チャンピオンズリーグで5度の栄冠に輝き、バロンドールを5回受賞し、ポルトガル代表としてユーロを制し、個人としても数えきれないほどのタイトルを獲得しているクリスティアーノ・ロナウドは今、サッカー界最大の栄冠を手に入れようと、照準を定めている。だが、その道のりは果てしないものになるだろう。
■まさにエリートだった少年時代
C・ロナウドの経歴はこれ以上ないほどに完璧だ。10歳でマデイラ諸島最大のクラブであるCDナシオナルに入り、たちまち年上の少年たちを差し置いて、ブリテン諸島で最も優秀なサッカー少年とみなされるようになった。11歳になると、ポルトガル本土のスポルティング、つまり国内最高のアカデミーに入り、弱冠18歳にしてマンチェスター・ユナイテッドと契約した。
「彼はチームのキャプテンだった」と振り返るのは、最初のクラブであるナシオナルで指導したペドロ・タリニャス氏。『Goal』で「最初の年はジュニアだったのに、3歳年上の少年たち相手に何度も試合をしていた。そんな中にいても、目立つことが多かったんだ。誰が見ても、とてつもない能力、とてつもない可能性を持った少年だった」とゴールデンボーイを思い起こす。
スポルティングでも、彼はポルトガルで最高のユースシステムから出現した、才能ある選手であり続けた。その当時でも、ウイングとして特別な才能があったのだ。
「当時、素晴らしい若手選手は3人いた」と、スポルティングでチームメイトだったアンドレ・クルスは『Goal』に語る。
「リカルド・クアレスマと、スポルティングからニューカッスルに行ったウーゴ・ヴィアナと、クリスティアーノだ」
「3人とも才能があったけど、ロナウドは別格だった。彼は疲れ知らずだったね。かつ真面目で、だからこそ今のような偉大なチャンピオンになったんだ。才能にも運にも恵まれ、可能性もあった。フィジカルもずば抜けていて、ほとんどケガもしなかったのを覚えているよ」
■世界最高のクラブでもレジェンドに
Goal現在33歳のロナウドは、2008年にマンチェスター・Uでチャンピオンズリーグ初優勝を果たし、その後レアル・マドリーで4回、計5回、ビッグイヤーを掲げた。
これは選手としては、1956年から1966年の間に、6回ヨーロッパカップを制したフランシスコ・ヘントに次ぐ、2番目の記録である。
「あれらすべてを成し遂げたクリスティアーノは、真のレアル・マドリーのレジェンドだ」と『Goal』に語ってくれたのはレアル・マドリーの元GKパコ・ブーヨだ。
「彼はあらゆる意味でスターだ。彼はすべてをレアル・マドリーで勝ち取り、母国の代表としてユーロまで制した。彼の才能は明らかで、けた外れと言うべきだね」
レアル・マドリーの多くの若きファンにとって、ロナウドはクラブ史上最高の選手だ。438試合で450得点という驚くほどの数字を残し、すでにクラブ歴代最多記録を塗り替えている。チームのレジェンド、アルフレッド・ディ・ステファノ(308得点)やラウル・ゴンサレス(323得点)を超えているのだ。
一方、数字の上では先を行っていながら、「アルフレッドは怪物だった」と話したのは元アルゼンチン代表GKウーゴ・ガッティ。ガッティはディ・ステファノの好敵手であったのみならず、監督としてのディ・ステファノの下でプレーもしている。
「私にとって、ヨーロッパのサッカーに革命を起こした選手といえば、アルフレッド・ディ・ステファノだ。クリスティアーノはアルフレッドの次だ」
「ただ、クリスティアーノは、学ぶことをやめない男だ。彼は勝つために生まれてきた男で、偉大なストライカーだ。彼はすべてを勝ち取りたいと望み、つねに進化している」
■ポルトガル代表でも歴史に名を残す
Goal一方ポルトガルでは、ロナウドの名前は、エウゼビオやルイス・フィーゴといった伝説のスターとともに語られている。しかもこの2人は、ポルトガル代表で国際的なタイトルを取ることができなかったのに対し、クリスティアーノはユーロ2016の優勝メンバーの一人である。さらに、ポルトガル代表歴代トップの81得点を挙げていることを忘れてはならない。
「彼はエウゼビオやフィーゴといったレジェンドを超えている」と、ユナイテッドでチームメイトだったリオ・ファーディナンドは語り、「とっくの昔にね」と付け加えた。
「彼らは偉大な選手だった。しかし、フィーゴは、自分がロナウドと同列ではないことを知っている。数字は嘘をつかない。ロナウドは試合に勝ち、試合で活躍し、過去も現在も、得点表のトップにいる」
チャンピオンズリーグ制覇、バロンドール受賞、国内リーグやカップ戦、スーパーカップ、クラブ・ワールドカップでの成功、2年前のユーロ制覇……ロナウドはサッカー界において最も表彰されている選手の一人だ。
■W杯制覇の可能性は…
そして今、彼はワールドカップに照準を定めている。33歳の彼にとって、これが優勝する最後のチャンスだ。
しかし、元チームメイトで母国代表についてもよく知るクルスは、W杯制覇が決して簡単ではないことをよくわかっている。
「ポルトガル代表には優れた選手が多いけれど、優勝は難しいだろう。世界中の最高の選手に囲まれてプレーできるレアル・マドリーとは違う」
「アルゼンチン代表での(リオネル・)メッシと同じだ。メッシのバルセロナのチームメイトは、次元の違う選手ばかりだ。だが代表では、その国に属する選手たちだけで戦わなければならない」
ポルトガルの人口は1000万を超える程度で、スペイン、ブラジル、アルゼンチンなどのより人口の多い国と比べれば、主要大会で大いなる成果をあげているといえる。2016年のユーロ制覇は、この国にとって、まさにスペクタクルな快挙であった。
■過去のW杯は…
Goal開催国でありながら決勝でギリシャに敗れて苦い思いをした2004年のユーロと同じく、2016年のユーロは、ロナウドの涙とともに語り継がれていくだろう。
若き日のクリスティアーノは、フル代表としての初めての大会で敗れて涙したが、2016年のパリでも涙を呑んだ。2年前に負った古傷のせいで退場する羽目になったからだ。それでも、ベンチからロナウドの鼓舞を受けたチームは、延長戦の末に歓喜の優勝トロフィーを掲げることとなった。
ロナウドの母親を説得し、若きスターとしてリスボンへ旅立たせることを同意させ、彼をスポルティングへ移籍させたブローカーを手助けしたジョアン・マルケス・デ・フレイタス氏は「クリスティアーノはマデイラ諸島の出身であることに誇りを持っていて、ポルトガルのためにプレーすることに誇りを感じている。代表のユニフォームを着た彼を見れば、彼のプライドの強さがわかるだろう」と話し、過去の大会を振り返る。
「2004年に泣いたのは、代表としてもう少しのところで優勝できそうだったからだ。2016年には、彼がケガで退場したとき、代表のメンバーたちが彼とともに泣いた。だが、あのときはハッピーエンドに終わったね」
一方で、「もちろん、ワールドカップは最大の夢だ。彼にとってすべてだろう。だが、優勝は難しい」と現実も突きつけている。
■苦しい経験も糧に

実際、フレイタス氏の意見を「素人目線」とないがしろにすることはできない。2006年、ロナウドを中心に据えて準決勝に進出したのが、この地球規模の大会におけるポルトガルの最高成績である。
5度のバロンドール受賞者が、ワールドカップで初めてゴールを決めたのは、グループステージでのイラン戦、2-0で勝利したときにPKを決めたときだった。ポルトガルは3勝して決勝トーナメントに進出し、オランダに1-0で勝利したが、両チームが退場者を出して9人ずつになるという、大荒れの試合だった。
そして、準々決勝も論争の的となる試合となる。ウェイン・ルーニーが、リカルド・カルヴァーリョを踏みつけて退場になったのだ。ルーニーへの抗議をリードしたのは当時チームメイトのクリスティアーノで、マスコミは、ルーニーへのレッドカードのシーンでの彼の姿を何度も取り上げた。ポルトガルのベンチにウィンクする姿が、論争をたきつけたのだった。
それらすべてをもろともせず、ロナウドはPK戦でシュートを決めて、ルイス・フェリペ・スコラーリ監督率いるポルトガルをベスト4に導いた。準決勝のフランス戦では、イングランドが決勝への道を切り開くのを見られると信じてチケットを買っていた、何千人ものイングランドファンから、激しいブーイングを浴びた。結局のところ、ポルトガルは未来のレアル・マドリー監督、ジネディーヌ・ジダンにPKを決められ、敗れたのであった。
「あのときのクリスティアーノはつらかっただろう」とフレイタス氏は言う。
「彼を嫌う大勢の人が待つ、マンチェスターに帰らなければならなかったのだから」
「だが、彼がそれまで道を切り開いてこられたのは、その強い性格のおかげだったし、むしろ、以前よりもファンの間で人気を高めたね」
数年後、ロナウドは、前年の2月から代表としては得点を決められないまま、南アフリカ・ワールドカップに出場。グループステージでは北朝鮮に7-0で勝利したときに、最後のゴールを決めたものの、それだけだった。カルロス・ケイロス監督の下で、チームはまとまりを欠き、後に優勝するスペイン相手にベスト16で敗れ、4試合中3試合で無得点だった。
2014年のブラジル大会は、ロナウドにとってさらにフラストレーションのたまる大会だったかもしれない。シーズンをケガで終え、大会中ずっと膝の問題を抱えていた。グループステージの最後のガーナ戦で、80分に得点し、3大会続けてワールドカップでゴールを記録こそしたが、それでも残念ながらポルトガルは、グループステージで敗退することとなった。
■ラストピースはロシアに

つまるところ、ワールドカップにおいて「CR7」の運命は、非常に複雑なものとなっている。
それでも、クラブではタイトルを総なめにし、2016年には母国にタイトルをもたらした男である。この夏のロシアでのワールドカップは、彼にとって大きなチャンスであることに変わりはない。
クルス氏は「クリスティアーノは怪物だ」と認めつつ、あくまでもポルトガルはダークホースの一つに過ぎないとの見解を変えない。
「ポルトガルはスペインやドイツ、ブラジルほど強くない。サプライズはいつでも起こりうるものだし、彼にも希望はある。だが、ポルトガルは、ロシアでの優勝争いに関しては、大穴のチームの一つだ」
確かに、賭けの倍率にも、そうした考えが反映されている。ヨーロッパチャンピオンのポルトガルのオッズは、ブラジル、ドイツ、スペイン、フランス、アルゼンチン、ベルギー、イングランドの下に位置している。
今のところ、ユーロ2016でのポルトガル代表の優勝はサプライズとみなされており、フェルナンド・サントス監督率いるポルトガルは、優勝候補には挙げられていない。ファーディナンドもこのように語る。
「ロナウドがポルトガル代表としてワールドカップを優勝できるチャンスは、限られていると思う。あのチームは確かにユーロでは優勝した。でも、あの大会には飛びぬけたチームはなかったからね」
しかし、元同僚として“怪物”を間近で見てきた男は、あらゆる可能性を否定しないことも忘れなかった。
「だけど、クリスティアーノ・ロナウドがチームにいれば、どんな試合も、最後の最後まで何かが起こるチャンスが必ずある。彼はそういう男だ」
「彼はいつだって、何かを生みだす。クラブでも、代表でも。クリスティアーノがいるポルトガルを無視することなんてできないね」

ロナウドにとって、これは不朽の名声を勝ち得るチャンスだ。昨年末、5度目のバロンドールを受賞し、ゴールデンボールを5回受賞したメッシと並んだとき、彼はこう言った。
「僕は史上最高の選手だ」
ワールドカップを制することは、この言葉が真実であることを証明することにはならないかもしれない。それでも、賞レースにおいて、ライバルたちに――特にアルゼンチン代表のストライカーに――差をつけることはできるだろう。
獲得すべき他のあらゆる賞を手に入れている彼にとって、ワールドカップは、ジグソーパズルの最後のピースだ。
文=ベン・ヘイワード/Ben Hayward

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