アイントラハト・フランクフルトの長谷部誠は実に落ち着いている。ニコ・コバチ監督から全幅の信頼を寄せられ、3バックのリベロ、はたまたボランチとしてピッチに君臨し、チームメイトを鼓舞し、激しい肉弾戦が繰り広げられるブンデスリーガの舞台で巧みなボールキープを駆使してタメを生み出し、広角な視野でパスワークを図って自らの能力を誇示している。今年に入ってからは昨年手術をした右膝の痛みも和らぎ、常時試合出場を果たして現在のチームのリーグ4位という躍進にも寄与している。フランクフルトの長谷部は今、充実の時を過ごしているのだ。
そんな長谷部が、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督率いる日本代表で苦しんでいる。今回のベルギー遠征では指揮官が「ケガによって3、4人の主力選手を欠いていた」と語るように、何人かの新顔がチームに加わってマリ代表、ウクライナ代表との2連戦に臨んだが連係を図れず、中盤中央に立つゲームキャプテンは窮屈なプレーを強いられた。
■不調の理由と見出す改善箇所
ただ、長谷部自身は代表での苦戦が戦術や戦略、選手個々人の連係精度だけに起因しているとは思っていない。3月23日のマリ戦を1-1で引き分けた後、彼はこんな主観を述べている。
「個々の局面で剥がされると、例えブロックを作っても一つひとつずれていく。また、個人が剥がされるだけじゃなく、ボールを取った後の自分たちの精度に関しても、今日はかなり低いと感じていました。もちろん戦術面の部分もあると思いますけども、選手一人ひとりが個々のクオリティにフォーカスしないと、いくら戦術があっても意味がない。局面、球際はサッカーの大前提なので、そこをもう一度、僕ら選手たちが痛感するゲームになったと思います」
マリ戦では長谷部自身も不安定なプレーが目立った。4-2-1-3のダブルボランチで組んだ大島僚太が前半途中で負傷して急遽パートナーが山口蛍に代わった影響もあっただろうが、相手のハイプレッシャーに晒されてパスミスを犯すシーンが散見され、後半の60分には指揮官から三竿健斗との交代が告げられた。しかし試合後の長谷部は、自身とチームの不調の要因を戦術に求めるのではなく、あくまでも選手個々人のレベルアップ、スキルアップによって解消すべきだと考えていた。ハリルホジッチ監督が『縦に速く攻撃せよ』と指示することに違和感を覚える選手たちが多い中で、キャプテンはあくまでも選手自らが己を律することを説くのだ。
「代表選手ですから、それぞれの選手が自分の考え、やり方を持っていると思う。じゃあ、それをひとつに合わせようというのが実際にいいのかどうかというと、僕自身はあまり思わないですね。人それぞれ価値観も違えば、思いも違うので。ただ、やはりひとつ言えるのは、(考えを)外に出すというのは、そんなに良いことではないと思います。その辺のコントロールを誰がするのか。それもキャプテンがするべきならば自分がしなきゃならないんだろうけども、僕の感覚としては、今はそこまで(選手の考えが)出ている感じは受けないですけどね」
■ロシアで結果を残すために…
2010年の南アフリカワールドカップで岡田武史監督からキャプテンに指名され、2014年のブラジルワールドカップを戦ったアルベルト・ザッケローニ監督体制下でも主将として選手たちを束ねた長谷部は、今年で34歳になる。その年齢を重ねる過程で、彼は間違いなくサッカー選手として、ひとりの人間として成長を果たしてきた。だからこそ、自身3度目となるロシアでのワールドカップを約2か月後に控えたこの時期に、日本を代表するチームに選ばれる選手が何を成すべきかを十分に理解している。それぞれの我を標榜するのもいい。チーム全体の問題点を提起してもいい。しかし、その振る舞いには、ロシアの地で日本代表が明確な成果を得るという道理がなければならない。
マリ戦から中3日で迎えたウクライナ代表戦。再び先発して山口とダブルボランチを組んだ長谷部は、相手の巧みなポジショニングとシステム可変の中で苦悩する。
「相手のツーオフェンシブ(オレクサンドル・ジンチェンコ、イェヴヘン・コノプリャンカ)の選手が引いてきてボールを受けて、そこに右のアウトサイドの11番(マルコス・ロメロ・ボンフィム)などが降りてきてというように、相手に数的優位を作られて、中盤は(山口)蛍と僕でかなり走り回されていた感がありました。逆にウチのディフェンスラインが3人で相手ひとり(アルテム・ベセディン)に付いているようなシーンもあったので、後手後手を踏んでいたなと。とにかくボールを回されて疲れさせられているなと。実際、ジャブのようにかなり体力的にきていました」
アンドリー・シェフチェンコ監督率いるウクライナ代表はロシアワールドカップへの出場権こそアイスランド、クロアチアの後塵を拝して予選グループI・3位で逸したものの、今季のUEFAチャンピオンズリーグ・ベスト16でACローマ(イタリア)と死闘を演じて惜しくも敗れたシャフタール・ドネツクの選手たちを中心に構成されたチームが高質なプレーを展開した。戦術面でも成熟する彼らはチーム編成の模索が続く日本代表を組織でも個人でも凌駕し、前半から後半半ばに掛けては完全に試合の主導権を握った。
■ウクライナ戦で露呈したハリル・ジャパンの泣き所
(C)Getty Imagesハリルホジッチ監督は知略に長け、対戦相手を徹底的にスカウティングした上で自らのチームに試合毎の戦略を課し、一戦必勝を目論むタイプの指揮官だ。その手腕は14年のブラジ・ワールドカップでアルジェリアを決勝トーナメントに進出させた実績や、先のロシアワールドカップ・アジア最終予選で日本代表がサウジアラビアやオーストラリアをホームで下した事実からも示されている。事実、眼前のライバルを埼玉スタジアムで叩いた選手たちの所作はどこまでも逞しく、監督の狙いが嵌ったときのチームには堂々たる風格が備わっていた。
一方、今回のマリやウクライナとのゲームのように、指揮官の戦略が嵌まらないときの日本代表は脆さを見せる。相手の特徴を見誤り、対応が後手に回ると修正が効かなくなるのだ。
長谷部は当然、この問題点を把握している。80分にマリ戦と同様に三竿と交代したウクライナ戦後に、彼はこんな私見を述べている。
「今日は相手がかなり分析とは違うやり方をしてきた中で、選手がどうフレキシブルに対応できるかということが大事だったと思うんですね。前半のうちにそれは話してはいたけれども、上手く改善できるところまではいかなかった。そんな中、後半は相手が落ちてきた部分があって、ラスト20分、30分くらいは僕らが前から嵌めていって、リスクを背負って良い形になりました。そこは自分たちで考えてやっていることではあるんですけども、いろいろな意味でピッチの中の選手のフレキシブルさが大切で、それは戦術よりも詰めていかなきゃいけない部分かなと思います。その舵取りをするのは経験ある選手の責任だと思う。ピッチの中ではね。それは自分であり、他の経験ある選手だと思うし、そういう部分では前半のうちに相手のやり方に上手く対応できなかったのは個人的にも少し悔いというか、責任は感じます」
一方で、ハリルホジッチ監督が独特な手法でワールドカップに挑む日本代表メンバーのセレクションを行う過程については、長谷部自身も少しの戸惑いを感じているようだ。
「正直、これまで予選を戦ってきたメンバーがどんどん入れ替わっていますが、今はトライしている時期だし、それを言い訳にしては、うーん、誰がケガするかわからないわけですしね。もちろんメンバーが多少代わっている点では、このシリーズは難しい部分もあったんですけども、それを言い訳にしていては僕ら、前には進めない。うーん、どうですかね。自分も含めて経験のある選手はたくさんいるので、そういう選手たちがもっともっと責任というか、もっともっと、今もコミュニケーションを取ってやっていますけども、これ以上にやらなきゃいけないのだと思います」
■求められる責務
フランクフルトでの長谷部が出色のプレーを見せるのに対し、日本代表での彼は苦悩の淵にいる。国家を代表するチームでワールドカップに挑む過程はそれだけ困難で、過酷なものなのだろう。日本のキャプテンは、その現実を十分に理解しながら、それでもチームファーストを旨に、自己と仲間を律することに努めている。
「今回、コミュニケーションの部分で、ピッチの外で若い選手たちが発言したりとか、そういう部分が出てきたなというのはある。前回ヨーロッパ組が加わって戦ったのは(去年の)11月だったので、そこから4か月空いて今回の活動になったんですが、正直、その都度取り戻して行く感じでは困ると思うんですよね。もちろんこれだけ日本代表のメンバーが代わって、監督もトライしている部分がある中で、常にチームにいる僕ら、経験のある選手たちが他の選手たちに(チーム全体の戦い方について)伝えていかなきゃいけないとは思う。もちろん5月に誰が代表に選ばれるかは分からないですけども、常に最初からではなくて、これまで積み上げたところから始めることは考えなきゃいけないと思います」
聡明であるが故に認識できる現チームの現在地を、仲間たちにどう伝えられるか。日本のキャプテンとして、長谷部誠に課せられた役割は依然として多大だ。
取材・文=島崎英純
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