走れよメッシ、君が優勝しないW杯などフットボールではない【W杯特別寄稿】

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ロシア・ワールドカップ、追い込まれたリオネル・メッシとアルゼンチン。それでも、彼には奇跡を起こしてしまうような何かを期待してしまう。今回は、メッシを愛し「W杯を勝ち取るべき」と断言するスペインの作家ジョルディ・プンティ氏のコラムを特別に掲載する。

リオネル・メッシに、ワールドカップの神様が微笑むことはないのだろうか。

これまで、バルセロナでは数々の栄誉を手にしてきた。これまで主要獲得タイトル数は「32」。バロンドールも5度受賞するなど、クラブで獲得できるタイトルはすべて手にしてきた。「世界最高の選手」との評価も納得できるだろう。

だが、アルゼンチンを代表して戦うことに苦しみ続けている。

18歳でA代表にデビューして以来、これまで124試合に出場し64ゴール43アシストという驚異的な数字を残していながら、未だ無冠。これまで7回メジャー大会を戦い4度決勝に進出しているが、そのすべてで苦杯をなめている。

31歳になったメッシは、ロシア・ワールドカップが全盛期として臨める最後の大会かもしれない。しかし、この舞台でも困難が立ちはだかる。

優勝候補筆頭とも言われながら、アルゼンチンは初戦でアイスランドに1-1と引き分け。続くクロアチア戦では内容でも圧倒されて戦意喪失。0-3と完膚なきまでに叩きのめされた。2試合を終えて獲得した勝ち点は「1」で、最終節に勝利してもグループリーグで敗退する可能性すらある。指揮官ホルヘ・サンパオリはすでに求心力を失っているとされ、チームは空中分解しかけている。

またも窮地に追い込まれたメッシ。しかし、そんな逆境で真価を発揮してきたのが彼だ。

今大会の南米予選でも、アルゼンチンは敗退の危機にひんしていた。最終節の敵地エグアドル戦、W杯出場のためには勝利が絶対条件の中、主将として出場したメッシはハットトリックを達成。チームを勝利に導き、全アルゼンチン国民を絶望の淵から救ってみせたのだ。

「メッシならば…」。今回もそう考えている人も多いだろう。

それは普段メッシがプレーするスペインの地でも同じ。小説家ジョルディ・プンティも、レオ(メッシの愛称)に心を奪われた1人だ。自身の近著でもメッシへの愛を綴った彼は、厳しい状況下でもなお「W杯を勝ち取るべき」と断言し、トロフィーを掲げる姿を夢見ている。

今回は、プンティのリオネル・メッシへの愛がつまったコラムを特別掲載する。
(文=Goal編集部)

■メッシという解析不可能な神秘

Lionel Messi Argentina Croatia World Cup 2018

夜に目を覚まして、気がつくのだ。またもやメッシの夢を見ていたのだ、と。そんなことはほかの選手との間では起こらない。イニエスタには脱帽するし、ネイマールからも快楽を得られるし、デ・ブルイネにだって魅了されている。しかしながら、私が夢に見るのはレオ・メッシなのだ。彼のプレーは自分の意識下の営みを越えて、無意識の中に入り込んでくる。彼のフットボールにおける天才性が、現実ではなく夢の世界に存在しているかのように。

目覚めてから数秒が経って、水中の気泡のように夢の色彩が散っていく。私は古びたバスの中で彼と一緒にいたような感覚に襲われる。おそらくその場所はシベリアで、とても暑かった……。彼が何のユニフォームを着ていたのかは、はっきりとしていない……。バルセロナのユニフォームだっただろうか、それとも、アルゼンチンのものだっただろうか。

もう一度、彼の夢を見た理由、それは再びワールドカップが訪れたためだとの確信がある。これまでも4年ごとに願ってきたように、私はアルゼンチンに優勝を果たしてほしい。もっと言えば、私はレオ・メッシに優勝してほしいのであり、彼がキャプテンとしてトロフィーを掲げることを切に願っている。「フットボールはメッシにワールドカップという借りがある」。アルゼンチンを率いるホルヘ・サンパオリが、そう語っていたように。

フットボールというスポーツに多くをもたらし、そうし続けながら31歳を迎えた選手は、何としてでもワールドカップを勝ち取るべきなのだ。メッシはこの時代におけるパブロ・ピカソ、またはマイルス・デイヴィスであり、これまでとはまったく異なる斬新なことを長きにわたって創出しているアーティストなのだから。ペップ・グアルディオラはバルサを率いていた2010年3月、当時23歳のメッシについて「彼を形容する言葉はもう見当たらない。私はさらなる形容を持ち合わせていない」と言った――その1カ月後にはアーセン・ヴェンゲルが「メッシはプレイステーションの選手」と「アニメーションの選手」の現代版を生み出しはした――が、「形容が尽きる選手」という形容がこれだけ早く生まれたことこそ、彼がいかに特別な存在なのかを物語る。

だからこそ、ワールドカップでメッシが優勝しないフットボール界など、絵画界にゲルニカ、ジャズ界にカインド・オブ・ブルーが存在していないようなものなのだ。

私の本心を述べれば、メッシがワールドカップ優勝にふさわしいのかどうかを疑っているのは、アルゼンチン人たちではないかと危惧している(まあ、おそらくクリスティアーノ・ロナウドもそうだろうが)。その点に関して、先のサンパオリの言葉は、私の気持ちを和らげてくれるものだ。ただし、現実的にアルゼンチンには、2つばかりの厄介な問題が存在している。

一つ目の問題は、アルゼンチンという国が毎年にわたって良質な選手たちを輩出し続けていること。もう一つの問題は、ワールドカップ予選を突破する度に代表チームがその陣容を過剰なほど入れかえてしまうことだ。そのほかのチームは経験豊富な選手たちに信頼を置いているが――スペインは2010年の世界王者であるイニエスタ、ブスケッツ、セルヒオ・ラモス、ピケがプレーし続ける――、その一方でアルゼンチンは理想的な陣容を見出すことに苦労している。アルゼンチンでは恒常的に新たな才能が出現するが、その才能がすぐさま欧州へと渡っていく。そうであれば、アルゼンチンのフットボールが独自の個性や、持続性のあるプレースタイルを獲得するのは難しい。

アルビセレステ(白と空色、アルゼンチン代表の愛称)のロシア・ワールドカップでの成否は、彼らの監督サンパオリがその2つの問題――超過する才能、欧州の影響――を理解しているかどうかにかかっている。そして結局、その解決法がレオ・メッシであると認めることは容易だろう。

疑問点は、メッシがチームを生かす、またはチームがメッシを生かせるように、サンパオリが仕組めるかどうかにある。バルセロナのメッシとアルゼンチンのメッシの違いは、彼のやる気の問題などにあるわけではない。アルゼンチンでは歩くメッシが怠惰であると槍玉に挙げられるが、彼以上にピッチ上で見事に歩く選手など存在せず、むしろ走らせる機を用意できないチームにこそ問題がある。

バルセロナのメッシは、自身が試合を解決すべき瞬間をしっかりと心得え、その刹那を探りながら歩いている。相手との距離を測りながら2歩下がり、3歩進み、2歩下がる。そしていきなり走り出してチャビ、イニエスタ、またはラキティッチに『自分はここだ』と伝え(彼らは伝えなくとも分かっている)、パスを受けるや否や1人、2人をかわしてゴールをかっさらうのだ。フットボールで最も難しいことはゴールの記録だが、サンパオリはそれを誰よりも容易にやってのけるメッシを、どうやって走らせるのかという筋道を考えてなくてはならない。

ワールドカップという舞台では、特別な集中力が求められることになる。そうした観点において、今のメッシはじつに素晴らしい。2014年ブラジル・ワールドカップ、2016年コパ・アメリカの決勝で敗れた経験は、不安や重圧に対する免疫となっているはずだ。コパ・アメリカ後には失望のあまり代表引退に走ってしまったが、現在はより成熟し、落ち着き払い、衝動に走ることはなくなった。妻との間に3人の子供に恵まれたことで、何が一番大切なことなのかを知り、精神的な安定が取れている。彼はかつてない平静さでもって、どんな苦境にも立ち向かえる。

この世に存在してきた、または存在しているすべての天才と同じく、メッシには解析することが不可能な神秘性がある。プレーに興じているとき、その頭の中には何がよぎっているのかは知り得ない。彼が足もとにあるボールとともに生み出すものには、生来の才能――直感――と、これまでに学んできたこと――経験――が集約されている。おそらく、このロシア・ワールドカップには、その二つの要素が完璧な均衡を保っている状態でたどり着いたはず。それはまるで、朝に目を覚まして、まだ夢の中にいるかのような瞬間と同一のものだ。その現実と幻想が混ざり合った数秒間こそがメッシのプレーそのものであり、すべてが可能なように思える瞬間なのである。

文/ジョルディ・プンティ

企画・翻訳/江間慎一郎

【著者プロフィール】

ジョルディ・プンティ(Jordi Punti )

1967年生まれ、バルセロナ在住。小説家としてこれまでに3作品を発表。『Maletas perdidas(失われたスーツケースたち)』はいくつもの賞を受賞し、16言語に翻訳された。スペインの新聞『エル・ペリオディコ』『エル・パイス』にコラムを寄稿。フットボールについての記事も20年にわたって執筆しており、特にバルセロナに熱を上げる。近著は『Todo Messi(すべてメッシ)』で、世界最高の選手を叙情的に、ときにおどけながら描写している。

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