗退を阻止することはできなかった。

  • Shim Mheuka ChelseaGetty

    最大の強み

    17歳にして身長185cmの堂々たる体格を誇るムエカは、まだ成長の余地があるにもかかわらず、すでに対戦相手から強力な選手として恐れられている。しかし、彼は、伝統的な「ビッグマン」の型に収まるような選手では、まったくない。

    FWとしての技術にも優れており、シュートポジションでボールを正確にコントロールし、冷静に狙いを定めることができる。また、深い位置でボールを保持し前線へ突破する能力もあり、優れたキープ力で時間を稼ぎ、パスを繋いだりファウルを誘ったりすることも可能だ。

    これらの特性に、彼の多才さが現れていると言えよう。ムエカはセカンドストライカーとしても、背番号10としても、または、ワイドのポジションでもプレーできるのだ。

    この若者が成功するためのメンタルも備えていることは明白で、彼はそれを両親から譲り受けたと言っている。「今のようなチャンスは簡単に手に入るものではないことはわかっている。だから、それが訪れたことに感謝しなければならない。クラブや監督、家族にも感謝している」と、彼は言う。

    「一番大きく影響を受けているのは、父だ。父とともに、あらゆることを乗り越えてきた。僕はサッカーが好きでプレーしているけど、父のためでもある。母も僕がまだ17歳であることを思いださせてくれる。ミスをしたって大丈夫だと言ってくれるんだ。みんな、そうなんだよ、って。時には、その言葉が支えになることがある。感謝している」

  • Chelsea FC v Djurgarden - UEFA Conference League 2024/25 Semi Final Second LegGetty Images Sport

    伸びしろ

    ムエカのプレーには、成長途上の若手ストライカーにありがちな、明らかな欠点は見当たらない。経験を重ねて、アタッキングサードでの判断力を磨きたいと思っているだろうし、シュートを放つ機会を増やして、さらに安定してチャンスを活かせるようになりたいだろう。また、空中戦の能力は、成長と共にもっと向上するに違いない。

    厳しく言えば、ボールを受けるために深く下がる際のポジション取りに改善の余地がある。時折、相手DFに阻まれたり、八方ふさがりの状況に陥ったりする場面が見受けられるのだ。

    しかし、現時点で、チェルシーはムエカの成長に満足しているだろう。ブルーズの手中には、明らかにまだ多くの可能性を秘めている至宝があるのだ。

  • Manchester United FC v Arsenal FC - Premier LeagueGetty Images Sport

    次のザークツィーか

    彼のテクニックと多才さを考えると、現在最高峰のレベルでプレーしている選手の中で彼の比較対象として最も適切なのは、おそらく、マンチェスター・ユナイテッドのオランダ代表FWジョシュア・ザークツィーだろう。

    チェルシーのファンにすれば、オールド・トラッフォードで得点力と安定性に苦戦しているザークツィーと比較するのはいかがなものかと思うかもしれないが、ムエカと同じく、ザークツィーは伝統的な背番号9ではなく、深く下がってプレーを繋ぐことに長けており、技術的な能力は卓越している。

    数字は控えめだが、24歳のザークツィーの総合的なプレーは多くのマンチェスター・Uのファンを感動させ、シーズン終了直前にハムストリングを負傷するまでは、2024-25シーズンが進むにつれ自信を深めていっていた。

    ムエカも同様で、大いに得点力のあるセンターFWではないものの、周囲の選手と連携して司令塔としての役割も果たせる。それにザークツィーがシーズン中ずっと苦戦していたチームの一員だったことを忘れてはならない。

  • Chelsea FC v Djurgarden - UEFA Conference League 2024/25 Semi Final Second LegGetty Images Sport

    今後への期待

    カンファレンスリーグは、2024-25シーズン、アカデミー出身の若手選手にトップチームで有意義な出場機会を与えたいと思うチェルシーにとって理想的な舞台だった。だが、来シーズンはチャンピオンズリーグに復帰するため、若手たちの出場機会は大幅に減少することだろう。とりわけチェルシーは、ペドロとジェイミー・ギッテンスの加入に加え、ブラジル出身の神童エステヴァンの獲得で攻撃陣の強化を継続しているのだから。

    実際、ムエカやコバム出身の選手たちは、他チームからの新戦力の加入により、やや不安定な立場に置かれていると報じられている。

    この17歳の選手にはレンタル移籍が有力視されており、チャンピオンシップでのプレーや、もし準備が整っていればBlueCoがオーナーであるストラスブールに加入してリーグ・アンで経験を積み、大きくステップアップできる可能性がある。

    だが、まだ17歳なのだから、U21とトップチームを行き来して、もう1シーズンを過ごすことも選択肢のひとつである。その間、練習場のピッチでの経験でさえも積みあげ続けるべき貴重な経験となるだろう。チェルシーは手中にある至宝の価値を認識しており、慎重に扱いたいと考えているはずだ。