■齋藤学が川崎にもたらす相乗効果
ちょっとしたデジャブを覚えた。
2015シーズンの途中まで在籍したブラジル人のドリブラーで、現在は中国・広州富力でプレーしているはずのレナトがいる、と川崎フロンターレの大黒柱、MF中村憲剛は試合中に何度も思った。
ホームタウンが隣接するライバル、横浜F・マリノスのホーム・日産スタジアムに乗り込んだ8日の明治安田生命J1リーグ第6節。白熱の攻防が続いた「神奈川ダービー」が1‐1のまま、時計の針が77分を過ぎた後に抱いた感覚だった。
目を凝らして見ると、左タッチライン際にはレナトではなく、今シーズンから加入し、古巣・横浜FM戦がデビュー戦となったMF齋藤学がいた。サイズは前者の167cm、68kgに対して後者も169cm、66kgとほぼ同じ。プレースタイルも、そして川崎にもたらす相乗効果も変わらなかった。
「(ボールを)運べますからね。一人で推進力を持っちゃうから。一人で戦術だから。昔いたレナトみたいな感じで、ボールを預ければ何かをしてくれる。連動性というよりも、(齋藤)学に合わせればチャンスになる。学の意図をどう紡ぐかに集中するだけだから、すごく楽ですよ」
象徴的なシーンは後半アディショナルタイムに訪れた。後方からのロングパスを、左タッチライン際にいた齋藤がワンタッチでFW大久保嘉人へ落とす。ボールを受けた中村が、そのまま左サイドに張っていた齋藤へパスを預けた直後だった。
すかさず十八番のドリブルでカットインしながら、対面の右サイドバック松原健に1対1を仕掛ける。そのまま突破するか。引き寄せた上で味方を使うか。選択肢がいくつもあるがゆえに相手も迷う。果たして、齋藤が選んだのは最終ラインの裏へ抜け出した大久保へのラストパスだった。
「オレは学にパスを出しただけだけど、あそこまでチャンスを作れちゃうからね。学は嘉人を選びましたけど、オレも横で待っていればいいだけだし、これからもどんどんやればいいじゃないですか」
大久保の一撃はGK飯倉大樹のファインセーブに遭い、試合もそのままドローで終わった。それでも中村の表情を綻ばせたドリブラーは、慣れ親しんだ日産スタジアムにブーイングの塊が鳴り響く中を、笑顔を浮かべながら途中出場を果たしている。
「サッカーをする、サッカーを楽しむということに大きな思いがあったので。自分にとってサッカーがどれだけ大きいかを感じられるリハビリ期間だったけど、そんなに笑っていたかな」

松原から「ちょっとにやけ過ぎだよ」と声をかけられたと明かした齋藤は、試合後の取材エリアで思わず苦笑いした。右ひざを痛めて退場を余儀なくされた昨年9月23日のヴァンフォーレ甲府戦以来、実に197日ぶりに公式戦のピッチに立った。
診断の結果は右膝前十字靭帯の損傷。全治まで約8カ月を要すると診断され、緊急手術を受けた。孤独なリハビリの日々を送っている最中の今年1月12日に、横浜FMから川崎への移籍が発表された。
■「一番厳しい道」である川崎移籍を選んだ理由
昨シーズンは海外移籍を模索するも実現には至らず、開幕前のキャンプには練習生の身分で参加。2月に入って横浜FMと再契約した時に、ジュビロ磐田へ移籍したレジェンド中村俊輔からキャプテンの座と、象徴でもある「10番」を引き継いだ。
そうした背景もあって、ファンやサポーターから激しく非難された。横浜FMとの契約満了に伴う、いわゆる「0円移籍」だったことも彼らの怒りをさらに増幅させた。運命の悪戯か。小学生時代から心技体を鍛えてきた古巣との初対決で初めてベンチ入りを果たし、試合前のメンバー紹介時、ピッチへ入った瞬間、その後にボールを持つ度に大きなブーイングを浴びた。
「自分がボールをもった時のブーイングは、あまり感じなかったけど。ただ、(自分への)愛情の裏返しだと思ってプレーすればいいかな、と。そう(愛情)じゃない、という声も上がると思うけど、ここに合わせてリハビリしてきたわけではなかったけど、自分としてはこのピッチで、マリノス戦で(戦列に)戻れたことはすごく感じるものがあるので」
新天地での背番号として「37」を選んだ。一の位と十の位を足して「10」になるからか。そうした声を笑顔で否定したのは、1月中旬の新体制発表会見の席だった。
「ちょうど10年ひと区切りというか、(マリノスで)プロになって10年目だし、ここで一から歩き始めるにはちょうどいい番号だな、と思って」
横浜FMのユースに所属したまま、トップチームに2種登録された2008シーズンに用意された背番号が「37」だった。文字通りの原点回帰。2年連続でオファーを送ってきた川崎に誠意を感じ、自身がより成長する道を新天地に求めた。移籍に関しては終始、こんな言葉を残してきた。
「きっかけや、どうしてそういう(移籍の)話になったのかは言えない部分が多いんですけど、最終的には周りがどうこうというよりは、自分にとって一番厳しい道を選ぼうと。ポジション争いが一番激しいと思ったので」
川崎でのデビュー戦を終えると、小学生時代からの盟友、DF金井貢史とユニフォームを交換した。終了の挨拶を終えると、マリノスサポーターで埋まったゴール裏へ挨拶に向かおうとした。すぐに立ち止まり、センターサークル付近で小さく頭を下げた理由をこう明かす。
「いろいろと(味方に)止められちゃって。自分としては好きなクラブなので、しっかりと挨拶しなきゃ、と思ったんですけど。一概にいろいろなことを言われますけど、それよりも僕はもう先に進んでいるので。マリノスはマリノスでいいサッカーをしているし、僕はフロンターレの選手の中で自分がどう輝いていくのか、というのをしっかりと考えていかないと」
ちょうど1年前の4月8日。横浜FMのキャプテンとして磐田と場所も同じ日産スタジアムで対峙した齋藤は、初めて敵味方として対峙した中村と、プレーを介して何度も会話を交わした。時は流れて川崎の一員となった今、齋藤は試合を終えた直後にDF中澤佑二と抱き合い、倒れ込んでいる松原を抱き起した。お互いに別々の道を歩んでいく決意を、笑顔に込めた。
「心拍数が上がった中での動きなどはもうちょっとかな、という気がするけど、それも試合に出なければ感じられないことなので。みんな本当に上手いなと思ったし、さらに内容を突き詰めていく過程で自分がいることはちょっと面白いかなと。競争が激しいし、名前で試合に出られるようなチームではないので、ここでの自分というものをしっかりと築き上げていかないと」

ロシア・ワールドカップの開催に伴い、過密日程が続く今シーズン。新天地でのデビュー戦から中2日となる11日には、ホームの等々力陸上競技場にセレッソ大阪を迎える。
オプションからストロングポイントへーー。
齋藤がチャレンジを加速させていくたびに、連覇を狙う王者の攻撃力もどんどん増強されていく。
文=藤江直人
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