vinicius pique(C)Getty Images

【徹底分析】一時代の終焉…クラシコが「ただの一試合」に落ちぶれた理由を西紙分析担当が紐解く

バルセロナ対レアル・マドリー。近年サッカー界を牽引してきたスペイン強豪同士による“エル・クラシコ”が24日に開催された。

カンプ・ノウで行われた今季最初の大一番は、アウェイのレアル・マドリーが32分にダヴィド・アラバの強烈なシュートで先制に成功。その後なかなか試合は動かなかったが、後半アディショナルタイムにレアル・マドリーがルーカス・バスケスのゴールで追加点。その直後にセルヒオ・アグエロに1点を返されたが、2-1で制している。

しかし、この試合を分析するスペイン『as』の試合分析担当、ハビ・シジェス氏は「今日行われたのは、ただの一試合だった」と振り返る。「明らかに衰退した」と断言した。その理由を分析する。

以下に続く

文=ハビ・シジェス/スペイン紙『as』試合分析担当
翻訳=江間慎一郎

■明らかな衰退

クラシコがフットボールという概念そのものの時代があった。世界中がフットボールの潮流やスタイルを確かめるために、この伝統の一戦を目にしていた時代が――。しかし、それも今となっては過去の話である。バルセロナ対レアル・マドリー、もしくはレアル・マドリー対バルセロナは明らかに衰退してしまっている。今回のカンプ・ノウでの試合はフットボール的なクオリティーが低く、世界のフットボールシーンに影響力を与えるものではなかった。マドリーが勝利したのは個々のタレント力で勝り、よりチームとして成熟していたため。ただし「ロナルド・クーマンのゲームプランによって沈没したバルセロナよりも圧倒的に優れていた」というわけでもなかった。 

この一戦のマドリーはとことんプラグマティックだった。今季序盤に様々な試みを行ってきたカルロ・アンチェロッティは、ここで今一度1-4-3-3を使用。前試合ディナモ・キエフ戦で効果的に機能したシステムとスタメンを繰り返している。イタリア人指揮官は勝利がピッチ上のスペースにあることを、バルセロナからボールを奪取した後のトランジションにあることを理解していた。そのためにチャンスが現れるのを待って、そこからゴールを具現化すれば良かったのである。

一方のバルセロナは、構造的レベルについては良かった。デストを右ウィングとして起用する1-4-3-3を使い、マドリー陣地で試合を進め、ボールを失えばそれを素早く奪い返そうとして、最終ラインはとても高く設定されていた。ガビとフレンキー・デ・ヨングがそれぞれトニ・クロースとルカ・モドリッチを追いかけ回してマドリーの窒息を狙い、前に出ていく守備が世界一のセルヒオ・ブスケッツが攻撃の芽を潰しにかかり、その背後でエリック・ガルシアとジェラール・ピケがカリム・ベンゼマのカバーに注視。ポジショナルなレベルにおいてバルサはすべきことを把握していたし、試合展開をクロースとモドリッチ次第にさせないことは間違いなく大切だった。ただ、すべてのツボを押さえていたとは言い難い。 

■輝いたヴィニシウス

vinicius real madrid(C)Getty Images

バルセロナが前からプレスを仕掛けてくるのを見たマドリーは、ビルドアップの手段をダヴィド・アラバの左足に限定することもためらわず。オーストリアDFはオスカル・ミンゲサとエリック・ガルシアの間を狙ってロングボールを送り、そこにヴィニシウス・ジュニオールを走らせている。そして、この試合のヴィニシウスは凄まじかった。これまで何度も嘲笑や批判の対象となってきたブラジル人FWだが、そんなものは不当でしかなかったのだ。彼には真の才能がある。ヴィニシウスは様々な形でバルセロナを狂わせていった。ミンゲサ(彼の次にはデスト)の後方を突くほか、サイドでボールを受けてから1対1での突破も図り、加えてプレーの流れを読む力が向上したために緩急もつけることができていた。

文句のつけようがないほど完璧なヴィニシウスは、バルセロナの構造的な弱点を暴き出している。バルセロナの2失点はどちらもメンフィス・デパイのボールロストから生まれたが、そのどちらも防ごうと思えば防げていた。0-1とされる場面ではメンフィス&ミンゲサがアラバ&ヴィニシウスをファウルで止められたはずだし、飛びつかない守備で速攻のスピードを落とすことだってできたはず。しかし、そうした意識がまるで足りないバルサは、ブスケッツがボールを奪えなければ、すぐさま危機的状況に陥いることになった。

■勇敢でないバルセロナ

koeman barcelona(C)Getty Images

バルセロナは攻撃面においても、いくつもの欠陥を露呈している。彼らは中央での質の高いプレーが足りていない。アンス・ファティとメンフィスのポジション交換は混乱を生み出し、パス回しはスピードを欠いていた。またジョルディ・アルバがオーバーラップし始めたのはビハインドを負ってからと、ここにもクーマンの采配的ミスが見受けられる。勇敢でないバルセロナなど、絶対にバルセロナにはなり得ない。加えて、最初にアンスを1トップとして起用した意図も理解しかねる。マドリーの最たるウィークポイントはルーカス・バスケスのはずだし、バルセロナで最も違いを生み出せるのはアンスのはず。アンスが左サイドでバスケスとマッチアップすれば、そこでの優位性は保証されていただろう。

クーマンの下した決定は、またもチームをひどくしてしまった。ただし彼の決定の範囲外でも、望まれていたプレーを見せられなかった選手たちもいる。F・デ・ヨングはまたも取るに足らない存在となり、マドリーの最終ラインを引き伸ばすこともライン間で姿を表すこともなかった。快適にボールを受けるためにサイドに流れてしまい、ポゼッションでピリッとした味をつけられていない。メンフィスも調子っ外れでサイド&中央でボールを持っても効果的なプレーは見られなかった。

このためにマドリーは自分たちのプラグマティックな方法論を貫き通せば良かった。もちろん両チームの最たる違いが、デストの決定機逸とアラバの決め切ったゴール、つまり単純なタレント力にあったのも確かだが。またトランジションで完全に優位に立っていたマドリーは、後半に戦術的過ちを犯していた。彼らはあらゆるプレーを縦への速い攻撃に集約させていったが、バルセロナがもっと賢明なチームであれば罰せられていた可能性がある。マドリーは、リードを得ているときにはヴィニシウスとベンゼマではなく、モドリッチとクロースに目を向けるべきだ。事実として、バルセロナの良質な攻撃はマドリーの終わらせられなかった中途半端な攻撃がきっかけとなっていた。

バルセロナは途中出場のフィリペ・コウチーニョがマドリーに打撃を与えている。ブラジル人MFは同胞カセミロの脇に入り込み、精度の高いパスによって中盤と前線の橋渡し役を務めた。前線のアンスとつながり、オーバーラップするJ・アルバを生かし、アタッキングサードではブスケッツとの連係で創造性を高める……。バルセロナの攻撃の機能不全は、彼の存在によって時おり解消されていた。加えてアグエロが前線で見せた献身的な動きも、バルセロナの今後に希望をもたらすものとなっている。

マドリーはバルセロナが手にしそうだった勢いをエデル・ミリトンとアラバの率先した守備によって削いでいた。両センターバックはしっかりとスペースを潰して、ゴール前最後の数メートルで極めて高い解決能力を示している。彼らの確実なプレーとバルセロナの他愛もない決定力によってスコアは一度も同点になることなく、バスケスが試合の行方を決めるゴールを記録した。

■ただの一試合

Barcelona Camp NouGetty Images

マドリーの勝利はバルセロナよりチームになっていることを示すものではあったが、そこまで胸を張れるわけではない。今回のクラシコで何より強調されたのはレベルの低さ、2チームの全盛期からは程遠い姿だった。彼らの力量は、現在欧州を代表するチームには遠く及ばない。

アグレッシブとまでは言えない守備ブロックをミドルゾーンで形成して、スペースに走り込むことに専念するマドリー。今の彼らが欧州でも成功をつかめるとは思えない。もっと信用を置けないのがバルセロナで、それはバイエルン・ミュンヘン戦、ベンフィカ戦、アトレティコ・デ・マドリー戦、そして今回のクラシコで示された通りだ。クーマンはプレーの前に結果を考えてしまっていて、バルセロナのフットボール文化を冒涜している。

クラシコは以前とは違うものになってしまった。最悪なのは、今まで決してそうはならなかった一戦にまで落ちぶれてしまったことだ。今日行われたのは、ただの一試合だった。

広告