Pochettino Chelsea hope GFXGOAL

苦しみながら成長するポチェッティーノ・チェルシー。最高の姿を見せるのは来季か

スタンフォード・ブリッジでまたしても深刻な5カ月が過ぎ、マウリシオ・ポチェッティーノ監督がチェルシーに何らかの奇跡をもたらしてくれるだろうという希望もしくは期待は消えた。このアルゼンチン出身の戦術家が直面してきた途方もない任務の規模がすべてあからさまになり、これまでのところ、ブルーズは12位で終わった悪夢のような2022-23シーズンに続いて順位表の中位争いから抜け出せないでいる。

しかしながら復調の兆しはある。2022年10月以来となるリーグ戦3連勝を果たしたチェルシーは、6位のウェストハムに勝ち点で僅差に迫りつつあり、クラブに現代サッカーでの成功をもたらしてきた気概のようなものを見せるようになってきている。

それでも、昨シーズンの失墜の大きさを考えると、結論を出すのはまだ早い。ポチェッティーノ監督は苦心してチームを正しい方向に導こうとしているが、最高の姿を見られるようになるにはまだ時間がかかりそうだ。

  • Christopher Nkunku Chelsea 2023-24Getty

    続発するケガ

    今シーズンのチェルシーでケガが続発していることは明らかだ。ブルーズは、2022年ワールドカップがシーズンさなかに行われたことの後遺症とみられる、前例のないケガの危機に見舞われたクラブのひとつであり、ポチェッティーノ監督はこのチーム力の急落に対処しなければならなかった。

    もちろん、大金を浪費する西部ロンドンの人々への同情の曲を奏でるのは世界最小のバイオリンであろうが、シーズン開幕からまもなく6カ月になろうとする中、アルゼンチン出身の戦術家は未だに、可能なかぎり最強のラインナップを手に入れることができないでいる。

    夏に加入したクリストファー・エンクンクは、チェルシーが彼に5,200万ポンド(約98億円)を支払って、定評あるストライカーとの契約を断わったゆえの大きな責任を抱えているが、結果的にシーズン前半を棒に振っているし、同じく夏に契約したロメオ・ラビアは、2つのケガの間にたった32分しかプレーできないでいる。復帰すれば、「新しい契約を交わしたような気分になるだろう」という以上にふさわしい言葉はない。

    守備の要であるリース・ジェームズ、ウェズレイ・フォファナ、マルク・ククレジャも長く戦列を離れているし、ベン・チルウェルはハムストリングの故障から復帰したばかりで、マロ・ギュストも故障を抱えている。

  • 広告
  • Pochettino Boehly Caicedo Chelsea GFXGetty/GOAL

    前代未聞の激動

    際限のない故障者リストのせいで、前代未聞の激動の夏の後、コブハム・トレーニングセンターの中では、いつ終わるともしれない流動的な状態が続いている。チェルシーが新たに任命した意思決定者たちは、みじめな2022-23シーズンの終わりに当然のことながらチームの大改造に取りかかった。無慈悲にも効率を優先して21人もの選手の放出を貫徹し、世界記録となる4億5,000万ポンド(約846億円)もの資金を使って21人の選手を獲得した。ベーリー氏とクリアレイクのもとでクラブが使った金額は10億ポンド(1,880億円)を超える。

    選手を売却して得た2億ポンド(約376億円)は、ファイナンシャル・フェアプレー規則(FFP)に何とか合致するためには非常に貴重なものとなるだろうが、ポチェッティーノ監督が共同スポーツディレクターのローレンス・スチュワートとポール・ウィンスタンリーが主導した夏の移籍戦術に貢献するには、仕事に取りかかるのが遅すぎたため、事が終わった後に事態を取りまとめるべく取り残された感がある。

  • Mauricio Pochettino Chelsea 2023-24Getty Images

    さらなる手当が必要

    さらに、こうした選手の出入りにも関わらず、未だに完成形が見えてこない。チェルシーに攻撃の先陣を務める信頼に足るストライカーがいないことは周知の事実で、コナー・ギャラガー、エンソ・フェルナンデス、モイセス・カイセドといった先発メンバーの後ろに控える中盤の選手層はとてつもなく薄い。

    全員が完璧に揃えば、ディフェンスにも十分に選手はいる。だが、2018年にティボー・クルトワがレアル・マドリーに行ってしまって以降、ゴールキーパーの問題が続いている。ケパ・アリサバラガとロベルト・サンチェスも長期的な解決策とはならず、ジョルジェ・ペトロヴィッチが最高レベルの選手であるとは言い難い。

    再び遠くで小さなバイオリンの音(言い訳)を聞くこともあるかもしれないが、完璧なチームになるべきチェルシーにとって、不足している部分を埋めるためにもう3件は契約が必要なのは間違いない。

  • Mauricio Pochettino Cole Palmer splitGetty Images

    アイデンティティの兆し

    こうした相対的な逆境に対して、ポチェッティーノ監督は現在、選手たちのパフォーマンスを大いに改善させてきており、チームに居座っている昨シーズンの倦怠感を振り払うべく戦っている。確かにもっとよくなる可能性もあるが、ブルーズはチーム全体の得点力不足を克服し始めたばかりであり、監督が選手たちに自身のサッカー哲学を刷りこんでいる兆しが見え始めたところだ。

    悪夢の2022-23シーズンのチェルシーには、絶望的にアイデンティティが欠けていたが、監督のハイ・プレッシャーでポゼッション重視の前がかりな戦法を発揮したパフォーマンスは断続的に成功しており、移籍市場の締切日でのコール・パーマーとの契約は、チェルシーの攻撃に特別な変革をもたらすものである。

    こうした全体的な改善は進んでいるものの、昨シーズンの嘆かわしいパフォーマンスの名残が散在しており、このチームがコンスタントに最高のプレーを見せてくれるようになるまでには、まだ時間がかかるのは間違いない。

  • Mauricio Pochettino Chelsea 2023Getty Images

    「遠く離れている」

    確かに、監督自身は目の前の仕事について何の幻想も抱いていないし、今シーズン前半が現代サッカーにおけるチェルシーの高水準のサッカーから見れば十分でなかったことを、誰よりもわかっているのは監督である。だが彼は断固として、ケガ人が多いことを言い訳にしている。

    「我々は(目標から)遠く離れている」と、指揮官は最近語っている。「誰がなんと言おうと、我々の目標はトップに立つことである。だがさまざまな事情により、我々は別のことのために戦っている。我々はチェルシーである。チームの歴史は我々にトップに立つことを要求している」

    「今のところ、もっと試合に勝つためには戦う方法を増やす必要がある。もっとうまく戦う必要がある。シーズン当初からパフォーマンスは悪くなかったと思っている。とてもよかったと言えるだろう。だが、競争力という点において我々は底辺にいる。順位表の上位にいられないのはそのためだ」

    「サッカーにおいては知識や才能、準備が必要だ。だがサッカーとは、90分で戦わなければならないスポーツだ。サッカーをどうプレーするか示さなければならない。その点は改善する必要がある。すべての選手が(うまく)揃って、一丸となって時間を過ごさなければならない」

  • Mauricio Pochettino Chelsea Manchester City Premier League 2023-24Getty

    成功への決意

    ポチェッティーノ監督がスタンフォード・ブリッジの指揮官になったこの短期間、最もチームを勇気づけたことは残酷なほど正直であることと、監督として成功してみせるという明確な決意であった。

    短く呪われた在任期間過ごしたグレアム・ポッターの後、暫定ではなく監督となったポチェッティーノ監督は適切なバランスを保っているように見えるし、自身の任務に心から立ち向かっていることは明らかである。彼としては、成功は時間の問題なのだ。

    「5、6カ月経っても、我々は苦しんでいる。だが、これは挑戦すべきことなのだ」と、12月に彼は言った。「私は動揺してはいるが、我々にとってとても良いことだと思っている。こんな順位にいたくはないから良い気分ではないが、これは我々が決してあきらめることなく続けていく挑戦である。我々は戦い続ける」

    「とんでもなく大きな挑戦だが、我々は成功できると本気で信じている。時間の問題だ。確かに、サッカーで最も難しいことは、思うような結果が出ないときに信じ続けることだ。我々は必ず成功する。きっとそうなる。多分、今日は『この監督はクレージーだ』と思われるかもしれない。だが、私は本気だ。自分が何をしているか、わかっている」