2018-11-24 Jovic U-19 Serbia

1試合5発の20歳、ルカ・ヨヴィッチとは何者か…セルビアの神童からブンデス屈指のゴールハンターに

2016年2月、とある寒い日だった。

ベンフィカのBチームを率いるエウデル・クリストヴァン監督は、自チームの練習試合に立ち会っていた。試合開始からわずか数分、すぐにクリストヴァンは気づいたという。広い肩、恐怖を抱くかのような目でピッチに立つこの若者、ルカ・ヨヴィッチには何か特別な資質があるということに。

クリストヴァンは『Goal』の取材に応じ、ヨヴィッチの第一印象についてこう語ってくれた。

以下に続く

「初めてヨヴィッチのプレーを見たとき『この子はすごい逸材だ! フットボールがわかっている!』と思ったんだ。彼の身のこなし、ペナルティエリアでは相手DFと駆け引きしながらいかに動くべきか、FWとして天性のものがあった。まさにファンタスティックなアタッカーだね!」

クリストヴァンは冷静沈着な人物であり、このように教え子を興奮気味に称賛すること自体珍しい。「僕は指導者としていろんな場数を踏んできた」とクリストヴァンは言う。

1971年生まれのクリストヴァンは現役時代、ポルトガル最大のクラブであるベンフィカを始め、スペインのデポルティーボ、イングランドのニューカッスル、フランスのパリ・サンジェルマン、ギリシャのAELラリサなど、数々の名門でプレーした名DFだった。

ポルトガル代表では35キャップを刻んでおり、イングランドで開催されたユーロ1996では、ルイス・フィーゴやルイ・コスタ、フェルナンド・コウトとともにポルトガルのユニフォームを身にまとって戦った。

2006年に選手としてキャリアを終えた後、クリストヴァンは監督になるための講座を受講しライセンスを取得した。ポルトガル2部リーグのエストリル・プライアを率いた後、ポルティモネンセではアシスタントコーチも経験した。

2013年にベンフィカの2部チームの監督に就任したのはいいものの、トップチームへの昇格を夢見ながらも、実力的に物足りない選手が多かったというのがベンフィカBチームのリアルなところだったようだ。

■23試合で32ゴールを叩き込んだヨヴィッチの神童時代

そのクリストヴァンが指導するベンフィカのBチームに、ヨヴィッチがやってきたのは2016年2月のことだった。

ヨヴィッチは600万ユーロ(約8億円)という契約解除金でセルビアの名門ツルヴェナ・ズヴェズダ(レッドスター)からやってきた。セルビアではユースチームやセルビアの下部年代代表でゴールを量産していたこともあり、当時のヨヴィッチは“セルビアのファルカオ” という異名で将来が期待されるFWだった。

セルビアの一流スポーツ紙『スポルツキ・ズルナウ』のアレクサンドル・ペコヴィッチ記者によると「セルビアではヨヴィッチは最初から注目の的だった。彼はユース時代から決定力が突出していて、トップチームでも同様の活躍が期待される逸材として知られていたんだ。当時18歳のヨヴィッチはすでに大きな才能を秘めたタレントの一人として認められていた」とのことだ。

ヨヴィッチの父ミランもまた、セルビアの古豪パルチザン・ベオグラードでプロチームの一員としてピッチに立ったことがある。息子のルカが8歳でレッドスターに入団すると、父ミランは150kmのスピードで車を飛ばして、息子をレッドスターの練習場まで送り届けたという。

ルカはヴェローナとシュトゥットガルトの大会で得点王になり、2015年にはU-18ユースリーグの23試合で32得点を記録している。対戦相手には2歳年上の選手もいたというが、ヨヴィッチの決定力はその中でも明らかに図抜けていた。

■ヨヴィッチはいつかヨーロッパ最高のFWになる

2018-11-24 Jovic U-19 Serbia

ツルヴェナ・ズヴェズダのズヴェズダン・テルジッチSDは、将来ワールドクラスのスターになる選手を育てたいという野心を抱いていた。

その野望も手伝ってヨヴィッチは13-14シーズン、16歳ながらツルヴェナ・ズヴェズダでトップデビューを果たした。そして、FKヴォイヴォディナ・ノヴィサドとの一戦で73分に投入されると、その3分後には早くも同点ゴールを決め、レッドスター史上最年少で得点を記録した選手となった。

この出来事は“神童伝説”をより神格化させる役割を果たした。さらに「ヨヴィッチはいつかヨーロッパ最高のFWになるだろう。彼はラダメル・ファルカオを想起させる」とテルジッチが絶賛したことによって、その伝説が大きく伝えられる結果となった。

ヨヴィッチ自身はこの出来事が自分にとって足かせになったと後日語っている。彼は『フランクフルター・ルントシャウ』紙の取材に対して「あの出来事が転機だったかもしれない。あれから試合に出るたび、みんな僕が3ゴールすることを期待するようになったんだよ」と発言した。

とはいえ、ヨヴィッチは周囲の期待にこたえるような活躍を見せた。実際にその後プロになって1年目に6得点、2年目に8得点を稼いだ。これと並行して、アンダー世代のセルビア代表の試合でもゴールを量産している。U-16で10ゴール、U-17で16ゴール、U-19で10ゴールと、各世代の代表戦でもしっかりと結果を残したのだ。

■本人の希望とは裏腹にポルトガルへ

2018-11-24 17-18 Hasebe Jovic Frankfurt

『スポルツキ・ズルナウ』紙のペコヴィッチは「全ヨーロッパがヨヴィッチを欲しがっていた。そして、ツルヴェナ・ズヴェズダには金が必要だった」と、ヨヴィッチの移籍について回顧した。

「ツルヴェナ・ズヴェズダが再び欧州のカップ戦に舞い戻ることができたのは、ヨヴィッチを売って得た金があったからこそだ。これは公然の秘密だよ」

当時18歳のヨヴィッチは、自身の国外移籍は早すぎると考え、ツルヴェナ・ズヴェズダに残ることを望んでいた。

ファンも新星ヨヴィッチに大きな期待を寄せ、売却に反対の声を示す巨大なバナーをスタジアムに掲げていた。だがそれらの意に反して2016年2月、600万ユーロ(約8億円)という大金と引き換えにベンフィカへの移籍が強行されてしまったのだ。

ヨヴィッチは期待される逸材だったが、まだトップレベルの実績を残していたわけではない。だからこそ、高額の移籍金捻出を断念したビッグクラブもあり、結果的に好条件を提示したベンフィカに売り渡される結果となってしまった。

ベンフィカのBチームを当時率いていたクリストヴァンはヨヴィッチの移籍について「ベンフィカはヨヴィッチを雇い入れた。彼はポルトガルのトップリーグで十分に戦えるはずだと僕たちは確信していた」と振り返っている。

だが、結果的にヨヴィッチはトップチームで満足な出場機会を得られることもなく、すぐさまBチームへの降格が命じられた。

当時、ベンフィカのトップチームにはコンスタンティノス・ミトログル、ジョナス・ゴンサウヴェス・オリヴェイラ、ラウール・ヒメネスという3人の実力者がしのぎを削っていた。そこに18歳の若造ヨヴィッチが入り込むスキはなかったのだ。また、ヨヴィッチにとって異国ポルトガルへの順応がまた大きな壁となっていた。

ヨヴィッチは当時について「初めての国、初めての町、それに馴染みのないポルトガル語。新しい環境に溶け込むことがとても難しく思えたんだ」と振り返っている。

「それから1年が経ち、エージェントと相談して、試合に出られないからにはクラブにいるべきではないと思って、ポルトガルを去ることに決めたんだ」

ヨヴィッチはベンフィカのBチームが主戦場となっていたが、わずか1年で去った。その決断について恩師クリストヴァンにとっては納得のいくものではなかったようだ。クリストヴァンはBチームながら、ヨヴィッチの才能を高く評価していたのだから。

「間違いなくヨヴィッチは偉大な選手になる。ただ、それは彼次第なんだ。私はヨヴィッチがピッチ上で何ができるのかをよく知っている。相手のスペースへ入っていくとき、彼はとてもインテリジェンスのある動きを見せるんだ。あんなのは誰もができるプレーじゃないんだよ。ヨヴィッチのゴール前での本能は、セルヒオ・アグエロを想起させるものがある」

ファルカオに続いて、今度はアグエロとの比較。稀代のFWを比較対象に出されるほど、周囲からの評価が高かったヨヴィッチだが、ベンフィカでは結局トップチームで重用されることはなく、リーグ戦での出場はわずか2試合のみで終わった。

この時点では“ポルトガルで失敗した若手”に過ぎず、ファルカオやアグエロとの比較は大げさなものにも思えた。だが、ヨヴィッチがフランクフルトで指揮官ニコ・コヴァチに出会うと、名ストライカーを感じさせるスケールが本物だったと、広く知られるようになるのだ。

■僕の成功はニコ・コヴァチのおかげ

2018-11-24 Jovic FrankfurtGetty Images

ヨヴィッチは2017年夏、フランクフルトに加わることとなった。ここでニコ・コヴァチ監督と出会ったことが、躍進の要因となったようだ。

『フランクフルター・ルントシャウ』紙の取材で、ヨヴィッチは次のように述べている。

「僕にはニコ・コヴァチのように才能を引き出してくれる指導者が必要だったんだ。僕が今成功を収めているのは、間違いなくニコ・コヴァチ監督のおかげだよ。彼は選手の自信を深める人心掌握術に長けていて、選手も最大限の力を発揮できるようになるんだ」

コヴァチはヨヴィッチに規律を叩きこみ、ピッチの中外で模範的な姿勢を求めた。

リスボン時代のヨヴィッチは、Bチームの指導者クリストヴァンから絶大な信頼を得ていた。だが、ベンフィカのトップチームを率いるルイ・ヴィトーリア監督からは“若手FW”という認識にとどまり、その才能が引き出されることはなかった。だが、それは18歳のヨヴィッチがプロとしての自覚が足りなかったせいでもあった。

「僕はフランクフルトに来てから1カ月の間で、リスボンで学んだ1年間よりも多くのものを得たと思っている。それに体の仕上げ方もドイツでコツをつかんだ感じがある。だけどベンフィカにいた頃の僕には、プロとしての自覚が足りなかったんだ。それは認めるしかないね」

母国セルビア『スポルツキ・ズルナウ』紙のペコヴィッチ氏は「セルビアでは、若くして国外に出ていった逸材が花開かずにつぶれるケースが多々ある。次はヨヴィッチがそうなるだろうと考えている人も多かったよ。ポルトガルからドイツに行った時も、その考えは拭えなかった。だって、若手FWにとって、ポルトガルリーグよりもブンデスリーガのほうが厳しい環境だと思えたからね」とヨヴィッチについて語っている。

■ヨヴィッチの買い取りに向け急ぐフランクフルト

2018-10-20 Luka Jovic FrankfurtGetty Images

ヨヴィッチは、フランクフルトに加わって間もなく、いきなり結果を残すことになる。2017年9月16日、第4節アウクスブルク戦で67分に途中出場すると、80分にゴールネットを揺らすことに成功した。

このシーズン、ヨヴィッチはリーグ戦22試合に出場し、8ゴールを叩き込んだ。DFBポカールの準決勝シャルケ戦でもゴールを決め、チームのドイツカップ制覇にも貢献を果たした。

ニコ・コヴァチの下で才能を発揮したヨヴィッチだったが、恩師コヴァチは2018年夏にバイエルンへと活躍の場を移すこととなった。ヨヴィッチはフランクフルトで2年目に突入し、新指揮官アドルフ・ヒュッターからの信頼を得て出場機会を増やしている。

そして、18-19シーズンの第8節デュッセルドルフ戦でヨヴィッチは1試合で5ゴールという離れ業をやってのけた。これは1試合5ゴールを記録した選手として、リーグ史上最年少記録となり、ドイツだけにとどまらず世界中のサッカーメディアで驚きを持って伝えられた。

試合後、ヒュッター監督は「大げさな言葉はそうそう使うものではないと思っている。だが、ヨヴィッチについては手放しで称賛するしかない。私が思うに、ヨヴィッチは間違いなくワールドクラスのFWへとなれるポテンシャルが備わっている」と語り、教え子の躍進に目を細めた。

目下、ヨヴィッチはブンデスリーガ第11節終了時点で9ゴールを記録し、リーグ得点ランキングで単独トップ。そしてUEFAヨーロッパリーグではここまで4試合3ゴールと、複数のコンペティションでハイアベレージを残している。

そんなヨヴィッチだが、現状保有権はベンフィカが持っており、フランクフルトとの契約は2019年6月までの期限付きとなっている。フランクフルトのスポーツディレクター、フレディ・ボビッチとヒュッター監督は、1000万ユーロ(約13億円)の買取オプションを行使する意志があるとメディアの前で公言しており、完全移籍での買い取りに向けて急いでいるという。

これが実現すれば、ヨヴィッチはフランクフルトがクラブ史上最も高額の移籍金を支払った選手として、またもや記録を更新することになる見通しだ。

ベンフィカBチームの指揮官を退任し、現在サウジアラビアのアル・ナスルに籍を置く恩師クリストヴァンは「フランクフルトでの活躍を受けて、ベンフィカは相当頭にきているだろうね」述べ、ヨヴィッチの成功を喜んだ。

また『スポルツキ・ズルナウ』紙のペコヴィッチは「ルカにはまだまだたくさんの時間がある。いつかきっと、ヨーロッパのトップクラブでプレーすることになるだろう」とさらなるステップアップを予言している。

母国セルビアで評価を一気に高めたものの、ポルトガルでその勢いは停滞。ドイツで再び右肩上がりの成長曲線を見せているヨヴィッチだが、今後のキャリアを考えるとマイン川のほとり(フランクフルト)にとどまる時間はあまり長くないようにも思える。

では、当のヨヴィッチ本人はどう考えているのか?

「神様が僕にゴールの嗅覚をプレゼントしてくれたんだと思う。それは努力で必ず身につくものでもないんだ。僕の中には、見えない何かがあるんだよ」

恩師クリストヴァンは教え子ヨヴィッチについて、稀代のストライカーの名前を挙げてさらなる成功を予言している。

「ヨヴィッチが持っているゴールセンスを最後に見たのはいつだったか、記憶をたどってみたら、前例がすぐ出てきたよ。そう、まさにロイ・マカーイの再来と言っても良いと思う。ああ、僕はデポルティーボでプレーしていた時、マカーイとチームメートだったんだよ」

前述のとおり、ファルカオ、アグエロ……そして、ヨヴィッチの新たな比較対象として、マカーイの名も登場した。

ヨヴィッチは彼らに比肩するFWへとさらなる成長を見せるのだろうか。1997年生まれ、現在20歳のヨヴィッチがこれから歩むキャリアは、輝かしいものになることは間違いなさそうだ。

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