あれから、16年が経った。
2002年、日本代表は自国開催となった日韓ワールドカップで歴史の扉を開いた。初の勝ち点獲得、初めてつかんだ白星、そして初の決勝トーナメント進出……。日本中が歓喜に沸き、街中がワールドカップの話題で持ちきりになった。
あれから16年。フィリップ・トルシエ元代表監督の心には、今も日本への熱が残っている。
「もう日本を出て20年くらいになる。だが、日本代表やJリーグについてはある程度見ているし、知っているよ」
インタビューの冒頭、トルシエ氏はそんなふうに近況を明かした。そして当然のように、ここ数カ月の間に日本代表の周辺で起こったことも把握している。
では、彼には今回の日本代表がどのように映っているのか。今大会で勝利を手にするために必要なことは、何なのだろうか。元代表監督が語る、現代表への金言とは。
インタビュー・文・編集=Goal編集部
(C)Getty Images■「よい状態でW杯に備えられる」
――ヴァイッド・ハリルホジッチ元監督から西野朗新監督に代わってから行われたガーナ戦、スイス戦、パラグアイ戦はご覧になりましたか?
ウィ(はい)。
――それぞれどんな印象を持たれましたか?
この3試合はあくまで調整試合だった。監督からすると、選手をベストコンディションに持っていく必要があるし、試合をやってみて初めて分かることもある。それらをしっかりつかんでから本戦に備えなくてはいけない。
同時に、一つひとつの試合で結果が出る。日本代表の場合、(監督交代に伴って)ネガティブな部分があることは最初から分かっていた。パラグアイ戦は最初の2試合(ガーナ戦、スイス戦)から修正が必要だったが、(初勝利を挙げて)戦い方や方向性のめどがついたし、選手のモチベーションも上がった。よい状態で本番を迎えられると思うよ。
――西野監督はガーナ戦で3バックを、そのあとの2戦で4バックを試されました。戦術面について、何か感じたことは?
私の場合は「フラット3」を採用した。ただこれは一つのモノの考え方に過ぎない。重要なのはどうやって全体を構成していくのかだ。チームはコミュニケーションなど、すべてが総合して成り立っていくものだと言える。その中で選手一人ひとりが、自分がどんな役割を果たさなければいけないのか、どういう責任を果たさなければいけないのかを判断する。「フラット3」は私の考え方であり、コンセプトでしかない。西野監督がどう考え、どう形にしていくかは分からないが、重要なのはその中で選手が自分の責任を果たしていくことだ。
――では個々の選手にフォーカスしたとき、3試合を通じてみて「キーマン」となる選手が誰だと感じましたか?
今の日本のサッカーにとって誰がキーマンとなるか答えるのは難しい。なぜかというと、日本のサッカーのベース自体が、特定の選手に頼るものではないからだ。一人の選手がどうこうではなく、チームが一体になった形がキーと言える。それが日本代表の形だということだ。
つまり、チームプレーやコミュニケーションといったことをすべて総合してはじめてチームになる。日本が自分たちのサッカーをするにあたって、やはりこの一体感が一番大事だと感じるよ。それこそが「一つのキーマン」と言えるのではないかな。
(C)Getty Images■コロンビア、セネガル、ポーランド。各国の特徴は?
――日本代表がW杯でベスト16に進出できたのは、トルシエさんが率いておられた2002年の日韓大会、そして2010年の南アフリカ大会だけです。とにかくグループリーグを突破するということ自体が困難です。今回のグループリーグで一番気をつけなければいけない相手はどこでしょうか?
理論上は第3戦のポーランド。というのも、あのチームはチームとして大変規律正しいし、世界レベルの経験も豊富だからだ。加えて第1戦のコロンビア。こちらはいわゆるチームとしての資質は高くないかもしれないが、個人の能力という面で抜きん出たものを持っているよ。
もっとも、第2戦のセネガルにしてもヨーロッパの名だたるリーグでプレーをしている選手を揃えている。そう考えると各チームにそれぞれ良いところと悪いところあると言えるよ。そもそもW杯に出てくるというだけですごいわけだからね。
――グループリーグの各国についてもう少し細かく教えていただけますでしょうか?チームの特徴と気をつけなければいけない選手は?
コロンビアの特徴を考えると、なんと言ってもインディビジュアル。つまり、個人の力だ。個々の選手のパワーをベースにしているチームで、個性を持った選手がいる。キーマンは2人いて、1人がハメス・ロドリゲス、もう1人が(ラダメル)ファルカオだ。
セネガルに関しても同じことが言える。個の力が優れていて、キーマンはケイタ(バルデ)になるだろう。彼らはヨーロッパのビッグクラブで成長を重ねている選手でもある。コロンビアとセネガルは緻密なチームプレーで戦おうとするチームではないということ。だからそういった相手に対し、日本はチームとして戦略を考えるべきだと思う。
ポーランドは日本と比較できる。同じような性質を持っていると思うよ。ポーランドの戦術のカギはチームプレーにある。一人ひとり役割がちゃんと決まっていて、その中に個人として強い選手がいる。例えばロベルト・レヴァンドフスキがそうだ。 ただ、彼だってたった一人で何もかもできるわけではない。やはり一人だと何もできない。チームプレーがうまくいけばいくほど、彼はゴールを決められる。そういった周りの助けが必要な選手でもある。
Hグループは2チームがいわゆるインディビジュアル……つまり個人技をベースに作られたチームだ。そして残りの2チーム、ポーランドと日本がチームプレーをベースにしていると言えるよ。

■サプライズを起こすために必要なこと
――今回、日本代表の前評判は決して高くありません。対戦国にも格下と言えるチームはない状況の中、W杯で勝つためにはどういったことが必要だと考えますか?
今回の挑戦はなかなか難しいものだと言えるだろう。しかし、(勝つことは)不可能ではない。日本代表が持っている資質を100%発揮すること……仲間への信頼であったり、自分自身に勝つことであったり。自信と的確な判断力を持ってリスクに対応していくことがカギになる。もともとゴールを決める力はあるんだ。自信を持てば、違いが見せられる。日本代表がそれを果たせるのか、最初の試合をやってみれば分かるはずだ。
監督交代もあって、今は色々なことを不安に感じるだろう。でも自分たちの持つ良いところをしっかり把握して自信を持っていけば大丈夫だ。そういう意味でも、パラグアイ戦はフランスでいうところの「火を点けるための試合」だった。火花、つまりは最初の火花が散ってくれた。そういった勢いに乗れば、初戦を勝つことだってできるかもしれない。
――日本代表への励ましはとてもうれしいのですが、実際のところ、W杯におけるリアルな成績をどう見ていらっしゃいますか?
私はずっと日本のサポーターであり続けているからこそ、そういうことを申し上げるわけだ。日本代表の選手たちも、サポーターが選手に向ける愛情をしっかりと感じ取ってほしいと思う。みんなが信頼していることを感じ取ってほしい。2002年にはそれがあった。開催国だったこともあって、我々はそういった愛情を……サポーターから注がれる愛情の力を感じ取っていた。そして、それが励みになった。
2002年と違うとすれば、今回の開催地がロシアだということだ。 選手たちは自分たちが周囲から隔離されたような感覚を感じながら戦うことになる。自分たちだけですべての試合を戦っていかなければいけないんだ。だからこそ、サプライズを起こすには自分たちのエネルギーを駆使してまとまりを持っていく必要がある。
何度も言うが、サプライズを起こすために必要なのは自信を持つことだ。1人ひとりがしっかりと判断して「どうしよう?」となったときも決断し、決めていかなければいけない。規範という殻に閉じこもらずに、自分で判断を下すこと。自分たちが思い描くプレーをピッチで表現すること。それこそが、勝利へ続く道筋だと私は信じている。
思い切って大胆にプレーすること。今こそ、それが必要なんだ。

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