ロシア・ワールドカップを戦う西野ジャパンはここまで1勝1分。グループリーグ第2戦・セネガル戦は2度リードされ2度追いつくという展開の中で、戦術的にも見ごたえのある一戦となった。ここでは、前ガイナーレ鳥取監督であり現在はサッカー解説者を務める森岡隆三氏に試合のポイントをひも解いてもらった。
■出だしから勝ち点3を取りに行った両者
セネガルの勢いが優った立ち上がりでした。 守備のアプローチも早く、シンプルながらゴールに向かう攻撃も迫力があり、日本はやや劣勢を強いられてしまった。
この序盤のアプローチからも、セネガルも日本同様に、この試合で勝ち点3を取り、グループリーグ突破を決めるんだ、という強い意思を感じました。そのセネガルの勢いを断ち切れないまま残念ながら失点に結び つけられてしまいます。
失点シーンは、厳しく言えば、原口(元気) 選手のクリアミスと川島(永嗣)選手のパンチングミス、二つ のミスが重なった結果ではありますが、実はその時、サディオ・ マネ選手(リヴァプール)のポジショニング、動き直しが素晴らしかった。
右サ イドからクロスが上がる際も、ボールが自分の頭を越えた後も、 ディフェンスがつかみづらいポジションをとっていました。常にゴー ルを奪うべく「最高の準備、想定」をしていたからこそ、あの 局面で最後にボールを触りゴールできた。一流のFWとしての嗅 覚、技術が垣間見えたシーンでした。
■サイドの攻略。日本の左、セネガルの右の攻防
失点はしましたが、日本は早い段階で自分たちのペースを取り戻せました。その要因は、自分たちで相手のプレスを怖れずに ボールを保持してボールを運べるようになったこと。
セネガルのフロントプレス時、日本の2センターバックに対し、 相手が1トップと2シャドーの1枚、2トップ気味でプレッシャーを掛けてくる際には、2ボランチの1枚(主に長谷部誠選手)が最終ラインに落ちて数的優位を作り、サイドバックを高い位置に上げる。このことで、本来日本のサイドバックとマッチアップす るセネガルのワイドのアタッカーを押し込むことに成功すると、 徐々に日本の時間になっていきました。
特に左サイドの長友(佑都)選手が相手ディフェンスラインと 駆け引きができるくらいに高い位置を取っていましたが、それ は(相手3トップの右)イスマイラ・サール選手(レンヌ)のアタックス ピードを消すことと同時に、彼には多少守備に難がある から、そこを突いていこうという意図があったのではと思いま す。

▲相手右SBムサ・ワゲ(オイペン)を前に攻撃を仕掛ける長友
西野監督をはじめスタッフ分析によるゲームプランだったのか、 選手がピッチ内で判断したのかは分かりませんが、得点シーン はその狙いが功を奏したシーンでした。 乾選手のインサイドポジションと長友選手のオーバーラップが見事にシンクロ、先手をとったところに柴崎(岳)選手が精度の高いボールを配給し、そこからの仕掛けから、乾選手の素晴らしい ゴールが決まりました。
左のマネ選手に比べると、右のサール 選手は守備が苦手でどちらかというとセネガルのウィークポイント。サイドの攻防、力関係において、乾・長友のコンビのほ うが上回っていたことを証明する見事なゴールでした。
サイド攻撃、“幅”をうまく使うことで、真ん中に刺すボールも生きてきました。柴崎選手もそうだし、最終ラインの昌子 (源)選手、吉田麻也選手からも中盤やトップにボールが入るようになってきた。そこも選手たちの経験値、戦術眼と代表スタッフの分析のたまものでしょう。狙いどおりのプレーを実行 できる選手たちの対応能力の高さを感じた、前半、失点後の戦いでした。
■連動した守備により、攻撃の回数も増えた
失点こそしましたが、日本は守備面において大きな手ごたえを得 た試合だったと思います。
相手のフィジカル能力の高さを考えると、1対1の局面において、特に制空権は厳しいと思っていましたが、個の部分でも堂々と戦えていました。それはチャレン ジ&カバーが徹底されていたからこそだと思います。
しっかりし たカバーリングがあるからこそ、チャレンジする選手は自信を持ってボールにアタックできる、個の能力に対して、個でもグ ループでもうまく守ったことで、ワールドクラスのアタッカー 陣を封じ込めることができました。

▲サディオ・マネの突破を体を張って食い止めようとする吉田(手前)。マネと吉田はサウサンプトン時代のチームメート
また、日本が主導権を握るためのポイントの一つに、リスクマネジメントが挙げられます。 セネガルはコロンビアと比べても、勝るとも劣らないスピードを持つアタッカー陣がそろっていました。「相手にはスピードがある」と 思うとつい腰が引けてしまいがちになってしまうもの。しかし日本は、1試合を通してかなり高いレベルでセネガルのアタッカー陣をコントロールしていたと言えます。
相手陣内でボールを失った後、前線の選手の素早い切り替えと、そのアプローチに連動しつながるディフェンス、そして中盤のバ ランス。一つの生き物のように連動した守備がチームにあることで、攻撃回数も増やせたのは間違いありません。
また前線からの守備だけでなく、それをかいくぐられた際、自 陣でどう守備をするか、という点においてもチームの共通理解 がありました。
中を締め、しっかりとバランスをとりながらも、 後ろでただ守っているだけではなくて、相手の甘いバックパスや長い横パス時には、最終ラインを押し上げることができました。ここで気をつけなくてはならないのが、最終ラインは上がるけど、ボールホルダーにはプレスか掛からず自由に良いボール を供給されピンチを招くこと。
しかし、このセネガル戦では多く のシーンにおいて、しっかりファーストディフェンダーが相手選手にプレスを掛け、後ろも連動し、最終ラインを上けでコンパ クトにすることで、相手のアタッカー陣のプレーエリアを狭め、 自由を奪うことに成功していました。 自陣に押し込まれる局面があっても、こうした積極的かつきめ 細やかなラインコントロールがあったからこそ、特に後半にお いて日本は主導権を握る戦いかできたと言えます。
また「プレーをやめない」という点も素晴らしい。例えばラインコントロールをして、相手がオフサイドだと明らかであった としても、今の日本の選手たちは絶対に止まらない。「オフサ イド!」をアピールしながらも、笛が鳴るまでプレーを続けて いる。
「最後までプレーする」簡単なようで実は簡単でないもの。しかしそういった細かい部分をしっかりやれないと世界では絶対に勝てない。事実、あのアルゼンチンですら、クロアチア戦でオフサイドだと判断して止まってしまい、失点を招いた こともありました。
攻撃から守備への素早い切り替えによって相手の攻撃の芽を摘 む、良い準備、リスクマネジメントからのディフェンス。自陣ての゙バランスの良い守備、きめ細やかかつ積極的なラインコントロール。そして最後までプレーする!
良い守備ができているから良い攻撃につながる。攻撃で相手を押し込めば、特にセネガル戦では左サイドの攻防で主導権を握ることに成功しましたが、それがまた守備の一歩目になる。このサイクルがうまくいくことで、セネガルを苦しめたのは間違いありません。
■攻守一体。それを表現できる選手たちの意思の強さ
(西野監督が香川に代えて本田圭佑、原口に代えて岡崎慎司を 入れた采配については?)
どこで動くか、目まぐるしく変化する戦況を見つめながら、戦術的な視点からの交代(香川選手の運動量の陰り、岡崎選手の前 線で攻守において献身的な働き、セットプレーを含めて本田選手の決定力への期待)ということであると思うと同時に、「勝負師」としての「勘」もあったのではないでしょうか。いずれにせよ、交代で入った選手たちがポジティブに絡んで生まれた得点、さすがの一言に尽きると思います。
(C)Getty Images▲本田のゴールシーン。岡崎はGKの前でつぶれてシュートコースを空けた
ゴールシーンを振り返ると、昌子選手の縦パスから岡崎選手が基点になり、サイドにポジションをとった大迫選手にパス。パス&ゴーで中に入ると、DFとGKを相手にしっかりと競ること で後ろに流れたボールに反応したのは逆サイドMFの乾選手。冷静に中に折り返すと、再度中で岡崎選手がGKと競り合うことによって抜けてきたこぼれたボールに反応したのが本田選手。
本田選手のあのシュートシーン。「前で触られるかもしれない」 と思うだけでミートするのは難しいし、セネガルのディフェンスもゴールカバーに2人入っていて決して簡単なものではなかっ た。技術うんぬんだけではない、彼の心根の勝負強さ、強い意思を見せてくれました。3大会連続ゴールという偉業は本当に素晴 らしいの一言に尽きると思います。
■「上へ行く」という向上心が、今のチームのベース
ここで勝てなかったというのは残念ですが、個人的には誇りを持てる会心のゲームだったと思います。また一番うれしく感じたのは、日本の選手たちが自分を戒めるコメントをしていたこと。例えば川島選手は「あれは自分のミスだ」と開口一番に話していました。
内容の良い試合をして、この状況でしっかりと勝ち点1を取っても、選手たちはさらなる高みを目指している。中心になっているのは2008年の北京五輪世代。この世代の強みを見た気がします。
北京で結果が出なくて厳しい意見に晒された選手たちが、悔しさを糧に自分を磨き、南アフリカW杯では見事に結果を出し、ヨーロッパの一流クラブで活躍するようになった。しかし4年前のブラジルではコロンビア戦の惨敗を含め、結果が出せず苦い経験を味わいながら、さらに経験を積み、今大会では初戦で見事に雪辱を果たした。この選手たちのメンタルの強さ、「俺たちはもっと上に行くんだ」という向上心が、今の日本チームのベースなのだと思います。
とはいえ、相手はワールドクラスのFWロベルト・レヴァンドフスキ―選手(バイエルン・ミュンヘン)がいるので、決して侮ってはならない相手です。しかし、日本としては戦い方を変える必要はないと思います。自信、勇気を持って、自分たちでアクションを起こしていくこと。コロンビア戦、セネガル戦で見せてくれた積極性、そして結束力を、そして何よりさらなる高みを目指す「強い意思、向上心」を見せてほしいと思います。
グループリーグ突破はもちろん、過去最高の順位まで行けるのではないかという期待が日本中に生まれています。日本中が代表に期待しています。この期待にこたえることが、さらなる日本代表の「力」になる。グループリーグ゙突破、日本サッカー界のまだ見ぬ未来に期待しています。
森岡隆三
1975年10月7日、神奈川県横浜市出身。桐蔭学園高から鹿島に加入、以後、清水、京都でセンターバックとしてプレー。フィリップ・トルシエ監督率いる日本代表でフラット3の中央を担う。2002年日韓W杯では主将を務めた。08年限りで現役を引退し、指導者の道へ。京都U-18監督、J3・ガイナーレ鳥取監督などを歴任。現在はサッカー解説者として活躍。日本代表国際Aマッチ38試合出場。

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