2018-10-19-sevilla(C)Getty Images

「私は死ぬまでセビジスタ」首位セビージャ、72年ぶりのリーガ制覇へ歌い続ける情熱の街【連載:リーガは愛憎譚に満ちて】

■「私は死ぬまでセビジスタ」

セビージャが最初で最後のリーガ・エスパニョーラ優勝を果たしたのは、バルセロナがヨハン・クライフに率いられて栄華を誇った1990年代はもちろん、レアル・マドリーがアルフレド・ディ・ステファノを獲得してスペイン、ひいては欧州の盟主に君臨した1950年代よりも前のこと。あれから72年の歳月が流れているし、記憶よりも記録として残る偉業になっている。祖父や祖母からその記憶を伝えられることも、とても美しくはあるのだけれど。

あれは1945-46シーズン、ラモン・エンシナス率いるチームが成し遂げたことだった。彼らはバルセロナとのアウェー戦を1-1のドローで終えてスペイン王者となった。パレードでは道やバルコニーが人々であふれ、セビージャ市役所ではプレゼントとして金の時計を贈呈された。リーガ優勝の報奨金は1000ドゥーロ。現在で30ユーロといった額だった。

あの輝かしい時代は遠いものとなったが、このアンダルシア州の州都に渦巻く赤白の情熱はきっと変わっていない。今のセビジスタ(セビージャファン)たちも、あの世代と同じように自分たちのチームに誇らしげだ。そしてあの頃にはなくて、しかしあの頃があるからこそ誇れるものの一つに、2005年につくられたクラブ創立100周年のイムノがある。セビジスタだけでなく、リーガの他クラブの信奉者からもスペイン最高のものと羨ましがられるイムノは、本拠地サンチェス・ピスフアン(収容人数4万5000人)でアカペラによって、フラメンコを彷彿させる手拍子とともに歌われる。そのサビの歌詞は、次のようなものだ。

「“だから”私はお前を見に行く。私は死ぬまでセビジスタだ。ヒラルダの塔はサンチェス・ピスフアンのセビージャを眺めて誇っている」

「そしてセビージャ、セビージャ、セビージャ! 私たちはお前とともにある、セビージャ! お前のエンブレムの下で栄光と、我が町のフットボールを誇りを分かち合うんだ……」

■マチンのチームに夢を見るセビジスタ

Sevilla Celta LaLigaCRISTINA QUICLER/AFP/Getty Images

この文章の冒頭でセビージャのリーガ優勝について触れたのはもちろん、パブロ・マチン率いる今季のチームが現時点で首位に立っているためである。このカスティージャ・イ・レオン州出身指揮官は首位に立った後、選手たちに「私たちはまだ何も成し遂げちゃいない」と語るなど、慎重な姿勢を崩していない。しかしながらセビジスタたちは、彼のチームにまた新たな、無謀な夢を見ている。「もう、今が第35節で、シーズン最後の直線に差し掛かっていればいいのに……」。そう、ため息をもらしながら。

マチンはジローナをリーガ1部昇格、さらには同カテゴリー残留に導き、今夏にセビージャにやって来た。鍵を握ったのは、今季よりセビージャのフットボールディレクターを務めるホアキン・カパロス。マチンにはジローナを率い続ける考えもあったが、2000年初頭に監督としてセビージャを2部から1部に引き上げ、今日のクラブの礎を築いたカパロスの誘いを無下にはできなかった。「電話で話したホアキンは、彼らしく直接的だったね。彼は自分が一人間として、セビージャを率いる用意ができているかどうかを問うてきた。ホアキンはセビージャというクラブの偉大さによって、私を説き伏せたのではない。彼はメディアから注目を浴びる監督ではなく、何かを成し遂げてきた監督を求めていた。だからこそ『あなたたちが求める監督は、もうあなたたちのものだ』と言ったんだよ」、マチンが振り返る。

セビジスタたちはマチン率いるチームから、100周年イムノの如く自分たちが誇れるものを感じ取っている。マチンはセビージャでも、ジローナ同様に3バックとウィングバックを使用し続けているが、そのシステムはセビージャの現有戦力にこそぴったりはまるものだった。彼は自身の哲学とセビージャの相性の良さについて、このように語っている。

「私はスペイン北部のフットボールと深い関係にある。北部は歴史的にフィジカルを重視して、セカンドボールから得点を狙うダイレクトなフットボールを実践してきた。気候によって、ピッチコンディションが劣悪となるためにね。私は連係プレーも好きだが、同様にカウンターも好んでいる。そして何よりも、ゴールのチャンスを生み出すプレー、ダイナミックなフットボールが好きなんだ。私はこれまでずっと、ピッチを幅広く使って、両サイドを生かそうと試みてきた。そうすることによってピッチ中央でパスを通す可能性が増え、また良質なクロスによってフィニッシュまで持ち込める」

「セビージャには逸材が揃っている。セビージャ行きの可能性が生まれた段階で、同じシステムを使用し続けられると思っていた。エスクデロとヘスス・ナバスはウィングバックとして理想的で、3バックとウィンバックを使えると感じていたんだ」

今季のセビージャは5-4-1(守備時)/3-6-1(攻撃時)使用した序盤こそうまくいかなかったが、5-3-2/3-5-2と前線にアンドレ・シウヴァのほかベン・イェデルを置く形にしてからゴールと勝利を重ねている。公式戦ここ6試合では20得点。ウィングバックのJ・ナバス、エスクデロ(またはギリェルミ・アラーナ)の攻め上がりが相手DF陣のカバーを強要すると、手薄となった中央でパブロ・サラビアらのお膳立てからA・シウヴァ&ベン・イェデルがゴールをかっさらう。セビジスタたちはマチンの言う「ダイナミックなフットボール」に惚れ込んでいるし、それを「我が町のフットボール」と歌うことに違和感を覚えていない。

■枯れることなくあふれ出る情熱、野心

Sevilla Celta LaLigaCRISTINA QUICLER/AFP/Getty Images

「セビージャ、セビージャ、セビージャ! 私たちはお前と一緒だ、セビージャ!」。セビジスタたちは、今日もマフラーを空に掲げて、声を張り上げる。アンダルシアの州都がフットボールに傾ける情熱は、野心は、決して枯れることなどなく、どめどなくあふれ出る。セビージャに8年間在役したあの名GKアンドレス・パロップは、こんなことを口にしていた。「バレンシアでも素晴らしい扱いを受けたが、しかしセビージャのファンはスタイルがまた異なり、もっともっと情熱的だ。ピッチですべてを出し尽くすならば、彼らは200%の力で寄り添ってくれる。セビージャは選手たちに依存することなく、決して野心を失うことがない」

セビージャのクラブ創立100周年イムノは、リヴァプールの『You'll never walk alone』のようになりつつある。そう、「私は死ぬまでセビジスタ」と歌う赤白の血筋の者たちは、セビージャをたった一人で歩かせることなど断じてない。ときに厳しい批判を繰り出しながら、情熱を誇示する彼らこそセビージャというクラブの最大の財産である。

21世紀のセビージャは「安く買って高く売る」という方針を確立した名物スポーツディレクター、モンチを最大の功績者として、コパ・デル・レイ優勝2回、UEFAカップ/ヨーロッパリーグ優勝6回、スペイン・スーパーカップ優勝1回と喜びを味わってきた。しかし、もしセビジスタたちに「もう十分か?」と問いかけたとしても、「はい」と答えはしない。よくて、「そうだといいね」という答えだ。それでも結局、彼らはこれからもサンチェス・ピスフアンでイムノを歌い、チームを、自らを鼓舞していく。サンチェス・ピスフアンを一つの有機体としていく。モンチが去っても、セビジスタたちの夢見る頃は過ぎない。彼らはマチンのチームに夢を見ている。リーガ優勝という偉業を記憶に残す夢を見るのである。

たとえ2強(もしくはアトレティコ・デ・マドリー)の信奉者たちから、または同じ町にいる緑白の血筋の者たちから馬鹿にされたとしても、彼らの情熱と野心は削がれはしない。

世界に誇るべきそのイムノは「私の心臓はセビージャ!と叫びながら鼓動を打つ。いつだって勝つことを求め、心拍数を上げていく……」という歌詞から、サビの「だから」へとつながっていく。高揚する彼らは、現実と夢の境界線を越えていけるのだろうか。

文=ロシオ・ゲバラ(Rocio Guevara)/スペイン『マルカ』紙セビージャ番記者
企画・翻訳・構成=江間慎一郎(Shinichiro Ema)

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