監督選考だけではない。求められる強化のサイクル。現地密着記者が語る――飯尾篤史・北健一郎・青山知雄【日本代表総括/後編】

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ロシアで日本代表を追い続けた3人のサッカーライターが、ロシア・ワールドカップでの西野ジャパンを総括する鼎談の後編。

ロシア・ワールドカップにおける日本代表は、4月初旬のヴァイッド・ハリルホジッチ監督解任を受け、前途多難な船出となった。ある意味「冷めた」ムードの中で戦いを迎えた西野ジャパンだが、スタッフ含めたチームが一丸となり、4試合を戦い抜いた。ロシア大会でチームに密着取材を続けたサッカーライター3名による大会総括鼎談の後編は、ハリル監督解任前後の取材で見えたリアルな感覚と、この大会を経て日本サッカーが何をしていくべきかを考察する。

■人心掌握も監督の重要な仕事

青山  ここまではロシア大会のチーム作りを中心に話してきましたが、ちなみにヴァイッド・ハリルホジッチ体制のまま今大会に臨んでいたら、皆さんはどうなっていたと思いますか?

飯尾  結果は出ていなかったんじゃないかなと思います。それはハリルホジッチの戦術云々、能力云々ということじゃなくて……。今回、取材していても、前監督に関しては「縦に、縦にというだけだった」「縦と言うだけで明確な戦術はなかった」「やり方はバラバラだった」「前向きな議論は一度もなかった」という言葉がボロボロ出てくるわけですね。それも一部ではなく多くの選手たちから。

もちろん、最終予選当時は試合の3日前にようやく全選手が集合するような状況で、中身の濃い練習ができない側面もあったと思います。ただ、チームの雰囲気が良かったか、選手たちが生き生きとしていたかと言えば、決してそうではなかった。ハリルホジッチに意見を言って呼ばれなくなった選手もいるし、監督の顔色をうかがってビクビクしていた選手もいた。

いろいろな意見があると思うけど、現場で取材をしていて、ハリルホジッチのままだったら難しかっただろうなと感じたとしか言いようがないですね。

青山  それは間違いなくありますね。実際、監督が西野(朗)さんになってから、チームの雰囲気がものすごく良くなったのは確かだと思います。

ハリルホジッチ監督は選手同士の話し合いは禁じていたし、昼寝や休養を強要していたこともあって、選手たちが自分の部屋から出ないようになってしまったと聞いたこともあるくらいなので。

 チームがそういう状態に陥ってしまうと、やっぱり結果は出ないですよね。人心掌握も監督の重要な仕事ですから。

ハリルホジッチに関して、選手が戦術を理解し切れなかったという意見もありますけど、僕はそうは思わないんですよ。だって、香川真司はユルゲン・クロップやトーマス・トゥヘルの下でレギュラーとしてプレーしてきたし、岡崎慎司はクラウディオ・ラニエリのチームでプレミア優勝を経験した。乾貴士だってホセ・ルイス・メンディリバルの下で守備戦術を含め、戦術を理解してプレーしてきたわけです。そんな選手たちの戦術理解度が低いわけはない。

サッカーって当たり前ですけど、ヒューマンスポーツなわけですよ。ハリルホジッチがいくら戦術的に優れたものを持っていても、いくら最後3週間で仕上げるプランを持っていても、選手へのアプローチに問題があれば、宝の持ち腐れになってしまうわけで。

青山  監督はロボットを操っているわけではないですからね。そういう意味で考えていくと、ハリルホジッチは選手たちを戦術上の“駒”のように扱いすぎた。

 そうなんですよ。どんなに優れた監督でも、ピッチ上で起きることすべてをミーティングやトレーニングでカバーすることはできない。

そこに誰が寄せるのか、そこを誰がカバーするのか、選手同士でコミュニケーションを取って解決しなければならない場面は必ずある。想定外のことが起きて、ピッチ上で選手自身が解決しなければならない部分がサッカーはすごく大きい。それを無視すれば、机上の空論にしかならないと思います。

飯尾  ピッチ上の現象を分析するのは大事なことだけど、ハリルジャパンがピッチ上で表現したものは、全部ハリルホジッチが落とし込んだ、全部ハリルホジッチの狙いだった、という見方がありますよね。それはどうなのかなと。サッカーって、監督が練習で落とし込んで、それを表現できたものもあれば、監督は口で説明しただけで選手が考えて実践したものもあれば、監督は関係なく、数人の選手が話し合って実践したものもある。もちろん、個人で考えて実践したものもあれば、たまたまそういう現象が起きた場合もある。

 ピッチ上で起きた現象と、それが起きた背景を切り離して、勝手に想像してしまうのは危ういですよね。

飯尾  だから、取材パスを持っている者は会見やミックスゾーンで確認して、それを原稿に落とし込もうとするわけだけど、一方で、ミックスゾーンで選手の話したことすべてが本音であるはずもない。下手なことを言えば、監督批判やチーム批判になる場合があるから、選手も軽はずみなことは言えないわけです。その見極めも大事で。

青山  それにもかかわらず、昨年の秋頃からミックスゾーンで「自分たちでもっと考えてやらなきゃダメだ」とか「このままではヤバイ」という言葉が聞かれるようになっていたから、僕らも「これは危険だな」と感じていた部分はありましたよね。

ただ、その一方でもちろんハリルホジッチが監督を務めたプラスもあったとは思うんです。彼が求めた世界標準は、確かにワールドカップを戦う上で必要なものだった。

 もちろんです。ただ、それに関しても、デュエルが強くなったのは、本当にハリルホジッチが強調したからなのか、ちゃんとトレーニングに落とし込まれていたのか、その検証が大事です。僕らはトレーニングを見られないわけだから、そこは日本サッカー協会(JFA)がちゃんと検証しないといけません。

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▲取材陣は、昨年秋ごろから「危険だな」と感じる部分はあったという

■代表は成長する場ではなく、力を発揮する場

 あと、僕が今回思ったのは、日本サッカーの個の能力は間違いなく上がっているということ。ここで言う「個の能力」は、ドリブルで何人も抜くとか、1対1で止めることではなく、ピッチ上で問題が起きたり、相手の弱点を見つけたりしたときに状況に応じてプレーする力のことなんですけど、南アフリカ大会からの8年、ある程度選手任せでも、これだけの試合ができるようになったのはすごいことだと思うんです。

青山  確かに同じように「愚者のマネジメント」で戦った98年フランス大会は、接戦が多かった中でも結果は3戦全敗だったわけですからね。

 そうなんです。今回、選手たち自身で考えてプレーを組み立てて、ベスト16に進出したのは、個の能力が確実に上がっているからだと僕は思いました。

飯尾  大事なのは、長谷部誠、本田圭佑、長友佑都、岡崎、香川、吉田麻也といったこの8年間一緒にプレーしてきた選手が中心だったからできたのか、今後もこのサッカーを引き継いでいけるのか。そこはしっかりと検証したり、方法論を考えなきゃいけないですよね。

青山  そういう意味では、ベルギー戦と前後するように、次期監督候補としてユルゲン・クリンスマンやロベルト・ドナドーニの名前が挙がっていたのは、かなり疑問なんですよね。

あくまで報道があっただけなので、どこまで本当なのかは分かりませんけど、今大会で何が良かったのか、何が足りなかったのか、ここまで築き上げてきたものをどう継承していくのかを何も検証しないまま、次を決めて進むなんてありえないです。

飯尾  そうですね。この先、外国籍監督を招へいすることがあるなら、技術委員会と技術委員長がしっかりとしたプランを持って選ぶのは大前提で、さらに日本代表の歩んできた歴史や日本人のメンタリティ、文化、価値観に理解を示してくれる監督じゃないと難しいでしょうね。外から来た監督に4年間をただ任せるだけでは、これまでみたいに4年でぶつ切りになったり、今大会で得た財産を活用できない事態になりかねない。

 ハリルホジッチの二の舞じゃないけど、そうなってしまう可能性も十分あるから、そうした構造は大事だと思いますね。

飯尾  そもそも代表チームの強化は今後、ますますパッと集まって、パッと戦うだけになっていくと思います。そうなると、右肩上がりに成長していくこと自体も難しくなっていくわけで。 

 代表チームは成長する場ではなく、パッと集まって持っている力を発揮する場。代表監督は戦術を植え付けるというより、セレクターで、短期間でチームをまとめる力がこれまで以上に求められるようになりそうですね。

青山  代表チームをどう強化していくのか、しっかりとしたプランを掲げないとダメですよね。いつ、どんな選手を呼ぶのか。所属クラブでの成長と代表チームでの経験のバランスをどう考えるのか。そもそも代表チームで何を受け付けて、どう作り上げていくのか。JFAには方向性を打ち出すことが求められるし、そのバランスを取りながら進められる監督であることも重要かなと。

飯尾  そうですね。それを考えると、日本人のメンタル、日本の文化、日本代表の歩んできた歴史、選手個々がたどってきたキャリアを熟知する日本人監督のほうが結果を出やすいかもしれない。

 まさに今回がそうだったわけですけど、今大会でコンディショニングがうまくいったのも、日本人監督だったことと関係があると思うんです。

2016年のリオ五輪と今回はコンディショニングが成功しましたけど、リオ五輪は手倉森(誠)さん、今回は西野さんとどちらも日本人監督じゃないですか。二人とも日本人のコンディショニングコーチと密にコミュニケーションが取れるけど、外国籍監督の場合、日本人のコンディショニングコーチの発言力が弱くなってしまう部分がある。

飯尾  それはありますね。そういう意味では今回、西野さんは早川(直樹)コンディショニングコーチに全幅の信頼を置いていたと思います。テストマッチのスイス戦、パラグアイ戦の翌日はトレーニングをオフにして、当時は「こんなに休んで大丈夫かな」と思っていたけど、オフ明けには毎回、ヨーヨーテストをやって、脈などの数値を測って個別に負荷を変えたりしてコンディションを整えていた。

 現場では監督の意向が最も優先されるわけで、ブラジル大会の時のように、外国籍監督の意向を優先した結果、本大会でパフォーマンスが上がらないということが起きていた。そう考えると、オールジャパンというスタッフ編成もあながち間違っているわけではなくて、チームを作る上でメリットがあったと思うんですよ。

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▲早川コンディショニングコーチ(左から2人目)とともにベースキャンプ地・カザンでランニングする選手たち

■国内のクラブチームでも世界を学べる場はある

青山  通訳を介さず、いつでも、どんなタイミングでも、細かいことまでコミュニケーションが取れたという部分で、短期間のチーム作りを求められた今回はすごくプラスでしたよね。ただ、その一方で世界で戦う上では、監督が本当に世界の厳しさを知っている必要性も感じました。

飯尾  もちろん外国籍監督から学ぶ必要がないわけじゃないし、学ぶべきことはたくさんありますよね。

でも、それは代表チームではなく、日常的に選手たちがクラブチームで学ぶべきだと思うんです。(イビチャ)オシムさんやミシャ(ペトロヴィッチ)さんが多くのものをもたらしてくれたように、最近では東京ヴェルディが(ミゲル・アンヘル)ロティーナを、徳島ヴォルティスがリカルド・ロドリゲスを、ジェフ千葉がフアン・エスナイデル、横浜F・マリノスがアンジェ・ポステコグルーを連れてきたように、クラブが海外から有能な監督を招へいして、自クラブの選手を成長させる。それがひいてはJリーグの発展に、日本サッカーの成長につながっていくんじゃないかと。(ルーカス)ポドルスキ、イニエスタ、フェルナンド・トーレスがJリーグに来ましたけど、次は海外から大物監督を獲得してほしいです。

青山  日本人選手がヨーロッパのトップリーグでプレーすることが珍しくない時代になったので、今後は日本人の指導者に世界の舞台で活躍してもらいたいですね。もしくはジュビロ磐田の名波浩監督のように、ワールドカップを経験していて、ヨーロッパでのプレー経験があって、選手たちに日本代表や世界を意識させられるような指導をできる人がどんどん増えてほしい。

 これからヨーロッパでプレーした選手が監督になる時代が来ると思います。そうなると、日本人監督の可能性もどんどん広がっていきますね。

青山  次の監督人事はもちろんですけど、指導者養成やクラブ側の取り組みも含めて、長い目で見た日本代表、日本サッカー界全体としての強化プランは絶対に必要ですね。

■PROFILE

飯尾 篤史(いいお・あつし)
1975年生まれ。東京都出身。明治大学を卒業後、週刊サッカーダイジェストを経て2012年からフリーランスに。10年、14年、18年W杯、16年リオ五輪などを現地で取材。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』、『残心 中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』などがある。

北 健一郎(きた・けんいちろう)
1982年生まれ。北海道旭川市出身。2005年からストライカーDXで編集担当を務め、フットサルナビなどでも原稿を執筆。09年に独立後、ワールドカップは2010年大会から3大会連続取材中。現在はサッカー、フットサルを中心に活動する。主な著書に『なぜボランチはムダなパスを出すのか?』、『サッカーはミスが9割』など。

青山 知雄(あおやま・ともお)
1977年生まれ。愛知県出身。JリーグやJクラブのオフィシャル媒体を担当し、2010年から2014年まで『Jリーグサッカーキング』編集長。ワールドカップは1998年大会から現地観戦し、今大会は『Goal.com』グローバルチームの日本代表担当として現地取材。今回の代表チームは2015年のハリルジャパン練習初日から追い続けてきた。

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