■先発メンバー6名変更、西野監督の大胆な決断
ポーランド戦のスタメンは、第2戦・セネガル戦から6名が代わりました。良い流れでここまで来ている中、6名もの選手を代える大胆な決断には強いメッセージを感じました。
それは、選手たちにあらためてチームの目標を共有させるということ。1戦目、2戦目と連続出場した選手を休ませ、コンディション回復を図ると同時に、これまでチャンスの少なかった選手たちを使い、サブの選手たちのメンタル、試合勘、サッカー体力等を含めコンディションを上げ、チーム力の底上げを図りました。これにより目標はグループリーグ突破ではなく、過去最高位、ヘ゛スト8以上を強く意識させたのだと思います。
グループリーグを突破した場合、相手になるのはベルギーかイングランドと決まっていたこともあり、チームのオプションを増やすということも含め、万全の状態で決勝トーナメントに臨もうとしての決断だったのだと思います。
この状況でポーランド戦にどう臨むか、と考えたら、やはり前節の良い流れをそのままに、と決断すると思いますし、多くの指導者もきっとそうでしょう。第2戦を終えた時点で勝ち点6を取っていたフランスやベルギーといった国だったなら話は違います。日本は首位に立ってはいましたが、その差はイエローカード1枚。ブラジル代表ですらグループリーグ突破が決まらない状況で臨んだ第3戦は、ほぼフルメンバーで臨みました。そういう点からも本当に大胆な覚悟ある決断だと思います。
選手変更の中で、右サイドに酒井高徳選手を使ったのは、ポーランドの布陣に合わせたという戦術的な意図を感じました。第2戦のポーランド対コロンビアでは、ポーランドのシステム、3-4-3に対し、コロンビアは4-2-3-1。システムのミスマッチ上、どうしても守備でマッチアップをハッキリさせる際に、どちらかのサイドMFが守備時は自陣にもしっかりついかなければならず、サイドの選手は守備力はもちろん、そこから攻撃に転じて前へ行く運動量も求められる。
コロンビアは右サイドハーフのフアン・クアドラード選手が対峙し、見事に攻守で先手をとっていましたが、このゲームでは酒井高徳選手にクアドラード選手の役割をさせようとしたのでしょう。またグループリーグ突破後には、ベルギーもイングランドも3バック、そこを見越してのオプション確認でもあったかもしれません。
大幅なメンバー変更はありましたが、日本のチームとして「やること」は前半の入りから変わっていないと見えました。特に前半は速い攻守の切り替えもあり、良い守備→良い攻撃→良い守備→の良いサイクルからチャンスもつくっていました。そして選手たちからは「やってやろう感」こそ見えましたが、過度の緊張感などは全く見えませんでした。
ここから見えてきたのは監督と選手の信頼関係です。この局面で自信を持って選手をピッチに送り出すのは容易ではありません。
そしてまた選手たちにしても、その期待に応えるのは容易ではないはず。今大会、グループリーグ突破を決めた要因の1つは、やはり西野監督や、スタッフらと選手たちとの対話によって生まれた「信頼」があると思います。
チーム競技において、成果を出すチームは良い空気に包まれてるものですが、その良い空気が選手たちの積極性、創造性を生み出すのは間違いありません。また「One for All, All for One(1人はみんなのために、みんなは1つの目的のために)」の精神。例えば結果を出している1、2戦目のメンバーがこの試合は控えとなっても「なぜここで代えるんだ?」とは思っていない、いや少しは思っていたとしても、あくまでもチームが上に行くために自分のやるべきことをしっかりやる。チームとしての結束力は、これまでにないものを感じました。
(C)Getty Images結果としてグループリーグを突破したからこんなポジティブなことを言えるのですが、これで突破していなかったら…何を言われてもおかしくなかったでしょう。
最初のアクシデントは岡崎慎司選手の負傷交代でした。岡崎選手は大会前に負傷し、第1戦、第2戦ともに交代出場していましたが、先発は初めてです。決勝トーナメントが懸かったこの局面、ピッチコンディションも気温が高いなど、選手の疲弊度を考えると、切る1枚のカードの重みは大きいもの。しかし、負傷のために1枚切ることになってしまいました。また酒井高徳選手の右中盤起用だったわけですが、守備的な役割でなく、例えば先制され、攻撃的に行く際にはどうする?なども懸念されました。
試合は岡崎選手の負傷、そして先制されるという最も厳しい展開になってしまったわけですが、負傷交代など、こういったアクシデントは試合の中で起こり得るもの。いつ批判されてもおかしくない状況になるかもしれないということが分かっていて、西野監督監督は6名変更を決断して試合に臨んだわけで、そして見事に結果を残した。さすがの一言に尽きるのではないでしょうか。
■二つ目の決断。攻めない、という戦い方
そしてこの試合で一番大きく議論されている、「攻めない」という決断です。コロンビアがセネガルにリードしているという状況を把握し、最後の10分間攻めさせなかった。セネガルが1点も取れば全く状況は変わるし、それは誰にも操作できないこと。でも、最終的にあの決断をした。
ブロックをつくってカウンターを狙っているポーランドを攻めてカウンターを受け、1点取られたらそこで終わる状況でした。得失点数でセネガルに負けることになるので、絶対失点はしたくない。失点しなかったとしてもそこでイエローカードをもらったら…見ている誰もが「どうするんだ、これで大丈夫か?」と思った時間帯でしょう。そして長谷部誠選手を入れ「0-1でいいんだ」という決断を共有させた。
「勝負師の勘」もあったのでしょう。また西野さんが決断に至るまでいろんな要素をしっかりと日本のスタッフが準備していたのだとも思います。手倉森誠コーチ、森保一コーチ、分析担当スタッフ。そういう人たちからの意見、情報を総合、日本のすべての力を結集したうえでの決断だったのだと思います。リスクはおかさないけれど、チャンスがあれば攻める、と考えたら、中途半端な意思統一になり、失点、もしくはカウンターを受け、イエロー覚悟のチャレンジをしなくてはならなかったかもしれません。
「自分たちでアクションを」と掲け゛、2戦で見事に勝ち点4を積み上げてきただけに、西野監督からすると苦しく、本当に究極の決断だったことでしょう。そしてあの局面で選手たちも見事に自分たちがやるべきことを理解し、バラバラにならず、プランの変更に対応したことに関しても、チームとしての一体感が見えた気がします。
そして最後の10分間、「究極の決断」は、1戦目、2戦目ともに、強豪相手にとてもポジティブなプレーを見せ、戦って積み上げた勝ち点4があったからこそ、ということを忘れてはなりません。
賛否両論はあれど、結果としては決勝トーナメントに行く前に、これだけ多くの選手を使うことができ、連戦だった選手を休ませることもできた。岡崎選手のけがは誤算だったかもしれませんが、グループリーグを突破するという目標のためにした究極の決断によって得たものは何か。それは、その先にある「新たな歴史を作る」ための最高の準備に他ならないのではないでしょうか。
■日本含め、サッカーの進化と広がりを感じている
今回のワールドカップはVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)もあるので、セットプレー1つとっても、選手たちの気の配り方は今までとは段違いでしょう。
グループリーグ全48試合が終了した時点で0-0で終わった試合は、グループCのデンマーク対フランスのみ。第2戦終了時で勝ち抜けを決めていた国は、グループAのロシア、ウルグアイ、グループGのイングランド、ベルギーのみ。第3戦が終わらないと勝ち抜けが決まらなったグループは8つ中6。こんなにもつれるワールドカップは今までなかったのではないでしょうか。各国、ある意味ギリギリの戦いで勝ち上がってきているので、ノックアウト方式の決勝ラウンドは、よりギリギリの攻防が繰り広げられると思うと一層楽しみになります。
日本代表は、直前の監督交代により4年間のチームとしての積み上げはなかったとも言えるかもしれません、が、日本サッカー界としての積み上げは確実にあったと思います。本田、長友、岡崎、香川、吉田といった北京世代のリバウンドメンタリティー、向上心が今の日本チームを引っ張っているように感じます。
そんな彼らの道標になったという点で言えば、ヒデ(中田英寿)をはじめ、名波(浩)さん、満男(小笠原)、俊輔(中村)らの挑戦は本当に大きなこと。そしてさらにカズさん(三浦知良)、奥寺康彦さん(1970,80年代にケルン、ブレーメンなどでプレー)、尾崎加寿夫さん(1980年代にビーレフェルトでプレー)…日本サッカー界のパイオニアたちの功績は計り知れない。
ジャパン・ウェイ…なかなか見えてこないと言われています。実際、私もそう思っていた部分もありました。Jリーグ25年たって一体、何か成長したのだろうか?と。でも、成長しています、確実に。個人の技術、戦術といった面のみならず、コミュニケーション能力、変化に対応能力、オン・ザ・ピッチではない面も含め、日本のサッカー界としての積み上げはあると感じているこのワールドカップです。
(C)Getty Images(2002年日韓大会も同じようなシチュエーションでしたね?)
でも、あのときは多くの後押しがありましたから。自国での開催というのはやはり優位です。グラウンド、芝生の状態も知っていれば、気候も慣れている。食事もノーストレスですし。そして何より、サポーターの応援、熱は確実に自分たちのパワーになりました。それとあのときは4年間の積み上げが間違いなくありました。
フィリップ・トルシエ監督のサッカーは一貫していて個人的には面白かったし、トルシエ監督は、ユース、五輪、A代表とずっと継続していましたから。その「チームとしての積み上げ」は大きかった。ただ、日韓大会は、グループリーグ突破、べスト16が目標でした。それを達成できた時点で「達成感」は正直ありました。もちろんもっと上をとみんなが思っていたけれど、心のどこかでいわゆる燃え尽きた感があったのは否めません。
今回は、スタメン変更の決断も含めて、常に先を見越して戦っている。監督、スタッフ、選手たちから飽くなき向上心も感じる。本気で日本サッカーの歴史に新たな素晴らしいページが創られることを期待しています。
最近仕事の関係で都内いることが多いのですが、代表ユニフォームを来た人が本当に多くお祭り騒ぎ。サッカーに興味を持ってもらえてると思うと、にわか云々は抜きにやはりうれしいです。また昼食に入ったお店では、若い青年たちが「ポーランド戦をどう戦うか」という話をしていたりして。そしてこれが結構的を射ていて。ああ日本にもサッカーが文化になってきたんだなと感じました。
そういう意味では、今回の采配に関しても大いに議論していいと思います。ただしそれは誰かを叩くためでなく、日本サッカー向上につながるものであってほしい。いろんな意見に揉まれて残ったものは、いつか日本サッカーの財産になるはず。多種多様な世の中、サッカーとの関わり方もそれそ゛れではありますが、サッカーの持つパワー、喜びを、あらためて感じているワールドカップです。

森岡隆三
1975年10月7日、神奈川県横浜市出身。桐蔭学園高から鹿島に加入、以後、清水、京都でセンターバックとしてプレー。フィリップ・トルシエ監督率いる日本代表でフラット3の中央を担う。2002年日韓W杯では主将を務めた。08年限りで現役を引退し、指導者の道へ。京都U-18監督、J3・ガイナーレ鳥取監督などを歴任。現在はサッカー解説者として活躍。日本代表国際Aマッチ38試合出場。

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