Arsene Wenger Arsenal NewcastleGetty Images

【現地発】なぜヴェンゲルはアーセナルで長期政権を築けたのか。「愛とサポート」の22年間

アーセナルのアーセン・ヴェンゲル監督が、今シーズン限りで退任することになった。退任発表から2日後に行われたウェスト・ハムとの一戦で、ヴェンゲル監督は初めて公の場に姿を見せた。

22年の長期政権にピリオドを打つことになった指揮官には、英国内外から賛辞が寄せられている。68歳のフランス人指揮官は「称賛の言葉に心を打たれた。わたしの人生で、これほどの賛辞を受けることは二度とないだろう」と感慨深そうに話した。

そんなヴェンゲル監督へのメッセージのなかで、ひときわ目についたのが「父親のような存在」という選手たちの言葉だった。スペイン人のセスク・ファブレガスやオランダ人のロビン・ファンペルシー、イングランド出身のジャック・ウィルシャーといった新旧の愛弟子たちが、恩師への感謝と愛をツイッターでつづった。

思い返せば、ACミランなどでプレーしたジョージ・ウェア(現リベリア大統領)も、かつてインタビューで「アーセンはわたしの父親だ」と語ったことがある。88年にカメルーンのトネール・ヤウンデからフランスのモナコに移籍してきたウェア。当時の監督が、名古屋グランパスの指揮官として日本に渡る前のヴェンゲルだった。「人種差別が本当に酷かったとき、とびきりの愛情を注いでくれたのがアーセンだった。毎試合、俺をピッチに立たせてくれた」と深い敬意を示す。

チームメートと衝突を繰り返し、最後は石を投げられるようにアーセナルを出ていった元フランス代表MFのサミル・ナスリも、ヴェンゲル監督に尊敬の眼差しを向ける一人だ。傍若無人な振る舞いに仲間やサポーターから批判され続けたが、ヴェンゲルだけは擁護にまわったと言われる。「アーセンには借りがある。最後まで俺を信頼してくれた。今の俺があるのはアーセンがいてくれたから」。ヴェンゲルだけには今も頭が上がらないという。

実際、03-04シーズンにアーセナルでリーグ無敗優勝を経験したジウベルト・シウバは「批判の矢面に立たされたとき、選手の前にそっと立って守ってくれるのがアーセンだ。昔も今もそれは変わらない」と証言する。

■ヴェンゲルの流儀とは

しかし、人柄の良さだけではチームを勝利に導けない。ヴェンゲルがアーセナルの監督に就任した96年10月、元イングランド代表DFマーティン・キーオンも、ヴェンゲルに対して「ナイスガイ」との第一印象を持ったという。だが、心のなかで「ナイスガイで勝利をつかめるのか?」という疑念を密かに抱いていたと告白している。

こうした懐疑的な眼差しを、ヴェンゲル監督は結果で払拭した。97−98シーズンにプレミアリーグとFAカップの二冠を達成。この背景に、攻撃的なパスサッカーや選手への食事制限、最先端のトレーニング理論を次々と導入した改革があったことは、日本のメディアでも広く伝えられている。

ただし、アーセナルに変革をもたらした際も、ヴェンゲル監督なりの流儀があったという。キーオンは述懐する。

「アーセンが賢かったのは、『あれやれ』『これやれ』と頭ごなしに命令をしなかったこと。食事療法やトレーニング理論など、その道の専門家をチームに連れてきたんだ。そして、彼ら経由でアーセンのメッセージが伝わってきた。そうでなければ、親の言うことを聞かない子供のように拒否反応を示していたかもしれない。『パパの言うことにはウンザリだよ』ってね。アーセンは、選手たちの自主性を尊重してくれた」

ご存知の通り、イングランドはサッカーの母国。ヴェンゲル監督のアプローチは、プライドの高い英国系の選手にうまく作用した。そして、攻撃サッカーとともにタイトルを重ね、選手たちのハートを一気につかんだのだ。この初期段階で、長期政権の礎を築けたことは大きかっただろう。

■異国の地で成功を収めるには…

こうした異文化への理解も、成功の要因の一つだと思う。

例えば、会見場で日本人記者を見かけると、ヴェンゲル監督が歩み寄ってきて、「Jリーグの首位はどこだ? ガンバ大阪か? 鹿島アントラーズか? 名古屋はどうだ?」と尋ねてくることは一度や二度ではなかった。

また、名古屋時代から今もヴェンゲル監督の右腕として働くコーチのボロ・ プリモラツに、「キセノサト! 久しぶりの日本人横綱!」と親指を立てられたこともあった。ちょうど稀勢の里が横綱昇進を決めたときで、日本の大相撲まで追っているのかと心底驚いた。

ヴェンゲル監督もプリモラツコーチも異文化である日本に溶け込み、今もなお深い愛情を抱いていることが伝わってきた。こうしたオープンマインドこそが、フランス人のヴェンゲル監督と、ボスニア・ヘルツェゴビナ人のプリモラツコーチが、異国の地イングランドで長期政権を築けた要因の一つではないだろうか。

「父親のような人間性」と「異文化への理解」があったから、多国籍軍のアーセナルを一つに束ね続けることができた。さらに、外国人監督として初めてプレミアリーグを制したのもヴェンゲル監督だった。だからこそ、「英国史上、外国人監督で最も成功を収めた」(英紙『タイムズ』)と最大級の賛辞の言葉が送られているのだろう。

退任発表の声明文のなかで「わたしの愛とサポートは永遠に続く」と綴ったヴェンゲル監督。

これまでも、ヴェンゲル監督はアーセナルに惜しみない愛情を注いできた。同時に、68歳のフランス人はアーセナルで誰よりも愛された人でもあった。

文=田嶋コウスケ

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