若き日本代表は少しずつ変わり始めた。
アジア大会準々決勝・サウジアラビア戦。日本は31分、杉岡大暉(湘南ベルマーレ)のクロスを前田大然(松本山雅F.C.)が収め、落としを岩崎悠人(京都サンガF.C.)が決めて先制。だが39分、サウジアラビアのシュートをGK小島亨介(早稲田大)がはじくと、そのボールがDF立田悠悟(清水エスパルス)に当たってオウンゴール。しかし、73分、前田の突破から岩崎が再び決めて2-1で試合を終えた。
「強い」相手に言わば会心の勝利。ここまで「辛勝」が多かったが、このサウジアラビア戦ではあきらかに選手にチームに変化と成長が見られた。その理由とはどこにあるのか? 現地で取材を続ける川端暁彦氏にひも解いてもらった。
■激辛カレーの後のスイーツ
「言い訳っぽくなるから言いたくなかったんですけれど……」
アジア競技大会の準々決勝前日、スタジアムでの公式練習を終えたFW前田大然が、そんな言葉から切り出したのはピッチ状態の話だった。この準々決勝から会場がボゴールのパカンサリスタジアムへ移動となったが、ここまで日本を苦しめてきた「芝」からついに決別できた意味は実際、小さくなかった。
「まるで違いますね。ここでずっとやりたかった」と前田が笑えば、MF三好康児(北海道コンサドーレ札幌)も「これまでで一番良いグラウンド」と断言。試合後にもFW岩崎悠人が「日本のピッチでやっているような感じでした」と喜びを語った。特別に抜きん出て良い芝だったわけではないと思うのだが、これまでとの比較があるだけに、感じ方も違う。激辛カレーを食べたあと、普通のスイーツを食べたようなものである。
上から観ていても、グラウンダーのパスが奇妙なバウンドをしたり、なぜか失速したりすることはなく、ボールを蹴った選手が恨みがましく地面を見つめる仕草を見せるようなこともなかった。
もちろん、芝が良いときもあれば悪いときもあるのがサッカー。ピッチ状態を言い訳にしたり、そこに責任転嫁してしまうのはサッカー選手として良いこととは当然言えない。ただ、チームパフォーマンスが上がらなかった一因として、劣悪なピッチがあったこともまた間違いない。それは「これまでの相手で一番強い」と選手たちが誰もが覚悟していたこの準々決勝・サウジアラビア戦で、選手たちが技術的に最も高いパフォーマンスを見せていた単純な事実からも明らかだろう。
■「勝って当然」という空気からの解放
このサウジアラビア戦に選手たちがある種の「やりやすさ」を感じていたのはピッチ状態だけではない。
ここまでのネパール、パキスタン、ベトナム、そしてマレーシアという相手は、チャレンジャー精神を持って向かいにくい相手であり、選手たちが何となく「勝って当然でしょ」という空気を感じながら戦わないといけない相手だった。
実際のところ、特にベトナムについては4強に勝ち残ったことからも分かるように、本当に強いチームではあるのだが、ただ「イメージ」というのは難しい。このSNS時代ゆえ、選手たちは市井の声もダイレクトに受け取ってしまうという面もある。実際、「日本からの声」について触れる選手は複数いて、何ともモヤモヤした感覚を抱えながらの戦いだった。
その意味から言っても、映像を観ても、かつてU-19代表時代に対戦した経験からも「手強い、強い、攻撃のタレントが豊富。一言で表すと『非常に強い』チーム」(森保一監督)であるサウジアラビアは分かりやすい相手だった。どう観ても強いだけに、素直にチャレンジャー精神になれる。チームメンタルの持って行き方が容易な相手でもあった。
もちろんメンタルだけで勝てる戦いでもない。戦術的には、まず丁寧なビルドアップをしてくる相手の意図を岩崎、前田、そしてFW旗手怜央(順天堂大)の走力自慢の三本槍を中心に挫きつつ、最前線のFWカマラを孤立させることだ。
また相手の4−3−3システムに対して、日本の3−4−2−1は「システム的なミスマッチができる」(森保監督)が、これはあえて許容した。
森保監督は後ろを4バックにして相手に合わせることも考えていたことを示唆しているが、ここは選手たちの対応力を信じた。逆にそのミスマッチをうまく使ってボールを動かせるかどうか。守備のミスマッチについて、コミュニケーションを取りながら対応できるかどうか。つまり総合的に戦術的な部分をしっかり洞察して戦えるかどうか。そしてこの点について「賢く戦ってくれた」と指揮官は満足げに振り返ることになる。
(C)Getty Images▲今までの中で一番良い「芝」のピッチ。前田は2アシストを決めている
■言い過ぎれば聞き過ぎる、言わなければ野放図に
今大会に限らず、森保監督のここまでの指導を観ていると、こうしてちょっと突き放して選手の成長を促すような場面にちょくちょく出くわすことがある。
指揮官が手助けすれば突破できそうな壁があり、その方法論が引き出しの中にあったとしても、簡単に取り出さないのだ。選手の成長を待つという心意気だが、負ければ非難されるのは指揮官本人なのだから、その胆力には恐れ入るし、「育成マインド」の持ち主であることもわかる。
これで思い出されたのは、DF原輝綺(アルビレックス新潟)とDF杉岡大暉が在籍していた時代の市立船橋高校のやり方で、このときも朝岡隆蔵監督は「あえて戦術的な負荷の高いシステム」を実戦で採用し、選手たちの対応力を鍛えていた。時には「これは機能しないだろうな」と監督自身が思っている組み合わせで選手たちを送り出し、「機能しないなりに戦える選手かどうか」を問うこともあった。
もちろん高校の監督と代表監督ではまるで立場も違うのだが、根底にある考え方は似通っているように思う。選手たちの思考力、戦術的な対応力、そしてストレス耐性とでも言えばいいのか、うまくいかないときにいかないなりのプレーをできるかどうかという部分を鍛えること。その過程を通じてチームとしてのベースになる本質的な強さを手に入れることである。
森保監督は言い過ぎれば聞き過ぎる、言わなければ野放図になる若い選手たちへのさじ加減で少し悩んでいるように見えることもあったのだが、このサウジアラビア戦はそうしたバランスが噛み合った戦いだった。その意味から言っても、会心の勝利だったに違いない。
そしてこのアジア競技大会の戦いは、もう一つの伏線が張られているようにも見える。
この試合のベンチメンバーには「森保以前」の代表において常連だったような選手も少なくない。「悔しい気持ちは当然ある」と吐露している彼らの爆発的に花開く前の芽のようなものはこの準々決勝で見え隠れした。
中1日で迎えるUAEとの準決勝、鍵を握るのはサウジアラビア戦でベンチスタートだった選手たちだろう。
文=川端暁彦▶サッカー観るならDAZNで。1ヶ月間無料トライアルを今すぐ始めよう
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